グリム童話

グリム童話は、ヤーコプとヴィルヘルム・グリムによって編纂された、時代を超えた民話のコレクションです。これらの物語は、勇気、魔法、道徳をテーマにした話が世代を超えて共鳴し続ける、民俗の宝庫です。「シンデレラ」や「白雪姫」、「ヘンゼルとグレーテル」などの古典から、「漁師とその妻」や「ルンペルシュティルツキン」といったあまり知られていない珠玉の話まで、それぞれの物語がヨーロッパの口承伝承の豊かな織物を垣間見せてくれます。 グリム童話は、その鮮やかなキャラクター、道徳的教訓、そしてしばしば暗いトーンが特徴で、歴史的文脈の厳しい現実と幻想的な要素を反映しています。その永続的な魅力は、楽しませ、教え、驚きをもたらす能力にあり、これが子ども文学の礎となり、民俗学や物語の研究者たちにとっての魅力的な源となっています。

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Episodes

Tuesday Aug 13, 2024

アダムとイヴは楽園から追放された後、不毛の地に家を建て、額に汗してパンを稼ぐほかありませんでした。アダムは土を掘り起こし、イヴは糸を紡ぎました。毎年イヴは一人の子供を産みましたが、子供たちはみんな違っていて、可愛い子もいれば醜い子もいました。かなりの時が経ってから、神様は天使を遣わし、二人の家庭を見に行くと知らせました。
イヴは、神様がそんなに慈悲深いことを喜び、精を出して家をきれいにし、花で飾り、床に灯心草をまきました。それから子供たちを中に入れましたが美しい子供たちだけでした。イヴはその子たちを風呂に入れ洗って、髪をすき、きれいな服を着せ、神様の前で礼儀正しく謙虚にふるまうよう注意しました。神様の前で丁寧にお辞儀し、両手を差し出し、神様の質問には控えめに賢く答えるんですよ、とイヴはさとしました。
ところが、醜い子供たちは、姿を見せてはいけない、と言われました。一人は干し草の下に隠れ、別の子は屋根の下に、三人目はわらの中に、四人目はストーブの中へ、五人目は地下室に、六人目はおけの下に、七人目は酒樽の下に、八人目は古い毛皮のコートの下に、九人目と十人目はイブがいつも子供たちの服を作る布地の下に、十一人目と十二人目はイヴが子供たちの靴を切りぬく皮の下に隠れました。
準備ができるとすぐに玄関の戸をたたく音が聞こえました。アダムが隙間から見ると、それは神様でした。アダムは戸をうやうやしく開け、神様は入ってきました。すると、一列になってきれいな子供たちが立っていて、神様の前でお辞儀し、両手をさしだし、膝まづきました。ところが、神様は子供たちに祝福を与え始め、最初の子の頭に両手を置き、「お前は力のある王様になるがよい」と言い、二番目の子には「お前は王子に」、三番目の子には「お前は公爵に」、四番目の子には「お前は騎士に」、五番目の子には「お前は貴族に」、六番目の子には「お前は市民に」、七番目の子には「お前は商人に」、八番目の子には「お前は学者に」と言いました。神様は、子供たちに最も豊かな祝福の数々もまた与えました。
イヴは神様がこんなにやさしく慈悲深いのを見て、(ここにみっともない子供たちも連れてこよう、神様はあの子たちにも祝福を与えてくださるかもしれないわ)と考えました。それで走っていき、干し草、わら、ストーブ、隠れていたどこからでも、子供たちを出して連れて行きました。それで粗野で、汚く、かさぶたのある、すすだらけの一群がやってきました。神様はほほえんで、その子供たちみんなを見て、「この子たちにも祝福を与えよう。」と言いました。神様は最初の子の頭に両手を置き、「お前は農夫になるがよい」と言いました。二番目の子には「お前は漁師に」、三番目の子には「お前は鍛冶屋に」、四番目の子には「お前はなめし皮業者に」、五番目の子には「お前は機織りに」、六番目の子には「お前は靴屋に」、七番目の子には「お前は仕立て屋に」、八番目の子には「お前は陶工に」、九番目の子には「お前は荷車引きに」、十番目の子には「お前は船乗りに」、十一番目の子には「お前は走り使いに」、十二番目の子には「お前は一生下男に」、と言いました。
