グリム童話

グリム童話は、ヤーコプとヴィルヘルム・グリムによって編纂された、時代を超えた民話のコレクションです。これらの物語は、勇気、魔法、道徳をテーマにした話が世代を超えて共鳴し続ける、民俗の宝庫です。「シンデレラ」や「白雪姫」、「ヘンゼルとグレーテル」などの古典から、「漁師とその妻」や「ルンペルシュティルツキン」といったあまり知られていない珠玉の話まで、それぞれの物語がヨーロッパの口承伝承の豊かな織物を垣間見せてくれます。 グリム童話は、その鮮やかなキャラクター、道徳的教訓、そしてしばしば暗いトーンが特徴で、歴史的文脈の厳しい現実と幻想的な要素を反映しています。その永続的な魅力は、楽しませ、教え、驚きをもたらす能力にあり、これが子ども文学の礎となり、民俗学や物語の研究者たちにとっての魅力的な源となっています。

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Episodes

Tuesday Aug 13, 2024

ある夏の朝、小さな仕立て屋は窓のそばの仕事台に座って、機嫌がよく一生懸命縫っていました。すると、下の通りをお百姓の女が、「いいジャムだよ、安いよ、いいジャムだよ、安いよ」と叫んで来ました。これは仕立て屋の耳に心地よく聞こえました。仕立て屋はきゃしゃな頭を窓から伸ばし、「ここへ来てよ、おばさん、ここで品物が売れるよ。」と呼びました。女は重いかごを持って3段あがって仕立て屋のところに来ました。そして仕立て屋は女につぼを全部広げさせ、全部を調べ、持ち上げ、鼻で匂いを嗅ぎ、やっと、「おばさん、そのジャムはおいしそうだ。だから4オンス測ってくれ。四分の一ポンドでも構わないよ。」と言いました。
たくさん売れると思っていた女は、仕立て屋が望んだものを渡しましたが、ぷんぷん怒ってぶつくさ言いながら立ち去りました。「さて、このジャムを神様が祝福してくださいますように」と小さな仕立て屋は叫びました。「そして食べた私に健康と力を与えてくださいますように。」それで戸棚からパンを出し、ちょうど半分に切り、ジャムを塗りました。「これは苦くないだろう。」と仕立て屋は言いました。「だが食べる前に、上着を終わらせよう。」パンを近くに置いて、縫い続け、楽しくて、縫い目がだんだん大きくなりました。そのうちに甘いジャムの香りが壁に立ち昇り、そこにたくさんいたハエが匂いに惹かれて下りてきてパンにたかりました。「うわっ、誰がお前たちを招いたよ?」と仕立て屋は言って、招かざる客たちを追い払いました。ところが、ドイツ語が通じないハエたちは引き下がらないで、もっと仲間を連れて戻って来ました。
それでとうとう仕立て屋はかんしゃくをおこして、仕事台の下の穴から布切れをとり、「待ってろよ、お前たちにやるからな」と言いながら、容赦なくバシッと打ちました。布をどけて数えると、7匹も死んで脚を伸ばして目の前にありました。「汝はそういう男か?」と仕立て屋は言って、自分の勇敢さをたたえざるを得ませんでした。「町中にこれを知らせなくてはいけないぞ!」仕立て屋は急いで自分の帯を裁ち切り、縫って、大きな文字で「一撃で七!」と刺しゅうしました。「何、町だって!」と続けました。「世界中がその話を聞くべきだぞ!」そして仕立て屋の心は喜びで子羊の尻尾のように振れました。
仕立て屋は、自分の勇気には今の仕事場は狭すぎると考え、帯を巻いて世の中へ出て行くことに決めました。出かける前に、持っていける何かないかと家の中を探しました。しかし、古いチーズしかみつからなかったのでそれをポケットに入れました。戸口の前にやぶにからまっている小鳥を見つけ、ポケットに入れチーズと一緒にしました。さて、仕立て屋は道を勇敢に進み、軽く素早いので、疲れを感じませんでした。道は山道になっていき、一番高いところにくると、力強い巨人がすっかりくつろいで辺りを見ながら座っていました。小さな仕立て屋は勇ましく近づいていき、言いました。「やあ、こんにちは、そこに座って広い世界を見渡しているんですね。私はそこへいく途中なんですよ。運だめしをしようと思ってね。一緒に行く気はないかい?」巨人は馬鹿にしたように仕立て屋を見て言いました。「屑め、この弱虫野郎!」「おや、そうかな?」と小さな仕立て屋は答え、上着のボタンをはずし、巨人に帯を見せました。「さあ、おれがどんな男か読んでみろ。」巨人は「一撃で七」を読みました。そして仕立て屋が殺したのは男たちだと思い、このチビ助を少し尊敬し始めました。巨人はまず仕立て屋を試そうと思い、手に石をとってギュッと握り石から水を出しました。「お前もやってみろ。」と巨人は言いました、「お前に力があるなら」「それだけ?」と仕立て屋は言いました。「そんなのは子供だましだろ。」ポケットに手をいれると、柔らかいチーズを出し、押しつぶすと液が流れ出ました。「嘘じゃないだろ?こっちが少しマシだろ?」巨人は何と言ったらいいかわからず、小男にそんなことができるとは信じられない思いでした。
それで巨人は石を拾いとても高く投げたので、ほとんど見えなくなりました。「さあ、チビ、お前もやってみろ。」「うまいな。だけど石は結局また地面に落ちてきた。 おれは絶対戻らないやつを投げてみせるぜ。」仕立て屋はポケットに手を入れ、鳥を出し、空に放しました。鳥は自由になって喜び、上って飛んでいき、戻って来ませんでした。「どうだい?気に入ったかい?」と仕立て屋は尋ねました。「確かに投げるのはうまいな。」と巨人は言いました。「だが、今度はお前がものをちゃんと持てるか見ようじゃないか。」巨人は仕立て屋を地面に切り倒されてあるとても大きな樫の木に連れていき、「お前に力があるなら、森からその木を出すのを手伝え。」と言いました。「よかろう。」と小男は答えました。「お前は肩に幹を担げ。おれは枝を持ち上げるから。何と言っても枝が一番重いからな。」巨人は肩に幹を担ぎましたが、仕立て屋は大枝に座っていました。後ろを振り返ることができない巨人は、木全部とおまけに小さな仕立て屋を運ぶ破目になりました。後ろにいる仕立て屋はすっかりご機嫌で、木を運ぶのは子供だましだというように、「三人の仕立て屋が門から馬で出て行った」という歌を口笛で吹きました。巨人は、この重い荷物を途中までひきずっていきましたが、もう進めなくなり、「きいてくれ、木を落とすぞ」と叫びました。仕立て屋は素早く飛び下りて、今まで運んでいたふりをして両手で木をつかみ、巨人に言いました。「お前はそんなに図体がでかいくせに木を運ぶこともできんのか」
二人は一緒に進んで行き、サクランボの木を通りすぎる時、巨人はよく熟したサクランボがなっている木の一番上をつかみ下にたわませ、それを仕立て屋の手に渡し、食べろと言いました。しかしチビの仕立て屋は木をおさえておく力がないので、巨人が手を放すと木はまた跳ね上がって、仕立て屋も一緒に空へとばされました。仕立て屋が怪我もなくまた落ちてきたとき、巨人は、「何だよ?弱い小枝も抑える力がないのか?」と言いました。「力がないわけじゃないさ。」とチビの仕立て屋は答えました。「一撃で七つやっつけた男に、それしきは何でもないと思わないか。猟師がそこの茂みで撃っているから木を跳び越したのさ。お前できるなら、おれがやったように跳んでみろ。」巨人はやってみましたが、木を越えることができなくて、枝にひっかかったままになりました。それで今度も仕立て屋は上手をとりました。
巨人は、「お前がそんなに勇敢なやつなら、おれたちのほら穴に来て泊って行けよ。」と言いました。小さな仕立て屋は「いいとも」と言って巨人についていきました。ほら穴に入ると他の巨人たちが火のそばに座り、一人ひとりが手に一頭の焼いた羊を握って食べていました。小さな仕立て屋はまわりを見回し、(ここはおれの仕事場よりずっと広いなあ)と思いました。巨人は仕立て屋にベッドをみせて、「ここに横になって眠れよ。」と言いました。ところが、そのベッドは小さい仕立て屋には大きすぎました。仕立て屋は真ん中に寝ないで片隅にもぐり込みました。真夜中になり、巨人は小さな仕立て屋がぐっすり眠っているものと思い、起きあがって大きな鉄棒をとり、一撃でベッドを真っ二つにし、あのバッタにとどめをさしたぞ、と思いました。夜明けとともに、巨人たちは森へ入って行き、小さな仕立て屋のことをすっかりわすれてしまっていました。するとそのとき突然、仕立て屋がすっかりご機嫌でどうどうと近づいてきました。巨人たちはぎょっとし、仕立て屋がみんなをぶち殺すのではないかとおそれて大急ぎで逃げていきました。
小さな仕立て屋は、突き出た鼻先が向いている方へどんどん進んで行きました。長い間歩いて王宮の中庭に来て、疲れたので草の上に横になり眠ってしまいました。そこにねていると、城の人たちがやってきて、仕立て屋を四方八方からながめ、帯に書いてある「一撃で七」を読みました。「すごい!」と人々は言いました。「平和の最中にこの強い戦士はここで何をするんだろう?きっと力のある貴族にちがいない」人々は王様のところへ行き、仕立て屋のことを話し、「万一戦争がおこったらこの方は重要で役に立つ人です。決してあの方を行かせてはなりません。」と自分たちの考えも伝えました。この助言は王様の気に入りました。それで宮廷の人の一人を送り、目を覚ましたら仕立て屋に軍隊務めを申し入れるように、と命じました。使者は眠っている人のそばに立ったままで、仕立て屋が手足を伸ばし目を開くまで待っていました。それから王様の申し出を伝えました。「そのためにこそおれはここに来たんだよ。」と仕立て屋は答えました。「もういつでも王様に仕えることができるぞ。」それで仕立て屋は大切に迎えられ、特別な住まいがあてがわれました。
ところが兵士たちは小さな仕立て屋を良く思わず、千マイルも向こうにいればいいのにと思っていました。「最後はどうなるんだろう。」と自分たちで話しあっていました。「おれたちがあいつと喧嘩してあいつがうちまわると、一撃ごとに七人倒れるんだ。おれたちの一人だって太刀打ちできないよ。」それで兵士たちは結論に達し、一団となって王様のところにいき、お暇を願い出ました。「わたしたちは一撃で七人殺す男と一緒にいる覚悟がありません。」と兵士たちは言いました。王様は、一人のために忠実な家来たちみんな失くすのを悲しみ、仕立て屋を見なければよかった、できればあの男を喜んで厄介払いしたのに、と思いました。しかし王様は仕立て屋にクビだと言いませんでした。というのは仕立て屋が王様や家来たちみんなを打ち殺し、自分を王位につけようとするのではないか、と恐れたからです。
王様はしばらく考えていましたがとうとういい考えを思いつきました。王様は、小さな仕立て屋に使いをやり、次のように伝えさせました。あなたは大した戦士だから、一つ頼みがある。この国の森に二人の巨人が住んでいるが、この二人はものを盗み、人を殺し、ものを壊し、家を焼くなどして大変な害を及ぼしている。命を失う危険があるので誰も近づけないが、もしあなたがこの二人の巨人をやっつけて殺したら、一人娘を妻に与え国の半分を持参金としよう、百人の騎馬兵も手伝うため一緒につけてやる。(それはおれのような男にはまさしくすばらしいことだ!)と小さな仕立て屋は思いました。(美しいお姫様と国の半分をくれるという申し出は生きてる間毎日あるわけではないぞ。)「いいですとも。」と仕立て屋は答えました。「すぐに巨人めらを制圧しますよ。百人の騎馬兵の手を借りなくてもやってみせます。一撃で七つもやっつける者が二人を怖がる必要はありませんからね。」
小さな仕立て屋は出かけていき、百人の騎馬兵があとについていきました。森のはずれにくると、仕立て屋はついてきた人たちに、「ここで待っていてくれ。おれだけでじき巨人にとどめをさしてくるから。」と言いました。それから森にずんずん入って行き、左右を見回しました。しばらくして仕立て屋は二人の巨人を見つけました。二人は木の下で眠っていて、枝が上下に揺れるほど大いびきをかいていました。小さな仕立て屋は、すぐさま二つのポケットにいっぱい石を集め、その石を持って木に登りました。半分ほど上がったところで、するすると枝をつたい、眠っている巨人のちょうど上に来て、巨人の一人の胸に次々と石を落としました。
長い間その巨人は何も感じませんでしたが、とうとう目が覚め、仲間を押して、「なんでおれをなぐっているんだ?」と言いました。「きっとお前は夢をみてるんだろうよ。」ともう一人が言いました。「なぐってなんかいないぜ。」二人はまた眠ろうと横になりました。すると仕立て屋は二人目の巨人に石を投げました。「どういう意味だ?」とその巨人がどなりました。「なんでおれにものを投げているんだ?」「何も投げてなんかいないぜ」と最初の巨人が歯をむきだして答えました。二人はしばらく言い争っていましたが、疲れていたので、やがて言い争いをやめ、また目を閉じてしまいました。
小さな仕立て屋はまたいたずらを始めました。大きい石を拾い、ありったけの力で最初の巨人の胸に投げました。「こいつはひどすぎる!」とその巨人は叫んで気違いのようにむっくりおきあがると、木がゆれるほど強く仲間を木に突きとばしました。相手も負けていないで同じくやり返しました。二人ともかんかんに怒っていたので木を引き抜いてお互いに襲いかかり長らく戦っていましたが、とうとう二人同時に死んで地面に倒れました。それから仕立て屋は木から跳び下りました。「あいつらがおれのいた木を引っこ抜かなくて運がよかったな。さもないとおれはりすみたいに他の木に跳び移らなくちゃいけなかったよ。だけど仕立て屋ってのはすばしこいんだぜ。」と仕立て屋は言いました。仕立て屋は剣を抜いて巨人の胸を2,3回突き刺し、そのあと騎馬兵のところに出ていき、言いました。「仕事は終わった。二人ともとどめをさしてきたがね、なかなか大変だったよ。あいつらは死にものぐるいで木を引っこ抜いてそれを振り回して手向かってきたんだ。だけどそんなのはおれのような男が来たからには無駄ってもんさ。なんせ、一撃で七殺すんだからな。」「だけどあなたは怪我しなかったんですか?」と騎馬兵たちは尋ねました。「そんな心配は無用だ。」と仕立て屋は答えました。「やつらはおれにかすり傷一つ負わせられなかったさ。」騎馬兵たちは仕立て屋の言うことを信じようとせず、森へ馬で乗り入れました。そこには血の海にいる巨人がいて、その周りには引き抜かれた木が何本もありました。
小さな仕立て屋は王様に、約束のほうびをください、と求めました。しかし王様はそんな約束をしたことを悔やんでいて、またこの英雄を厄介払いする方法を考え出しました。「お前がわしの娘と国の半分を受け取る前に」と王様は仕立て屋に言いました。「もう一つ勇者の仕事をやってもらわねばならない。森に大きな害をなす一角獣がうろついているのだ。まずこれをつかまえねばならない。」「一角獣なんて二人の巨人よりもおそるるに足りません。なんせ、一撃で七つが私ですから。」仕立て屋は縄と斧をもって、森へ出かけていき、一緒に送られた人たちに外で待つようにと言いました。仕立て屋は長い時間さがしませんでした。じきに一角獣が仕立て屋に向かって来て、ただ角でくし刺しにしてやろうとするかのようにまっすぐ突進してきました。「ゆっくり、ゆっくり、そんなに速くは終わらないぞ。」と仕立て屋は言って、立ち止まったまま待っていました。そして、一角獣がすっかり近くに来ると木のかげにさっと跳びました。一角獣は力いっぱい木に走って行き、幹に角をがっちり突き刺してしまったので、角を抜き取るだけの力がありませんでした。こうして一角獣はつかまってしまいました。「さあ、小鳥ちゃんをつかまえたぞ。」と仕立て屋は言って、木のかげから出てくると、一角獣の首に縄をかけ、斧で角を木から切り放しました。準備が終わると、一角獣を連れて森から出て王様のところに行きました。
王様はまだ約束したほうびを渡そうとはしないで、三つめの要求を出しました。結婚式の前に仕立て屋は森で大きな害をおよぼしている猪をつかまえなくてはならない、猟師たちにも手助けさせよう、というのでした。「よろしいですとも。」と仕立て屋は言いました。「そんなのは子供の遊びですよ。」仕立て屋は猟師たちを一緒に森へ連れていかず、猟師たちもそのほうを喜びました。というのはその猪に何度かひどい目にあわされたので、また同じ目にあう気はなかったからです。猪は仕立て屋を見て、口に泡を立て尖った牙をたてて走って来ました。しかし、動きの速い勇者は近くにあった礼拝堂にとび込み、すぐに窓にあがると一跳びでまた外に出ました。
猪は礼拝堂の中へ追いかけてきました。しかし仕立て屋は外で回って、猪の後ろから戸を閉めてしまいました。猛り立った猪は重すぎて不器用なので窓から跳ねることができず、つかまってしまいました。小さな仕立て屋はそこへ猟師たちを呼んで、自分の目で捕まった猪を見てもらいました。一方、猟師は王様のところへ行きました。王様は、もう否応なく約束を守るしかなくて、娘と国の半分を与えました。もし王様が目の前に立っているのが戦士ではなくただの小さな仕立て屋だと知っていたら、もっともっと悔しがったことでしょう。結婚式はとても豪華に行われましたが、喜びはほんのちょっとでした。こうして仕立て屋は王様になりました。
しばらくして、若いお后は夜に夫が夢を見て、「おい、上着を作ってくれ。それからズボンをつくろえ。さもないと横っ面をものさしでたたくぞ。」というのを聞きました。それで、若い王様がどういう生まれだったのかわかり、次の朝父親におかしいと思うことを訴え、ただの仕立て屋でしかない夫を厄介払いしてほしいと頼みました。王様は娘を慰め、「今晩、寝室の戸を開けたままにしておきなさい。そうすれば家来を外において、あいつが眠ってしまったら中に入れ、あいつを縛って船に乗せ、遠い世界に連れて行かそう。」と言いました。
娘はこれを聞いて納得しました。しかし、王様の鎧持ちが話を全部聞いて、若い王様と親しかったので、この悪巧みを教えました。「そんなことをさせるもんか」と小さな仕立て屋は言いました。仕立て屋は夜になるといつもの時間にお后と一緒にベッドに寝ました。お后は仕立て屋が眠ってしまったと思ったとき、起きあがって戸を開け、また横になりました。小さな仕立て屋は、ただ眠っているふりをして、はっきりした声で叫び始めました。「おい、上着を作ってズボンを繕えよ、さもないとものさしで横っ面をはたくからな。おれは一撃で七殺したんだ。巨人を二人殺したし、一角獣を連れ出し、猪をつかまえたんだぞ。部屋の外に立っているやつらなんて怖がるもんか。」外にいた男たちは仕立て屋がこう言うのをきいて、とても恐ろしくなってしまいました。それで亡霊の軍勢(注)が迫ってきているようにあわてふためいて逃げて、それ以上誰も仕立て屋に歯向かおうとしませんでした。そうして小さな仕立て屋は、死ぬまでずっと王様でいました。
(注)the wild huntsman:中世の伝説中、幽霊の犬の一群をひきつれ、森林地帯に現れる幽霊の狩人。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

