Tuesday Aug 13, 2024

つぐみの髭の王さま

ある王様に、はかり知れないほど美しい娘がいました。けれどとても高慢でその上横柄なので、どの求婚者も娘の気にいらなくて、求婚者を次々と追い返し、意地悪く笑い者にもしました。
あるとき、王様は大宴会を開き、そこへ遠近から結婚の相手となりそうな若者を招きました。若者たちは身分と地位に従って全員一列に整列させられました。最初は王様で、次は公爵、次は王子、伯爵、男爵、紳士階級がきました。それから王様の娘はそれぞれの身分の人の間を案内されましたが、どの人にもなにか異議を唱えました。一人は太りすぎていて、「酒樽ね」、背が高すぎると「やせでのっぽ、まるで役立たずね。」3人目は背が低すぎて「ちびのでぶはのろまよ。」、4人目は顔色が悪過ぎて「死神みたいね。」、5人目は顔が赤過ぎて、「見事なおんどりね。」、6人目は体が真直ぐでないので、「ストーブの後ろの乾かされた生木。」と言いました。
そんなふうに娘は一人ひとりに何か文句をつけましたが、列のかなり高い地位にいたりっぱな王様には特にはしゃいで、あごがすこし曲がっていたので、「ほら見て、つぐみのくちばしみたいなあごをしているわ。」と叫んで笑いました。その時からこの人はつぐみひげの王様の名前をもらいました。
しかし年とった王様は、娘が人々をあざ笑う以外何もしないで、そこに集まった求婚者みんなをばかにしたのを見ると、とても怒って、戸口に来た最初の乞食を娘の夫にすると誓いました。
2,3日後、バイオリン弾きが来て、少しのお金を稼ごうとして、窓の下で歌いました。王様はその歌をきくと、「あの男を上に来させろ。」と言いました。それでバイオリン弾きは、汚いぼろの服を着て入って来て、王様と娘の前で歌い、歌い終わると、施しを求めました。王様は、「お前の歌がとても気に入ったから、そこの娘を妻にやろう。」と言いました。
娘はぞっとしましたが、王様は「お前を最初の乞食にくれてやると誓いを立てた、そしてわしは誓いを守る。」と言いました。娘が何と言っても無駄で、牧師がよばれ、その場でバイオリン弾きと結婚させられてしまいました。式が終わると、王様は、「乞食女のお前がこれ以上宮殿にいるのはおかしいから、夫と一緒に立ち去れ。」といいました。
乞食は娘の手をとって連れ出し、娘は一緒に歩いていかねばなりませんでした。二人が大きな森に来ると、娘は尋ねました、「この美しい森はだれのものなの?」「つぐみひげの王様のものさ。お前がその人を選んだら、この森はお前のものだった。」「ああ、私はなんて不幸なの。つぐみひげの王様にすればよかったのに。」
そのあと、二人は草原に来て、娘はまた「この美しい緑の草原は誰のものなの?」と尋ねました。「つぐみひげの王様のものさ。お前がその人を選んだら、この森はお前のものだった。」「ああ、私はなんて不幸なの。つぐみひげの王様にすればよかったのに。」
それから二人は大きな町に来て、娘はまた「この大きな町は誰のものなの?」と尋ねました。「つぐみひげの王様のものさ。お前がその人を選んだら、この町はお前のものだった。」「ああ、私はなんて不幸なの。つぐみひげの王様にすればよかったのに。」「お前がいつも別の夫を望んでいるのを聞くのは気に入らないね。おれはお前に十分じゃないのか?」とバイオリン弾きは言いました。
とうとう二人は小さな小屋に着きました。それで、娘は「まあ、なんて小さな家なの。このみすぼらしいあばら家は誰のものなの?」と言いました。バイオリン弾きは「おれとお前の家さ。ここで一緒に暮らすんだ。」と答えました。
娘は戸口が低くて身をかがめて入らなくてはなりませんでした。「召使たちはどこ?」と王様の娘はいいましたが、「何の召使だ?」と乞食は答えました。「お前はやってもらいたいことは自分でやらなくてはいけないのだ。すぐに火をおこして、水を火にかけ、おれの夕飯を作ってくれ。おれはすっかり疲れたよ。」しかし、王様の娘は火をつけたり料理したりは何も知らなくて、何かうまくやるには乞食が手を貸さないといけませんでした。乏しい食事を終えると寝ましたが、乞食は朝とても早く妻を起こして家事をやらせました。
2,3日こんなふうにまあなんとか暮らしましたが、蓄えが底をつきました。それで男は、「なあ、ここで食べたり飲んだりして何も稼がないではもうやっていけないよ。お前はかごを作れ。」と言いました。男は出かけて行って、柳を切り、家へ持って帰りました。それで妻はかごを作り始めましたが、かたい柳でかぼそい手を怪我してしまいました。