イヴはこれを聞いて、「神様、贈り物をずいぶん不公平に分けるんですね。何と言っても、この子たちはみんな私の子です。私が産んだのです。祝福をみんな同じに与えていただきたいものです。」と言いました。しかし神様は「イヴ、お前は分かっていないのだ。この世全体がこの子たちから与えられるようにするのが正しく必要なことだ。子供たちがみんな王子や貴族なら、誰が穀物を育て、脱穀し、粉にして焼くのだ?誰が、鍛冶屋や機織りや大工や石工や人夫や仕立て屋の仕事をするのかね?めいめいが自分の役割を持ち、それで互いを養うようにさせねばならぬ。一つの体の手足のように皆が食べていけるようにするのだ。」と答えました。するとイヴは、「ああ、神様、お許しください。よく考えもしないで口をきいたりして申し訳ありませんでした。み心を私の子供たちにくださいますように。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

昔、とても年とったおばあさんがいて、山あいの人里はなれた空き地にがちょうの群れと一緒に住み、そこに小さな家をもっていました。その空き地は大きな森に囲まれ、毎朝おばあさんは松葉杖をついてよたよた森へ入って行きました。ところがそこではとても元気で、おばあさんの年の割には人が想像もつかないほどしっかりして、がちょうの草を集め、手が届くだけの野の果物を摘み、全部背負って家へ運びました。重い荷でおばあさんが地面に押しつぶされたかと誰でも思ったでしょうが、いつも無事に家に持ち帰りました。誰かと会うと、いつもとても礼儀正しく挨拶しました。「村人さん、こんにちは、いいお天気ですね。ああ、私が草を引きずっているので驚いていらっしゃるんでしょうが、誰でも重荷を背負わなくてはいけないですからね。」それでも、人々はできることならおばあさんと出会いたくなくて、回り道をする方を好みました。息子たちと一緒にいる父親がすれ違う時、父親は「あのばあさんに気をつけるんだよ。手袋の下に鉤づめがあるんだからね。あれは魔女だよ。」と囁きました。
ある朝、ハンサムな若い男が森を通っていきました。太陽が輝き、鳥たちがさえずり、涼しいそよ風が木の葉の間を吹き、若い男は嬉しさと楽しさにあふれていました。まだ誰とも出会っていませんでしたが、ふいに年とった魔女が地面に膝まづいて草刈り鎌で草を刈っているのが見えました。袋にはもういっぱい詰めてあり、その近くには二つのかごがあり、リンゴやナシでいっぱいでした。
「だけど、おばあさん、どうやって運ぶんだい?」と若い男は言いました。「運ばなくちゃいけないのですよ、だんなさん、金持ちの子供はそんなことをしなくてもいいですが、お百姓には、『後ろを見るな、自分の曲がった背中が見えるだけだ』という言い習わしがありますよ。」とおばあさんは答えました。若い男がそばに立ったままなので、「手伝っておくれかい?」とおばあさんは言いました。「あんたはまだ背中が真直ぐだし、若い脚をしてるんだから、大したことじゃないでしょうよ。それに私の家はここからそんなに遠くないさね。山のかげの荒れ地にあるんだ。あんたならうんと早くそこについてしまうよ。」
若い男はおばあさんが可哀そうになりました。「私の父は確かに百姓ではなく」と若い男は答えました。「金持ちの伯爵なんだ。でも、物を運べるのはお百姓だけではないと分かってもらうために、荷物を背負いましょう。」「やってくれるのなら」とおばあさんは言いました。「とても嬉しいね。きっと一時間は歩かなくちゃならないけど、あんたには問題になるもんかね。ただりんごと梨も運ばなくちゃいけないよ。」若い男は一時間歩くと聞くといくぶん不安になって来ました。しかし、おばあさんは若い男をはなそうとはしないで、荷物を背にのせ、腕に二つのかごをかけました。「ほらね、とても軽いじゃろ。」とおばあさんは言いました。「いや、軽くないよ。」と伯爵は答え、悲しそうな顔をしました。「袋は石ころが詰まっているみたいに重くのしかかるし、リンゴとナシは鉛のように重いよ。息もできないくらいだ。」
伯爵は全部下ろしてしまおうと思いましたが、おばあさんはそうさせてくれませんでした。「見てごらん」と嘲って言いました。「若い殿方は、ばばあの私がいつもしょっているのを運ばないってか。口は立派だね、だけど、いざやる段になるとすたこら逃げるってわけだ。」「ぼさっと何をつっ立ってるんだい?」と続けて言いました。「さっさと歩かんかい、だれも荷物をおろしてやらないよ。」