漁師とおかみ

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、海のすぐちかくの豚小屋に、漁師がおかみさんと一緒に住んでいました。漁師は毎日魚釣りにでかけ、釣って、釣って、ひたすら釣りました。あるとき、竿を垂れて座り、きれいな水を眺めながら、ひたすら座っていました。すると糸がグイッと下がってずっと下までおりました。糸を引き上げてみると大きなヒラメがかかっていました。するとヒラメが言いました。「聞いてください、漁師さん、お願いです。命を助けてください。私は本当はヒラメではなく、魔法にかけられた王子なのです。私を殺して何になりますか。私を食べてもおいしくないです。また水に戻して、放してください。」「まあ、いいだろ」と漁師は言いました。「そんなに言わなくてもいいよ。口をいう魚なんてどっちにしても放してやるさ。」そう言って漁師はヒラメをきれいな水に戻しました。ヒラメは後ろに長い血のすじを残して、底に行きました。
それから猟師は立ち上がって豚小屋のおかみさんのところに帰りました。「あんた」とおかみさんは言いました。「今日は何もとれなかったの?」「ああ」と亭主は言いました。「実はヒラメを釣ったんだがね、そいつが魔法にかけられた王子だというもんだから、逃がしてやったよ。」「先に願い事を言わなかったのかい?」とおかみさんは言いました。「ああ、言わなかった。」と亭主は言いました。「何を願うんだい?」「まあ」とおかみさんは言いました。「こんな豚小屋でいつまでも暮らさなくちゃならないなんてとんでもないわ。臭くて胸が悪くなる。小さな家を願ってもよかったわよ。戻ってヒラメを呼んでごらんよ。それで小さい家が欲しいって言ってよ。きっとやってくれるわ。」「ええと」と亭主は言いました。「なんでまたそこへ行かなくちゃならないんだい?」「何で?」とおかみさんは言いました。「あんたはヒラメをつかまえたんだよ。そんでまた放してやったんじゃないか。きっとやってくれるから。すぐ行ってよ。」
亭主はやはりあまり行きたくありませんでしたが、おかみさんと争いたくもなかったので、海に行きました。そこに着くと海はすっかり緑と黄色になっていて、もう穏やかではありませんでした。それで漁師は立ったままで、「ヒラメ、海のヒラメ、お願いだ、聞いてくれ、うちのかみさんのイザベルがおれのいうことをきかないから。」と言いました。するとヒラメが泳いでやってきて、「それでおかみさんは何を望んでいるんだい?」と言いました。「それがね」と漁師は言いました。「おれはたしかにあんたをつかまえたよ。それでかみさんは本当はおれが願い事をすればよかったと言うんだ。かみさんはもう豚小屋に住みたくないんだ。小さい家が欲しいって言うんだ。」「それじゃ、帰りな。」とヒラメは言いました。「もうおかみさんには小さな家があるよ。」
漁師が家に帰ると、おかみさんはもう豚小屋にはいませんでした。その代わりに小さな家が立っていて、おかみさんは戸口の前のベンチに座っていました。おかみさんは亭主の手をとり、「中に入って。ほら、ね、ずっといいでしょ?」と言いました。それで二人は入りましたが、小さな玄関、かわいい小さな居間と寝室、台所、食料置き場があって、最高の家具も備え付けてあり、錫や真鍮でできた最も美しい調理器具など何でもそろっていました。小さな家の後ろには小さな裏庭もあり、めんどりやあひるがいて、花や果物のなる木がある小さな庭園もありました。「ほら、すてきじゃない?」とおかみさんは言いました。「そうだな」と亭主は言いました。「ずっとそのままにしておこう。もうすっかりいい暮らしができるな。」「それは考えておきましょう。」とおかみさんは言いました。それで食事をして寝ました。
一、二週間万事うまくいったあと、おかみさんが、「ねえ、あんた、この家は狭すぎるし、畑も庭も小さいわ。ヒラメはもっと大きい家をくれたってよかったのに。大きな石作りのお城に住みたいな。ヒラメのところに行って、お城をくれって言ってよ。」と言いました。「なあ、お前」と亭主は言いました。「この小さい家で十分だよ。何でお城に住むんだ?」「何だって?」とおかみさんは言いました。「いいから行って来なさいよ。ヒラメはいつだってやってくれるさ。」「だめだよ、お前」と亭主は言いました。「ヒラメはおれたちにこの家をくれたばかりじゃないか。そんなに早く戻りたくないよ。ヒラメは怒るだろうよ。」「行けってば。」とおかみさんは言いました。「ヒラメは簡単にできるんだし、喜んでやってくれるさ。いいから行けってば。」
亭主は気が重く、行きたくありませんでした。心の中で「こんなの、おかしいよな」といいましたがそれでもでかけました。海に来ると水はすっかり紫と紺と灰色で濁っていて、もう緑と黄色ではありませんでしたが、それでも穏やかでした。漁師はそこに立って、「ヒラメ、海のヒラメ、お願いだ、聞いてくれ、うちのかみさんのイザベルがおれのいうことをきかないから。」と言いました。するとヒラメが泳いでやってきて、「それで今度はおかみさんは何を望んでいるんだい?」と言いました。「ああ」と漁師は、半分びくびくして言いました。「かみさんは大きな石作りのお城に住みたいんだ。」「では帰りな。おかみさんは戸口の前に立っているよ。」とヒラメは言いました。
それで漁師は立ち去り、前の小さな家に帰るつもりでいましたが、そこに着いてみると、大きな石作りの宮殿がありました。おかみさんは階段に立って中に入ろうとしていて、亭主の手をとり、「入って」と言いました。それで亭主はおかみさんと一緒に入りました。お城の中に大理石を敷いた大広間があり、たくさんの部屋には純金の椅子やテーブルが並べられ、水晶のシャンデリアが天井から下がっていました。部屋や寝室にはどこもカーペットがしいてあり、最上の食べ物やワインがどのテーブルにもどっさりのっていて、重さでテーブルがくずれそうなくらいでした。家の後ろにも、大きな中庭があり、たくさんの馬や牛の小屋やとてもりっぱな馬車が並んでいました。とても美しい花々や実のなる木々があるすばらしい大きな庭園もあれば、半マイルもある公園があり、雄鹿や小鹿やうさぎなど欲しいなと思う動物がいました。「ねっ」とおかみさんは言いました。「すばらしくない?」「本当にな」と亭主は言いました。「今度はずっとこのままにしておこう。この美しい城で暮らして満足しよう。」「それは考えておきましょう。」とおかみさんは言いました。「まあ眠ってみてね。」それで二人は寝ました。
次の朝、おかみさんは先に目を覚まし、丁度夜明けで、ベッドから、目の前に広がる美しい土地が見えました。亭主はまだ伸びをしていたので、おかみさんはひじでわき腹をつつき、「起きて。あんた、窓から外を覗いてごらんな。見てごらん。私たち、あの土地みんなを治める王様になれないのかな?ヒラメのところに行って。王様になろうよ。」と言いました。「あのなあ、お前」と亭主は言いました。「何で王様にならなくちゃいけないんだよ。おれは王様になんかなりたくないよ。」「じゃあ」とおかみさんは言いました。「あんたがならないんなら、私がなるわ。ヒラメのところに行って。私は王様になるんだから。」「なあ、お前」と亭主は言いました。「お前はどうして王様になりたいんだ?おれはそんなことヒラメに言いたくないよ。」「いいじゃないのさ?」とおかみさんは言いました。「さっさと行って。私は王様にならなくちゃいけないの!」
それで亭主はでかけましたが、おかみさんが王様になりたいのですっかり落ち込んでいました。(こんなのおかしいよ、こんなのおかしいよ)と考えました。行きたくありませんでしたがやはり行きました。海に着くと、すっかり黒っぽい灰色になっていて、水が下から上がってきて、腐ったにおいがしました。それで亭主はそのそばに行って立ち、「ヒラメ、海のヒラメ、お願いだ、聞いてくれ、うちのかみさんのイザベルがおれのいうことをきかないから。」と言いました。「それで今度はおかみさんは何を望んでいるんだい?」とヒラメが言いました。「ああ」と亭主は言いました。「王様になりたがっているんだ。」
「おかみさんのところにお帰り。もう王様だよ。」それで亭主は行き、宮殿に着くと、お城はさらに大きくなっていて、大きな塔と素晴らしい飾りがついて、戸口には門番が立っていました。それにたくさんの兵士がいて太鼓やラッパをもっていました。亭主が家の中にはいってみると、何でも本物の大理石と金でできていて、びろうどのカバーと大きな金の房がついていました。それから広間の戸が開けられ、豪華な宮廷があり、おかみさんが、金の大きな王冠を頭にのせ、純金と宝石でできた(しゃく)を手に持ち、金とダイヤでできた高い玉座に座っていました。両側には侍女が列を作り、それぞれが頭一つ前の人より背が低くなっていました。それで、亭主はおかみさんの前に行って立ち、「なんとまあ、お前、もう王様なんだね。」と言いました。「そうよ」とおかみさんは言いました。「もう王様よ。」それで立ったままおかみさんを見て、しばらくながめたあと、亭主は言いました。「お前は王様なんだから、他はみんなそのままにしておこうな。もう何も欲しいものはないよな。」
「違うよ、あんた」とおかみさんは、すっかりむしゃくしゃして言いました。「時間の経つのが遅くて遅くて。もう我慢ならないよ。ヒラメのところへ行って。わたしゃ王様だけど皇帝にもならなくちゃ。」「なんと!お前なあ、なんで皇帝になりたいんだ?」「あんた」とおかみさんは言いました、「ヒラメのところへ行って。皇帝になるんだから。」「ああ、お前」と亭主は言いました。「ヒラメはお前を皇帝にできないよ。それを魚に言ってはいけないよ。皇帝は国に一人しかいないんだ。皇帝にヒラメはできないよ。できないにきまってる。」「何だって?」とおかみさんは言いました。「私は王様だよ。あんたはただの亭主じゃないか。今すぐ行くのよ。さっさと行って。王様にできるんなら皇帝にできるさ。皇帝になるの。すぐ行って。」それで亭主は行くしかありませんでした。
ところが、亭主は歩きながら、悩んでいて、「こんなの無事に済むわけない、こんなの無事に済むわけない、皇帝なんて恥知らずもいいところだ。ヒラメもとうとう嫌になるさ」と思っていました。そう考えながら、海につきました。海はすっかり黒く濁っていて、下からぼこぼこ沸き上がって泡が立っていました。その海の上を肌を突き刺すような冷たい風が吹いて泡が固まりました。亭主は恐ろしく思いました。それからそばに行って立ち、「ヒラメ、海のヒラメ、お願いだ、聞いてくれ、うちのかみさんのイザベルがおれのいうことをきかないから。」と言いました。「それで今度はおかみさんは何を望んでいるんだい?」とヒラメが言いました。「ああ」と亭主は言いました。「皇帝になりたがっているんだ。」 「おかみさんのところにお帰り。もう皇帝だよ。」
それで亭主は行き、そこに着くと、宮殿はつやつや光った大理石でできており、雪花石膏の像が立ち、金の飾りがいろいろついていました。兵士たちが入口の前でラッパを吹いたりシンバルや太鼓をたたいたりして行進していました。家の中には男爵、伯爵、公爵が家来として行き来していました。それから亭主に戸をあけてくれましたが、その戸は純金でできていて、高さがたっぷり2マイルはありました。おかみさんは、3ヤードの高さのダイヤやザクロ石をちりばめた大きな冠をかぶり、片手に笏を、もう一方の手には宝珠をもっていました。それで両側には二列の親衛兵が並び、だんだん前の人より背が低くなっていったので、一番大きい2マイルの巨人から、一番小さい私の小指くらいしかない小人までいました。その前に大勢の王子や公爵がいました。
それで亭主は行ってその人たちの間に立ち、言いました。「お前、もう皇帝なのか?」「そうよ」とおかみさんは言いました。「私は皇帝よ。」それで立ったままおかみさんをよく見て、しばらくながめたあと、亭主は言いました。「なあ、お前、満足してくれ、もうお前は皇帝なんだからな。」「あんた」とおかみさんは言いました。「どうしてそこにつっ立ってるの?今私は皇帝よ。だけど私は法王にもなるの。ヒラメのところに行って。」「えっ、お前」と亭主は言いました。「それは望めないよ。お前は法王になれない。法王はキリスト教徒全部の中でたった一人だけだ。ヒラメはお前を法王にはできないよ。」「あんた」とおかみさんは言いました。「わたしゃ、法王になるんだよ。すぐ行っといで。今日すぐに法王になるんだから。」「だめだ、お前」と亭主は言いました。「そんなことヒラメに言いたくないよ。そんなのよくないよ。あんまりだ。ヒラメはお前を法王にできないさ。」「あんた」とおかみさんは言いました。「馬鹿なことを言うんじゃないの!皇帝を作れるんなら、法王だって作れるわ。すぐ行って。私は皇帝よ。あんたはただの亭主じゃない。すぐに行け。」
それで亭主はこわくなりでかけましたが、もうすっかり気が抜けてぼうっとなり、体が震え、膝や脚はがくがくしていました。暴風が陸地に吹きあれ、雲が飛んで、夕方にかけて辺りは暗くなり、葉っぱが木々から落ち、水は沸きかえっているように上がってごうごう唸り、岸にはね返りました。遠くに何隻か見える船が波間に揺れ、難破して大砲を撃っていました。それでも空の真ん中にはまだ、ひどい嵐のようにまわりは赤かったけれども、小さい青空がありました。それで、絶望感でいっぱいになりながら、亭主はひどくおびえて行って立ち、言いました。「ヒラメ、海のヒラメ、お願いだ、聞いてくれ、うちのかみさんのイザベルがおれのいうことをきかないから。」と言いました。「それで今度はおかみさんは何を望んでいるんだい?」とヒラメが言いました。「ああ」と亭主は言いました。「法王になりたがっているんだ。」「おかみさんのところにお帰り。もう法王だよ。」とヒラメは言いました。
それで亭主は帰り、そこに着くと、宮殿にかこまれた大きな教会のようなものが見えました。亭主は人がきをかき分けて進みました。ところで、中は何千何万というろうそくで明るく照らされていました。おかみさんは金を身にまとい、ずっと高い玉座に座り、三つの大きな冠をかぶり、まわりは宗教的な荘厳さにつつまれていました。両側には一列のろうそくがたっていて、一番大きいのはとても高い塔くらいあり、一番小さいのは台所のろうそくくらいでした。皇帝や王様たちがおかみさんの前に膝まづいて靴に口づけしていました。「お前」と亭主は言い、注意しておかみさんを見ました。「もう法王なのか?」「そうよ」とおかみさんは言いました。「私は法王よ。」それで亭主は立ったまま、おかみさんを眺めましたが、まるでまばゆい太陽を見ているようでした。こうして短い間おかみさんを立って見た後、「あのなあ、お前、お前が法王なら、こうしておこうな。」と言いました。しかしおかみさんは柱のようにこわばってみえ、ちっとも動かないで生きているように見えませんでした。それで亭主は「お前、もう法王なんだから、満足してくれ。もうこれ以上のものになれないよ。」と言いました。「考えてみるわ。」とおかみさんは言いました。
それで二人は寝ましたが、おかみさんは満足していませんでした。他になるものが残っていないかとずっと考え、欲張っていたので眠れませんでした。亭主の方はぐっすり眠りました。というのは日中たくさん走り回っていたからです。しかしおかみさんは全く眠れなくて、一晩じゅうあちこち寝返りをうって、もっとなれるものが残ってないのか考えてばかりいましたが、他に何も思い浮かびませんでした。
とうとう太陽が昇り始め、おかみさんは夜明けの赤い空をみると、ベッドに起きあがり、じっとそれを眺めました。そのとき、窓から、太陽がこんなふうに昇っていくのが見え、「私も太陽や月に昇る命令をだせないかしら?」と言いました。「ねえ、あんた」とおかみさんはひじで亭主のわき腹をつつき言いました。「目を覚ましてよ。ヒラメのところに行って。私は神様と同じになりたいんだから。」亭主はまだ半分眠っていましたが、あまりにぎょっとしてベッドから転げ落ちました。
何か聞き間違いをしたんだと思い、目をこすり、言いました。「お前、何を言ってるんだい?」「あんた」とおかみさんは言いました。「太陽や月に昇る命令をだせなくて、太陽や月が昇るのを眺めなくちゃいけないのは我慢できないのよ。自分で昇らせなければ一時も幸せだって思えない。」それから亭主をとても恐ろしい目で見たので、亭主はぞっとしました。おかみさんは「直ぐに行ってよ。神様みたいになるんだから。」と言いました。「ああ、お前なあ」と亭主はおかみさんの前に膝まづきながら言いました。「ヒラメはそんなことできないさ。皇帝や法王はできるよ。お願いだよ。今のままでいてくれ。法王でいろよ。」するとおかみさんはひどく怒り、髪の毛を振り乱し、自分の胴着をバリっと破り広げ、亭主を足で蹴り、喚きました。「がまんできない、もう我慢できないんだよ。さっとと行け」
それで亭主はズボンを履き狂ったように走っていきました。しかし、外は大嵐が荒れ狂っていて、風がものすごく、ほとんど立っていられませんでした。家や木が吹き倒され、山々は揺れ、岩が海に転げ落ちました。空は真っ暗で雷が鳴り稲妻が走りました。海は教会の塔や山ほど高く黒いうねりになっておしよせ、上は白い泡になっていました。それで亭主は叫びましたが、自分の言葉がきこえませんでした。「ヒラメ、海のヒラメ、お願いだ、聞いてくれ、うちのかみさんのイザベルがおれのいうことをきかないから。」と言いました。「それで今度はおかみさんは何を望んでいるんだい?」とヒラメが言いました。「ああ」と亭主は言いました。「神様と同じになりたがっているんだ。」「おかみさんのところにお帰り。また豚小屋に戻っているよ。」そしてそこに二人は今も住んでいます。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

わらと炭とそら豆

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

村に貧しい年とったおばあさんが住んでいました。おばあさんはそら豆を一皿取ってきて、煮ようとして、かまどに火をおこし、火が早く燃えるように一つかみのわらをくべました。そら豆を鍋に空けていたとき、一粒が、おばあさんにみえないで落ち、わらのそばの土に転がりました。それからまもなくかまどの火から燃えている炭が跳ねてその二人のところに落ちました。すると、わらが「やあ、君たち、どこからここに来たの?」と言いました。炭が、「僕は運よく火から跳び出たよ。力いっぱい逃げなかったら、きっと死んでいたな。燃えて灰になってしまうところだった。」
そら豆が、「私もすんでのところで逃げたのよ。だけどおばあさんが鍋に入れてしまったら、仲間みたいに情け容赦なくスープにされてしまうところだったわ。」と言いました。「僕も同じ目にあうところだったよ。」とわらが言いました。「おばあさんは僕の兄弟たちをみんな殺して火と煙にしちゃった。一度に60人をつかまえて命を奪ったんだ。僕はさいわいにおばあさんの指をすりぬけたけどね。」「だけど僕たちどうしようか?」と炭がいいました。「思うに」と豆が答えました。「私たちは運よく死ななくて済んだんだから、お友達になって一緒にいましょう。ここだとまた悪いことが起こるといけないから、一緒に出て行って、よその国でやり直さない?」その提案は他の二人の気に入り、三人は一緒にでかけました。
しかし、まもなく三人は小さな川にやってきて、橋も渡り板もなかったので、どうしたら向こうに渡れるかわかりませんでした。わらが良い考えを思いつき、「僕がまっすぐ向こうに寝転がろう、そうしたら橋みたいに僕の上を歩いて渡れるよ。」と言いました。それでわらはこちらの岸から向こう岸へ体を伸ばし、炭は、せっかちな性格だったので、新しく建てられた橋の上で思いっきりつまづきました。それでも真ん中に着いて、足元で水がゴーゴー流れているのが聞こえたとき、結局、怖くなり、立ち止まって前へ進もうとしませんでした。ところが、わらが燃え始め、二つに割れて、川におちたので、炭はそのあとを滑り落ち、水に入った時シューと音を立てて最後の息をひきとりました。
そら豆は、用心してまだ岸に残っていましたが、その様子を見て笑わずにはいられませんでした。そして笑い止めることができなくて、ひどく笑ったので破裂してしまいました。豆もまたお終いになっていたはずでしたが、運よく仕事を捜して旅をしていた仕立て屋が川のそばで座って休んでいて、思いやりの心があったので、針と糸をとりだし、豆を縫い合わせました。豆はとても可愛らしく仕立て屋にお礼を言いました。しかし、仕立て屋が黒糸を使ったので、その時から豆にはみんな黒い縫い目があるのです。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

白蛇

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、知恵があることで国中に評判の王様が住んでいました。王様が知らないことは何もなく、まるで最も秘密なことがらが空中から王様に伝わってくるかのようでした。しかし、王様には奇妙な習慣があり、毎日夕食後、食卓が片付けられ誰もいなくなると、信頼のおける家来がもう一つ料理を持ってこなければならないのでした。しかしその料理はふたをされ、その家来ですら中に何が入っているのか知りませんでした。また他の誰も知りませんでした、というのは王様は全く一人きりになるまでそれを食べるために決してふたをとらなかったからです。
この習慣が暫く続いたある日、家来は、料理を運んでいて、どうしても好奇心をおさえきれなくなって自分の部屋に料理を運びました。用心深くドアに鍵をかけたあと、ふたを持ち上げてみると、皿の上に一匹白い蛇がのっていました。しかし、家来は、その蛇を見ると、食べて味わってみたい気持ちをおさえられず、小さい一切れを切りとって口に入れました。その切り身が舌に触れるや否や、窓の外から小さい声の奇妙なささやきが聞こえてきました。行って耳をかたむけると、スズメがぺちゃくちゃ野や森で見たあらゆることについて話し合っているのでした。蛇を食べたことで動物の言葉を理解する力がついたのでした。
偶然にも、まさにこの日、お妃さまがもっとも美しい指輪を失くして、この家来はどこへ行くことも許されていたので、泥棒の疑いがかかりました。王様は、自分の前にその男を連れてくるように命じ、「明日までに泥棒の名前を言わなければ、お前自身が犯人だと考え、罰を与えるぞ。」と荒々しい言葉で言いました。家来は絶対無実だと言いましたがその甲斐も無く、色よい返事がないまま退けられました。それで、困惑しまた恐れながら中庭に出ていって、この危難からどう抜け出そうかと考えていました。
ところでそのとき、小川のそばに何羽かのアヒルが一緒に静かに座って休んでいて、くちばしで羽づくろいをしながら、内輪の話をしていました。それで、家来は近くに立って耳を傾けました。アヒルたちはどこで午前中水浴びしたか、また、どんなご馳走を見つけたかについてお互いに話していました。そのとき、ひとりが、「お腹が重たいのよ。急いで食べていたのでお妃さまの窓の下にあった指輪をのみこんじゃったのよね。」と哀れな声で言いました。家来はすぐにそのアヒルの首をつかまえ、台所へもっていき料理人に「いいアヒルがあるよ、殺して欲しいんだ。」と頼みました。料理人は、手で重さをはかり、「うん。こりゃあ、とっくにあぶり肉にしてもいいぐらい十分肉がついてるな」と言いました。それから、アヒルの頭を切り落とし、焼き鳥用に切り分けていたので、内部にお妃さまの指輪が見つかりました。それで家来は今度は簡単に無実を証明できました。そして、王様は、酷いことをしたつぐないに、「望みのものを与え、宮廷で望めるだけの高い地位につけよう。」と約束しました。しかし、家来はすべて断り、「世界をみてまわりたいので、ただ、旅をするための馬とお金をください」と言いました。
その望みが認められると、家来は道中に出発しました。そしてある日、池に着きました。そこでは三匹の魚が葦にからまって水を求めて喘いでいました。今は魚は口が利けないと言われていますが、彼には「こんなに惨めに死ななければならない」と魚が嘆いているのが聞こえました。そして、彼は思いやりのある人だったので、馬を降り、3匹の魚を水に戻してやりました。彼らは喜んではねて、水から首を出し、「私たちはあなたのことを覚えていて、いつか私たちを救ってくれたお礼をします。」と大声で彼に言いました。
それから彼は再び馬で旅を続けました。そして暫く行くと、足元の砂の中から声が聞こえるような気がしました。じっと耳を傾けると、アリの王が「どうして人間は、不器用な動物と一緒にいて、私たちの体をよけられないんだ?あの間抜けな馬ときたら、重たいひづめで情け容赦もなく、私の国民をずっと踏みつけているよ。」と愚痴を言っているのが聞こえました。それで、彼はわき道に向かいました。するとアリの王は「あなたのことを覚えていましょう。『情けは人のためならず』です。」と彼に叫びました。
その道は森へ続いていました。そしてここでは、2羽の親ガラスが巣のそばに立って、子供たちを巣から追い出しているのを見ました。「ほら、出て!この怠け者のろくでなし!もうお前たちの食べ物は探してやれないんだからね。もう大きいんだから自分で見つけなさい!」と彼らは叫びました。しかし、かわいそうな子ガラスたちは、地面にいたまま羽をぱたぱたさせて、「私たちって、なんて無力なの。自分で動かなくちゃいけないのに、飛べないのよ。どうしよう?ここにいて飢え死にするしかないの?」と泣いていました。それでそのやさしい若者は馬からおり、馬を刀で殺すと子ガラスにあげました。すると、彼らはぴょんぴょん跳ねながらそれに近づき、空腹を満たしました。そして「私たちはあなたを覚えているでしょう。『情けは人のためならず』です」と叫びました。
そして今度は、彼は自分の足を使わなければいけませんでした。暫くいくと大きな町に着きました。通りは騒がしく人だかりがありました。一人の男が馬で走り、「王様の娘が夫を募集しているぞ。だが、結婚したい者は誰でも難しい仕事をやりとげねばならないのだ。そしてもし成功しなければ命を落とすことになるぞ。」と叫んでいました。すでに多くの人々が挑戦していましたが、虚しく敗れていました。それにもかかわらず、その若者は、王様の娘をみると、その美しさに圧倒され、危険をすべて忘れました。それで王様の前に出向き、求婚者になるともうしでました。
それで、海に案内されると、目の前で金の指輪が海に投げ込まれました。それから王様は、海の底からこの指輪をとってくるように命じ、付け加えて「もしお前が指輪を持たずにあがってくるなら、何度も何度も、波間に消えるまで、海にお前を投げ込むぞ」と言いました。人々はみな、このハンサムな若者のために悲しみ、それから彼を海辺に一人残して、立ち去りました。彼は海辺に立ってどうしようかと考えていました。
するとそのとき突然3匹の魚が彼のほうへ泳いでくるのが見えました。彼らは彼が命を助けたまさにその魚だったのです。真ん中の魚は、口にくわえて持っていたイガイを、若者の足元の浜辺におきました。それで拾い上げて中を開くと殻の中に金の指輪がありました。若者は、約束のほうびを認めてもらおうと期待して、大喜びで王様のところへ持っていきました。
しかし、高慢な姫君は、生まれが自分と同じではないと知り、蔑んで、先にもうひとつ仕事を実行するよう要求しました。そして、庭にいくと自分の手で10袋の粟粒を草の上にばらまき、「明日の朝の日の出前に、これらを拾わなれねばならない。一粒でも欠けてはいけない。」と言いました。若者は庭に座り、どのようにしたらこの仕事をやりとげられるか考えました。しかし、何も思いつかず、死ぬことになる夜明けを待ちながら悲しくそこで座っていました。しかし太陽の最初の光が庭に輝くと同時に、まったくいっぱいになって一粒もなくならずに、10袋が並んで立っていました。ありの王様が何千ものアリと一緒に夜の間に恩返しにきて、とても熱心に粟粒を全部拾い、袋に集めたのでした。まもなく王様の娘自身が庭にやってきて、若者が与えられた仕事をやってのけたのをみて目をみはりました。
しかしそれでもまだ娘の高慢な心に打ち勝てませんでした。娘は、「仕事を二つともやり遂げたけれど、生命の樹からりんごをとってくるまでは夫にしません」と言いました。若者はその生命の樹がどこにあるのか知りませんでした。それでも、探しにでかけました。たとえ見つかる望みがなくても、足が運ぶかぎりどこまでも行ったことでしょう。3つの王国をさまよったあとのある夕方、若者は森に着き、眠ろうとして木の下に横になりました。しかし、枝でがさがさいう音がしたと思うと、金色のりんごが手におちてきました。同時に3羽のカラスが彼のところに飛んでおりてきて、彼の膝にとまりました。そして「私たちは、あなたが飢え死にから助けてくれたあの3羽のカラスです。 大きくなったとき、あなたがりんごを探していると聞きました。それで、海を越え、生命の樹が立っている世界の果てまで飛んで、りんごを持ってきました。」と言いました。 若者は、とても喜んで、帰りの旅へ出発しました 若者が金のりんごを王様の娘のところに持って行くと、娘はもう言い逃れが残っていませんでした。生命のりんごを2つに割って二人で一緒に食べると、娘の心は若者に対する愛でいっぱいになりました。二人は幸福なままに長寿を全うしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