「これはだめだね。お前は糸を紡いだ方がいい。たぶんそれならもっとうまくできるだろう。」と男は言いました。妻は座って糸を紡ごうとしましたが、まもなく固い糸で柔らかい指を切ってしまい、血が出ました。「ほらね、お前は何の仕事にも向かないな。お前を嫁にして損したよ。さておれはつぼや土器の商売をしようと思うんだ。お前は市場に座って売ってくれよ。」と男は言いました。(ああ、もしお父様の国の人たちの誰かが市場に来て、私がそこに座って売っているのをみたら、どんなに笑うかしら?)と妻は思いましたが、そんなことは無駄で、飢え死にしたくなければ従うしかありませんでした。
初めて、妻はうまくできました。というのは妻がきれいだったので人々は喜んで買い、言い値でお金を払ったからです。お金を渡してつぼを置いていく人すらたくさんいました。それで、妻が稼いだお金が続く限り二人は暮らしました。それから夫は新しい瀬戸物をたくさん買いました。これをもって妻は市場の角に座り、売る準備をして自分の周りに瀬戸物を置いていました。しかし、突然酔っ払いの軽騎兵が馬で走って来て、ちょうど壺の間に乗り入れたので、壺はこなごなに壊れてしまいました。妻は泣きだして、こわくてどうしたらよいかわかりませんでした。「ああ、どうなるのかしら?これを知ったら、夫は何と言うだろう?」と叫びました。家へ走って帰り、夫にこの不運な出来事を話しました。「瀬戸物をもって市場の角にすわるやつがあるか?泣くのはやめろ。お前が普通の仕事ができないのはよくわかったよ。だから、王様の宮殿へ行って、台所女中の仕事はないかと聞いてきたんだ。お前を使ってくれると約束してくれたよ。そうすればただで食べ物を貰えるよ。」と男は言いました。
今度は王様の娘は台所女中になり、コックが手招きしたり呼んだりする元で働き、一番汚い仕事をしなければなりませんでした。ポケットの両方に小さなつぼをつけておき、残り物をそれに入れて家へ持って帰り、これを食べて二人は暮らしました。
王様の一番上の息子の結婚式が行われることになり、可哀そうな女は上に行って、広間の戸口のそばに行き、見ていました。すべてのろうそくがともされ、あとからあとからだんだん美しくなっていく人々が入っていき、すべてが華麗で豪華になり、女は悲しい心で自分の運命を考えました。そして、卑しい身分になりひどく貧しくなったのも元はといえば自分の高慢と横柄さにあったと呪いました。
運び込まれていったり、運び出されていくおいしい料理の匂いが女のところに届き、時々召使たちが少しばかり投げ与えてくれて、女は家へ持って帰るため壺に入れました。
突然王様の息子が、びろうどと絹の服を着て首に金のくさりをかけて、入ってきました。美しい女が戸のそばに立っているのを見ると、手をつかみ、踊ろうとしました。しかし、女は断り、恐怖で縮みあがりました。というのはそれが嘲って追い払った求婚者のつぐみひげの王様だとわかったからです。女はもがいて逃げようとしましたが役に立たなくて王子は広間へ引っ張って行きました。しかし女のポケットをぶら下げていた紐が切れて、壺が落ち、スープが流れ出して、中身があたり一面に散らばりました。人々がこれをみると、みんなの嘲り笑いが起こりました。女はとても恥ずかしくて穴があったら深く深く入りたいと思いました。女は戸口へ走って逃げてしまうところでしたが、階段で男がつかまえ、また連れ戻しました。その男をみると、またしてもつぐみひげの王様でした。王様はやさしく、「こわがらないで、私と、お前があのひどいあばら家で一緒に暮らしているバイオリン弾きとは、同じなんだ。お前を愛してるので、変装したのだよ。馬で瀬戸物に乗り入れた軽騎兵も私だよ。それもこれもお前の高慢ちきな心を謙虚にさせ、私を嘲った横柄さを罰するためだったんだ。」と言いました。
すると女は激しく泣いて、「私は大きな間違いをしました。あなたの妻になる価値がありません。」と言いました。しかし、つぐみひげの王様は、「安心して。悪い日々は過ぎたよ。さあ、私たちの結婚式を祝おう。」と言いました。それから侍女たちがやってきて、王様の娘に素晴らしい服を着せ、娘の父親と家来たちもみんな来て、つぐみひげの王様との結婚を祝福し、本当の喜びが始まりました。あなたもわたしもそこに行っていたらよかったねえ。

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