平らな地面を歩いてるうちはそれでもまだ耐えられましたが、山道で上らなくてはいけなくなり、石はまるで生きているように足元から転がると、もう力の限界を越えていました。伯爵の額に汗の玉が吹きだし、背中には熱いのも冷たいのも汗が流れ落ちました。「おばあさん、もうだめだ。ちょっと休みたい。」と伯爵は言いました。「ここではだめだよ」とおばあさんは答えました。「家についたら休ませてやるよ。だけど今は進まなくちゃ。そうしたらあんたにいいことがあるかもしれないよ」「おばあさん、図々しくなっているよ。」と伯爵は言って荷物をふりおろそうとしました。しかしいくらやっても無駄でした。荷物は背中に生えてでもいるようにしっかりくっついていました。伯爵は体を振り回したりひねったりしましたが荷物を取り除くことができませんでした。
おばあさんは見て笑って、すっかり喜んで松葉杖でぽんぽん跳ねまわりました。「怒りなさんな。だんなさん」とおばあさんは言いました。「雄の七面鳥みたいに顔が赤くなっていなさる。我慢して荷物を運びなさいよ。家に着いたら良いものをあげるからさ。」どうしようもありませんでした。伯爵は運命に従うしかなく、おばあさんのあとを辛抱強くよろよろ進みました。おばあさんはますます速くなるようで、伯爵の荷はだんだん重くなりました。突然おばあさんはポンと跳ね、荷物の上に飛び乗り、上に座りました。それでおばあさんがどんなに萎びていても、一番でっぷりした村娘より重かったのです。若者の膝はがくがくしました。しかし、進まないと、おばあさんは小枝とちくちくするイラクサで脚を打ちました。ひっきりなしに呻きながら、伯爵は山を登り、やっとおばあさんの家に着きました。そのときは伯爵はもうくず折れる寸前でした。がちょうたちがおばあさんに気づいて、翼をパタパタさせ、首を伸ばしてがあがあ鳴きながら駆けてきて、おばあさんを出迎えました。
がちょうの群れの後ろから棒きれを持って、強くて太いけれど夜のように醜い田舎娘が歩いてきました。「おかあさん」と娘はおばあさんに言いました。「何かあったの?ずいぶん遅かったのね。」「そんなことないさ。お前。」とおばあさんは答えました。「何も悪いことは起きなくて、それどころか、この親切な殿方に出会ったよ。それで荷物を運んでくれたんだ。考えてもごらん。私が疲れると、私まで背負ってくれたんだよ。だから道がちっとも長いと思わなかったさ。私たちは楽しんでずっと冗談を言い合っていたからね。」
とうとうおばあさんは下りて、若者の背から荷物をとり、腕からかごを下ろすと、とても優しい目で見て言いました。「さあ、戸口の前のベンチに座って休みな。しっかり仕事をしたから、お礼はきちんとするよ。」それからがちょう番の娘に「お前、家に入りな。若い殿方と二人だけでいるのはだめだよ。火に油を注いではいけない。殿方がお前に恋をするかもしれないからね。」と言いました。伯爵は笑っていいのか泣いていいのかわかりませんでした。(あんな恋人なんて)と思いました。(あの娘が三十歳若くたって、心を動かされないよ)
その間、おばあさんはがちょうをまるで子供たちのようになでたりさすったりしていましたが、娘と一緒に家に入りました。若者は茂ったリンゴの木の下でベンチに寝転がりました。空気は暖かく穏やかでした。周りに緑の草原が広がり、西洋サクラソウやタイム、他の何千もの花が咲いていました。その草原の真ん中をきれいな小川が流れ、太陽の光が反射してきらきらしていました。白いがちょうたちが行ったり来たり、水でバチャバチャやったりしていました。(ここはとても気持ちがいいなあ)と若者は言いました。(だけどとても疲れて目を開けていられないな。少し眠ろう。風がびゅっと吹いて僕の脚を体から吹き飛ばさないといいんだけどな。なんせ脚が火口(ほぐち)みたいにぼろぼろだから。)
しばらく眠ったあと、おばあさんが来て若者を揺り起こしました。「起きて」とおばあさんは言いました。「ここにはいられないよ。確かにひどい目にあわせたよ。それでもそれで命がなくなったわけじゃないからね。お金や土地だったらあんたはいらないだろうから、ほら、他のものをあげるよ。」そうして小さな箱を伯爵の手に渡しました。それは一つのエメラルドを切って作られたものでした。「大事にするんだよ、あんたに幸福を運んでくるんだから。」とおばあさんは言いました。伯爵は跳ねあがりました。とてもすっきりした気分で力を回復したので、おばあさんに贈り物のお礼を言い、美しい娘を振り返りもしないで出発しました。