三枚の蛇の葉

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、一人の貧しい男がいて、もう一人息子を養えなくなりました。それで息子は「おとうさん、生活がとても苦しいから僕はお父さんの重荷でしょう。僕は家を出て、自分で生計をたてられるかやってみたいのです。」と言いました。それで父親は息子を祝福し、とても悲しみながら別れを告げました。このころ大帝国の王様が戦争中だったので、その若者はその王の軍に入り戦いに行きました。敵の前に来たとき、戦闘がおこり、戦いが白熱し、激しい銃撃があったので、若者の周りは倒れた味方でいっぱいでした。上官も死んでしまったとき、残った兵たちは逃げようとしましたが、若者は前に出て、その兵たちに勇ましく語りかけ、「われわれは祖国が荒らされるのを許してはならない。」と言いました。それで他の兵隊たちは若者についてきて、敵を押し続け、打ち破りました。王様は、勝利したのは専らその若者のおかげだと聞き、若者を他の人たちより上に昇級させ、たくさんの財宝を与え、王国の第1人者としました。
その王様には、とても美しいけれどまたとても風変わりなところもある娘がいました。娘が先に死んだら一緒に生き埋めにされてよいと約束しない人は誰も夫にしないという誓いをたてていたのです。「もし私を本当に愛してるなら、あとの人生は何の役にたつの?私だって同じよ。夫が先に死んだら一緒にお墓に入るわ。」と言うのでした。これまでのところ、この奇妙な誓いにおそれをなして、求婚者たちはみんな遠ざかっていました。しかし、その若者は娘の美しさにとても惹かれたので、何も気にせず、父親である王様に娘をもらいたいと求めました。「お前は何を約束しなければならないか知っているのか?」と王様は言いました。「もし妻より長生きすれば、私は一緒に埋められなければいけない。けれども、私はとても深く愛しているので、その危険を気にかけません。」と若者は答えました。それで王様は許可し、結婚式が盛大に行われました。
二人は暫くの間幸せでお互いに満足していました。ところが、若いお妃が重病になり、救える医者がいないということがおこりました。そして若いお妃が死んだとき、若い王様は約束せざるを得なかったことを思い出し、墓に生きたまま入らなければならないことを思って震え上がりました。しかし、逃げ道はありません。王様はすべての門に門衛をおいていたのです。運命を避けることはできませんでした。死体が埋められる予定の日がくると、若い王様は、死体と一緒に王家のひつぎ保護室の中に連れていかれ、ドアが閉められ、かんぬきがかけられました。
棺の近くに、4本のろうそくと4つのパンと4本のワインがのっているテーブルがありました。そしてこの食料が終わりになったら飢え死にしなくてはならないのです。若い王様は今や、悲しさでいっぱいになりながらそこに座り、毎日少しのパンを食べ、ワインを一口だけ飲んでいましたが、それでも死ぬ日が日増しに近づいてくるのがわかりました。こんな風にして、前をみていると、部屋の隅から一匹の蛇が這ってきて死体に近づくのが見えました。その蛇が死体にかみつくためにきたのだと思ったので、刀を抜き、「私が生きてる限りは妻にさわらせないぞ。」と言って、その蛇を3つに切り裂きました。暫くして別の蛇が穴から這い出てきましたが、もう一匹が死んでちぎれているのを見ると、戻っていきました。しかし、すぐにまた口に3枚の葉っぱをくわえて戻って来ました。それから3つの蛇のかけらをとって、ぴったり合うように並べておき、それぞれの傷口に1枚ずつ葉っぱをおきました。途端に切られた部分がつながって、その蛇は動き、再び命を吹きかえしました。それから、二匹とも一緒に急いでいなくなりました。その葉っぱは地面に置いたままになっていました。それで、これを一部始終見ていた不幸な男は、蛇を再び生き返らせた葉っぱの不思議な力は同じように人間にも役にたたないものか知りたいと思いました。
それで葉っぱを拾い、一枚を死んだ妻の口の上に、あとの2枚を両目の上におきました。すると途端に、血が通い、妻の青ざめた顔が色づきました。それから息を吸うと目を開き、「まあ、ここはどこ?」と言いました。「僕が一緒にいるよ。」と若い王様は答え、どういうことがあったか、またどうやって生き返らせたかを妻に話して聞かせました。それからワインとパンを与え、妻がすっかり元気を取り戻すと、立ち上がらせました。二人はドアのところに行ってたたき、大声で叫んだので衛兵が聞きつけ王様に報告しました。王様はみずからやってきて、ドアを開けると、そこには元気で健康な二人がいたのでした。さあ、これで悲しいことはみんな終わった、と三人一緒に喜び合いました。若い王様は、しかしながら、3枚の蛇の葉っぱをとっていき、家来に渡して、「保存に注意し、常に持ち歩くようにせよ。いつなんどき使うことになるか知れないゆえ。」と言いました。
しかし、妻には変化が起こっていました。再び命を取り戻したあと、夫への愛が心から消えてしまったかのようでした。しばらくして、若い王様は海を渡って船旅で年とった父に会いに行こうとしました。船に乗っていたとき、妻は、夫が示し、自分を死の淵から救うことになった偉大な愛と忠誠を忘れ、不実にも船長に思いをよせました。そして或るとき、夫が眠っていたときに、妻は船長を呼び入れ、自分は眠っている人の頭をつかみ、船長は足をつかんで、二人で海に投げ込みました。そして、この浅ましい行為をすませると、「さあ、家に戻って、彼は途中で死んだと言いましょう。父にあなたのことをほめそやしていうわ。だから父はあなたと結婚させ、あなたを王位継承者にするでしょう。」と言いました。しかし、二人がやったことを一部始終見ていた忠実な家来は、見つからないようにして、船から小さなボートをはなし、それに乗ると、主人を探しにでかけ、裏切り者たちをそのまま行かせました。それから、死体を釣り上げ、常に携帯していた3枚の蛇の葉っぱを両目と口に置いたおかげで、運良く若い王様をよみがえらせることができました。
二人は小さなボートを昼も夜も全力で漕ぎ、小さなボートはとても速く進んだので、他の人たちより前に年とった王様のところに着きました。王様は二人だけで帰ってきたので、驚き、どうしたのかと尋ねました。娘の悪さを聞くと、王様は「娘がそんなに悪いことをしたとは信じられない。が、真実はまもなく白日のもとになるだろう。」と言い、二人に秘密の部屋にはいり、みんなから隠れているよう命じました。それからまもなく大船が帰ってきて、罪深い女は当惑した顔で父親のまえに現れました。「どうして一人で戻ったのだ?お前の夫はどこだ?」と王様は言いました。「ああ、お父様、私はとても悲しく戻りました。航海中に夫は突然病気になり死んだのです。親切な船長さんが助けてくれなかったら、私も病気になっていたと思います。船長さんは夫が死んだときそこにいたので、全部話してくれますわ。」と娘は答えました。王様は「私が死人をよみがえらせよう。」と言って部屋を開け、二人に出てくるよう命じました。娘は夫を見ると、仰天して膝をつくと許しを乞いました。
「情けは無用だ。お前の夫は、お前と一緒に死ぬ覚悟をした上にお前を生き返らせた。それなのに、お前は夫が眠っているうちに殺したのだ。お前にふさわしい報酬をうけるがよい。」と王様は言いました。そのあと、娘は共犯者と一緒に穴を開けられた船に乗せられ、海におくりだされました。そしてまもなく船は海の波間に沈みました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

ヘンゼルとグレーテル

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

大きな森のすぐ近くに、木こりが、おかみさんと子供たちと一緒に住んでいました。男の子はヘンゼルで女の子はグレーテルという名前でした。木こりにはほとんど食べるものがなく、その土地に大飢饉が見舞ったとき、もう毎日食べるパンさえ得られませんでした。木こりは夜ベッドに寝てこれを考え、心配で寝返りをうちながら、呻って、「おれたちはどうなるのかな?自分たちの分ももう何もないのにどうやって可哀そうな子供たちに食べさそうか?」と言いました。「あんた、こうしたらどう?」とおかみさんは答えました。「明日の朝早く子供たちを森の木の一番茂っているところへ連れていくの。そこで子供たちに火をたいてあげて、一人ずつもう一つパンをあげるでしょ。それから私たちは仕事に行って子供たちをおいておくの。あの子たちは家へ帰る道がわからないだろうから、縁を切れるわよ。」「まさか、おまえ、そんなことしないよ。子供たちを森においてくるなんて我慢ならない。けものがすぐ来て子供たちを引き裂いてしまうだろうよ。」「まあ、ばかね。それじゃあ私たち4人とも飢えて死んでしまうよ。あんたは私たちの棺桶の板にかんなをかけた方がいいよ。」それでおかみさんはしつこく言い続け、木こりはとうとう承知してしまいました。「だけど、やはり子供たちがかわいそうだなあ」と男は言いました。
二人の子供たちもお腹がすいて眠れないでいました。そして継母が父親に言ったことを聞いてしまいました。グレーテルは悲しそうに泣いて、ヘンゼルに「もう私たち、おしまいね。」と言いました。「静かに、グレーテル、心配しないで、すぐになんとかする方法を見つけるよ。」とヘンゼルは言いました。それで親たちが眠ってしまうと、ヘンゼルは起きあがり、小さな上着を着て、下に下りて玄関の戸を開け、こっそり外へでました。月が明るく輝き、家の前にある白い小石が本当の銀貨のようにキラキラ輝きました。ヘンゼルはかがんで入れられるだけ多くの小石を上着のポケットに詰めました。それから戻ってグレーテルに、「心配しないで、安心してお休みよ。神様は僕たちを見捨てないよ。」と言い、ベッドに寝ました。
夜が明け太陽が昇ってしまう前に、女はやってきて、「この怠け者、起きるんだよ。たきぎを集めにみんなで森へ行くんだから」と言って二人の子供たちをおこしました。それぞれに小さなパンを渡し、「夕食にも何かあるけど、その前に食べてしまうんじゃないよ。他に何ももらえないんだからね。」と言いました。ヘンゼルはポケットに小石を入れていたので、グレーテルがエプロンの下にパンを入れました。それからみんなで森へ行く道を出発しました。少し歩いた時、ヘンゼルは立ち止まって家を振り返り、それを何度も繰り返しました。父親が、「ヘンゼル、お前は何を見て遅れているんだ?気をつけてちゃんと歩くんだぞ」と言いました。「ああ、お父さん、家の小さい白い猫を見てるんです。屋根の上に座って僕にさよならを言いたいんだ。」とヘンゼルは言いました。おかみさんは「馬鹿ね、あれはお前の小猫ではないよ、あれは煙突に光っている朝のお日様さ。」と言いました。しかし、ヘンゼルは振り向いて猫を見ていたのではなく、ポケットから道に白い小石の一つをずっと捨ててていたのでした。
森の真ん中へ着くと父親は、「さあ、子供たち、たき木を積み上げなさい。そうしたらお前たちが寒くないように火をつけてあげるからね。」と言いました。ヘンゼルとグレーテルは一緒に柴を集め、小さな山にしました。柴に火がつけられ、炎がとても高くもえていたとき、女は「さあ、子供たち、火のそばに寝て休みなさい。私たちは森へ入って木を切るんだよ。あとで戻ってきてお前たちを連れていくからね。」と言いました。ヘンゼルとグレーテルは火のそばに座り、昼が来るとそれぞれ小さなパンを食べ、斧を打ちこむ音が聞こえていたので父親が近くにいると信じていました。しかし、それは斧ではなく、父親が枯れ木に結わえた枝が風で前後に揺れてぶつかる音だったのです。二人はとても長い時間座っていたので、疲れて目が閉じ、ぐっすり眠り込みました。
とうとう目が覚めると、もう暗い夜になっていました。グレーテルは泣きだして、「これからどうやって森を出るの?」と言いました。しかし、ヘンゼルは妹を慰め、「ちょっとお月さまが出るまで待って。そうしたらじきに道がわかるよ」と言いました。満月が昇ってしまうとヘンゼルは妹の手をとり、作られたばかりの銀貨のように輝き、道しるべになった小石をたどって行きました。
二人は一晩中歩き、夜が明けるまでにもう一度父親の家につきました。戸をたたき、女が開いてヘンゼルとグレーテルを見ると、「いけない子たちだね、森でどうしてそんなに長く眠ってたの?お前たちは二度と帰って来ないものだと思ったよ。」と言いました。しかし、父親は喜びました、というのは子供たちだけを置き去りにしたことでとても心を痛めていたからです。
それからほどなくして、また国じゅうに大きな飢きんがありました。子供たちは夜に母親が父親に言っているのが聞こえました。「また全部食べちゃって、あとパンが半分のかたまりしか残ってないよ、それでおしまいだ。子供たちは行ってもらわなくちゃ。森のもっと遠くへ連れてくんだよ、二度と帰ってこれないようにね。他に助かる道がないじゃないか。」男の心は重く、(最後の食べ物を一口ずつ分けあって食べたほうがいいんだが。)と考えていました。しかし、女は男の言おうとすることを何も聞く耳をもたず、ガミガミ言って男を責めるだけでした。次に言うことは前に言ったことに合わなければなりません。同じように、男は初めに従ったので、2回目もおかみさんに従うしかありませんでした。
しかし、子供たちはまだ目覚めていて、その話を聞いてしまいました。親たちが眠ったときヘンゼルはまた起きて、外へ出、まえにやったように小石を拾おうとしましたが、女が戸に鍵をかけてしまったので出られませんでした。それでも妹を慰め、「泣くなよ、グレーテル、静かに眠れ。神様が助けてくれるよ。」と言いました。
朝早く女は来て、子供たちをベッドから連れ出しました。二人のパンが渡されましたが、前の時よりもっと小さいものでした。森へ行く途中でヘンゼルはポケットの中で自分のパンを砕き、時々立ち止まって地面にひとかけら落としました。「ヘンゼル、どうしてお前は立ち止まって周りを見てるんだ?行くんだ。」と父親は言いました。「屋根にとまって、ぼくにさよならを言いたがっている僕の鳩を見てるんだよ。」とヘンゼルは答えました。「馬鹿ね、あれはお前の鳩ではなくて、煙突にあたっている朝日じゃないか。」と女は言いました。しかし、ヘンゼルは少しずつ道にパン屑を全部落としてしまいました。おんなは子供たちを更に森深く、前に一度も来たことのないところへ連れて行きました。それからまた大きな焚火をし、母親は「そこに座っているんだよ、子供たち、疲れたら少し眠っていいよ。私たちは森へたきぎを切りに行って、夕方に終わったら、戻ってきてお前たちを連れていくからね。」と言いました。昼になるとグレーテルはヘンゼルとパンを分けて食べました。ヘンゼルは途中で自分のパンをまいてしまいましたから。それから二人は眠って夕方が過ぎても、だれも可哀そうな子供たちのところにきませんでした。
二人が目覚めたときは暗い夜になっていました。ヘンゼルは妹を慰め、「グレーテル、お月さまが出るまで待つんだ。そうしたら僕がまいておいたパン屑がみえるからね。それをたどったらまた家へ帰れるよ。」と言いました。月が出たとき、二人は出発しましたが、パン屑は見つかりませんでした。というのは森や野原で飛び回っている何千もの小鳥たちがみんなついばんでしまったからです。ヘンゼルはグレーテルに、「すぐ道が見つかるさ。」と言いましたが、見つかりませんでした。二人は一晩じゅう歩き、次の日も朝から晩まで歩きましたが、森から出られず、とてもお腹がすきました。というのは二人は土に這えていた2,3個のイチゴしか食べていなかったからです。そしてとても疲れ果ててもう歩けなくなり、木の下に横になり眠りました。
父親の家を出てからもう3回目の朝になりました。二人はまた歩き始めましたが、いつも森のもっと深くに行ってしまい、助けがすぐにもこないと空腹と疲労で死ぬにちがいありません。昼ごろ、二人に美しい雪のように白い鳥が太い枝にとまっているのが見えました。その鳥はとても楽しそうにさえずったので二人は立ち止まってそれを聴きました。歌が終わると鳥は羽を広げ、二人の前を飛び去りました。二人がその鳥のあとについていくと小さな家に着きました。鳥はその家の屋根に降りました。二人がその小さな家に近づくと、それはパンでできており、ケーキでおおわれていて、窓は白砂糖でできていました。「さあおいしい食事にしよう。僕は屋根を少し食べる。グレーテル、お前は窓を食べてごらん、甘いよ。」とヘンゼルは言いました。ヘンゼルは上に手を伸ばして、味わってみるために屋根を少し破りとりました。グレーテルは窓にかがんでガラスをかじりました。するとやさしい声が居間から聞こえてきました。「ガリ、ガリ、ボリ、私の小さい家をかじってるのは誰かな?」子供たちは答えました。「風、風、天の風」そして構わずに食べ続けました。ヘンゼルは、屋根の味が気に入ったので、おおきなかたまりを破り取って、グレーテルは窓枠一つ分を押し出し座って楽しく食べました。突然戸が開き、山と同じくらい年とったおばあさんが、松葉づえをついてゆっくり出てきました。ヘンゼルとグレーテルはあまりにビックリしたので、手に持っていた物を落としてしまいました。しかし、おばあさんは頭をこっくりさせて、「まあ、子供たち、どうしてここに来たんだい?さあさ、お入り、私のところにおいで。こわいことは何もないよ。」と言って、二人の手をとり、小さな家に案内しました。それからおいしい食べ物、ミルクと砂糖をかけたパンケーキ、りんごやくるみ、が前に置かれました。そのあとで二つのかわいい小さなベッドがきれいな白いシーツでおおわれ、ヘンゼルとグレーテルはそこに寝て、天国にいる気分でした。
おばあさんはただとても親切なふりをしていただけでした。本当は性悪な魔女で、子供たちを待ち構えていて、そこに誘うためにパンの小さな家を建てただけなのです。子供が魔女の手に落ちると殺し、煮て食べていました。それが魔女のご馳走の日でした。魔女というのは赤い目をしており、遠くが見えませんが、獣のように匂いを鋭くかぎ、人間が近づくとわかるのです。ヘンゼルとグレーテルが近くにきたとき、魔女は意地悪く笑い、嘲って、「あいつらはわしのもんだぞ、二度と逃さないぞ。」と言いました。朝早く子供たちが目覚める前に魔女はもう起きていて、二人が眠ってふっくらしたバラ色のほおをしてとてもかわいらしいのを見て、「あれはごちそうじゃわい。」とつぶやきました。
それから魔女はヘンゼルをしなびた手でつかみ、小さな家畜小屋に運び、鉄格子の戸の後ろにとじこめました。悲鳴をあげようがなんだろうが、役に立ちませんでした。それからグレーテルのところへ行き、ゆり起し、「起きろ、怠け者め、水を汲んで来い、それでお前の兄に何かうまいものを作るんだ。外の家畜小屋にいて、太らすんだからね。太ったら、食べるんだ。」と叫びました。グレーテルは激しく泣き始めましたが、全く無駄でした。というのは性悪な魔女が命じることをするしかありませんでしたから。それで一番いい食べ物が可哀そうなヘンゼルのために作られましたが、グレーテルはカニの殻しかもらえませんでした。毎朝、魔女は小さな家畜小屋に這い歩いて、「ヘンゼル、早く太ったか見るから指を伸ばしてよこせ。」と叫びました。しかし、ヘンゼルは魔女に小さな骨をさしだし、かすんだ目をしたばあさんは見えないので、それがヘンゼルの指だと思い込んで、ヘンゼルを太らせる方法がないと驚きました。4週間が過ぎてもヘンゼルがまだ細いままだったので、魔女は短気をおこし、もう待つ気がしなくなりました。「さあ、じゃあ、グレーテル」と魔女は叫びました。「ぐずぐずしないで水を汲んで来い。ヘンゼルが太ってようがやせてようが、明日は殺して煮るんだから。」ああ、可哀そうな妹は水を汲まなければならないとき本当に嘆き悲しみ、涙が頬を流れ落ちたことでしょう。「神様、私たちをお助けください。」と女の子は叫びました。「もし森のけものが私たちを食べても、私たちはとにかく一緒に死ぬことになったでしょう。」「うるさいね。泣いたってどうにもなりゃしないよ。」とばあさんは言いました。
朝早くグレーテルは外に出て、大がまを水を入れて吊るし、火をたかなければなりませんでした。「先にパンを焼くよ。」とばあさんは言いました。「もう焼き釜を熱くしてあるし、粉を練ってある。」魔女はかわいそうなグレーテルを焼き釜におしつけました。焼き釜からはもう炎が燃え上がっていました。「中に這って、パンが入れられるように丁度よく熱くなってるか見てごらん。」と魔女は言いました。グレーテルが中に入ったら、焼き釜を閉め、その中で焼いて、食べようとしていたのです。しかしグレーテルは魔女が心で何を考えているか分かって、「どうやったらいいかわからないわ。どうやって入るの?」と言いました。「間抜けだね」とばあさんは言いました。「戸がたっぷり大きいじゃないか。見てごらん。私が自分で入れるから。」そして近づき、頭を釜の中に入れました。それでグレーテルは魔女をおして釜の奥に入れ、鉄の戸をしめ、かんぬきをかけました。それで魔女はとても恐ろしい叫び声をあげ始めましたが、グレーテルは走っていってしまいました。それでばちあたりの魔女は惨めに焼け死にました。
しかし、グレーテルはひたすらにヘンゼルのところへ走って行き、小さな家畜小屋を開け、「ヘンゼル、私たち助かったわ。年とった魔女は死んだの。」と叫びました。それでヘンゼルは戸が開けられたときかごから出た鳥のように飛び上がりました。二人はどんなに喜び、抱き合い、踊ってキスし合ったことでしょう。そしてもう魔女を恐れなくてもよくなったので、魔女の家の中へ入り、どの隅にも真珠や宝石でいっぱいの箱がありました。「これは小石よりずっといいね。」とヘンゼルは言って、何でも入るものをポケットに押し込みました。グレーテルは、「私もなにか家に持って帰るわ。」と言って、エプロンにいっぱいに入れました。「だけどもう帰らなくちゃ。僕たちが魔女の森を抜けられるように。」とヘンゼルは言いました。
二時間歩いた後、二人は大きな川にさしかかりました。「僕たちは渡れないよ。」とヘンゼルは言いました。「渡し板も橋も見当たらないよ。」「渡し船もないわね。」とグレーテルは答えました。「だけど、白いカモがそこで泳いでるわ。頼めば私たちが渡るのを手伝ってくれるわ。」それで、グレーテルは「カモさん、カモさん、見える?ヘンゼルとグレーテルがあなたを待ってるわ。渡し板も橋も見えないの。あなたのとても白い背にのせて私たちを渡してください。」と叫びました。カモが二人のところにきて、ヘンゼルがその背に座り、妹に自分のそばに座るよう言いました。「だめよ。カモさんには重すぎるわ。一人ずつ渡してもらうわ。」とグレーテルは答えました。親切なカモはそうしました。そして二人が無事に川を渡ってから少し歩くと、森はだんだん見覚えがあるようになり、とうとう遠くから父親の家が見えました。それで二人は走りだし、居間に飛び込んで、父親の首に抱きつきました。父親は子供たちを森に置き去りにしてから一時間も幸せな時がありませんでした。ところが継母はもう死んでいました。グレーテルはエプロンを空けて、真珠や宝石が部屋に転がり、ヘンゼルはそれに加えてポケットから次々と手で握って宝石を出しました。それで、心配事はみんなお終いになり、みんなで一緒に楽しく暮らしました。私のお話は終わりです。そこにネズミが走ってる。誰でもつかまえたら、それで大きな毛皮の帽子が作れるよ。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

糸くり三人女

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、怠け者で糸を紡ごうとしない娘がいました。それで娘の母親は「どうしたってお前をその気にさせることはできやしない」と嘆いていました。ついに或るとき堪忍袋の緒がきれカッとなって母親は娘をなぐりました。それで、娘は大声で泣き出しました。丁度このときお妃さまが通りがかり、泣き声を聞いたので、馬車をとめ、家に入ると、母親に、どうして泣き声が道に聞こえるほど娘をなぐっているのか、と尋ねました。母親は娘の怠け癖をさらけ出すのは恥ずかしいと思い、「娘の心を糸紡ぎから離せないんです。娘は糸紡ぎをすると何度も何度も言い張るんです。私は貧しいし、亜麻を買うお金がないんです。」と言いました。するとお妃さまは「私は、糸紡ぎほど聞きたいものはないですよ。糸車が回っているときはこの上なく楽しいわ。娘を宮殿に連れて行かせて。私には亜麻が十分あるから、好きなだけ紡がせてあげる。」と言いました。母親はこれに心から満足し、お妃さまは娘を一緒に連れていきました。宮殿に着いたあと、お妃さまは娘を上から下まで最上等の亜麻でいっぱいの3つの部屋に案内しました。「さあ、この亜麻を紡いでおくれ。終わったら、私の一番上の息子と結婚させてあげましょう、たとえお前が貧乏でもね、そんなことを気にはしていないのよ、お前のひたむきな勤勉さが十分な持参金ですからね。」とお妃さまは言いました。
娘は内心ビクビクしていました。というのは、たとえ300歳まで生きたとしても、断じて、亜麻を紡げなかっただろうからです。そして毎日朝から晩までそこで座っていました。ですから、一人ぼっちのとき泣き出して、指1本動かさないで3日間こうしていました。3日目にお妃さまがやってきて、何も紡がれていないのを見ると驚きました。しかし、娘は母親の家から離れてとても心を痛めているので始められませんでしたと言い訳しました。お妃さまはこの答に納得しましたが、出て行くときに「明日は仕事を始めなければなりませんよ」と言いました。
娘はまた一人になったときどうしたらよいかわからず、気がふさいで窓のところに行きました。すると3人の女が自分の方にくるのが見えました。一人目は広い平らな足をしていて、2人目はとても大きな下唇をしていたのであごに垂れ下がっていて、3人目は大きな親指をしていました。三人は窓の前に立ったまま見上げて、「どうしたんだい?」と娘に尋ねました。娘は自分の悩みをこぼしました。すると、手伝ってあげると言ってくれて、「もしお前が私たちを結婚式に招待してくれ、私たちを恥ずかしいと思わないで、それから私たちをおばさんと呼んでくれ、お前の食卓に座らせてくれるなら、お前に亜麻を紡いであげるよ、しかもとても速くだよ。」と言いました。「喜んで。さあ入って、すぐに仕事を始めて!」と娘は答えました。それから娘は3人の奇妙な女を入れ、最初の部屋の場所を空け、そこに3人は座って糸を紡ぎ始めました。一人は糸を引っ張り糸車を足で踏み、もう一人は糸を湿らし、3人目はその糸をより、指でテーブルをたたきました。そしてたたく回数ごとに、最も上等に紡がれた1かせの糸が地面に落ちました。
娘は3人の糸くり女をお妃さまから隠しておいて、お妃さまが来たときはいつも大量の紡いだ糸をみせました。それでお妃さまはいくら誉めても誉め足りないくらいでした。最初の部屋が空っぽになり、二番目の部屋へ、そしてとうとう3番目の部屋へとりかかり、それもすぐにかたづきました。それで3人は別れを告げ、「約束したことを忘れないでね、それでお金持ちになるから。」と娘に言いました。
娘が空っぽの部屋と大きな糸の山をみせるとお妃さまは結婚式の命令をだし、花婿はそのように賢く勤勉な妻をもらうことになるのを喜び、娘をとても讃えました。娘は「おばさんが3人いて、とてもよくしてくれたので私が幸せなとき忘れられません。結婚式に3人を招待させてください。そして私たちと一緒にテーブルにつかせてください。」と娘は言いました。お妃さまと花婿は「どうして許さないことがあろうか」と言いました。それゆえ宴が始まったとき3人は変な服装で入ってきて、花嫁は「ようこそ、おばさん方」と言いました。花婿は「ああ、どうして君はこんなみっともない友達がいるんだ?」と言い、そのあと平たい大足をしている女に近づいていき、「どうしてそんな大足をしているんだ?」と言いました。「(糸車を)足踏みしたから、足踏みしたから。」と女は答えました。それから花婿は2番目の女のところに行き、「どうして垂れた下唇をしているんだ」と言いました。「(糸を)舐めたから、舐めたから。」と女は答えました。それから花婿は3番目の女に「どうして大きな親指をしているんだ?」と聞きました。「糸をよったから、糸をよったから」と女は答えました。これを聞くと花婿は驚いて「これから先は私の美しい花嫁は糸紡ぎ車にふれてはならない」と言いました。こうして娘は大嫌いな亜麻紡ぎから解放されました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

