Tuesday Aug 13, 2024
三人のしあわせもの
あるとき、父親が三人の息子を自分の前に呼んで、長男におんどりを一羽、次男に草刈り鎌を一丁、三男に猫を一匹与えました。「わしはもう年だ」と父親は言いました。「死ぬ時期も近い。死ぬ前にお前たちにやっておきたいと思っていたんだ。金はない。今お前たちにやったものは大して価値がなさそうなものだ。だが、それもお前たちの使い方次第だと思うんだ。そういうものをまだ知らない国を探しだせ。そうすれば財産を作れる。」
父親が死んだあと、長男は雄鶏をかかえて出かけていきましたが、どこへ行っても雄鶏はもう知られていて、町では、尖塔の上にのって風で向きをかえているのがずっと遠くからでも見えました。村では一羽以上の雄鶏が鳴いているのが聞こえてきて、誰もこの生き物を驚いて見る人はいそうもありませんでした。それで雄鶏で財産をつくれそうもありませんでした。
ところが、とうとう、ある島に来ると、人々は雄鶏について何も知らなくて、時間の分け方すら判っていませんでした。いつが朝でいつが夕方かは確かに知っているのですが、夜に眠っている途中で目覚めると、それが何時かは誰もわからなかったのです。
「ほら、見て」と長男は言いました。「なんと誇らしい生き物だ。頭にルビーのように赤い冠をかぶって、騎士のように拍車をつけてるんだ。夜に三回、決まった時間にあなたに呼びかける。最後に呼びかけるときはまもなく日が昇る。だが、昼間に鳴いたら、注意しなくちゃ。そのときはきっと天気が変わるんだからな。」
人々はとても気に入って、一晩じゅう眠らずに、雄鶏が二時、四時、六時と大声ではっきりと時を告げるのを大喜びして聴きました。人々は、その動物は売り物かね?いくらで売ってくれるんだ?と尋ねました。「一頭のロバが運べる金貨くらいだね」と長男は答えました。みんなは口をそろえて「こんな貴重な動物には馬鹿げた安値だよ。」と叫んで、長男が求めた金額を喜んで渡しました。
長男が大金を持って家に帰ると、弟たちはびっくりしました。次男は「じゃあ、僕もでかけて、草刈り鎌を売りさばいて儲けられるかやってみよう」と言いました。しかし、思ったようにはいきそうもありませんでした。というのは、働く人にはどこでも会うし、みんな次男と同じように肩に草刈り鎌を担いでいました。
ところが、ついに、たまたまある島に行くと、人々は草刈り鎌を何も知りませんでした。そこでは麦が実ると、大砲を持ち出して畑へ行き、麦を撃ち落としていました。これでは不確かなことで、麦の上をとびこしてしまう弾も多いし、茎ではなく穂に当たって吹き飛ばしてたくさんの麦がなくなってしまうこともありました。それだけでなくものすごい音がしました。そこへ次男が仕事をやってみせて、とても静かに速く刈り取ったので人々は驚いて口あんぐりでした。人々は草刈り鎌を次男の言い値で買うことに決めて、次男は運べるだけ金貨を積んだ馬を一頭受け取りました。
今度は三男が猫をあつらえ向きの人にもっていこうとしました。三男も兄たちと同じで本土にいる間はどうしようもありませんでした。どこにも猫がたくさんいるし、あまり多すぎて生まれたばかりの子猫はたいてい池で溺れさせられていました。
しまいに島に渡ると、うまい具合にそこでは猫がこれまで見られませんでした。そうしてねずみがはばをきかせて、主人がいようといまいと、テーブルやベンチで踊りまわっていました。人々はねずみの害をひどく嘆いていましたが、宮殿にいる王様自身もねずみからどう身を守るか知らず、ねずみがどのすみにもいて鳴いているし、見つけた物は何でも歯でかんでしまうのでした。
しかし今度は猫が追い回し、まもなくニ、三の部屋にはねずみがいなくなりました。人々は王様に国のためにこの素晴らしい動物を買ってくれるようにとお願いしました。王様はすすんで求められたものを渡しました。それは金貨を積んだラバで、三男は三人のうちで一番の宝を手に入れて帰って来ました。
猫は王宮でねずみを相手に楽しく過ごし、数えきれないほどねずみを殺しました。とうとう仕事をして熱くなり喉が渇いて、たちどまると、頭を持ちあげて「ニャーニャー」と鳴きました。
この奇妙な鳴き声を聞くと、王様と宮廷の人たちはびっくりし、恐がって一斉に城から出て逃げていきました。それで王様はどうすればよいか、と会議にかけ、しまいに猫に使者を送ることに決め、使者は猫に城をでていってもらうように言って、もし出ていかなければ力づくで追い出されると思え、ということになりました。相談役たちは、「こんな怪物に命をとられるより、むしろねずみに苦しまれる方がましです。というのはねずみの災難には私たちは慣れていますから。」と言いました。そこで、地位の高い若者が、猫に、おとなしく城をあけわたすか尋ねるためつかわされました。しかし、猫は、前よりもっと喉が渇いていたので、ただ「ニャーニャー」と返事しただけでした。若者はそれを「絶対嫌だ、絶対嫌だ」と言ってるものと理解して、この返事を王様に伝えました。
「それでは」と相談役たちは言いました。「力づくで追い出すことだ」大砲が持ち出され、宮殿はじきに炎に包まれました。火が猫のいる部屋に届くと、猫は無事に窓から飛び出ました。しかし、包囲軍は宮殿がまるまる地に崩れ落ちるまで大砲を撃つのを止めませんでした。
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