伯爵はもうしばらく歩いていましたが、まだ遠くからがちょうたちの鳴き声が聞こえました。伯爵は三日間荒れ地を抜けるまでさまよわなくてはなりませんでした。それから大きな町に着きました。だれも伯爵を見知っていなかったので、王宮に案内され、そこには王様とお后さまが玉座に座っていました。伯爵は膝まづいて、ポケットからエメラルドの箱を出し、お后の足元に置きました。お后は伯爵に立ち上がって小箱を渡すよう言いました。ところがその箱を開けて中を覗いた途端、お后は死んだように床に倒れました。伯爵は王様の家来に捕まえられ、牢獄に送られそうになりました。そのときお后が目を開き、伯爵を放すよう命じました。それからお后は、伯爵と二人きりで話したいので他の者はさがるように、と言いました。
自分だけになると、お后は激しく泣き始め言いました。「栄華と名誉に囲まれていても何の役に立ちましょう。毎朝私は苦しみと悲しみを心に抱いて目が覚めます。私には娘が三人いました。一番下の娘はとても美しく、世間のみんなが娘を奇跡だと思ってみたものです。雪のように白く、りんごの花のようにバラ色、髪は太陽の光のように輝いている子でした。泣くと目から出るのは涙ではなく真珠や宝石だけでした。15歳のとき王様が三人の娘たちをみんな玉座の前に呼び寄せました。下の娘が入ってきたとき人々がどれだけ娘をじっと見ていたかご覧に入れたかったですわ。」
「それから王様が言いました。『娘たち、わしはいつ死ぬかわからない。今日、わしが死んだ時お前たち一人一人が受け取るものを決めようと思う。お前たちはみんなわしを愛してくれているが、一番わしを愛してくれる者に一番よいものをやろう。』娘たち一人一人は自分が一番王様を愛していると言いました。『どれだけ愛してるか説明してもらえないかな、そうするとお前たちの気持ちがよくわかるだろう。』と王様は言いました。一番上の娘は『一番甘い砂糖のようにお父様を愛しています。』と言いました。二番目の娘は『私の一番素敵なドレスのようにお父様を愛しています。』と言いました。だけど、末の娘は黙っていました。それで父親は、『どうした?お前はどれだけ愛してくれるのかな?』と言いました。『わかりません。私の愛を何にも比べられませんわ。』だけど父親は何か名前をあげなさいと言い張りました。それでとうとう娘は言いましたの。『一番の食べ物でも塩がなければおいしくありません。それで私はお父様を塩のように愛しています。』王様はそれを聞くとかんかんに怒って、『お前がわしを塩のように愛するなら、お前の愛に塩で返そうではないか』と言いました。
そのあと、国を上の二人の娘に分け与えて、末の娘には背中に塩の袋を結わえさせ、二人の家来に言いつけて荒れた森に連れてゆかせました。私たちみんなは末の娘のために許しを願ったり祈ったりしましたわ。」とお后は言いました。「だけど王様は怒りを鎮めることができなかったのです。別れる時末の娘はどんなに泣いたことでしょう。娘の目から流れた真珠が道じゅうに散らばりました。王様はやがてあとになるとそんなに厳しくしたことを悔いて、可哀そうな子供を森じゅうさがさせましたが、誰もみつけることができませんでした。野の獣たちが娘を食べてしまったのではと考えると、悲しくてどうしようもありません。娘はまだ生きていて、ほら穴に隠れてしまっているんだとか、思いやりのある人たちのところで保護されているんだという望みを持って何度も自分をなぐさめました。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

プフリーム親方

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

プフリーム親方は背が低くやせていましたが、元気のよい男で一瞬たりともじっとしていませんでした。顔は、上を向いた鼻がただ一つ目だった特徴で、あばたがあり死人のように青ざめていました。髪はもじゃもじゃの白髪で、目は小さいけれど、ひっきりなしに辺りを見ていました。親方は何でも見て、何でも文句をつけ、何でも一番よく知っていて、いつも自分が正しいのでした。通りに出ると、オールでこぐように両腕を振って歩き、あるときは女の子の桶にぶつかって高くはねとばし、その子が運んでいた水で自分がずぶぬれになりました。「ばかめ!」と親方は、ぶるっと震えながら女の子をどなりました。「わしが後ろを来ているのがわからなかったのか!」