森の中の三人の小人

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、妻を亡くした男と、夫を亡くした女がいました。男には一人の娘がおり、女にもひとり娘がいました。娘たちはお互いと知り合いになり、一緒に散歩にでかけ、後に家にいる女のところへ来ました。そのとき、女は男の娘に「ねぇ、お父さんに私が結婚したがっていると言ってちょうだい。そしたらあなたを毎朝ミルクで体を洗わせ、ワインを飲ませてあげるわ。けど、うちの娘は水で体を洗わせ、水を飲ませるわ。」と言いました。その娘は家へ帰り、父親に女が言ったことを話しました。男は「どうしようかな?結婚は喜びでありまた拷問だからな。」と言いました。とうとう決めることができなかったので、男は長靴を脱ぎ、「この長靴を持ちなさい。底に穴があいているんだ。それを持って屋根裏に行って、大きな釘にかけなさい。それから中に水を入れなさい。もし水がもらなければもう一回妻をもらおう。だけど、水がもったらやめるよ。」と言いました。娘は言われた通りやりました。しかし、水は穴をふさいで長靴は上まで水でいっぱいになりました。娘は父親に結果がどうなったか告げました。それで男自身も上に行き、娘が正しいと見てとって、その未亡人のところへ行って求婚しました。そして結婚式が行われました。
次の朝、二人の娘が起きると、男の娘の前には体を洗うためのミルクと飲むためのワインがありましたが、女の娘の前には体を洗うための水と飲むための水がありました。2日目の朝には、男の娘の前には女の娘の前にあるのと同じように、体を洗うための水と飲むための水がありました。そして3日目の朝には、男の娘の前には洗うための水と飲むための水があり、女の娘の前には洗うためのミルクと飲むためのワインがありました。そして、それが続きました。女は継子の最も憎らしい敵となり、日を追うごとに更にもっといじめようと一生懸命でした。女はまた、継子が美しく愛らしいのに自分の娘は醜く感じが悪いので、妬んでいました。
冬の或るとき、あらゆるものが石のように固く凍り、山や谷が雪でおおわれている時、継母は紙のドレスを作り、継子を呼ぶと「ほら、このドレスを着て、森へ行きイチゴを少しとっておいで。ちょっと食べてみたいからね。」と言いました。「おやまあ、冬にいちごは成りませんよ。地面は凍っているし、雪が全部おおってしまっていますよ。それに、どうしてこの紙のドレスを着なくちゃいけないの?外はとても寒いから息も凍るわ。ドレスを通って風が入るだろうし、イバラにひっかかって私の体から脱げてしまうわ。」と娘は言いました。「口答えするのかい?絶対行くんだよ。かご1つ分のイチゴをもってくるまでは二度と顔をみせるんじゃないよ。」と継母は言いました。それから固いパンをすこし渡すと、「これが1日分だからね。」と言い、(お前は外で寒さと空腹で死ぬだろうよ、そして二度と会うことはないさ)と思いました。すると娘は従い、紙の服を着て、かごをもって出ていきました。見渡す限り雪以外何もなく、一枚の葉っぱも見当たりませんでした。
森へ入っていくと、小さな家が見え、そこから3人の小人が覗いていました。娘はこんにちはと挨拶し、控えめにドアをノックしました。「お入りなさい」と小人たちは叫びました。娘は部屋に入ってストーブのそばのベンチに座り、暖まって朝食を食べ始めました。小人たちは「僕たちにも少しちょうだい。」と言いました。娘は「喜んで」と言うと、自分のパンを2つにわけ、半分を小人たちにあげました。「冬の時期にここの森で薄いドレスを着て、何をしているの?」と小人たちは尋ねました。「ああ、一かごのイチゴを探さなければならないの。持っていくまで家に帰ってはいけないのよ。」と娘は答えました。娘がパンを食べてしまうと、小人たちは娘にほうきを渡し、「裏口の雪を掃いてどかしなさい」と言いました。しかし娘が外にでると、3人の小人たちはお互いに「何をあげようか?とてもいい子で、パンを分けてくれたんだから。」と言い合いました。すると、最初の小人は「僕の贈り物は、あの子を毎日もっと美しくすることだ。」と言い、2番目の小人は「僕の贈り物は、あの子が話すたびに口から金が出てくるようにさせることだ。」と言い、3番目の小人は「僕の贈り物は、王様が来てあの子を妻にするようにさせることだ。」と言いました。しかし、娘は、小人たちが言ったことをやり、ほうきで小さな家のうらの雪を掃きました。すると、なんとそこに見つけたのは他でもない、本物の熟れたイチゴでした!えんじ色をしていて雪から上がってきたのです。娘は喜んで急いでかごいっぱいに集め、小人たちにお礼を言い、継母がとても欲しがっていたものを持っていくため走って家に帰りました。
娘が家へ入って、「ただいま」と言うと、すぐに1個の金が口から落ちました。その後すぐ、娘は森であったことを話しました。しかしどの言葉を話しても、口から金が落ちました、それでとうとうあっという間に部屋全体が金でおおわれました。「ちょっとあの思い上がりを見てごらんよ。あんなふうに金をばらまくなんてさ。」と義理の妹は叫びました。しかし内心では羨ましかったので、自分もいちごを探しに森へ入って行きたがりました。「だめよ。寒すぎるの。凍えて死んでしまうよ。」と母親は言いました。しかし、娘があまりにしつこくせがむので、母親はとうとう折れて、りっぱな毛皮のコートを作って娘に着させ、旅のためのバターつきパンとケーキをあげました。
その娘は森へ入り、まっすぐ小さな家へ近づいていきました。3人の小人たちはまた外を覗いていましたが、娘は挨拶しませんでした。小人たちを見もせず、挨拶もせず、娘は気まずそうに家の中へ入り、ストーブのそばに座り、バターつきパンとケーキを食べ始めました。「ちょっとちょうだい」と小人たちは叫びました。しかし、娘は「自分の分も十分にないんだから、どうして人にあげられるの?」と答えました。娘が食べ終わると、小人たちは「さあ君にほうきをあげる。裏口の前を掃いてすっかりきれいにして」と言いました。「自分で掃いてよ。私は召使じゃないわ。」と娘は答えました。小人たちが何もくれそうもないとわかって、娘はドアからでました。
そのとき小人たちはお互いに「あの子はとても行儀がわるいし、意地が悪く妬み深い心をしてだれにもものをあげようとしないのだから、何をあげようか?」と相談しました。最初の小人は「あの子が日増しに醜くなっていきますように」と言い、2番目の小人は「あの子が言葉を言うたびに、ヒキガエルが口から出てきますように」と言い、3番目の小人は「あの子は惨めな死に方をしますように」と言いました。娘は外でイチゴを探しましたが、何もみつからず、怒って家に帰りました。そして口を開き、森であったことを母親に話そうとしました。すると言葉を話すたびに、ヒキガエルが口から飛び跳ねてきました。それでみんなぞっとして娘から逃げました。
それで今や継母はさらに一層怒りを増し、継娘にたいしてあらゆる意地悪をしようとばかり考えていましたが、その娘は日増しに美しくなっていくのでした。継母はとうとう、やかんをとって火にかけると、毛糸をゆでました。その毛糸が煮えると可哀そうな娘の肩にかけ、凍っている川へ行き、氷に穴を開け、毛糸をすすぐようにと斧を渡しました。娘は従って、そこへいき、氷に穴を開けました。穴を開けている最中に、王様がのっている豪華な馬車がやってきました。その馬車が止まり、王様が「娘よ、お前は誰だ?ここで何をしているのだ?」とたずねました。「私は貧しい娘です。毛糸をすすいでいます。」王様は同情し、見るととても美しい娘なので、「私と一緒に行かないか?」と言いました。「ええ、心から」と娘は言いました。というのはその母娘から離れるのは嬉しかったからです。それで、娘は馬車に乗り、王様と一緒に去っていきました。宮殿に着くと、小人たちが娘に約束したように、結婚式が盛大に行われました。
1年経つと、若いお妃さまは男の子を産みました。そして継母は継娘の大きな幸運のことを聞いていたので、お見舞いに来たふりをして娘と一緒に宮殿に来ました。しかし、王様は外出していて、他にだれもいなかったので、その意地悪な女は頭をつかみ、娘は足をつかんで、お妃さまをベッドから持ち上げ、近くを流れる川に窓から投げ出しました。そのあと醜い娘はべっどにねて、母親は頭までおおって娘を隠しました。王様が家へ帰って妻と話そうとしたら、母親は「しっ!、静かに!今はだめよ。ひどい熱で寝ているところなの。今日は休ませてあげなくちゃ。」と叫びました。王様は悪気を疑わず、次の朝まで戻ってきませんでした。そして、次の朝、妻と話し、妻が答えると、話すたびに、以前は金が落ちてきたのに、ヒキガエルが飛び跳ねてきました。それで王様がどうしたことだと尋ねましたが、母親はひどい熱のせいでそうなったの、すぐに直るでしょうと言いました。
しかし、夜中に皿洗いの子はアヒルが水路を泳いでくるのを見ました。そのアヒルは「王様、何をしているの?眠っているの?おきてるの?」と言いました。皿洗いが何も答えないでいると、アヒルは「私のお客は?あの人たちは何をしてるの?」と言いました。皿洗いは「お客もぐっすり眠っているよ。」と答えると、アヒルはまた「わたしのあかちゃんはどうしてる?」と尋ねました。皿洗いは「ゆりかごですやすや眠っているよ。」と言いました。その後、アヒルはお妃さまの姿になって二階へ行き、赤ちゃんに乳を飲ませ、小さなベッドをゆらし、カバーをかけると、アヒルの形になってまた水路を泳いで去っていきました。こうしてアヒルは二晩きました。3日目にアヒルは皿洗いに「王様のところに行って、剣をとってきて敷居のところで剣を3回私の上で振るようにと、言いなさい。」と言いました。
それで皿洗いは走っていき、王様にこのことを話しました。王様は剣を持ってやってきて、霊の上で3回振りました。そして3回目に、妻が目の前に以前のようにはつらつとして、生きて健康で、立っていました。それで王様は大きな喜びでいっぱいになりましたが、赤ちゃんが洗礼を受けることになっている日曜日までお妃さまをある部屋に隠しておきました。洗礼が終わると王様は「人をベッドから引きずり出し川に投げる人には何がふさわしいか?」と言いました。「そんな人でなしは、釘がいっぱいささっている樽につめられ、山から川に転がり落とされるのが一番ふさわしい。」と継母は答えました。「それでは、お前は自分の刑を言ったのだ」と王様は言いました。そのあと、王様は、家来にそのような樽をもってきて、継母を娘と一緒に入れるように命じました。それから、上ぶたを釘で打たれた樽は山を転がり川に落ちました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

ラプンツェル

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、長い間子供に恵まれない夫婦がいました。が、とうとう妻は神様が願いをかなえてくれる望みをもちました。この人たちの家の奥に素晴らしい庭がみえる小さな窓がありました。そこは最も美しい花とハーブでいっぱいでした。しかし、そこは高い塀で囲まれていて、魔女のものだったので誰もあえて入ろうとはしませんでした。その魔女は大きな力を持っていて、世界全体に恐れられていたのです。
ある日、妻は窓のそばに立ち、庭を見下ろしていました。するとそのとき、とても美しいカブラギキョウ(ラプンツェル)が植えられている花壇が目に入りました。それはとてもみずみずしい緑だったので欲しくなり、どうしてもいくらか食べてみたくてたまりませんでした。この欲求は日増しに強くなり、少しも手に入れることができないと知っているので、妻は とてもやつれて、顔色がわるく、惨めにみえました。それで夫は驚いて、「どうしたんだい?お前」と尋ねました。「ああ、家のうらの庭にあるカブラギキョウをたべられなくちゃ死んでしまうわ。」と妻は答えました。
男は、妻を愛していたので、(妻を死なせるより前に、どんな犠牲を払っても、自分でカブラギキョウをとってこよう)と思いました。それで、たそがれ時になると、塀を越えて魔女の庭に這い下り、急いでひとにぎりのカブラギキョウをつかみとり、妻のところに持っていきました。妻はすぐにサラダをこしらえ、がつがつとそれを食べました。それは妻にとっておいしくーとてもとてもおいしかったので、次の日は以前に増して3倍ほしくなりました。もし気が休まるなら、夫はもう一度庭に下りて行かなければなりませんでした。従って、夫は、夕闇にまぎれて再び降りていきました。しかし、塀を這い下りてしまったとき、ぎょっとしました。というのは目の前に立っている魔女が見えたからです。
怖い顔をして、魔女は「よくも私の庭に下りて泥棒みたいにカブラギキョウを盗むもんだね?こらしめてやる。」と言いました。「ああ、どうかお慈悲をお願いします。どうしても必要でそうすることにしたのです。妻が窓からお宅のカブラギキョウを見て、あまりに欲しくなり、それを食べないと死んでしまうことになるのです。」と夫は言いました。すると魔女は怒りを和らげ、「お前が言うとおりの事情なら、好きなだけカブラギキョウを持っていくのを許してあげよう。ただ一つ条件があるよ、お前の妻が産む子供を私にくれなくてはならないよ。私はその子の面倒をよくみて、母親のように大事にするよ。」と言いました。
男は恐怖のあまり何にでも同意しました。妻が子供を産むと、魔女はすぐに現れ、子供にラプンツェルと名前をつけ、連れて行ってしまいました。ラプンツェルはこの世で最も美しい子供に成長しました。12歳になると、魔女はその子を塔に閉じ込めました。その塔は森の中にあり、階段やドアがありませんでしたが、てっぺんに小さな窓がありました。魔女は、入りたいときは、塔の下に行き、「ラプンツェル、ラプンツェル、私のところに髪を降ろしておくれ。」と叫びました。ラプンツェルは金糸のようにきれいな素晴らしく長い髪をしていて、魔女の声を聞くと、編んだ髪の房をほどき、上の窓の留め金のひとつにからめました。すると、髪は20エル(=22.8m)下に落ち、魔女はそれで上に登りました。それから1、2年後、王子がたまたま馬で森を通り塔のそばを通りがかりました。
すると歌が聞こえてきて、その歌がとても素敵だったので王子はじっと立って聴きいりました。これはラプンツェルでした。一人ぼっちなので甘い声を響かせて時を過ごしていたのです。王子はそこまで登りたいと思い、塔の入り口を探しましたが、何もみつかりませんでした。馬に乗って家に帰りましたが、その歌声にとても深く感動したので王子は毎日森へでかけて、それに聴きいりました。
あるとき、こうして木のかげに立っていたとき、魔女がそこに来て、「ラプンツェル、ラプンツェル、髪を降ろしておくれ。」と叫ぶのを聞きました。すると、ラプンツェルは編み髪を降ろし、魔女が娘のところに登って行ったのです!「あれが登るためのはしごなら、僕も運を試してみよう。」と王子は言いました。次の日、暗くなり始めたとき、塔に行き、「ラプンツェル、ラプンツェル、髪を降ろしておくれ。」と言いました。途端に、髪が落ちてきて、王子は登りました。
最初、ラプンツェルは、目にしたことが一度もなかったので、男が来たとき、ひどくおびえました。しかし王子は全く友達のように娘に話し始め、とても心をかき乱されたのて気が休まらなかったこと、あなたに会わずにはいられなかったということを告げました。すると、娘は怖がらなくなりました。そして王子が自分を夫にしてくれるかと尋ねると、娘は、王子が若くハンサムなことを知り、名付け親のおばさんよりもっと愛してくれるだろう、と思いました。そして、「ええ」と答え、王子の手をとりました。「喜んであなたのお供をするわ。でもどうやって降りたらいいのかわからないの。」と娘は言いました。
「あなたが来るたびに一かせの絹糸をもってきて。そしたら、それを織り、はしごを作るわ。準備ができたら、降りるから。あなたは馬に乗せて私を連れていくのよ。」そのときが来るまで王子は毎日夜に娘のところに行くことを決めました。というのは、魔女は昼に来たからです。魔女はこういうことを何もきづきませんでした、
ある時ラプンツェルが、「ねぇ、おばさん、あなたは若い王子よりも引き上げるのがうんと重いのはどうしてかしら?あの人はすぐ私のところに来るのよ。」と言うまでは。「ああ、悪い子だね。何ということを聞くのだ?世間全部からお前を離しておいたと思っていたのに。それなのに、お前は私を欺いたんだ。」と魔女は叫びました。そして、怒り狂って、ラプンツェルの美しい髪房をつかみ、左手に2重巻きにすると、右手に鋏をつかみました。チョキン、チョキン。髪は切り落とされ、愛らしい三つ編みが地面に落ちました。そして薄情にも可哀そうなラフンツェルを砂漠に連れていったので、娘はそこで悲しくみじめに暮らさねばなりませんでした。
しかしながら、ラプンツェルを追い出した同じ日に、魔女は、切り落とした三つ編みを窓の留め金に結わえ付けておき、王子がやってきて、「ラプンツェル、ラプンツェル、髪を降ろしておくれ。」と叫ぶと、髪をおろしました。王子は登りました、が、愛するラプンツェルをみつける代わりに、邪悪で悪意に満ちた目でにらみつけている魔女を見たのでした。「ヘエ!」魔女は嘲るように言いました、「お前は愛する人をつかまえたんだ。だけど美しい鳥はもう巣で歌っていないよ。猫がそれを取ってしまったよ、そしてお前の目もひっかき出すのさ。ラプンツェルはみつからないよ。お前は二度と娘に会うことはないさ。」王子は苦しみのあまり我を忘れました。そして絶望して、塔から身をなげました。そして命は助かったものの、落ちたところのイバラが目に突き刺さりました。その後は、全く目が見えないまま森をさまよい、根やベリーを食べ、最愛の妻を失くしてただ嘆いたり泣いたりするだけでした。
こうして何年か惨めに歩き回っていましたが、とうとう、ラプンツェルが、産んだ男の子と女の子の双子と一緒に、惨めに暮らしている砂漠にやってきました。声が聞こえました。その声が王子にはとても聞き覚えがあるように思えて、聞こえた方に行きました。そして近づくと、ラプンツェルは王子の首にすがりすすり泣きました。涙の2つが王子の目を濡らすと、目は澄んで王子は以前のように再び目が見えるようになりました。妻を自分の王国へ連れて行き、二人は喜んで迎えられました。そしてその後、長い間幸せに満ち足りて暮らしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

兄と妹

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

兄は妹の手をとり、「お母さんが亡くなってから僕たちは全然幸せじゃないね。義理のお母さんは毎日僕たちをぶって、近くへ寄ると足で蹴ったり。ごはんは残り物のパンくずだし。テーブルの下にいる犬の方がましな暮らしをしてるよ。だって、あの人は選んだご馳走をよく投げてやってるもの。ああ、お母さんが生きててくれればなあ。さあ、僕たちは広い世の中に出ていこう。」と言いました。
二人は草地や野原や岩地を越えて丸一日歩きました。そして雨が降ると妹は「天と私たちの心が一緒に泣いてる。」と言いました。夜になって大きな森に着きました。悲しみと空腹と長歩きのためとても疲れていたので木のほらに横になり、眠りました。次の日、太陽はすでに空高くのぼっていて、木の中を暑く照らしていました。それで兄は「妹よ、僕はのどがかわいた。小さな小川のことを知ってれば、行って水を飲むのだけど。水の流れる音が聞こえるような気がする。」と言いました。兄は立ち上がって妹の手をとりました。それから二人で小川を探しに出発しました。しかし意地が悪い継母は魔女でした。そして二人の子供たちが出ていく様子を見ていて、密かに、魔女が忍び寄るやり方で、あとをつけていて、森の小川に全部魔法をかけていたのでした。
さて、石に明るくはねている小川を見つけたとき、兄はそこから水を飲もうとしました。しかし妹は水が流れながら「ここから水を飲む者はトラになる。ここから水を飲む者はトラになる。」と言ってるのを聞きました。それで妹は「お願い、兄さん、飲まないで。さもないと、あなたは野獣になり、私をズタズタに引き裂いてしまうわ。」と叫びました。兄は、とてものどが渇いていましたが、飲まないで、「次の泉まで待つよ」と言いました。
次の小川に来たとき、妹はこれもまた「ここから水を飲む者は狼になる。ここから水を飲む者は狼になる。」と言うのが聞こえました。それで、妹は「お願い、兄さん、飲まないで。さもないと、あなたは狼になり、私をがつがつ食べてしまうわ。」と叫びました。兄は飲みませんでした、そして「次の泉に着くまで待つよ、だけどそのときは、お前がどうだろうと必ず飲むからな。だってのどが渇いてたまらないんだからね。」と言いました。それから3番目の小川についたとき、妹は水が流れながら「ここから水を飲む者はノロジカになる。ここから水を飲む者はノロジカになる。」と言ってるのを聞きました。妹は「お願い、兄さん、飲まないで。さもないと、あなたはノロジカになり、私から逃げていってしまうわ。」と言いました。しかし、兄はすぐ小川のそばに膝まづいて、かがみこみ、水をいくらか飲んでしまっていました。そして最初の滴が唇に触れるやいなや若いノロジカになっていました。
それで今や、妹はあわれな兄が魔法にかけられたと泣き、小さなノロジカも泣いて悲しそうに妹の近くに座っていました。しかし、とうとう妹は「静かにして、ノロジカさん、私は絶対、絶対、あなたから離れないわ。」と言いました。そうして、自分の金のガーターをほどくとノロジカの首にかけ、イグサを摘み織って柔らかい紐にしました。そして、これを小さな動物につないでひきました。そうして妹はだんだん森の奥深くへ歩いて行きました。
かなり長く進んだとき、とうとう小さな家に着き、妹は中を覗き込みました。「空き家だからここに泊まって生活できるわ」と妹は考えました。それから妹はノロジカのベッドを作るために葉っぱやコケを探しました。それから毎朝、自分のために根やベリーや木の実を集め、ノロジカのために柔らかい草を運びました。シカは彼女の手からとって食べ、満足し、彼女の周りで遊びました。夜には、妹は疲れて、お祈りが終わったあと、頭をノロジカの背にのせました。―それが枕になり、そうすると安らかに眠れたのです。兄が人間の形になりさえすれば、それは楽しい生活だったでしょう。
こんなふうに、しばらくの間は荒野に二人だけでにいました。しかし、たまたまその国の王様が森でおおがかりな狩を催しました。それで、角笛の鳴る音、犬の吠える声、狩人の賑やかな叫び声が木々にこだましました。そしてそのノロジカは全部聞いていて、とても気になってそこにいられませんでした。「ねぇ、狩に行かせて。もうがまんできないよ。」と妹に言いました。兄があまり頼むので妹はとうとう承知しました。「だけど、夜には私のところに帰ってきてよ。荒っぽい狩人が怖いからドアを閉めなくちゃ。だからノックしてあなただとわかるように『妹よ、入れてくれ』と言ってね。もしそう言わなければドアを開けないからね」と妹は言いました。それから、若いシカはとびはねて出て行きました。外に出てとても嬉しくて楽しくなりました。王様と狩人はこの愛らしい動物を追いかけ始めました。しかしつかまえられません。確かにつかまえたと思う間に、藪に跳ねて消えてしまうのでした。暗くなると、家に走って帰り、ノックして「妹よ、入れてくれ」と言いました。するとドアが開けられ、シカは跳んで中に入り、柔らかいベッドで夜通し休みました。
次の日再び狩がはじまりました。もう一度角笛の音や狩人のホー、ホーという声を聞くと、ノラジカは矢も楯もたまらず、「妹よ、出してくれ、行かなくちゃ。」と言いました。妹はドアを開けてやり「だけど、夜には帰ってきて、合言葉をいうのよ。」と言いました。王様と狩人は金の首輪をしている若いノロジカに再会すると、みんな追いかけましたが、シカは素早く、敏捷でつかまりませんでした。こうして一日中続きましたが、夜までには狩人はシカを囲んでいました。そして一人が足を少し傷つけたので、シカは足をひきずり、走るのがのろくなりました。それで狩人は家までそっとあとをつけて、「妹よ、入れてくれ」と言うのを聞き、ドアが開けられ、またすぐに閉じられるのを見ていました。その狩人はその全てに注目し、王様のところに行くと、自分が見たり聞いたりしたことを話しました。すると、王様は「明日、もう一度狩をしよう」といいました。しかし、妹はシカが怪我をしているのを見て、とても驚きました。シカの血を洗い落とし、傷口にハーブを塗って、「治るように寝なさい、シカさん」と言いました。しかし、傷はとても浅かったので、次の朝、シカはもう痛くありませんでした。そして再び外のスポーツを聞くと、「我慢できないよ。そこに行かなくっちゃ。そう簡単につかまらないよ。」と言いました。妹は叫んで「今度はあなたを殺すわよ。そして私はここの森でひとりぼっちで世界みんなに見捨てられてるのよ。あなたを出さないわ。」と言いました。「じゃ、お前は僕を悲しみで死なすんだ。角笛の音を聞くと、まるで心臓がとびはねるようにどきどきするんだ。」とシカは答えました。それで妹は他にどうしようもなく、しぶしぶドアを開けてやりました。そしてシカは元気いっぱいで喜んで森の中へ向かっていきました。シカを見ると、王様は狩人たちに「さあ、夜のとばりがおりるまで一日中追いかけろ。だが、注意して誰もシカに怪我をさせないように。」と言いました。
太陽が沈んでしまうとすぐ、王様は狩人に「さあ、その森の家へ連れていってみせてくれ。」と言いました。そして入口に着くと、「妹よ、入れてくれ」と叫びました。するとドアが開いたので、王様は中に入りました。すると今までに見たこともないような愛らしい娘が立っていました。その娘は、シカではなく、金の王冠をかぶっている男を見たときギョッとしました。しかし、王様はやさしく見つめ、手をさしだして、「わたしの宮殿にきて妻になってもらえないか。」と言いました。「いいですとも。」と娘は答えました。「でも子ジカが一緒でなくちゃいけません。子ジカをおいていけないの。」「お前が生きてる限り、一緒にいさせるし、何不足させないよ。」と王様は言いました。丁度そのときシカが走って入ってきました。それで、妹はまたイグサの紐でつなぎ、紐を手にもって、王様と一緒に家をあとにしました。王様はその美しい娘を馬にのせ、宮殿に連れていきました。そこで結婚式が華麗に行われました。娘は今やお妃さまで、二人は長い間幸せに暮らし、ノロジカは大事に世話をされ、宮廷の庭を走り回っていました。
しかし、意地悪な継母は、そのため子供たちは世界へ出ていったのですが、妹は森の野獣に引き裂かれ、兄はノロジカになって狩人に撃ち殺されたとばかり思っていました。今二人がとても幸せで裕福なことをきくと、羨ましさと妬みとで心がやすまりませんでした。そして、二人をもう一度不幸にする方法ばかり考えていました。自分の娘は、夜のように醜く片目したしかなかったのですが、母親を責め、「お妃って、私がなるはずだったのよ。」と言いました。「お黙り」と母親は答え、それから、「時がくれば、準備ができるわよ。」と言って慰めました。時は過ぎ、お妃さまはかわいい男の子を産みました。王様はたまたま狩にでかけていました。そこで魔女は女官の姿をし、お妃さまがねている部屋へ入っていき、「さあ、入浴の準備ができました。お体によいし、元気になれるでしょう。さめないうちにお急ぎください。」と言いました。魔女の娘も近くにいました。二人は弱っているお妃さまを浴室に運び、風呂に入れました。それからドアを閉め逃げました。しかし浴室では地獄のような熱の火をたいていたので、若く美しいお妃さまは間もなく窒息してしまいました。
事が終わると、魔女は自分の娘を連れて行き、頭にナイトキャップをかぶせ、お妃さまのかわりにねかせました。また、娘をお妃さまの姿形に変えました。ただ失くなっている片目だけはうまくいきませんでした。しかし王様に見えないように目がない方を下にしてねることにしました。夜になって王様は家に帰り息子が生まれたと聞くと、心から喜びました。そして愛する妻の様子を見ようとその部屋に行こうとしました。しかし、魔女は素早く呼びとめ、「お妃さまのためにカーテンを閉めたままにしておいてください。まだ光を見てはだめですから。お休みしなくてはいけません。」と言いました。王様は立ち去り、にせの妃がベッドにねていると気づきませんでした。
しかし、みんなが眠った真夜中になると、乳母は、揺りかごの近くの子供部屋にいてただ一人めざめていたのですが、ドアが開いて本当のお妃さまが入ってくるのを見ました。お妃さまは子供をゆりかごから抱き上げ、腕に抱いて乳を飲ませました。それから枕を直し、子供をまたねかせ、それに小さなキルトをかぶせました。またシカを忘れないで、それが寝ている場所へ入っていき、背をなでました。それからお妃さまはドアからひっそりとまた出ていきました。次の朝、乳母は衛兵に夜の間だれか宮殿に入ったか尋ねました。しかし、彼らは「いいや、誰も見ていないよ。」と答えました。こんなふうにお妃さまは何日も夜に来て、一言も発しませんでした。乳母はいつもお妃さまを見ましたがあえて誰にもそのことを言いませんでした。こんなふうにしばらく過ぎたとき、お妃さまは夜に話しはじめ、「私の子供はどう?私のシカはどう?あと2回来てそのあとはもう来ないわ。」と言いました。乳母は答えませんでした、が、お妃さまがまた行ってしまうと、王様のところへ行き、全部話しました。「何、どういうことだ? 明日の夜は、私が子供のそばで見張りをしよう。」と言いました。
夜になると、王様は子供部屋に行きました。そして真夜中にまたしてもお妃さまは現れ、「私の子はどう?私のシカはどう?あと1回きて、もうそれからは来ないわ。」と言いました。そして消える前にいつものように子供に乳をあたえました。王様はあえて話しかけませんでしたが、次の夜ふたたび見張りをしました。すると彼女は「私の子はどう?私のシカはどう?今回きりでもう来ないわ。」と言いました。すると王様は我慢できなくなり、お妃さまの方にとんでいき、「お前は私の愛する妻に違いなかろう?」と言いました。するとお妃さまは「はい、私はあなたの妻です。」と答えました。同時に再び生命を受け、神の恩寵で、生き生きとしばら色で元気いっぱいになりました。それからお妃さまは、意地の悪い魔女とその娘が自分にした悪い行いを、王様に話しました。王様はその二人を裁判にかけることを命じました。そして判決は有罪になりました。娘は森に連れていかれ野獣に引き裂かれましたが、魔女は火に投げ入れられ、惨めに焼け死にました。魔女が燃えて灰になるとすぐ、ノロジカは姿を変え、再び人間の形になりました。そして兄妹は生涯一緒に幸せに暮らしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

