Tuesday Aug 13, 2024
フィッチャーの鳥
昔、貧しい男のなりをして物乞いをして家々を訪ね、きれいな娘をさらう魔法使いがいました。男がどこへ娘たちを連れて行ったのか誰もわかりませんでした。というのは娘たちは二度と見つからなかったからです。ある日、男はきれいな娘が三人いる男の家の前に現れました。男は貧しい体の弱そうな乞食のようにみせて、中に施しのものを集めているかのように背中にかごを背負っていました。男は、少し食べ物をください、と言い、一番上の娘が出てきて、パンを一切れ渡そうとしました。そのとき男はただ娘に触れただけで、娘はかごに跳びこまされました。すぐに男は大股で急いで去り、娘を暗い森の真ん中に立っている自分の家に運んで行きました。家の中の何でも豪華でした。男は娘に欲しいものは何でも与え、「ねえ、君、君は僕のところできっと幸せだろう。君が望むものを何でももらえるんだからね。」と言いました。こうして2,3日経つと、男は、「僕は旅にでかけなくてはならない。ちょっとの間君をひとりにしておく。さあ、家の鍵だよ。どこへ行ってもいいし、何でも見ていいよ。ただ一つの部屋はだめだ。そこはこの小さい鍵で開くんだが、そこにいくと君の命をとることにするからね。」と言いました。男は卵も一個渡して、「その卵を大事にとっておいて、いつも持って歩いてほしい。それを失くしたら、大きな災難がふりかかるんだから。」と言いました。
娘は鍵と卵を受け取り、何でも男のいうことに従うと約束しました。男がいなくなると、娘は下から上まで家をぐるっと回り何でも調べてみました。どの部屋も金銀で輝き、娘はこんなに華やかで美しいのは見たことがないと思いました。とうとう禁じられた部屋の戸に来て、娘は通りすぎようとしました。しかし、見たくて見たくてたまりませんでした。鍵をよく見ても他の鍵と同じように見えました。
娘が鍵穴に鍵を入れ、少し回すと戸はパッと開きました。しかし、部屋に入った時娘は何を見たでしょうか?部屋の真ん中に大きな血だらけの鉢があり、その中には死んでばらばらに切られた人間が何人も入っていました。すぐ近くには台木があり、その上に光っている斧が置いてありました。娘はひどく驚き、手に持っていた卵を鉢に落としてしまいました。卵を取り出し血を拭いとりましたが無駄で、血はすぐに出てきてしまいました。洗ってもこすってもとることができませんでした。
まもなく男が旅から戻り、早速鍵と卵を返せと言いました。娘は男に渡しましたが、渡しながら震えていました。男は、赤いしみを見てすぐに、娘が血の部屋に入ったことを知りました。「君はわたしの意思に背きあの部屋に入ったのだから、君の意思に背いてそこに戻ることになる。お前はおしまいだ。」と男は言いました。男は娘を投げ倒し、髪をつかんでひきずり、台木の上で頭を切り落とし、ばらばらに切ったので血が床に流れました。それから鉢に投げ入れて他の死体と一緒にしました。
「さあ今度は二番目の娘を連れてこよう。」と魔法使いは言いました。また貧しい男の姿をしてその家にいき、物乞いをしました。すると二番目の娘が一切れのパンを持ってきました。男は最初の娘のように、娘にただ触れてつかまえ、連れ去りました。二番目の娘も姉と同じ運命をたどりました。見たい気持ちに負けて、血の部屋の戸を開け、覗き込み、魔法使いが戻ったとき命で償いました。それから男は出かけて三番目の娘を連れてきました。しかし、娘は賢く抜け目がありませんでした。男が鍵と卵を渡し、行ってしまうと、娘はとても用心深く卵をしまって、それから家を見て回り、しまいに禁じられた部屋に入りました。ああ、娘は何を見たことか。姉たち二人が残酷に殺されバラバラに切られてそこの鉢に入っていました。しかし、娘は手足を集め始め、頭、胴体、腕、脚をきちんとそろえました。そしてあと何も足りないものがなくなると、手足が動き始め、一緒にくっついて、二人の娘は目を開き、もう一度生き返りました。それから三人は喜び、キスし、抱き合いました。
帰ってくるとすぐ、男は鍵と卵を寄こせと言い、血の跡が何もないのがわかると、「お前は試験に合格した。私の花嫁になってもらおう。」と言いました。今度は男はもう娘をどうすることもできなくなり、娘の望むことを何でもするしかなくなりました。「まあ、いいわ。」と娘は言いました。「まず私の父と母にかごいっぱいの金を持って自分で背中にかついで行ってね。その間に私は結婚式の支度をするわ。」それから娘は小さな部屋に隠しておいた姉たちのところに走って行き、「姉さんたちを助けられる時が来たわ。あいつにまた姉さんたちを連れて行かせるのよ。だけど家へ着いたらすぐ私に助けを寄こしてよ。」と言いました。娘は二人をかごに入れ、その上をすっかり金でおおいました。それで二人は何も見えませんでした。それから魔法使いを呼び入れ、「さあかごを持って行って。だけど私は小さな窓からあなたが途中で立ち止まったり休んだりしないか見ていますからね。」と言いました。
魔法使いはかごを背中にあげ、背負ってでかけましたが、とても重かったので汗が顔から流れました。それで男は座って少し休もうとしました。しかし、すぐにかごの中にいる娘の一人が、「窓からみているのよ。あなたが休んでいるのが見えるわ。すぐに歩いていってよ。」と叫びました。男は話しているのが花嫁だと思い、また立ちあがりました。もう一度男は座ろうとしましたが、すぐに娘は「窓からみているのよ。あなたが休んでいるのが見えるわ。すぐに歩いていってよ。」と叫びました。そして男が立ち止まるたびに、娘はこう叫び、男は歩き続けるしかなく、とうとう息を切らしてあえぎながら、金と二人の娘が入っているかごを両親の家に運び入れました。
ところで、家では花嫁が結婚式の支度をして、魔法使いの友達に招待状を送りました。それから歯をむきだしている頭蓋骨をとってきて、それに飾り付けをし花束をもたせ、二階の屋根裏部屋の窓に運び、そこから外を覗くようにさせました。全部の用意ができると、娘は蜂蜜の樽に入り、羽根布団を切り開いてその中で転がりました。それでとうとう娘は不思議な鳥のように見え、誰も娘だとわかりませんでした。それから娘は家から出ていきました。途中で結婚式のお客に何人か会い、その人たちは尋ねました。「ああ、フィッチャーの鳥さん、どこからここにきたんですか?」「すぐ近くのフィッチャーさんの家からきたのよ。」「若い花嫁は何をしているだろうか?」「地下室から屋根裏部屋まですっかりきれいに掃除して、今は窓から覗いていると思うわ。」
最後に娘はゆっくり戻ってくる花婿に会いました。花婿も、他の人たちのように尋ねました。「ああ、フィッチャーの鳥さん、どこからここにきたんですか?」「すぐ近くのフィッチャーさんの家からきたのよ。」「若い花嫁は何をしているだろうか?」「地下室から屋根裏部屋まですっかりきれいに掃除して、今は窓から覗いていると思うわ。」
花婿は上を見上げ、飾り立てた頭蓋骨を見て花嫁だと思い、やさしく挨拶を送って頭蓋骨に頷きました。しかし、花婿とお客たちが家の中へ入ってしまったとき、娘を助けに送られた花嫁の兄たちや親せきの人たちが着きました。みんなは、誰も逃げないように家の戸を全部閉め切って、火をつけました。それで魔法使いとその仲間はみんな焼け死んでしまいました。
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