仕事は靴屋で、仕事をしているときはやたら力を入れて糸を引っ張るので、遠くに離れていない人は誰でもこぶしをうちこまれました。一カ月以上親方のところにいる職人はいませんでした。というのはどんなに良い仕事をしても親方は必ず何か文句をつけたからです。縫い目の大きさがそろっていないというときもあれば、靴が片方大きいとか、かかとが片方高いとか、皮を小さく切りすぎるとかいうときもありました。親方は「待て、とうやって皮を柔らかくするか教えてやる。」と職人に言ったかと思うと、革紐をもってきて、職人の背中を2,3回鞭打ちました。親方は職人たちみんなを怠け者と呼びました。自分はというと自分の手を動かして大して仕事をしませんでした。というのは15分もじっと座っていなかったからです。
おかみさんが早起きして火をつけると、親方はべっどから跳び起きはだしで台所へ走って行き、「お前は家を燃やすつもりか、そんな火は牛一頭でも焼けるぞ。たきぎはただか?」とどなりました。召使たちが洗濯桶のそばに立ち笑って自分たちの知っていることを話しあっていると、親方は叱って言いました。「がちょうがぐわっぐわっお喋りして仕事を忘れてるわい。なんで作りたての石鹸なんだ?けしからん無駄遣いだ、おまけに不届きにも怠けているぞ。自分の手を守ろうとしてちゃんと洗濯ものをこすらないでやがる。」そして走って出ていき、石鹸水のいっぱい入った桶に蹴つまづいてひっくり返してしまったので、洗い場がみんな水浸しになってしまいました。
新しい家を立てている人がいたので、親方は見物のため窓に急いでいきました。そこで大声で言いました。「あいつら、あの赤い砂石をまた使っているよ、あれは乾かないんだ。あの家じゃあ誰も元気でいられないよ。ほら、あの石のひどい積み方。それに、モルタルが役にたっていない。中に砂でなく砂利を入れなくちゃいけないのに。わしの生きてる間に家が壊れて住む人たちに落ちてくるのが見れるわい。」座って二針か三針縫い、それからまたパッとたちあがると、革の前掛けをはずし、「ちょっとでかけてあいつらに説教してくる」と叫びました。
親方は大工たちにでくわしました。「何だ、こりゃ?あんたら、線に合わせてやってないじゃないか。梁がまっすぐになると思うのか。一つ悪けりゃみんな悪くなるんだぞ。」とどなって、一人の大工の手から斧をひったくり、どう切るか手本を示そうとしました。しかし、粘土を積んだ荷馬車が通りかかると、斧を放り投げ、荷馬車のそばを歩いていた百姓のところに急いで行きました。「お前、気は確かか?どこのどいつが重い荷を積んだ車に若い馬をつなぐんだ?可哀そうな馬はすぐに死んでしまうぞ。」と親方は言いました。百姓は答えませんでした。それでプフリームはぷんぷんして自分の仕事場に走って戻りました。
親方がまた仕事にとりかかっていると、職人が靴を伸べてよこしました。「はあ、また何だよ、これは?」と親方はどなりました。「こんなに幅を広げて靴を切るんじゃないと言わなかったか?こんな靴を誰が買うと言うんだ。底だけとしか言えん。しっかり教えた通りにやれと言ってるんだ。」「親方」と職人は答えました。「その靴のできが悪いとおっしゃるのはごもっともでしょう。だけどそれは親方が自分で切って作ったものです。さっき親方が立ち上がったとき仕事台から落ちたので、私はただ拾っただけです。でも天国の天使でも親方にそれを信じさせることはできないでしょう。」
ある夜、プフリーム親方は自分が死んで天国へ行く夢をみました。そこに着くと親方は戸をドンドンと音高くたたきました。「天国では」と独り言を言いました。「戸にたたき金がついていないのかね?戸をたたいて指のつけねが痛くなっちまうじゃないか」使徒ペテロが戸を開け、こんなに騒がしく入りたがっているのは誰か見ようとしました。「ああ、プフリーム親方、お前か」とペテロは言いました。「まあ、お前を入れてやるが、お前のあの癖はやめなければならんと注意しておく。天国で見るものには何も文句を言ってはいけない。そうしないとまずいことになるからね。」「言われなくてもわかっていますよ。」とプフリームは答えました。「何がふさわしいかはもう知っていますよ。ここでは、有り難くも、何でも申し分ないです。地上と違ってとがめだてすることは何もありませんよ。」それで親方は入っていき、天国の広いところをあちこち歩き回りました。