ならずもの

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

あるとき、おんどりがめんどりに、「もうクルミが熟しているころだ。一緒に山に行って腹いっぱい食べようよ。りすが全部とっていってしまわないうちにね。」と言いました。「そうね。」とめんどりは答えました。「さあ、一緒に楽しくやりましょう。」それから二人は山に出かけ、天気の良い日だったので夕方までいました。さて二人が腹いっぱい食べすぎたせいか、得意になり過ぎていたのかわかりませんが、とにかく歩いて帰る気になれなくて、おんどりはくるみの殻で小さな乗り物を作る破目になりました。用意ができると、めんどりはその乗り物にすわり、おんどりに、「あなたが自分を車につないでひっぱってよ。」と言いました。「僕がそうしたいって?」とおんどりは言いました、「自分で引っ張るくらいならおれは歩いて帰った方がいいよ。嫌だ、そんな話ではなかったよ。御者になって御者台に座るならいいけど、自分で引っ張るのはやらないよ。」
こうして二人が口げんかしていると、アヒルがグワッグワッ文句をつけて、「この泥棒め!だれがおれのクルミの山へ行けと言った?待て!痛い目にあわせてやる。」と言っておんどりめがけてくちばしを開けて走っていきました。しかし、おんどりもボケっとしていなくて、勇敢にアヒルにかかっていき、しまいに蹴爪でアヒルをかなり痛めつけたので、アヒルは勘弁してくれと頼み、罰として自分から乗り物につながれることにしました。それでおんどりは御者台に座り御者になって、「アヒル、できる限り速く走れ!」に従って、すぐにすごい勢いで走って出発しました。
しばらく走ったら、道を歩いている留針と針に会いました。針たちは「止まれ!止まれ!」と叫び、まもなく真っ暗になってしまい、もう一歩も先へ行けなくなるし、道は泥だらけだ、と言って、しばらく車に乗せてもらえないだろうかと頼みました。針たちは門の近くの仕立て屋の酒場にいて、ビールを飲んで遅くまで居過ぎた、と言いました。針たちは細いし、たいして場所をとらないので、おんどりは両方とも乗せてやりましたが、自分たちの足を踏んづけないようにと約束させました。晩も遅くなって、宿屋に来て、夜にもっと先に行きたくなかったし、アヒルも足が強くなくてよたよたしたので、その宿に入りました。
宿の主人は初めたくさん理由をのべて断りました。宿はもういっぱいだし、このお客たちはあまり上品でないと思いました。しかし、しまいには、みんな調子のいいことを言って、めんどりが途中で産んだ卵をあげますよ、それからアヒルもとっておいていいです、毎日卵を産みますからね、と言ったので、とうとう泊っていいと言いました。それで、みんなは、たくさんサービスをさせ、ご馳走を運ばせ、好きなように大騒ぎしました。
朝早く、夜が明け始めみんなが眠っているときに、おんどりはめんどりを起こし、卵を持って来て、つついて開け、一緒に食べましたが、殻はかまどのうえに捨てました。それから二人でまだ眠っていた針のところにいき、その頭をもち、宿の主人の椅子のクッションに刺し、留針をタオルに入れました。そして、最後に、これ以上の騒ぎを見ないで、荒れ野を越えて逃げていきました。アヒルは外で眠るのが好きなので中庭にいましたが、二人が出て行くのが聞こえ、陽気になって、下に小川を見つけ泳いでいきました。そっちの方が車につながれているよりはるかに速く行けました。主人はこのあと2時間経って起きてきました。顔を洗って拭こうとしたら、留針が顔中を動いて、耳から耳までみみずばれを作りました。
このあと主人は台所に入り、パイプに火をつけようとしました。かまどのところに来ると、卵の殻が目にとび込んできました。「今朝は何でもおれの頭を攻撃しやがる。」と言って、かりかりしながら祖父の椅子に腰掛けましたが、またパッと立ちあがり、「ア、いて!」と叫びました。というのは針が留針よりもっとひどく、しかも頭にではなく、主人を刺したからです。今度はかんかんに怒り、昨夜遅く来た客
を疑い、行ってあちこち探しましたが、いなくなっていました。それで主人はもう宿にいたずらものは泊らせないと誓いを立てました。「たくさん食べて何も支払わず、おまけにお礼はいたずらをしかけておくんだからな。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

12人兄弟

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、一緒に幸せに暮らし、12人の子供がいる王様とお后様がいました。しかし子供たちはみんな男の子で、あるとき王様は「今度生まれてくる13人目の子供が女の子なら、その子の財産が大きくなって国がその子だけのものになるように、12人の男の子は殺そう。」と妻に言いました。王様は12個の棺まで作らせ、もうかんなくずも詰められて、それぞれに小さな死枕もありました。そしてその棺を錠をかけた部屋に持っていかせ、その鍵をお后に渡して、だれにもこのことを話さないようにと命じました。
しかし、母親は今や一日中座って嘆いていました。それでとうとう、いつも母親と一緒にいて、聖書からベンジャミンと名づけていた一番下の息子が、「お母様、どうしてそんなに悲しいの?」と訊きました。
「かわいい子よ、お前に言えないのだよ。」とお后は答えました。しかし、息子がしきりに聞くのでとうとうお后は行って部屋の鍵をはずし、かんなくずが詰められ準備ができている12個の棺を見せました。それから、「かわいいベンジャミンや、お前の父はこれらの棺をお前とお前の兄たちのために作らせたのだよ。それも、私が女の子を産んだら、お前たちはみんな殺されこの棺に埋められることになっているの。」と言いました。こう言っている間も泣いているので、息子は慰めて、「泣かないで、お母様、僕たちは助かってここを出て行くよ。」と言いました。しかしお后は「11人の兄たちと森に行きなさい。そして見つけられる一番高い木にいつも一人いて、ここのお城の塔の方を向いて、見張りをするのです。もし息子を産んだら白い旗を立てましょう。そのときは思い切って戻ってきていいんですよ。だけどもし女の子を産んだら、わたしは赤い旗を立てます。そのときはできるだけ急いでここから逃げるのですよ。神様がお前たちを守ってくださいますように。毎晩私も起きておまえたちのためにお祈りしましょう。冬にはお前が火のそばであたたかくできますように、夏には暑さで倒れませんように、と。」
それで、お后が祝福した後、息子たちは森へ入って行きました。それぞれが順番で見張って、一番高い樫の木に座り、塔の方を見ました。11日経ってベンジャミンの順番になったとき、旗が挙げられているところが見え、しかし、それは白ではなくてみんなが死ななければならないと告げる血のように赤い旗でした。兄たちはこれを聞くと、とても怒って、「僕たちは一人の女の子のために死ななければならないのか?仇を討つことを誓うぞ。娘をみたらどこでもその赤い血を流してやるぞ。」と言いました。
そうして、兄弟は森の奥にさらに深く入っていき、最も暗い森の真ん中に、小さな魔法の家を見つけ、空き家になっていました。それで、「ここに住もう。ベンジャミン、お前は一番幼くて弱いから、家にいて家事をしなさい。他の僕たちはでかけて食べ物をとってこよう。」と言いました。
それから兄弟は森へ入って行き、うさぎ、鹿、小鳥や鳩、食べるものは何でも撃ち殺しました。これをベンジャミンのところに持って行き、ベンジャミンは兄弟のおなかがくちくなるように調理しなければなりませんでした。兄弟はその小さな小屋で10年一緒に暮らし、その期間が長いようには思えませんでした。
兄弟の母親のお后が産んだ娘はもう大きくなりました。娘は心やさしく、顔はきれいで、額に金の星がついていました。あるとき、たくさんの洗濯があって、娘はその中に12枚の男のシャツを見ました。それで、母親に「この12枚のシャツは誰のなの?お父様のにしては小さすぎるわ。」と尋ねました。それでお后は沈んだ気持ちで、「娘や、これらはお前の12人の兄たちのものですよ。」と答えました。「12人の兄たちはどこにいるの?これまで兄のことは聞いたことがないわ。」と娘は言いました。お后は「あの子たちがどこにいるのか神様だけがご存知よ。世界をさまよい歩いているわ。」と答えました。それからお后は娘を連れて行き、部屋を開け、かんなくずと死枕の入っている12個の棺を見せました。「これらの棺はお前の兄たちが入れられることになっていたの。あの子たちはお前が生まれる前にこっそり出て行ったわ。」と言って、起こったことをすべて話しました。それで娘は「お母様、泣かないで、私は兄たちを探しに行くわ。」と言いました。
それで、娘は12枚のシャツを持ち、でかけて、まっすぐ大きな森に行きました。まる1日歩いて、用方に魔法の小屋に着きました。それから中に入ると、若者がいて「どこから来た?どこへ行くのだ?」と尋ねました。若者は娘がとても美しく、王族の服を着て、額に星があるのに驚いていました。娘は、「私は王様の娘です。12人の兄たちを探しているのです。見つけるまで空が青い限り歩いて行きます。」と言って、兄たちの12枚のシャツを見せました。それでベンジャミンは娘が妹だとわかり、「僕はベンジャミンだ、お前の一番下の兄だよ。」と言いました。娘は喜んで泣きだし、ベンジャミンも泣いて、大きな愛を込めて、二人はキスし、抱き合いました。しかしこのあと兄は「妹よ、まだ一つ難しいことがあるんだ。僕たちは、女の子のために国を出る破目になったのだから出会う娘をみんな殺すと決めてるんだよ。」と言いました。すると妹は、「そうしたら12人の兄を救えるなら、喜んで死ぬわ。」と言いました。
「いや、お前を死なせない。11人の兄たちが来るまで、このたらいの下に座っていて。そうしたらすぐ兄たちと話をつけるからね。」と兄は答えました。
娘がその通りにして、夜になると他の兄たちが猟から帰り、夕食が用意されていました。食卓について食べながら、兄たちが「変わったことがあるかい?」と尋ねるので、ベンジャミンは「何も知らないの?」と言い、「知らないね」と兄たちが答えました。「だって兄さんたちは森へ行ってて、僕は家にいるんだよ。それなのに僕がみんなより知ってるなんて。」とベンジャミンが続けると、「じゃあ言えよ」とみんなが叫びました。ベンジャミンは「だけど、僕たちに会う最初の娘を殺さないと約束してよ。」と答えました。
「いいよ。その子は許してやろう。早く言えよ。」とみんなが叫びました。それで、ベンジャミンが、「妹がここにいるんだ。」と言って、たらいを持ち上げると、王族の服を着て、額に金の星をつけた王様の娘が出てきました。娘は美しく優美で色白でした。それでみんな喜び、娘の首にだきつき、キスし、心からいとしいと思いました。
今度は妹が一緒に家にいて、ベンジャミンの仕事を手伝いました。11人の兄は森へ行き、食べ物を得るため、獲物、鹿や小鳥や鳩を捕まえ、妹とベンジャミンは食事の用意をしました。妹は料理のたきぎ野菜のハーブを探し、11人が帰ってきたとき夕食がいつも準備できているようにかまどに鍋をかけました。同じように小さな家を整頓し、小さなベッドに白いきれいなカバーを上手にかけ、兄たちはいつも満足し、妹ととても仲良く暮らしました。
あるとき家にいる二人が素晴らしい宴を準備し、みんなが一緒になって、座って食べて飲んで大いに楽しんでいました。ところで、その魔法の家には小さな庭があり、そこに12本のユリの花がありました。学生ユリとも呼ばれている花です。娘は兄たちに喜んでもらおうと、12本の花を摘んで、夕食時にそれぞれの兄に一本ずつ贈ろうと考えました。しかし花を摘むと同時に12人の兄は12羽のカラスになり、森の向こうへ飛んでいってしまい、同じように家も庭も消えてしまいました。今や可哀そうな娘は荒涼とした森に一人でいて、見回すと、一人のおばあさんが近くに立っていて、「娘よ、お前はなんてことをしたのだ。どうして12本の白い花を生えたままにしておかなかったんだい?あれはお前の兄たちだったんだよ。今は永久にカラスに変えられているよ。」と言いました。娘は泣きながら、「兄たちを救う方法はないのですか?」と言いました。 「無いね。まあ全世界で一つだけあるにはあるよ。その方法はとても難しいから、お前はそれで兄たちを救うことはできないだろうよ。お前は7年間口をきいてはならない。話したり笑ったりできないんだよ。一言でも喋ったら、7年のうちの1時間でも足りなければ、全部むだになって、お前の兄たちはその一言で殺されるんだよ。」とおばあさんは言いました。
(じゃあ、ぜったいお兄さんたちを自由にしてみせるわ。)と娘は心に決め、高い木を探しに行き、その木に座ると、糸を紡いで、口も言わず、笑いもしませんでした。さて一人の王様が森で猟をしていましたが、大きなグレイハウンド犬が娘の座っている木に走って来て、木に跳びつき、クーンとないたり、吠えたりしました。それで王様がやってきて、額に金の星のある美しい王女を見て、娘の美しさにとても惹かれたので、呼びかけて妻になってほしいと頼みました。娘は答えませんでしたが、頭を少し縦に振って頷きました。
それで、王様は自分で木に登り、娘を抱え降ろし、馬に乗せ、家へ連れて帰りました。それから、盛大に喜びとともに結婚式が行われました。しかし花嫁は話さず微笑みもしませんでした。2,3年一緒に幸せに暮らしたころ、意地悪な王様の母親が若いお妃の悪口を言い始め、「この女はお前が連れ帰ったただの乞食女だ。こっそりどんな悪い策略を練ってるか知れたもんじゃないよ。おしで話せなくても、一回くらいは笑ってもよさそうじゃないか。笑わない人間は悪い心を持ってるんだ。」と王様に言いました。 初めは王様は信じようとしませんでしたが、年とった母親がながながとこう言って、たくさん悪いことを並べ立てお妃をせめるので、とうとう王様も説き伏せられ、お妃に死刑を宣告しました。
今やお妃が燃やされることになっているおおきな火がつけられ、王様は上の窓に立ち、まだお妃をとても愛していたので、涙をためた目で見降ろしていました。そしてお妃がしっかり杭に縛られ、炎が赤い舌で服をなめていたとき、7年の最後の瞬間が切れました。すると、空中で飛び回る音が聞こえ、12羽のカラスがその場所めがけて飛んでくると、下に降りてきて、地面に触れると、12人の兄たちになりました。妹は兄たちを救ったのでした。兄たちは火をばらばらにし、炎を消して、愛する妹を自由にすると、キスし、抱き合いました。もう口を開いて話してもよくなったので、お妃は王様に、どうして口をきかずわらわなかったのかを語りました。王様はお妃が無実だと聞いて喜び、それからみんな死ぬまでとても仲良く暮らしました。意地悪な継母は裁判にかけられ、煮えたぎっている油と毒蛇の入った樽に入れられ、酷い死に方をしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

奇妙な音楽家

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、不思議な音楽家がいました。この音楽家が、まったく一人で森を通っていろいろなことを考えていましたが、何も考えることが残ってなくなった時、(この森では時間の経つのがいやに遅いなあ。いい連れを見つけよう。)と思いました。それから、背中からバイオリンをとり、ひくと、音が木々の間にこだましました。まもなく一匹の狼が茂みから駆けてきました。「ああ、狼が来るよ。狼は欲しくないな。」と音楽家は言いましたが、狼は近づいて来て、「ああ、音楽家さん、なんてきれいにひくんでしょう。私もそれを習いたいです。」と言いました。「すぐに習えるよ。」音楽家は言いました。「私がいいつける何でもやりさえすればいいんだ。」「まあ、音楽家さん、生徒が先生に従うように、私はあなたに従います。」と狼は言いました。音楽家は狼についてくるように言いました。しばらく道を進んだ時、中にうろがあり真ん中が割れている古い樫の木のところに来ました。「見ろよ、バイオリンを習うなら、前足をこの割れ目に入れろ。」と音楽家は言いました。狼は従いました。しかし、音楽家は素早く石を拾い、ひとうちであっというまに二本の前足をくさびのように押し込んだので、狼は囚われてそこにいるしかなくなりました。「私が戻るまでそこで待ってろ。」と音楽家は言って、道を進みました。
しばらくして、音楽家は、「この森では時間の経つのがいやに遅いなあ。別の連れをこっちへ呼ぼう。」と独り言を言って、バイオリンをとり、また森の中でひきました。まもなく狐が木の間から忍び足でやってきました。「ああ、狐が来るよ。狐は欲しくないな。」と音楽家は言いました。
狐は近づいて来て、「ああ、音楽家さん、なんてきれいにひくんでしょう。私もそれを習いたいです。」と言いました。「すぐに習えるよ。」音楽家は言いました。「私がいいつける何でもやりさえすればいいんだ。」「まあ、音楽家さん、生徒が先生に従うように、私はあなたに従います。」と狐は言いました。「ついてこい」と音楽家は言いました。しばらく道を進むと、両側にやぶが高く伸びている小道に来ました。そこで音楽家は立ち止まり、一方の側から若いはしばみの木のやぶを地面まで曲げ、その木の端に足をのせました。それから反対側からも若い木を折り曲げて、「さあ、狐くん、何か習う気なら、左の前足を出してごらん。」と音楽家は言いました。狐が従うと、音楽家は足を左の枝に縛り、「狐くん、今度は右足をこっちにのばしてごらん。」と言いました。そしてその足を右の枝に結びました。結び目がしっかりしているか調べた後、音楽家は放しました。それで枝はまた上に跳ね上がって、狐をぐいと上にひきあげました。それで狐は空中でもがいてぶらさがりました。「また戻ってくるまでそこで待ってろ。」と音楽家は言って、道をずんずん行きました。
また音楽家は「この森では時間の経つのがいやに遅いなあ。別の連れをこっちへ呼ぼう。」と独り言を言って、バイオリンをとり、音が森中にこだましました。するとうさぎがぴょんぴょん跳ねてやってきました。「ああ、うさぎが来るよ。うさぎは欲しくないな。」と音楽家は言いました。うさぎは、「ああ、音楽家さん、なんてきれいにひくんでしょう。私もそれを習いたいです。」と言いました。「すぐに習えるよ。」音楽家は言いました。「私がいいつける何でもやりさえすればいいんだ。」「まあ、音楽家さん、生徒が先生に従うように、私はあなたに従います。」と狐は言いました。しばらく一緒に道を進むと、森の開けたところにきました。そこにはヤマナラシの木が立っていました。音楽家はうさぎの首に長い紐を結び、もう一方の端をその木に結びました。「さあ、速く、うさぎくん、木のまわりを20回走るんだ。」と音楽家は叫び、うさぎは従いました。20回回ってしまったとき、木の幹に20回紐を巻き、うさぎはからめとられ、引っ張ろうがなんだろうが、ただ紐が柔らかい首にくいこむだけでした。「もどるまでそこで待ってろ。」と音楽家は言って、ずんずん行ってしまいました。
その間、狼は石を押しに押し、かんだりして、長い時間をかけてやっと足を自由にでき、割れ目から抜きました。怒りに燃え、ずたずたに引き裂いてやるぞと、音楽家のあとを急いで追いかけました。狐は狼が走っているのを見て、悲しそうになきながら、「狼あにい、こっちへきて助けてくれよ、音楽家がおれをだましたよ。」と力の限り叫びました。狼は小さな木を引きおろし、綱を二つにかみ切り、狐を自由にしました。それで狐も音楽家に仕返ししようと一緒に行きました。二匹は縛られているうさぎをみつけ、これも救い、それから三匹一緒に敵を探しました。
音楽家は道を進んでいるとき、もう一度バイオリンを弾きました。今度は前より運がよく、音は貧しい木こりの耳に届きました。木こりは、否応なく、すぐに仕事を止め、手斧を脇に抱えて音楽を聴きにやってきました。「とうとうちゃんとした仲間がきたよ。」と音楽家は言いました。「人間を求めていたんだからな。けものではなくてね。」それで音楽家はひき始め、とても美しく楽しい音だったので、貧しい男は魔法にかけられたようにそこに立って、心が喜びで踊り上がっていました。こうして立っていたら、狼と狐とうさぎが近づいてきて、貧しい男はけものたちが悪さをしようとしているのがよくわかりました。それで、音楽家に触ろうとするやつに、気をつけろ、そいつはおれを相手にしなければならないぞ、というかのように、きらきらする斧をもちあげ音楽家の前に立ちました。するとけものたちはおそれをなして、森へ走って戻りました。ところが、音楽家は恩返しのため男にもう一曲ひき、それから去っていきました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

うまい商売

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、一人の農夫がいて、雌牛を市に連れて行き、七ターレルで売りました。家へ帰る途中で池を通らなければなりませんでした。もう遠くから蛙たちが、アク、アク、アク(*注)と鳴いているのが聞こえてきました。「うん、彼らは韻をふむことも理由もなく話してるんだ。おいらが受けとったのは7だよな、8じゃないよ。」と彼は思いました。水辺に着くと、彼は蛙たちに言いました。「間抜けな動物だよ、おまえたちゃあ。もっと分別がないのかい?7タ―レルだよ、8ターレルじゃないんだ。」しかし、蛙たちはただアクアク鳴いてるだけでした。「さあ、じゃあ、信じないなら、お前たちに数えてあげるよ。」そして、彼はポケットからお金をとりだすと、24グロッシェンを1ターレルに換算しながら、七ターレルを数えました。しかしながら、蛙たちは気にもかけず、やはりアクアク鳴いていました。「何だって!」と農夫は怒って叫びました。「お前たちがおいらより分別があるんなら、自分で数えてみろ!」とお金を全部水の中の蛙たちに投げつけました。彼はじっと立って、蛙たちが数え終わり、自分のお金を返してくれるまで待っていようと思いました。が、蛙たちは相変わらずで、アクアク鳴き続けるだけでした。おまけにお金を水から投げ返してもくれませんでした。彼は、やはり暫く待っていましたが、とうとう夜がきてしかたなく家へ帰るしかなくなりました。それで、蛙たちの悪口をいい、叫びました。「水はね者!あほ!ギョロ目!お前は大きな口をして、人の耳が痛くなるまでキーキー言うが、七ターレルを数えられない。お前が終わるまでおいらが立ってられると思ってるのか?」それを言うと、彼は立ち去りました。しかし、蛙たちは、彼がまったくイライラして家へ帰るまで、後ろで相変わらずアクアク鳴いていました。
暫くして、彼は別の牛を買い、それを殺しました。そして、もし肉をうまく売れば2頭分の収入をえられるかもしれないし、おまけに皮もできると計算しました。それで、肉を持って町に着くと、門の前に大きなグレイハウンドを先頭に沢山の犬が集まっていました。そのグレイハウンドは、肉に飛びつき、匂いをかぎ、ワウワウ(注2)とほえました。止めることができなかったので、農夫はその犬に言いました。「うん、うん、よくわかるよ、お前は肉が欲しいからワウワウ言っているんだね。だけど、仮に肉をお前にあげるとしたら、おいらは結構な状況にいなくちゃね。」しかし、犬はワウワウと答えるだけでした。「じゃあ、全部食べちゃわないと約束してくれないか?お前の仲間にも言っておくれかい?」ワウワウワウ、犬は言いました。「ええと、お前がそこまで言い張るならお前に置いていこう。おいらはお前をよく知ってる。お前の主人が誰かも知ってるよ。だけどこれだけは言っておくが、おいらは3日の内に金を貰わなくてはいけない。さもないとまずいことになるからな。金を持ってきさえすればいいんだ。」そう言って肉を降ろし、背を向けました。犬たちは肉に襲いかかり、大声でワウワウほえました。そのいなか者は、犬たちから離れて聞いていて、思いました。「いいかい、今はみんながいくぶんか欲しがっている、だけど大きいやつがおいらに責任があるんだからな。」
3日経ったとき、「今夜、金が手にはいるぞ。」とそのいなか者は思い、とても喜んでいました。しかし、誰も来て支払おうとはしませんでした。「もうだれも信じることはできないぞ。」と彼は言いました。とうとうしびれを切らし、町の肉屋にでかけ、お金を要求しました。肉屋は冗談だと思いましたが、農夫は冗談抜きで「金はもらうぞ。あの大きな犬は3日前、殺した牛の肉をまるまる持ってこなかったかい?」と言いました。すると肉屋は怒って、ほうきをつかむと彼を追い出しました。「待てよ、今世の中には裁判もあるんだ。」と農夫は宮殿にでかけ、聴聞を求めました。彼は王様の前に案内され、王様はそこに娘と一緒に座っていましたが、どんな痛手をこうむったのか、と彼に尋ねました。「ああ悲しい、蛙や犬が私のものを奪いました。そして肉屋は棒でそのお返しをしました。」と彼は言い、起こったことを詳しく述べました。それを聞いて、王様の娘は心から笑い出しました。そして王様は「これについて正義をもたらすことはできないが、娘を妻としてお前にやろう。娘はこんな風には今まで一度も笑ったことがないのだ。それで娘を笑わせることができた男に娘をやると約束しておったのだ。幸運を神に感謝するがいい。」と王様は言いました。「ああ!」と農夫は言いました。「おいらは全然欲しくないんで。もうかかあがおりやす。一人でも沢山でして。家に帰ると、うちのやつがどの角にも立ってるみたいなんで。」すると王様は怒って、「無礼者め!」と言いました。「ああ、王さま、牛から肉のほかに何を求めるんです?」と農夫は言いました。「黙れ、お前には別のほうびをやろう。今は帰れ、だが3日したら戻って来い。そのときにきっちり500とっといてあげよう。」と王様は答えました。
農夫が門のそばに出ていくと、門番が「お前は王様の娘を笑わせた。きっとなにかいいものをもらうだろう。」と言いました。「そうだよ。おいらもそう思っている。おいらのために500とっておくってさ。」と農夫は答えました。「ねぇ、俺にいくらかくれよ。そんなにたくさんの金をどうするつもりだい?」と門番は言いました。「あんただから、200あげるよ。3日したら王様の前に行きな、払ってくれるだろうよ。」と農夫は言いました。近くに立っていて、この会話を聞いたユダヤ人が農夫のあとを追いかけ、コートをつかまえて言いました。「なんとまあ、神の驚異だ、あなたはなんと幸運なんでしょう。交換してさしあげます。小額の硬貨に換えてさしあげますよ。大きなターレル銀貨をどうするんです?」「ユダヤの人、あんたにはあと300ありますよ。今すぐ硬貨をおくれ。今から3日したら王様が払ってくれるからね。」といなか者は言いました。そのユダヤ人は小さな利益に喜び、その額を質の悪いグロッシェンで持ってきました。その3枚が質のよい硬貨の2枚分の価値しかありませんでした。
3日経ったあと、王様の命令に従って、農夫は王様の前に行きました。「コートを脱げ、そうしたら500あげようぞ。」と王様はいいました。「ああ、もうおいらのものじゃないんですよ。そのうちの200を門番にあげたし、300はユダヤ人がおいらに換金してくれたんで。だから当たり前ですが、ぜんぜんおいらのものじゃねえ。」と農夫は言いました。そのうち、門番とユダヤ人がやってきて、農夫から手に入れたものを請求しました。そしてきっちり数えて打ちすえられました。兵士の門番はじっとそれに耐え、それがどんな味か知りましたが、ユダヤ人は「ああ、ああ、これが重たいターレルか?」と悲しみの声をあげました。王様は農夫のことを笑わざるをえませんでした。そして怒りがすっかりおさまると、「お前は自分のものになる前にもうほうびを失くしてしまったのだから、埋め合わせのものをやろう。わしの宝庫へ行き、好きなだけ、自分で金をとれ。」と言いました。農夫は二度言われる必要はありませんでした。何でも入るものをポケットに詰め込みました。
後に、彼は宿屋に行き、お金を数えました。ユダヤ人はこっそりあとをつけていたので、農夫が「あの王様のやつは結局おいらをだましやがった。なんで自分で金をくれることができなかったんだ?そしたらおいらがいくらもってるかわかったのによ?たまたまポケットに入れたものが適当かどうかなんて、今になってどうやってわかるんだ?」とつぶやいているのを聞きました。(なんとまあ、あいつは王様に無礼なことを話している。走っていって告げればおれはほうびがもらえるし、あいつは罰をうけるだろう。)とユダヤ人は心のなかで思いました。王様は農夫の言葉について聞くと激怒し、ユダヤ人に犯罪者を連れてくるよう命じました。
ユダヤ人は農夫のところへ走って行き、「お前は着のみ着のまますぐ王様のところへ行かなくてはならない」と言いました。「おいらにゃ、もっと分別があるさ。まず新しいコートを作ってもらおう。ポケットにたらふく金が入ってる男がぼろの古いコートを着てそこに行くと思うのかい?」と農夫は答えました。ユダヤ人は、農夫が別のコートが無くては動こうとしないのを見てとり、また、王様の怒りが静まれば、自分はほうびを貰い損ねるし、農夫の罰もなくなってしまうと恐れたので、言いました。「純粋に友情の気持ちからだけど、短い間おれのコートを貸すよ。君が好きだからこそだよ。」農夫はこれを聞いて満足し、ユダヤ人のコートを着て、一緒にでかけました。王様は、ユダヤ人が告げ口した悪口のことでいなか者を責めました。「ああ、ユダヤ人がいうことはいつだって嘘ですよ。あいつの口からホントの言葉なんて出てこねえです。そこのならず者はおいらがやつのコートを着ているって言い張りますぜ。」と農夫は言いました。「何だって!」とユダヤ人は喚きました。「そのコートがおれのじゃないって?純粋な友情から、そのコートをお前に貸したんじゃなかったか?お前が王様の前に出ていくために?」王様はこれをきくと、「ユダヤ人が、わしか農夫かどちらかをだましているのははっきりしている」と言いました。そしてまたまた彼を打ち据えることを命じたのでした。しかし、農夫のほうは立派なコートを着て、ポケットにはたっぷりお金を入れ、家に帰り、「今度はうまくやっただ。」とひとりごちました。
*(1)蛙はAkt! Akt!と鳴いてドイツ語ではachtは8だから、農夫は蛙が「8、8!」と言ってると解釈してるらしい*(2)同じく「少し」と発音が似ていて、犬が「少しくれ」と言ってると農夫が解釈した。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

忠実なジョン

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、年老いた王様がいて、病気で「私は死の床に寝ているにちがいない」と考え、「フェイスフルジョンを呼べ。」と言いました。フェイスフルジョンは、生涯ずっと王様に誠実だったので、そのためそう呼ばれたのですが、お気に入りの家来でした。それで、ベッドのそばにくると王様は「最も忠実なジョンよ、私の終わりが近づいているようだ。息子を除いては何も心配はない。あれはまだ弱冠者で、必ずしも判断がつくわけではない。お前があれに知るべきことを全部教え、養い親になると約束してくれねば、わしは安らかに目を閉じることが出来ぬ。」と言いました。それでフェイスフルジョンは「王子様を見捨てません。命にかけても忠実にお仕えします。」と答えました。これを聞いて王様は「これで心安らかに死ねる。」と言い、「わしが死んだ後、息子に城じゅうを見せよ。全ての部屋、廊下、貯蔵庫、その中の宝全てをな。だが、長い通路の一番奥の部屋を見せてはならぬ。そこには黄金の城の王女の絵があるが、もしその絵を見れば、息子は激しい恋におち、失神して倒れ、彼女のために大きな危険を冒すだろう。ゆえに、お前は息子をそれから守らねばならぬ。」と付け加えました。そしてフェイスフルジョンが、年老いた王様にこれについても再び約束すると、王様はもう何も言わず、枕に頭をのせ、死にました。
老王が墓に運ばれてしまったとき、フェイスフルジョンは、若い王様に、死の床で父親に約束した全てを話し、「この約束を必ず守ります。たとえ命にかけても、お父上に忠実だったようにあなたに忠実にします。」と言いました。喪があけると、フェイスフルジョンは「さあ相続したものを見る時です。お父上の宮殿をご案内します。」と言いました。それから、上も下もあらゆるところに連れて行き、富のすべてと豪華な部屋を見せました。開けなかったのはただ一つの部屋、危険な絵がかかっている部屋でした。しかしながら、その絵はドアを開けるとすぐ正面に目に入るような位置にあり、しかもとてもうまく描かれているので、呼吸し生きているようにみえ、全世界でこれ以上魅力的で美しいものはありませんでした。
しかし、若い王様はフェイスフルジョンが常にこの一つのドアを通り過ぎるので、「どうしてこのドアは開けないのだ?」と言いました。「中にあなたを脅かすものがあるのです。」とジョンは答えました。しかし王様は「宮殿を全部見た。そしてこのへやに何があるかも知りたいのだ。」と答え、行ってドアを無理矢理こじ開けようとしました。それでフェイスフルジョンは王様を抑え、「この部屋にあるものをあなたにみせないと、お父上に死ぬ前に約束したのです。それは、あなたと私に最大の不幸をもたらすのです。」と言いました。「いや、違う。入らなければそれこそ破滅だ。自分の目でそれを見てしまうまでは昼も夜も心が休まらないだろう。お前がドアの鍵をあけるまでは今ここをでていかないぞ。」と若い王様は答えました。
フェイスフルジョンはどうしようもないとわかり、気が進まないまま何度もため息をつき、大きな鍵束から鍵をさがし出しました。そしてドアをあけると、先に入りました。前に立つことで王様が正面にあるその肖像画を見ないように隠せると思ったのです。しかしこれが何の役にたったことでしょう。王様はつま先立ち、ジョンの肩越しにそれを見ました。そしてその乙女の肖像画を見ると、とても華麗で金や宝石で輝いていたので、気を失って地面に倒れました。フェイスフルジョンは王様を抱き上げ、ベッドに運び、悲しみながら、「不幸が我々に降りかかったのだ。神よ、その終りはどうなのだろう?」と考えました。それから、王様が再び意識を回復するまで気付けにワインを飲ませました。王様が最初に言った言葉は、「ああ、美しい肖像だ。誰のだ?」でした。「それは黄金の城の王女さまです。」とフェイスフルジョンは答えました。すると王様は続けました。「私の愛はとても大きいので、全ての木の葉っぱ全てが舌であっても、それを言い表せないだろう。王女を勝ち取るため命をささげよう。お前は私の一番の忠臣ジョンだ。お前は私を手伝わなければならない。」
忠実な家来は、この問題にどうとりかかるか心の中で長い間考えました。というのはその王様の娘を一目みるだけでも難しかったからです。とうとう方法を思いつき、「王女の周りのものは全て金でできています。テーブル、椅子、皿、グラス、椀、そして家具も。あなたの宝の中には5トンの金があります。これを、金細工職人の1人に、王女の気に入るようなあらゆる形の容器や調度に、あらゆる種類の鳥、野の獣や変わった動物に作り変えさせるのです。それを持ってそこに行き、運を試してみましょう。」と王様に言いました。
王様は、金細工職人全員を連れてくるようにと命令しました。職人たちは日夜働き、とうとう最もすばらしいものが準備できました。全てが船に積みこまれると、フェイスフルジョンは商人の服を着、それとわからないようにさせるために王様にも同じようにさせました。それから、海を渡って、航海を続け、とうとう黄金の城の王女様が住んでいる町に着きました。
フェイスフルジョンは王様に船に残って待っているように告げました。「多分、私は王女さまを連れてきます。ですから、準備万端整っているか確かめ、黄金の船を出港させ、船全体を飾らせてください。」と言って、前掛けにあらゆる種類の黄金の品を集め、浜辺を行き、まっすぐ王宮に向かいました。宮殿の庭に入ると、美しい娘が水を汲みながら、2つの金の桶を手に井戸のそばに立っていました。そしてキラキラする水を持って行こうと向きを変えようとしていた丁度そのときに、見慣れない人が目に入り、誰ですかと尋ねました。それで、フェイスフルジョンは、「私は商人です。」と言って、エプロンを広げ、中を覗き込ませました。すると娘は「まあ、何ときれいな金細工でしょう!」と叫び、桶を下に置くと、次々と金の品物を見ていきました。それから、「王女さまはこれを見なくちゃいけないわ。金細工がとてもお好きでいらっしゃるので、あなたがもっているものを全部買うでしょう。」と言いました。そして手をとって階上に案内しました。というのは娘は侍女だったからです。
王様の娘は品物を見るととても喜んで、「とても美しく作られているからあなたから全部買うわ。」と言いました。しかし、フェイスフルジョンは「私は金持ちの商人の召使にすぎません。ここにもってきた物は、主人の船にあるものと比べられませんよ。それはこれまで金で作られたうちで最も美しく貴重なものです。」と言いました。王女様が全部自分のところに持って来て貰いたいと言うと、「たくさんありすぎてそうするには何日もかかりますよ。それに展示する部屋もたくさん必要になりますし、お家が十分広くないですから。」とジョンは言いました。すると、王女さまはさらに一層見たい気持ちが募って、とうとう「船に案内して。自分でそこに行って、あなたの主人の宝を見るわ。」と言いました。これを聞いてフェイスフルジョンはとても喜び、船へ案内しました。王様は王女様をみると、絵に描かれているよりはるかに美しいと感じ、他でもない心臓が2つに張り裂けそうだと思いました。
それから王女さまは船に乗り、王様は中に導きました。しかし、フェイスフルジョンは舵取りと一緒に残り、「帆を揚げ!空中に鳥のように飛ぶまで!」と言って、船を押すよう命じました。中では王様が、金の容器を一つ一つ、野性の獣、変わった動物を見せていました。王女様は、全てのものを見ている間に何時間もたち、楽しさで、船が航海していることに気づきませんでした。最後の品を見終わって、商人に感謝し帰宅しようとしました。が、船の横に来てみると、船は陸からはるか遠く波の上にあり、帆を全部あげて速く進んでいました。「ああ、」と王女さまは驚いて「だまされた。夢中になって商人の手に落ちてしまった!-死んだ方がましだわ。」と叫びました。しかし、王様は、手を握り、「私は商人ではありません。私は王で、決してあなたより卑しい生まれではないのです。巧妙にあなたを連れ去るとしても、それはあなたに対するはるかに大きい愛の故なのです。あなたの肖像画を初めて目にしたとき、私は気を失い地面に倒れたのです。」と言いました。黄金の城の王女さまはこれをきくと、心が和み、王様に惹きつけられました。その結果、妻になることを喜んで承諾しました。
深い海を進んでいたとき、フェイスフルジョンは、船の前部に座って音楽を奏でていたのですが、空中の3羽のカラスが自分たちの方に向かって飛んでくるのが目に入りました。これを見て、演奏を止め、カラスたちがお互いに話していることに耳を傾けました。というのはそれをよく理解したからです。1羽が「まあ、黄金の城の王女を家へ連れて帰っているわ。」というと、2番目が「そうだね。だけど、まだ手に入れてはいないよ。」と答え、3番目は「だけど、手に入れたよ。王女さまは船で王子様の隣に座っているもの。」と言いました。すると最初のカラスがまた言い始めて、「それが何の役に立つんだ?家に着くと、栗毛の馬が出迎えて跳ねてくるよ、それで王子が乗りたがる、だけど乗ると、馬は乗せたまま走って逃げちゃって、空中に上り、それから二度と娘に会えないよ。」と叫びました。
2番目が、「だけど免れる方法はないの?」「ああ、あるさ。もし他の誰かが素早く乗って、ホルスターのピストルを抜いて、馬を撃ち殺せば、若い王様は助かるよ。だけど誰がそれを知ってる?そして、それを実際に知っていて王様にいう人は誰でも、つま先から膝まで石に変えられてしまうんだ。」すると2番目が「私はもっと知ってるわ。たとえ馬が殺されても、まだ花嫁をもてないわ。二人が一緒にお城に入って行くと、精巧な婚礼衣裳が皿の中に入っている。それは金銀で織られたように見えるけど、硫黄とコールタールに他ならないのよ。それでもし王様がそれを着れば、燃えて骨と髄だけになってしまうわ。」と言いました。三番目が「全然逃れる方法はないのか?」と言うと「あるわよ。手袋をはめた誰かが、その衣装をつかみ、火に投げ入れて燃やせば、王様は助かるわ。だけどそれが何の役に立つかしら。それを知って口に出せば、体の半分が膝から心臓まで石になるんだもの。」すると3番目が「まだもっと知ってるよ。もし婚礼衣裳が燃えても、まだ花嫁をもてないよ。結婚式の後、ダンスが始まり、踊っているとき若いお妃さまは突然青ざめて死んだみたいに倒れるんだ。そしてもしも誰かが、抱き上げて、お妃さまの右胸から3滴の血を吸いとってそれをまた吐き出さなければ、死ぬよ。だけどそれを知ってる誰かが、それを話さねばならないとすると、その人は頭の先から足の裏まで石になるだろう。」と言いました。
カラスはこれを話し合ってしまうと飛びたちました。フェイスフルジョンは全てをよく理解しましたが、このときから物静かになり、悲しくなりました。というのは、もし聞いたことを主人に隠せば主人が不幸になるだろうし、もし話せば、自分自身が命を犠牲にしなければならないからです。とうとう、しかしながら、「私は主人を救おう、たとえ私自身が破滅しても。」と心の中で思いました。それゆえ、岸についたとき、カラスが予言したようにすべてがおこり、素晴らしい栗毛の馬が跳びだしてきました。「よろしい。この馬に乗って宮殿へ行こう。」と王様は言って、まさに乗ろうとしたとき、フェイスフルジョンは前に出て、素早く跳び乗り、ホルスターからピストルを抜くと、馬を撃ちました。すると、王様の他の従者たちが、フェイスフルジョンをあまり好ましく思わず、「美しい動物を殺すとはなんと浅ましい。王様を宮殿へ運ぶことになっていたのに。」と叫びました。しかし王様は「静まれ、ジョンを放っておけ。私の最も忠実なジョンだ。これがどう役に立つかわからないではないか。」と言いました。
それから、宮殿に入って行きました。大広間に皿があり、その中にまるで他ならぬ金銀で作られたかのように見える婚礼衣裳がありました。若い王様は近づき、それを手にとろうとしましたが、フェイスフルジョンは王様を押しのけて、手袋をはめてつかみ、暖炉へ運ぶと燃やしてしまいました。他の従者たちは再びつぶやき始め、「見ろ、今度は王様の婚礼衣装さえ燃やしているぞ。」と言いました。しかし、若い王様は、「どんな役に立つことをしたかもしれない。ジョンに構うな。私の最も忠実なジョンだ。」と言いました。そして今や結婚式がとり行われました。ダンスが始まり、花嫁も参加しました。フェイスフルジョンは油断なく顔を見ていました。すると花嫁は突然青ざめ、死んだかのように地面に倒れました。これを見ると、ジョンは大急ぎで走りより、持ち上げると、部屋へ運びました。それから寝かせると、膝まづき、右胸から3滴血を吸い、吐き出しました。花嫁はすぐに息を吹き返し回復しましたが、若い王様はこれを見てしまい、フェイスフルジョンが何故そうしたのか知らなかったので、怒って、「ジョンを地下牢に入れろ」と叫びました。
次の朝、フェイスフルジョンは咎められ、絞首台に送られました。そして高く掲げられて、処刑されようという時、「死ななければいけない誰もが、死ぬ前に最後の一言を許される。私もその権利を主張してよろしいか?」と言いました。「よかろう。お前に認めてやろう。」と王様は答えました。それでフェイスフルジョンは「私は不当に咎められました。常にあなたに誠実でした。」と言い、海にいたときカラスの会話に耳を傾けたこと、主人を救うためこれらのこと全てをせざるを得なかったことを述べました。すると、王様は「ああ、最も忠実なジョンよ、許してくれ、許してくれ、彼を降ろせ。」と叫びました。しかしフェイスフルジョンは、最後の言葉を話したとき石になって、生命をもたず落ちてきました。
その結果、王様とお妃さまは非常に心を痛めました。王様は「ああ、私は、大きな忠誠になんと酷く報いたことだろう」と言って、石の像を起こして自分の寝室のベッドのそばにおくよう命じました。そしてそれを見るたびに泣いて「ああ、フェイスフルジョンよ、お前を再び生き返らせることができればなあ。」と言うのでした。
暫くして、お妃さまは双子を生みました。男の子で成長が速く、楽しみでした。あるとき、お妃さまは教会で、父親は、二人の子供たちをそばで遊ばせながら座っていたとき、また石像を見てため息をつき、悲しみでいっぱいで、「ああ、私のフェイスフルジョンよ、お前を再び生き返らせることができさえすればなあ。」と言いました。すると、石が話し始め、「もしあなたが最愛のものをそのために使うなら、私を生き返らせることができます。」と言いました。それで王様は「お前のためならこの世の何でも与えよう。」と叫びました。石は続けて、「もしあなたの二人の子供たちの頭を自分の手で切り落とし、その血を私にふりかければ、私は生き返るでしょう。」と言いました。
王様は自分自身が最愛の子供たちを殺さなければならないと聞いてギョッとしました。しかし、フェイスフルジョンの忠誠、そして自分のために如何に死んだかを思い起こし、刀を抜き、自分の手で子供たちの頭を切り落としました。そして、その血を石に塗りつけると、命が戻り、無事で健康なフェイスフルジョンが目の前に立っていました。そして「あなたの誠実は報われなくありません。」と言い、子供たちの頭をとり、体にのせ、血で傷をこすりました。すると子供たちはすぐにまた元通りになり、跳ね回り、まるで何事もなかったかのように遊び続けました。それで王様は大喜びでした。そして、お妃様が帰ってくるのを見ると、フェイスフルジョンと子供たちを大きな戸棚に隠しました。お妃様が入ってくると、王様は「教会でお祈りしていたのかい?」と聞きました。「はい、でもフェイスフルジョンのことや、私たちのために彼にふりかかった災難のことを考えてばかりいました。」と答えました。「妻よ、私たちはまた彼を生き返らせることができるのだよ。だけど、それには二人の息子の命をかけなくてはいけない。犠牲を払わなくてはならないのだ。」と王様は言いました。お妃さまは青くなり、心は恐怖でいっぱいでしたが、「私たちは子供たちの命をかけてもジョンの大きな忠誠にお返しをしなければならないわ。」と言いました。それで王様はお妃様も自分と同じ考えなことに喜びました。そして、戸棚をあけ、フェイスフルジョンと子供たちを連れてくると、「神を讃えたまえ、ジョンは生き返り、息子たちも再び私たちにもどった。」と言い、あったことをすべてをお妃様に話しました。それから死ぬまで一緒にとても幸福に暮らしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