親方は、左を見、右を見して、まわりを見回しましたが、ときどき頭を振ったりなにかぶつぶつ独り言を言ったりしました。すると角材を運んで行く二人の天使が見えました。それは他の人の目に入っているトゲを探しているのに自分の目に入っている角材でした。ところが天使たちはその角材を縦にではなく横にして運んでいました。(あんなふうにやるのは間抜けだとわからなかったのかね?)とプフリーム親方は思いましたが、何も言わないで、納得したようにみえました。(真直ぐだろうが斜めだろうが、どっちで角材を運んでも、うまくやりさえすればおんなじことさ。それに、実際、二人は何にもぶつかっていないしな。)と考えたのです。
このあとすぐ、井戸から手桶に水を汲んでいる二人の天使が目に入りましたが、またその手桶は穴だらけで水があちこちに飛び散っているのも見えました。天使たちは地上へ雨を降らせていたのでした。「いまいましい!」と親方は叫びましたが、幸いにもハッと気づいて、(多分ただの暇つぶしかもしれないな。それが娯楽なら、こういう無駄なことをしたっていいような気がする。特にここ天国ではな。もうわしもわかってきたが、人間もここではただぶらぶらしてるだけだし。)と思いました。
親方はさらに進んでいくと深い穴にしっかりはまっている荷車が見えました。「無理もないな」と親方は近くに立っている男に言いました。「こんなにわけがわからなく積むんだからな。何を積んでいるんだ?」「良い願いだよ」と男は答えました。「これを正しい道にのせることができないんだ。だけど、ここまで無事に押しあげたよ。それでみんなはここにはまったまま放っておかないだろう。」実際、天使が一人やってきて、その荷車に二頭の馬をつなぎました。(本当だ。だけど二頭の馬じゃあの荷車をとりだせないぞ。少なくたって四頭はいなくちゃだめだ。)と親方は思いました。しかしまた一人天使がやってきて、もう二頭の馬を連れてきました。ところが天使は馬を荷車の前につながず後ろにつなぎました。プフリーム親方はとうとう我慢が出来なくなり、「まったく下手糞だな!」と急に喚き出しました。「何やってんだよ。荷車をそんなふうにひくなんて世界が始まってからみたことがあるか?だけどお前は、いい気になって、自分が何でも一番知ってると思ってるんだろ。」親方はもっと言おうとしましたが、天国の住人の一人が喉をつかんで抗いがたい力で押し出しました。門の下でプフリーム親方がもう一回荷車を見ようと頭を回すと、荷車が四頭の翼のある馬で空中に持ち上げられているのが見えました。
このとき、プフリーム親方は目が覚めました。「天国では確かに地上とはいろいろ仕組みが違うわな。」と独り言を言いました。「たくさん言い訳もある。だけど、馬が前と後ろにつながれるのを誰が我慢して見てられるかってんだ。確かに馬には翼があったが、そんなこと誰が知るか?それにな、もう走るための足が四本あるってのに、また翼を二枚つけるってのはずいぶん馬鹿げた話だ。だけど、もう起きなくちゃ。さもないとあいつら家の中で間違いだらけだからな。だけどよかったよ、本当に死んでなくてさ。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

死神の使いたち

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

古代に、ある時巨人が広い大通りを旅をして歩いていました。すると突然見知らぬ男が前に飛び出して、「止まれ。あと一歩も歩くな。」と言いました。「何だと?おれが指の間でつぶせるやつが道をふさぎたがってるわい。」と巨人は叫びました。「ずいぶん思い切った真似をするじゃないか、お前は誰だ?」「わしは死神じゃ。」とその男は答えました。「誰もわしにははむかえない。そしてお前もわしの命令に従わねばならぬ。」しかし巨人は断って死神と戦い始めました。それは長く激しい戦いでしたが、とうとう巨人が優勢になりこぶしで死神を打った結果、死神は石のそばに倒れました。巨人は道を進み、死神は負けてそこに倒れたまま、とても弱ってもう起きあがれませんでした。「わしがここの隅に倒れていれば、どうなるかのう。世界の誰も死なないで、人間があふれかえり、お互いに立ってる隙間もなくなるぞ。」と死神は言いました。