狼と七匹の子ヤギ

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、子ヤギが七匹いる年とった山羊がいて、子供たちを愛する母親がもつありったけの愛で子供たちを愛していました。ある日お母さんヤギは森へ行き、食べ物をとってきたいと思いました。それで子供たちを呼んで言いました。「お前たち、私は森へ行かなくてはいけないの。狼に気をつけるのよ。もし狼が入ってきたら、お前たちみんなを、髪も皮もみんな食べてしまうわ。その悪党はよく変装するの。だけどお前たちはがらがら声と黒い足ですぐ狼だとわかるわ。」子供たちは言いました。「お母さん、僕たちよく気をつけるよ。心配しないで行っていいよ。」それでおかあさんヤギは安心して出かけて行きました。
まもなく誰かが玄関のドアをノックし、言いました。「子供たち、ドアを開けて。お母さんですよ。お前たちにいいものを持ってきましたよ。」しかし子供たちはがらがら声でそれは狼だと知りました。「戸を開けないよ。お前はお母さんじゃないよ。お母さんは柔らかく感じのいい声をしてるんだ。だけどお前の声はがらがらだ。お前は狼だ。」と子供たちは言いました。すると狼は立ち去りお店に行って大きな石灰のかたまりを買い、これを食べて声を柔らかくしました。それから戻ってドアをノックし言いました。「子供たち、ドアを開けておくれ。お母さんだよ。お前たちにいいものを持ってきたよ。」しかし狼は窓に黒い足をのせていて、子供たちはそれを見て言いました。「ドアを開けないよ。お母さんの足はお前みたいに黒くないよ。お前は狼だ。」すると狼はパン屋に走って行き、「おれは足をけがしちゃった。足に練り粉をこすりつけてくれ。」と言いました。パン屋が足に練り粉をこすりつけ終わると、狼は粉ひき屋に行き、「足に粉末をかけてくれ。」と言いました。粉ひき屋は、狼が誰かをだまそうとしていると思い、断りました。しかし狼は「もしやらないなら、おまえを食ってしまうぞ。」と言いました。粉ひき屋は恐ろしくなり、狼の足を白くしてやりました。本当に人ってそういうものです。
それで今悪党は三回目に玄関にやってきました。ドアをノックし、「子供たち、ドアを開けておくれ。お母さんが帰ってきましたよ。お前たちに森からいいものを持ってきましたよ。」と言いました。「お母さんかどうかわかるようにまず足を見せてよ。」と子供たちは叫びました。それで狼は窓から足を入れました。子供たちはそれが白いのを見て、狼が言ってることが本当だと信じ、ドアを開けました。しかし狼以外の誰が入ってくることでしょう!子供たちはおびえて隠れようとしました。一匹はテーブルの下に、二匹目はベッドの中に、三匹目はストーブの中に、四匹目は台所に、五匹目は戸棚の中に、六匹目は洗い桶に、七匹目は時計の箱に、跳びこみました。
しかし狼は子供たちをみんな見つけてしまいました。そしてまるで無造作に次から次へと飲みこみました。時計の中にいた一番下の子ヤギだけが狼に見つかりませんでした。狼は食欲を満たすと出て行き、外の草地の木の下で横になり、眠り始めました。それからまもなく、お母さんヤギは森から帰ってきました。そこで何をみたことでしょう。家のドアは広く開いていました。テーブルや椅子やベンチがなぎ倒され、洗い桶はこなごなに壊れていました。キルトのカバーや枕はベッドからはがされていました。子供たちを捜しましたがどこにもみつかりませんでした。子供たちの名前を次々と呼んでみましたが、誰もこたえませんでした。とうとう一番下の子まできたとき、柔らかい声で「お母さん、時計の中にいるよ。」と答えがありました。子供を時計の外に出してやると、狼が他の子たちをみんな食べてしまったとお母さんに教えました。かわいそうな子供たちを思ってお母さんはどんなに泣いたことでしょう。
お母さんは悲しみにくれながらも、とうとう外に出て、一番下の子も一緒に走ってきました。二人が草地にくると、狼が木のそばで寝ていて、枝がゆれるくらい大きないびきをかいていました。よくよく見てみると、狼のふくらんだお腹の中で何かが動いてもがいていたので、おかあさんヤギは(ああ、神様、夕食に狼がのみこんだ私のかわいそうな子供たちがまだ生きてるってことなの?)と思いました。それから、子供は走って家に帰り、鋏と針と糸をとってこなくてはなりませんでした。そして、お母さんヤギは怪物のお腹を切り開きました。一つ切り口をつくるやいなや一人の子供がグィッと頭を突き出しました。そしてさらに切っていくと、六人の子供たちがみんな次から次へと跳びだしてきました。みんな生きていて、全然けがをしていませんでした。というのは怪物はがつがつしていて子供たちを丸のみしたからでした。なんとよろこばしいことか。子供たちはお母さんに抱きついて、結婚式の船乗りのように飛び跳ねました。しかしお母さんは「さあ、大きな石を探しに行っておいで。まだ眠っているうちに悪いけだもののお腹を石でいっぱいにするのよ。」と言いました。それから七人の子供たちは大急ぎで石をそちらにひきずっていき、狼のお腹に詰め込めるだけたくさんの石を入れました。お母さんは大急ぎでお腹を縫って閉じました。それで狼は何も知らず、かすかに動くこともありませんでした。
十分眠って、とうとう狼は起き上がりました。そしてお腹の石のせいでとてものどが渇いたので泉の水を飲みたいと思いました。しかし、歩いたり動き回っていると、お腹の石がぶつかりあってガラガラ鳴りました。それで狼は「俺の骨にガラガラ、ゴロゴロぶつかるのは何だ!六匹のガキだと思ったんだが、大きな石みたいだぞ。」と叫びました。そして泉に着き、水を飲もうとかがみこむと、重い石のため水の中に落ちて、みじめにもおぼれるしかありませんでした。七人の子ヤギたちはそれを見て、そこに走って来て、「狼は死んだ、狼は死んだ。」と大声で叫び、喜んで、お母さんと一緒に泉のまわりを跳ね回りました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

ある父親に息子が二人いました。兄は賢くて気が利き、何でも出来ましたが、弟はまぬけで、何も習い覚えないし何もわかりませんでした。人々は弟を見ると、「父親に厄介をかけそうなやつがいる。」と言いました。何かしなければならないことがあると、それをやらされるのはいつも兄でしたが、しかし、時間が遅いとか夜に、道が墓地や他の陰気な場所を通るときに、父親が何かとってくるようにいいつけると、「えっ、嫌だよ、お父さん、そこには行かないよ。ぞっとするもの。」と答えました。兄は怖かったからです。また、夜に暖炉のそばで気味の悪い話がされると、聞いている人たちが時々「ええっ、ぞっとするよ。」と言いました。弟はすみに座って、他の人たちと一緒に聞き、どういうことを言ってるのかわかりませんでした。「いつも『ぞっとする、ぞっとする、ぞっとしない』と言ってるな。それも僕がわからない技にちがいない。」と弟は考えました。
さて、ある日、父親が弟に「よく聞けよ、そこのすみのやつ、お前は大きくなって力もでてきた。お前も自分で食っていく何かを習わなくちゃな。見てみろ、お前の兄はしっかり働いている。だが、お前はこれっぽちも稼がないんだからな。」と言いました。「それでね、お父さん」と弟は答えました。「何かを習いたい気はうんとあるんだ。本当に、もしやれるなら、ぞっとする方法を習いたいんだ。まだそれが全然わからないんだよ。」兄はこれを聞くと笑い、「おやおや、弟のやつ、何て間抜けなんだ。あいつは生きてる間ずっとろくでなしだろうなあ。鎌になりたきゃ早いうちに曲がらなくてはいけない、というもんな。」と心の中で思いました。父親はため息をつき、「ぞっとすることがなにかじきにおぼえるだろうが、それでは食えないだろうよ。」と答えました。
このあとまもなく、寺男がその家に訪ねてきて、父親が困っていることを嘆いて話し、下の息子は何事にもとても遅れていて何も知らないし、何も覚えないんだ、と言いました。「考えてもみてよ。私があの子に、どうやって食っていくんだ、と聞いたら、あいつときたらぞっとすることをならいたいとまじめに言ったんですよ。」「それだけなら」と寺男は答えました。「うちで覚えられますよ。わたしのところへよこしてください。すぐに磨きをかけてあげますよ。」父親は喜んでそうしました。というのは「少しあいつの訓練になるだろう」と思ったからです。
それで寺男は下の息子を家へ連れて行き、教会の鐘を鳴らさせました。一日か二日後、寺男は真夜中にこの若者を起こし、起きて教会の塔に上り、鐘を鳴らしてこいと言いました。(まもなくぞっとすることは何か覚えさせてやるぞ)と考えて、こっそり若者より前にそこに行きました。そして若者が塔の一番上にきて、向きを変え、鐘の綱を握ろうとしたとき、音がでる穴の向い側の階段に白い人影が立っているのが見えました。「そこにいるのは誰だ?」と若者は叫びましたが、その人影は返事もしなければぴくりとも動きませんでした。「返事をしろ。さもないと失せろ。お前は夜ここに用はない。」と若者は叫びました。しかし、寺男は、若者に自分を幽霊だと思わせようとじっと立ったままでした。若者は二回目に、「ここに何の用だ?お前が真面目なやつなら口を言え。さもないと階段から突き落とすぞ。」と叫びました。寺男は、(口で言うほど悪いことをするつもりはないはずだ)と考え、何も言わないで、石でできているかのように立っていました。すると若者は三回目に呼びかけましたが、それも役に立たなかったので、その人影に走っていき、幽霊を階段から突き落としました。それで幽霊は10段おちて、すみに転がったままになりました。そのあと、若者は鐘を鳴らし、家に帰り、一言も言わずベッドに寝て、眠ってしまいました。
寺男の妻は長い時間夫を待っていましたが、戻ってきませんでした。とうとう不安になって、若者を起こし、「うちのだんなを知らないかい?お前の前に塔に上って行ったんだが。」と尋ねました。「ええ、しりませんよ。だけど、階段の向こう側の音出し穴のそばに誰か立っていました。それで返事もしないし、立ち去らないので、悪者だと思って階段から下につき落としました。そこに行ってみてください。そうすればだんなさんだったかどうかわかります。もしそうだったらすみません。」と若者は答えました。女は走っていき、夫をみつけましたが、すみに呻きながらころがっていて、脚が一本おれていました。
妻は夫を運び下ろし、それから大声で喚きながら、若者の父親のところへ急ぎました。「おたくの子が」と妻は叫びました。「大変なことをやってくれましたよ。うちのだんなを階段から突き落として、だんなの脚を折ったんですからね!あのろくでなしを家からひきとっておくれ。」父親はびっくりして、そこへ駆けつけ息子を叱りました。「なんと悪質なことをするんだ。」と父親は言いました。「悪魔がお前の頭にふきこんだのに違いない。」「お父さん、僕のいうことを聞いて。ぼくは全然悪気がないんだ。あの人は夜に悪さをもくろんでいるやつみたいに、そこに立っていたんだ。誰だかわからなかったし、喋るか出て行けって3回言ったんだよ。」と息子は答えました。「まったくなあ」と父親は言いました。「お前にゃ、嫌な目にばかりあわされるよ。おれの目の前から消えろ。お前の顔はもう見たくない。」
「はい、お父さん、喜んで。ただ夜明けまで待ってください。そうしたら出かけて行ってぞっとする方法を覚えます。そうしたらとにかく食っていける技術を一つわかるでしょう。」「何でも好きなものを覚えろよ。おれには関係ない。ほら、50ターラーだ。これをもって広い世間に行ってみろ。どこから来たかとか、お前の父親は誰かとか誰にも言うなよ。おれはお前を恥だと思ってるんだからな。」「はい、お父さん、言う通りにします。それだけなら、簡単に覚えていられます。」
それで、夜が明けると、若者は50ターラーをポケットに入れ、大きな街道を進んで行き、「ぞっとできればなあ、ぞっとできればなあ」と独り言を言い続けいていました。すると、こんなふうに若者が自分を相手に話しているのを聞いた男が近づいて来て、もう少し歩いて首吊り台が見えたとき、「見ろよ、7人の男が、縄作りの娘と結婚した木がある。いま飛びかたを習っているんだ。その下に座って夜になるまで待ってろよ。そうしたらすぐにぞっとする方法を覚えられるよ。」と若者に言いました。「たったそれだけすればいいなら」と若者は答えました。「簡単だね。だけどそんなに早くぞっとする方法を覚えたら、50ターラーあげるよ。朝早く僕のところへ来てみてよ。」
それから若者は首吊り台に行き、その下に座り、夜になるまで待ちました。寒かったので火を燃やしましたが、真夜中に風が身を突き刺すように吹いてきて、火にあたっていても体が暖かくなりませんでした。風が首吊りの男たちをお互いにぶつけて前後に揺れたので、(下で火のそばにいても震えるんだから、きっと上にいる連中は凍えて寒いにちがいない)と思いました。その男たちを可哀そうに思ったので、はしごをかけて登って行き、次々と縄をほどき、7人全員を下に下ろしました。それから火をかきまわし、吹いて、暖まるように男たちを火のまわりにぐるりとおきました。しかし男たちはそこに座って少しも動かず、火が服に燃え移りました。それで若者は、「気をつけろよ、でないと、また吊るすからな。」と言いました。しかし、死んだ男たちには聞こえなくて、全く口をきかず、服が燃え続けるままにしておきました。これを見ると若者は腹がたってきて、「注意しないのなら、仕方がないな。僕は君たちと一緒に燃えるわけにはいかないよ。」と言って、また順番に男たちを吊るしました。それから火のそばにすわり、眠りこみました。
次の朝、男は若者のところに来ると、50ターラーをもらおうとして、「さて、ぞっとする方法をおぼえたかい?」と言いました。「いや」と若者は答えました。「知るわけがないよ。あそこの上にいる連中は口を開かなかったし、とても間抜けだったから、身につけていたふるいぼろ服を燃えるままにしておいたんだ。」それで、男はその日50ターラーを手に入れられないとわかり、「こんな若者には前にあったことがないな」と言って去って行きました。
若者はまた進んでいき、また「ああ、ぞっとできたらなあ、ああ、ぞっとできたらなあ」と一人でつぶやいていました。後ろを歩いていた荷車ひきの男がこれを聞いて、「お前さんは誰だい?」と尋ねました。「知らないよ。」と若者は答えました。すると荷車ひきは「お前さん、どこから来たんだい?」と尋ねました。「知らないよ。」「お前さんの父親は誰?」「それを言ってはいけないんだ。」「お前さんはぶつぶつ言ってばかりいるが、それは何だね?」「ああ」と若者は答えました。「僕はぞっとすることができたらいいなあと思っているんだが、誰も僕に教えられないのさ。」「お前さんのばかげたお喋りはたくさんだ。」と荷車引きは言いました。「さあ、一緒に来いよ。お前さんに場所を世話してやろう。」
若者は荷車引きと一緒に行き、夜に泊ろうと思う宿に着きました。それから部屋の入り口で、若者はまたかなり大きな声で、「ゾッとできたらなあ!ゾッとできたらなあ!」と言いました。これを聞いた宿の主人は笑って、「お客様がそういうことをお望みでしたら、ここに良い機会がございます。」と言いました。「まあ、黙ってなさいな。」とおかみが言いました。「詮索好きな人たちがもうたくさん命を落としたのよ。こんなきれいな目が二度とお日さまをおがめなくなるなんてかわいそうだわ。」しかし、若者は「どんなに大変でも、僕は習う気でいます。実はこのために旅をしているのです。」と言いました。
若者は主人にしきりにせがみ、とうとう主人は若者に話しました。「ここから遠くないところに、お化けがでる城があってね。三晩、その城で番をするだけで、だれでもとても簡単にぞっとすることを覚えられますよ。王様は、やってのける人には娘を妻にやる、と約束しましたがね。その王女様は日の下で一番美しい方ですよ。城にはまた大きな財宝があって、悪霊に守られているそうです。それでこの財宝も魔法を解かれると、貧しい男がすごい金持ちになれるという話ですよ。もうたくさんの男たちが城に入って行きましたが、まだ誰も出てきていません。」
それで次の朝、若者は王様のところへ行き、「お許しをいただければ、幽霊のでるお城で三晩見張りをしたいと思います。」と言いました。王様は若者を見て、気に入ったので、「それでは、お前が城に持っていきたいものを三つ申してみよ。しかし、それは生きていないものに限るぞ。」と言いました。それで若者は、「それでは、火と旋盤と小刀つきの切り台をお願いします。」と言いました。王様はこれらのものを昼のうちに城へ運び込ませました。
夜が近づいてくると、若者は城に行き、部屋の一つで明るい火をたき、そのそばに包丁つきまな板をおき、旋盤のそばに座りました。「あ~あ、ぞっとできたらなあ。」と若者は言いました。「だけど、ここでも無理だろうなあ。」真夜中ごろ、火をかきおこし、吹いていると、突然片隅から「アウ、ミャウ、うう寒い。」と何かが叫びました。「ばかだな。」と若者はどなりました。「何を叫んでいるんだ。寒けりゃ、来て、火のそばに座って温まりゃいいだろうが。」
そう言ったとき、二匹の大きな黒い猫がどーんとひと跳びしてやってきて、若者の両側に座り、らんらんと光る目で残忍に若者を見ました。まもなく温まると猫たちは、「トランプをしよう。」と言いました。「いいとも。」と若者は答えました。「だけど手をみせてくれよ。」それで二匹は爪をグィと出してみせました。「おやおや、なんと長い爪だ。待てよ。まず君たちの爪を切らなくちゃ。」それで若者は猫の首をつかみ、切り台に置き、足をしっかりねじでとめました。「君たちの指をみてしまった。」と若者は言いました。「それでトランプをやる気が失せたよ。」そして猫を打ち殺し、外の池に投げ捨てました。
しかし、若者がこの二匹をやっつけ終わり、また火のそばに座ろうとしたとき、熱して赤くなった鎖をつけた黒猫と黒犬があちこちの穴やすみから出てきて、どんどん増えて行き、とうとう若者は身動きできなくなりました。犬や猫たちはものすごい叫び声をあげながら、火の上にのり、引っ張ってばらばらにし、火を消そうとしました。若者はしばらく黙って見ていましたが、余りにやりすぎになったときとうとう、小刀をつかみ、「失せろ、クズども!」と叫んで、切り倒し始めました。逃げたのもありましたが、殺したのは外の池に放り込みました。
戻ってくると若者はまた火の燃え差しをあおいで、体を温めました。こうして座っていたところ、もう目を開けていられなくなって、眠気がさしてきました。それで見回すと、すみに大きなベッドが見えました。「あれはうってつけだな。」と言ってそのベッドにもぐりこみました。
ところが、目を閉じようとした瞬間、ベッドはひとりでに動き始め、城中をまわりました。「その調子だ、だが、もっと速く動け」と若者は言いました。するとベッドは、6頭だての馬がひいているかのように速く、上に下に、しきいや階段を乗り越え、進み続けましたが、ドッシン、ドッシン、跳びはねてさかさまにひっくり返り、若者の上に山のようにのっかりました。しかし、若者は掛け布団や枕を空に投げあげ、ベッドから出て、「今度は乗りたい奴が乗ればいいよ。」と言って、火のそばに横になり朝まで眠りました。
朝に王様が来て、若者が床にねているのをみると、化け物たちが殺してしまい若者は死んでいると思いました。それで王様は、「結局残念だな、良い男なのに。」と言いました。若者はそれを聞くと起きあがって、「まだそうなっていませんよ。」と言いました。すると王様はびっくりしましたがとても喜び、首尾はいかがであったか、と尋ねました。「とてもうまくいきました。一晩過ぎましたが、あと二晩もにたようなものでしょう。」と若者は答えました。
それから若者は宿の主人のところへ行きました。主人は目を大きく見開いて、「お前さんにまた生きて会えるとは思っていませんでしたよ。もうゾッとする方法を覚えましたか?」と言いました。「いいや」と若者は言いました。「まるでだめだ。だれか教えてくれたらなあ。」二晩目に若者はまた古い城に出かけ、火のそばに腰かけ、また「ぞっとできたらなあ」を繰り返し始めました。
真夜中になると、ガタガタ、ドタドタと騒がしい音がきこえ出し、初めは低かったのですが、だんだん大きくなっていきました。それからしばらく静かでしたが、とうとう大きな叫び声がして、人間の体半分が煙突から降りてきて若者の前に落ちました。「やあ」と若者は叫びました。「もう半分があるはずだ。これでは足りないな。」それから騒ぎがまた始まり、どなり声やうめき声がしたかと思うと、もう半分も落ちてきました。「待ってろよ。」と若者は言いました。「お前にすこし火をおこしてやるからな。」それが終わってまた見回すと、半分ずつの体二つがくっついて、恐ろしい顔の男が若者の場所に座っていました。「それは話しにならないな。」と若者は言いました。「その椅子は僕のだよ。」男は若者を押しのけようとしましたが、若者は負けないで力任せに男を突き放し、また自分の席に座りました。
するとさらにもっと多くの男たちが次々と落ちてきて、死人の脚9本とどくろ2つを持って来て、それを立てると、九柱戯を始めました。若者もやりたかったので、「ねぇ、僕も入れてくれないかな?」と言いました。「ああ、お前が金をもっていたらいいよ。」「金は十分あるよ。」と若者は答えました。「だけど君たちの球はちゃんと丸くないよ。」それから若者はどくろをとって、旋盤にかけ、丸くなるまで回しました。「ほら、今度はよく回るだろう。」と若者は言いました。「やったぜ。さあ遊ぼう。」若者はその男たちと遊び、負けてお金をいくらか払いました。しかし、12時になると、なにもかも消えて見えなくなりました。若者は横になり静かに寝入りました。
次の朝、王様がやってきて、若者の様子を尋ねま、「今回はどうだったかね?」と言いました。「ずっと九柱戯をやっていました。それで2,3ファージング負けましたよ。」と若者は答えました。「じゃあゾッとしなかったのかね?」「何ですって?楽しく過ごしましたよ。ゾッとするって何かわかったらいいんですが。」と若者は言いました。
三晩目に、若者はまた椅子に座り、とても悲しく「ゾッとできたらなあ」と言いました。遅い時間になると、六人の大男が入ってきて、棺桶を持ってきました。それで若者は、「はは、それはきっと僕のいとこだよ。2,3日前に死んだばかりだ。」と言い、指で呼び寄せ、「おいで、きみ、おいで」と叫びました。大男たちは床に棺桶を置きましたが、若者はそこに行き、ふたをはずすと、死人が中にねていました。若者がその顔に触りましたが、氷のように冷たかったのでした。「待ってろよ。少し君を温めてあげるよ。」と言って、火のところに行き手を温め、死人の顔にその手を当てましたが、死人は冷たいままでした。それで若者は棺桶から死人を出し、火のそばに座った自分の胸に死人を抱いて、血がまた通うように死人の腕をこすりました。これでも効き目がなかったので、若者は「二人でベッドに一緒にねると、温めあえるよな。」と考えて、死人をベッドに運び、布団をかけるとそのそばに横になりました。まもなく死人も温かくなり、動き始めました。それで若者は、「ほらね、きみ、あたためてやらなかったかい?」と言いました。ところが、死人は起きあがって、「さあ、お前の首を絞めてやる。」と叫びました。「何だって?それがきみのお礼のやり方か?すぐ棺桶に入りやがれ。」と若者は言って、死人をもちあげ、棺桶に投げ込み、ふたを閉めました。
するとさっきの六人の男たちが来て、また死人を連れて帰りました。「なんとしてもゾッとできないな。生きてる間ここでは覚えられないよ。」と若者は言いました。すると、他の男たちよりもっと大きく、恐ろしく見える男が入ってきました。しかし、その男は年とっていて、長くて白いあごひげを生やしていました。「こいつめ」と男は叫びました。「ゾッとすることをまもなく教えてやるぞ。お前は死ぬんだからな。」「そうはいくか。死ぬとなったら、黙っているわけにはいかないからな。」と若者は答えました。「すぐにお前をとっつかまえてやる。」と残忍な男は言いました。「穏やかに、穏やかに、大口をたたくんじゃないよ。僕はお前ぐらい力があるぞ。たぶんもっと強いかもしれないぞ。」「やってみようじゃないか。お前の方が強いなら、おれはお前を放してやる。来い。やるぞ。」
それから男は暗い通路をいくつも通って鍛冶場の炉へ連れて行き、斧をとると一撃でかなとこを地中へうちこみました。「僕はそれよりうまくやれるよ。」と若者は言って、べつのかなとこのところへ行きました。年とった男は近くに来て、見物しようとし、白いひげが垂れ下がっていました。それで若者は斧をつかみ一撃でかなとこを割り、その中に男のひげを挟みました。「さあ、僕はお前をつかまえだぞ。」と若者は言いました。「今度はお前が死ぬ番だ。」そう言って鉄の棒をつかむと年とった男を打ちすえ、とうとう男はうめいて、若者にやめてくれ、そうしたらたくさん金をやるから、と頼みました。若者は斧を抜いて男を放しました。
年とった男は若者を城に連れ戻し、地下室で金でいっぱいの箱を3つ見せました。「このうち、一つは貧しい人たちに、もう一つは王様に、3つ目はお前のだ。」と男は言いました。そのうち、12時になり、お化けは消え、それで若者は暗闇に立っていました。「それでもまだ出口をさがせるだろうよ。」と若者は言って、手さぐりしながら、道をたどって部屋に戻り、その部屋の火のそばで眠りました。
次の朝、王様が来て、「お前は今度こそぞっとすることを覚えたにちがいない。」と言いました。「いいえ」と若者は答えました。「いったいそれは何でしょう?私の死んだいとこがここにいました。それからあごひげの男が来て、下の部屋にあるたくさんのお金を見せましたよ。だけど誰もゾッとすることはなにか教えてくれませんでした。」「それでは、お前は城を救ったのだな。わしの娘を妻とするがよい。」と王様は言いました。「それはとても有り難いことですが、やはりゾッとすることがなにかわかりません。」と若者は言いました。それから金が上に運び出され、結婚式が祝われました。しかし、若い王様は妻をどんなに愛しても、どんなに幸せでも、やはりいつも「ゾッとできればなあ、ゾッとできればなあ」と言っていました。それでとうとうお后が怒りました。侍女が「私が、王様を治してさしあげましょう。まもなくゾッとすることが何かおわかりになりましょう。」と言いました。侍女は庭を流れている小川に出て行き、手桶いっぱいの小魚を自分のところに運んでもらいました。
夜に若い王様が眠っているとき、妻は王様の服を脱がせ、手桶の小魚の入った冷たい水を王様の上にかけました。それで小魚がたくさん王様のまわりでぴちぴち跳ねました。すると、王様は目が覚め、さけびました。「わあ、何だ!何だ!ぞっとしたぞ。ぞっとしたなあ。お前、ああ、ぞっとするとはどういうことか今わかったよ。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