そのうちに若い男が道をやってきて、丈夫で健康な男で、歌を歌いながら、あちこち見まわしていました。男は半分気を失っている男を見ると、同情してその男のところへ行き、起きあがらせ、自分のびんから気つけの飲み物を口に注ぎ入れ、その男が力を取り戻すまで待っていました。見知らぬ男は起きあがりながら、「わしが誰か、お前がまた足でたてるように助けたのは誰か、知ってるかね?」と言いました。「いいえ、私はあなたを知りませんよ。」と若者は答えました。「わしは死神だよ。わしは誰も容赦せんし、お前にも例外を作れん。だが、わしが感謝しているのがわかるように、わしがふいにお前を訪ねるのではなく、わしが来てお前を連れて行く前に使いを送ると約束しよう。」と死神は言いました。「え~と、いつあなたが来るか僕に知らせてくれるというのは得だね。とにかくその間はあなたから無事というわけだ。」と若者は言いました。それから若者は道を進んで行き、心が軽く、考えなしに暮らしました。
しかし、若さと健康は長く続きませんでした。まもなくたくさんの病気や悲しみがやってきて、昼は男を苦しめ、夜は休息を取り去りました。「私は死なないのだ。死神がその前に使いをよこすんだからな。だが、この病気のひどい毎日が終わって欲しいものだなあ。」と男は独り言を言いました。具合がよくなるとすぐに、男はもう一度楽しく暮らし始めました。するとある日、誰かが男の肩をたたきました。男が見回すと、死神が後ろに立っていて、「わしについて来い。この世に別れるときが来た。」と言いました。「何だって?」と男は答えました。「約束を破るのか?あなたは自分で来る前に使いを送ると約束しなかったか?私は誰にも会っていないよ。」「だまれ。」と死神は答えました。「わしは次から次へと使いを送らなかったか?熱が来てお前を打ちのめし、震えさせ、倒さなかったか?めまいがお前の頭をまごつかせなかったか?通風がお前の足を曲がらせなかったか?耳鳴りがしなかったか?歯痛がおまえの頬にかみつかなかったかね?目の前が暗くならなかったかね?そのほかにわしの弟が毎晩わしのことを思い出させなかったかね?もう死んだみたいに夜横になっていなかったかね?」男は答えることができず、運命に従い、死神と一緒に去って行きました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

寿命

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

神様が世界を創って、それぞれの生き物の寿命を定めようとしました。すると、ロバがやってきて、「神様、私はどのくらい生きますか?」と尋ねました。「30年だ。」と神様は答えました。「それで満足か?」「ああ、神様」とロバは答えました。「それは長いですね。私の骨の折れる毎日を考えてください。朝から晩まで重い荷物を運び、他の人たちがパンを食べれるように粉ひき小屋までなん袋も穀物を引きずっていき、ぶたれたり蹴られたりする他は何も励ましてもらったり元気づけてもらったりしないのです。この長い年月を少し減らしてください。」すると神様はロバを可哀そうに思い、18年減らしてあげました。
ロバはホッとして去り、犬が現れました。「お前はどれくらい生きたいかね?」と神様は犬に言いました。「ロバには30年が多すぎたのだが、お前はそれでいいだろう。」「神様」と犬は答えました。「それが神様の思し召しですか?私がどれだけ走らないといけないかお考えください。私の足はそんなに長くもちません。それにいったん声が出なくなり吠えられなかったり、歯が無くなってかみつけなくなれば、私に残るのはすみからすみへ走って行き唸るだけです。」神様は犬の言うことをもっともだとわかり、12年寿命を減らしてあげました。
すると猿が来ました。「お前はきっと喜んで30年生きるだろうな。」と神様は猿に言いました。「お前はロバや犬のように働かなくていいし、いつも楽しくやってるからな。」「ああ、神様」と猿は答えました。「そんな風に見えるかもしれませんが、全然違います。キビがゆが降ってきても、スプーンがありません。私はいつも楽しいいたずらをしたり、いろいろ変な顔をして人々を笑わせなくてはならないのです。りんごをもらってかじってみると、まあ、酸っぱいこと。どれだけ喜劇のかげに悲劇ありなことか。30年もとてももちません。」神様は恵み深く、10年減らしてあげました。