聖母マリアの子供

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

大きな森のすぐ近くに木こりの夫婦が住んでいました。子供は一人だけで、3歳の女の子でした。しかし、夫婦はとても貧しかったのでもう毎日食べるパンがなくなり、どうしたら子供に食べ物を手に入れられるかわかりませんでした。ある朝、木こりは悲しみにくれながら森の仕事にでかけました。そして木を切っていると、突然、頭に輝く星の冠をつけている背の高い美しい女の人が前に立ち、言いました。「私は聖母マリア、イエス・キリストの母です。お前は貧しく困っていますね。子供を私のところにつかわしなさい。その子を連れて行き、母となり、世話をします。」木こりはその言葉に従い、子供を連れていき、聖母マリアに渡しました。そして聖母は子どもを天国へと連れていきました。天国で子供は順調に生活し、砂糖菓子を食べ、甘いミルクを飲みました。また服は金でできており、天使たちと遊びました。
娘が14歳になったある日、聖母マリアは呼んでいいました。「子供よ、私は長い旅にでかけます。だからお前が天国の13の扉の鍵を管理するのです。このうちの12の扉は開けて中にある栄光を見てもいいです。しかし13番目は、この小さな鍵はその扉のものですが、開けるのを禁じます。開けないよう注意しなさい、さもないとお前に不幸がふりかかります。」娘は従うと約束しました。
そして聖母マリアが出かけていなくなると、娘は天国の部屋を調べ始めました。毎日一部屋ずつ開けていき、とうとう12部屋を一回りしました。それぞれの部屋には大きな光の真ん中に使徒の一人が座っていました。そして娘はその荘厳さと豪華さに喜び、いつもついてきている天使たちも一緒に喜びました。それで禁じられた扉だけが残りました。娘はその扉の後ろに何が隠されているのか知りたくてたまりませんでした。それで天使たちに、「ちゃんと開けるのではないし、中にも入らなくて、ただ鍵をあけて開いたところからちょっと中を覗くだけよ。」と言いました。「ああ、だめよ。それは罪になるわ。マリア様は禁じてるのよ、そんなことをしたらあなたは罪を犯すことになるわ。」と天使たちはいいました。すると娘は黙りましたが、見たいという気持ちは静まることなくいつまでも心に残り、娘を苦しめ、気が休まることがありませんでした。そして天使たちがでかけてしまったあるとき、「今は私一人だわ。中を覗けるのよ。そうしたって誰も知りっこないもの。」と思いました。鍵を探し出し、手に持ったら、次は錠に挿しこみ、差し込んだら鍵を回しました。すると扉はパッと開き、炎と豪華さの中に三位一体が座っているのが見えした。娘はそこに暫くとどまって、ぼうぜんとしてあらゆるものを眺めていました。それから指で少し光に触れてみると指は全く金になりました。とっさに大きな恐怖にとらわれ、娘は荒々しく扉を閉め、逃げました。どうしても恐怖は去らず、心臓はどきどきしっぱなしで静まりませんでした。また金もどんなにこすっても洗っても指からとれませんでした。
まもなく聖母マリアが旅から帰ってきて、娘を前に呼び、天国の鍵を返してくれるようにたのみました。娘が鍵束を渡すと、聖母マリアは眼を覗き込み「13番目の扉も開けませんでしたか?」と言いました。「いいえ。」と娘は答えました。聖母マリアは手で娘の心に触れ、ドキドキしているのを感じたので、娘が命令に背き扉を開けたことを見抜きました。それでもう一度「確かにそうしなかったのですか?」とたずねました。「はい。」と娘は2回目を答えました。そのとき聖母マリアは天の炎にふれたことから金になった指に気づき、子供が罪を犯したことを見抜き、3回目に「やりませんでしたか。」と言いました。「はい。」と娘は3回目の答をしました。すると聖母マリアは「お前は命令に背いたばかりか嘘もついたね。お前はもう天国にいる資格はない。」と言いました。
それから娘は深い眠りにおち、目を覚ましたときは下界の荒野の真ん中に横たわっていました。娘は叫びたかったのですが、声が出ませんでした。娘はパッと飛び起きて、逃げ出したいと思いました、しかしどこへ向かおうと、抜け出せないいばらの厚い垣にいつもさえぎられてしまうのでした。娘が閉じ込められていた砂漠に古いくぼみのある木が立っていました。そしてそれを娘の住まいにしなければなりませんでした。夜が来るとその中に入り込み、そこで眠りました。ここではまた嵐や雨をしのげましたが、惨めな生活でした。娘は、天国でどれだけ幸せだったか、天使たちがどれだけ自分と一緒に遊んだかを思い出して激しく泣きました。木の根や野生のイチゴだけが娘の食べ物でした。これらを求めて娘は行けるだけ探しました。
秋には落ちた木の実や葉を拾い、穴の中へ運びました。木の実は冬の間の食料で、雪と氷になったとき凍らないようにかわいそうな小さな動物のように葉っぱの中に入れました。まもなく娘の服はぼろぼろになり、一枚一枚次々と体から落ちてしまいました。しかし、太陽が再び暖かく照ってくるとすぐ、娘は外に出て、木の前に座りました。娘の長い髪はマントのように娘のまわりを被っていました。こうして娘は毎年毎年座って、世界の苦しみと惨めさを感じていました。ある日、木々が再びみずみずしい緑におおわれた頃、その国の王様が森で狩をしていました。ノロジカを追いかけて、その鹿がこの森を囲っているやぶに逃げたので、王様は馬を降り、やぶをかきわけ、刀で道をつけました。とうとう無理矢理道を通っていったとき、木の下にすばらしく美しい乙女が座っているのが見えました。娘はそこに座り、足元まで金髪で被われていました。王様はじっと立ち尽くし、驚きに満たされながら娘をみつめました。それから娘に話しかけて言いました。「君は誰?どうしてここの荒野に座っているの?」しかし娘は何も答えませんでした。というのは娘は口を開けなかったからです。王様は続けて言いました。「私と一緒にお城にきませんか?」そのとき娘は少しうなづきました。王様は娘を両腕に抱えて馬のところまで運び、一緒に馬に乗って帰りました。お城につくと王様は娘に美しい衣服を着させ、あらゆるものをたくさん与えました。娘は口が言えなかったけれど、それでもとても美しく魅力的だったので王様は心から娘を愛するようになり、まもなく娘と結婚しました。
ほぼ1年が過ぎて、お妃様は男の子を産みました。その後すぐ、ベッドで一人ねていた夜、聖母マリアがお妃様のところに現われて言いました。「もしお前が真実を言い、禁じられた扉を開けたと告白するなら、お前の口を開き、言葉を話せるようにしてあげよう。しかし、もしお前が罪をとどめあくまでも否定するなら、お前の生まれたばかりの子供を連れていきますよ。」それからお妃様は答えることが許されましたが、頑固に、「いいえ、私は禁じられた扉を開けませんでした。」と言いました。それで聖母マリアはお妃様の両腕から赤ん坊をとりあげ、その子と一緒に消えてしまいました。次の朝、子供が見つからなかったとき、お妃様は人食いだ、自分の子供を殺してしまったと人々の間でささやかれました。お妃様にはこれがみんな聞こえていても、それは違うということを何も言えませんでした。しかし、王様はその噂を信じようとはしませんでした。というのはお妃様をとても愛していたからです。
それから1年が経ったときお妃様は再び男の子を産みました。そして夜に聖母マリアが再びお妃様のところに来て言いました。「お前が禁じられた扉を開けたと告白するなら、お前の子供を返し、お前の舌の縛りを解いてやろう。しかしお前が罪を続け、否定するなら、この赤ん坊も私と一緒に連れていきますよ。」お妃様は再び「私は禁じられた扉を開けませんでした。」と言いました。すると聖母はお妃様の腕から赤ん坊をとりあげ、天国に行ってしまいました。次の朝、この子供も消えてしまったとき、きっとお妃様は子供をむさぼり食ってしまったのだと、人々はかなり大声で言いました。そして王様の相談役たちはお妃様を裁判にかけなくてはいけないと要求しました。ところが、王様はお妃様をとても深く愛していたのでそれを信じようとはしませんでした。そして相談役たちにそれについてもう何も言うな、言えばくびをはねるぞ、と命じました。
次の年、お妃様は美しい娘を産みました、そして三たび聖母マリアは夜お妃様のところに来て、「私について来なさい。」と言い、お妃様の手をとり、天国へ導きました。そしてそこでお妃様の上の二人の子供たちを見せました。子どもたちはお妃様に微笑み、その世界のボールで遊んでいました。それでお妃様が喜んでいると、聖母マリアは言いました。「お前の心はまだ和らがないのか?お前が禁じられた扉を開けたと認めれば、お前の二人の息子を返してやろう。」しかし三度お妃様は答えました。「いいえ、私は禁じられた扉を開けませんでした。」すると聖母マリアはお妃様を地上に帰し、前と同じように3番目の子供をとってしまいました。
次の朝、子供がいなくなったことが広く伝わると、人々はみな大声で叫びました。「お妃様は人食いだ!裁判にかけなくちゃ!」そして王様はもう相談役たちをおさえておけなくなりました。裁判が行われ、お妃様は自分を弁護して答えることができなかったので火あぶりの刑が宣告されました。木が集められ、杭にしっかり縛られ、火が周りで燃え始めたとき、お妃様の誇りの固い氷がとけました。後悔の気持ちでいっぱいで、お妃様は思いました。「死ぬ前に扉を開けたと告白できさえすればいいのに...」すると声が戻ってきて、大声で言いました。「はい、マリア様、扉を開けました。」途端に、雨が空から降り注ぎ、炎を消しました。一筋の光がお妃様の上に降り注ぎ、聖母マリアがそばに二人の息子を従え、赤ん坊を腕に抱いて降りてくると、やさしく語りかけて言いました。「罪を悔いあらため認める者は許されます。」それから3人の子供たちを渡し、舌の縛りを解き、お妃様が一生幸せに暮らしていけるように約束しました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

猫とねずみとお友だち

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

ある猫がはつかねずみと知り合いになり、猫がねずみに、あなたをとても好きだし友達になりたいんだ、としきりに言ったので、とうとうねずみは猫と一緒に暮らし家事をすることを承知しました。「だけど、冬に備えなくてはいけないね。そうしないとひもじい思いをするよ。」と猫は言いました。「それでネズミくん、君はあちこち出歩けないよ。そうしないといつか罠にかかるだろうからね。」
親切な忠告に従い、一壺の脂肪を買いましたが、その壺をどこに置いたらいいかわかりませんでした。だいぶ考えた後、とうとう猫が、「それをしまっておくのに教会よりもよい場所はわからないね。だってそこからは誰もものをとっていかないからな。祭壇の下に壺を置いて、本当に困るまでそれに触らないでおこうよ。」と言いました。
それで壺は安全な場所に置かれましたが、まもなく、猫はそれがとても欲しくなり、ねずみに言いました。「ネズミくん、話したいことがあるんだ。いとこが息子を産んで、僕に名付け親になってもらいたいと頼んでるんだよ。その子は白に茶色のぶちで、洗礼のとき洗礼盤の上で抱くことになっているんだ。今日は出かけさせてくれ。それで君だけでうちのことをやってくれ。」「ええ、ええ。」とねずみは答えました。「もちろん行ってください。それでなにかとてもおいしいものをもらったら、私のことを思い出してくださいね。甘い洗礼の赤ワインを一滴私も飲みたいわ。」
ところが、これは全部ウソでした。猫にはいとこがいないし、名付け親にも頼まれていませんでした。猫はまっすぐ教会へ行き、脂肪の壺に忍び寄り、舐め始め、脂肪の上端を舐め尽くしました。それから町の屋根の上を散歩し、めぼしいものはないかと眺めまわし、日なたで長々と寝そべり、脂肪の壺を思い起こす度に唇を舐め、夕方になってやっと家に戻りました。「あら、お帰りなさい。」とねずみは言いました。「きっと楽しい一日だったでしょうね。」「万事うまくいったよ。」と猫は答えました。「名前は何てつけたの?」「"上無し"だよ。」と猫はまるっきり涼しい顔で言いました。「"上無し"ですって?」とねずみは叫びました。「それはとても変な変わった名前ね。あなたの家では普通の名前なの?」「それがどうしたんだい?君んとこの名付け子たちがよばれるみたいな"パン屑泥棒"よりましだよ。」と猫は言いました。
まもなく、猫はまた舐めたい発作に襲われました。猫はねずみに「お願いがあるんだが、もう一度一人で家を切り盛りしてもらいたいんだ。また名付け親に頼まれてね。首のまわりに白い輪がある子供なのでね、断れないんだ。」と言いました。お人よしのねずみは了解しました。しかし、猫は町の塀の後ろを忍び歩いて教会へ行き、壺の脂肪を半分食べてしまいました。「独り占めして食べるものほどうまいものはないな。」と言って、今日の仕事にすっかりご満悦でした。家に帰ると、ねずみは、「今日の子供は何て名付けられたの?」と尋ねました。「"半分終わり"さ。」と猫は答えました。「何を言ってるの?生まれてこのかたそんな名前聞いたことがないわ。暦にないって賭けてもいいわよ。」
まもなく猫の口はもっと舐めたくて唾が出始めました。「良いことは三度ある」と猫は言いました。「また名付け親に頼まれてね。子供は真っ黒で、足だけ白いんだが、それを除けば全身一本も白い毛がなくて、こういう子は何年かに1回しか産まれないんだよね。行かせてくれるよね?」「"上無し"、"半分終わり"」とねずみは答えました。「とてもおかしな名前ばっかり。どういうことかと考えさせられるわ。」「君は濃いねずみ色の毛皮を着て、長いしっぽで家にいて、いろんな空想にふけっているんだろ。そんなのは君が昼間外出しないからだよ。」と猫は言いました。 猫が留守の間ねずみは家を掃除し、片づけましたが、がめつい猫は壺の脂肪をすっからかんにしてしまいました。「すっかり食べてしまうと落ち着くな。」とお腹をいっぱいにしてふくらました猫は独り言を言いました。そして夜になってから家に戻りました。ねずみはすぐに、3番目の子供は何という名前になったか尋ねました。「他の子たちよりもっと君の気に入らないだろうね。」と猫は言いました。「その子は、"全部無し"だよ。」「"全部無し"ですって?」とねずみはさけびました。「それは一番怪しい名前ね。印刷したものにも見たことないわ。"全部無し"、いったいどういう意味かしら?」そしてしきりに頭を振っていましたが、そのうち丸まって横になり眠ってしまいました。
このときからは誰も猫を名付け親によばなくなりました。しかし、冬がきて、もう外で何も見つからなくなると、ねずみは蓄えておいた食料を思い起こし、「ねえ、猫さん、自分たちのためにしまっておいた脂肪の壺のところに行きましょう。おいしいでしょうね。」と言いました。「そうとも。」と猫は答えました。「君がその贅沢な舌を窓から突き出してたのしいのと同じくらいおいしいさ。」二匹は出かけましたが、着いてみると、脂肪の壺は確かにまだその場所にあったものの空っぽでした。「ああ、どういうことか今わかったわ。今はっきりした。あなたは本当の友達ね。名付け親をしていたとき全部たべちゃったのね。最初は"上無し"、それから"半分終わり"、それから...」「黙れ!」と猫は叫びました。「あと一言喋ったらお前も食っちまうぞ。」"全部無し"はもう可哀そうなねずみの唇に来ていて、それを言った途端、猫はねずみに跳びかかり、つかまえて、飲みこみました。本当に、それが世間というものね。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

人の願いがまだ叶っていた昔、一人の王様が住んでいました。娘たちはみな美しく、とりわけ1番下の娘はとても美しかったので、沢山のものを見てきた太陽もその娘の顔に光を当てたときはいつも驚くばかりでした。王様のお城のすぐ近くに大きな暗い森があり、その森の古いライムの木の下に泉がありました。暖かい日にはその王様の子供は森にでかけ、涼しい泉のそばに座り、飽きてくると金の玉をとり出し、高く放り投げてつかまえました。この玉がお気に入りの遊び道具でした。
あるとき、金の玉は、王女さまがつかまえようとのばしていた小さな手に落ちてこないで、その向こうの地面に落ち、水の中に転がっていってしまいました。その玉は目で追いかけましたが、消えてしまいました。その泉はとても深いので底が見えませんでした。それで王女さまは泣き出し、だんだん大声で泣きましたがなぐさめられませんでした。こんなふうになげいていると、誰かが「お姫さま、どうして泣いてるの?石だってかわいそうに思うくらいに泣いてるもの。」と言いました。
その声の来たほうに顔を向けると、蛙が大きな醜い頭を水から伸ばしているのが見えました。「まあ、蛙さん、あなただったのね。私の金の玉がなくなって泣いてるの。泉の中に落ちちゃったの。」と王女さまは言いました。「静かにして、泣かないんだよ。助けてあげるよ。だけどもし僕が君のおもちゃを持ってきたら君は何をくれる?」と蛙は答えました。「何でもあげるわ、洋服や真珠、宝石、私がかぶっている金の冠でもあげる。」と王女さまは言いました。「君の洋服や真珠や宝石は欲しくないよ。金の冠もね。だけど君が僕を愛してくれて、君のそばにいて遊び相手にしてくれて、食卓でそばに座り君の金の皿から食べ物を食べ、君のカップから飲み、君のベッドで眠らせてくれるなら、もし君がそういうことを約束してくれるなら、僕は下に行って君の金の玉を戻してきてあげるよ。」と蛙は答えました。
「いいわ。金の玉をとり戻してくれさえしたら、あなたの望む何でも約束するわ。」と王女さまは答えました。でも心の中では「このばかな蛙はいったい何を言ってるの?この蛙がすることって他の蛙と一緒に水の中で、ゲロゲロ鳴くだけよ。人間の仲間入りなんてできっこないわ。」と思っていました。
しかし、この約束をしてもらった蛙は水の中に頭を入れ、もぐっていきました。そして、まもなく、口に玉をくわえて水面に上がってきて、その玉を草の上に放り投げました。王さまの娘は再びきれいな玉をみることができて喜びました。そしてそれを拾い上げると走っていってしまいました。「待って、待ってよ。僕を一緒に連れてってよ。君みたいに走れないよ。」と蛙は言いました。しかし、追いかけながら、声をかぎりにゲロゲロ叫んでも何の役にたったことでしょう。王女さまは耳を傾けないで走って家に帰り、かわいそうな蛙のことは忘れてしまいました。しかたなく蛙は泉の中へ戻るしかありませんでした。
次の日、王女さまが王様や宮廷人たちと食卓につき、金の皿から食べていたとき、大理石の階段をペタペタと何かが這ってきました。そして一番上までくるとドアをノックして、「お姫様、お姫さま、僕にドアを開けてください。」と叫びました。王女さまは誰がいるのか見ようとドアを開けました。しかしドアを開けると、その前にはあの蛙がいました。それで王女さまは大急ぎでドアをバタンと閉め、また食卓に戻り、怖がっていました。王様は、娘がとても苦しそうにハァハァ息をしているので、「娘よ、何をそんなに怖がっているんだい?外にはお前をさらいにきた巨人がいるとでもいうのかい?」と言いました。「あ、違うの。巨人ではなくて嫌な蛙よ。」と娘は答えました。
「蛙がお前に何の用があるんだい?」「お父さま、ええとね、昨日森で泉のそばに座って遊んでいたら、金の玉が水に落ちちゃったの。それですごく泣いていたものだから、蛙がそれをとってきてくれたの。で、蛙がしつこく言うものだから、私のお友達にするって約束したの。だけど蛙が水から出てこれるって私は思わなかったの。で今外にいて私のところに来たがっているのよ。」
そうしているうちに、2回目のノックをして、蛙は言いました。「お姫様、お姫さま、僕にドアを開けてください。昨日泉の冷たい水のところで私に言ったことを知らないの?お姫様、お姫さま、僕にドアを開けてください。」
すると王さまは、「約束したことはやらなくてはいけないよ。行って入れなさい。」と言ったので、娘は行ってドアを開けました。蛙はぴょんと入ってきて、王女さまの椅子まで一歩また一歩と、あとをついてきました。そうして椅子のところで蛙は座り、「そばまで僕を持ち上げてください。」と叫びました。王女さまがぐずぐずしていたので、とうとう王さまはそうするように命じました。蛙はいったん椅子の上になると、食卓の上にのぼりたがりました。そして食卓の上に上ると、「さあ、一緒に食べれるように金の皿をもっと僕の近くに押してください。」と言いました。王女さまはその通りにしましたが、喜んでそうしたのではないことが簡単に見てとれました。蛙は食べた物を味わいましたが、王女さまは一口ごとにのどが詰まりました。
しまいに蛙は、「食事をして満足したよ。もう疲れた。僕を君の小さな部屋へ運んでくれ。そして君の絹のベッドを準備してくれ。僕たちは一緒に横になり、眠るんだ。」と言いました。王さまの娘は泣き出しました。というのは、蛙に触りたくないし、これからきれいな小さいベッドで眠ることになっている冷たい蛙をおそれたからです。しかし王さまは、「お前が困っているとき助けてくれた人を後になって嫌がるんじゃないよ。」と怒って言いました。それで王女さまは2本の指で蛙をつかみ二階に運ぶと、すみに置きました。
しかし王女さまがベッドに入ると、蛙は近くに這ってきて、「僕は疲れている。僕も君のように眠りたい。僕を持ち上げてくれ。でないと君のお父さんにいいつけるよ。」と言いました。これを聞くと王女さまはとても怒り、蛙を持ち上げると、ありったけの力で壁に投げつけました。そして「さあ、これで静かにするでしょう、嫌らしい蛙め。」と言いました。しかし下に落ちたときは蛙ではなく優しく美しい眼をした王子さまになっていました。今、王子さまは娘の父親のすすめで王女さまの友達であり夫となったのです。それから王子さまは悪い魔法使いに魔法をかけられていたこと、その王女さま以外はだれも自分を泉から救えないこと、明日は自分の王国に行くこと、などを王女さまに話しました。
それから二人は眠りにつきました。次の朝お日さまの光で眼をさますと8頭の白馬―その馬の頭にはダチョウの白い羽根がついており、金の鎖でつながれていましたーに引かれた馬車がやってきました。その後ろには若い王様の家来のフェイスフル・ヘンリーが立っていました。フェイスフル・ヘンリーはご主人様が蛙に変えられたときとても悲しかったので、悲しみのため心が破裂しないように心臓のまわりに3本の鉄の輪をはめていました。馬車は若い王様を国に連れて帰るところでした。フェイスフル・ヘンリーは2人の手をとってのせてやり、自分もうしろにのり、ご主人さまが救いだされたので嬉しくてたまりませんでした。馬車が行く道すがら、王子さまは、まるで何かが壊れたかのように、バチンという音が後ろで鳴るのを聞きました。それで振り返って、「ヘンリー、馬車が壊れかかってるぞ。」と叫びました。「違います、ご主人さま、馬車ではありません。私の心臓の輪です。あなたが蛙になり泉に閉じ込められたとき、あまりに心苦しいので私はそこに巻いたのです。」二度目、三度目と、道の途中で何かがバチンと鳴りました。その度に王様の息子は馬車が壊れていってると思いました。しかし、それはご主人様が自由になり幸せになったのでフェイスフル・ヘンリーの心臓からはじけている輪の音だったのです。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

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