最後に人間が現れました。人間は楽しそうで健康で元気いっぱいでした。そして寿命を決めてくださるよう神様にお願いしました。「お前は30年生かそう。」と神様は言いました。「それで十分かね?」「何て短いんでしょう。」と人間は叫びました。「私が家を建て、火を自分のかまどで燃やし、木を植え花が咲き実を結ぶとき、私は死ななくてはなりません。ああ、神様、私の寿命を延ばしてください。」「それではロバの18年をそれに足そう。」と神様は言いました。「それでも十分じゃありません。」と人間は答えました。「犬の12年もお前にやろう。」「まだ少なすぎます。」「ええと、それでは」と神様は言いました。「猿の12年もやろう。だがそれ以上はだめだぞ。」
人間は去っていきましたが満足していませんでした。それで人間は70年生きるのです。最初の30年は人間の年月ですぐ終わり、そのときは健康で明るく、楽しく働き、自分の人生を楽しみます。次にロバの18年が続き、このときは次から次へと重荷を背負い、他の人に食べさせる穀物を運ばなくてはなりません。そしてなぐられたり蹴られたりするのが、一生懸命務めたことの報いです。それから犬の12年が来ます。そのときはすみにいて、うなり、もう噛む歯がありません。これが終わると、猿の10年でおしまいになります。そのとき人間は頭が弱って愚かになり、ばかげたことをして、子供たちの笑い者になります。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、夜はいつも暗く空が黒い布のようにおおっている国がありました。というのはそこには月が昇らず、星も暗闇に輝くことがなかったからです。世界を創造したときは夜の光は十分あったものですから。あるとき、四人の若者がこの国を出て旅にでかけ、よその国に着きました。そこでは太陽が山のかげに沈んでしまったあと、樫の木に光る玉が置かれ、あたりに柔らかい光を投げかけていました。このため、太陽ほどまばゆくはありませんでしたが、何でもとてもよく見えて、見わけがつきました。旅人たちは立ち止まって荷馬車で通りすぎていく村人に、「あれはどういう明かりですか?」と尋ねました。
「あれはお月さまですよ。」と村人は答えました。「私たちの村長が三ターラーで買って来て、それを樫の木に止めたんです。村長は、いつも明るく燃えるように毎日油を注いでやりきれいにしておかなくてはいけないんですよ。その分私たちは村長に毎週一ターラー払うんです。」村人が行ってしまうと、旅人の一人が「このランプは役に立つぜ。故郷にこれと同じくらい大きい樫の木が一本ある。そこに吊るせるよ。夜に暗闇を手さぐりしなくてよくなれば、楽しいだろうな。」「いいかい、こうしようよ」と二番目の若者が言いました。「荷車と馬をとってきて、お月さまを運んで行こう。ここの人たちはまた別のを買うだろうよ。」「おれは木登りがうまいぜ。あれをとってくるよ。」と三番目の若者が言いました。四番目の若者が荷車と馬を運んできて、三番目の若者が木に登ってお月さまに穴をあけそこに綱を通し、下に下ろしました。
輝く玉を荷車にのせると、誰にも盗んだものがみえないように布をかぶせました。それから、四人は自分の国に無事に玉を運び、高い樫の木に置きました。新しいランプがその光を土地じゅうにそそぎ、寝室や居間が光でいっぱいになると老いも若きもみんな喜びました。小人たちは岩のほら穴から出てきて、小さな赤い上着を着た小妖精が草原でいくつもの輪になって踊りました。四人はお月さまに油がきれないように注意し、芯をきれいにし、週間のターラーを受け取りました。
しかし、四人も年をとり、一人が病気になって死ぬ時が来たとわかると、お月さまの四分の一は自分の財産として自分と一緒に墓に入れるようにと言い残しました。それでこの人が死ぬと市長が木に登って、刈り込み鋏でお月さまの四分の一を切りとり、棺に入れました。お月さまの光は弱くなりましたが、まだ目に見えてわかるほどではありませんでした。二人目が死ぬとまた四分の一がこの人と一緒に埋められ、光が減りました。三人目も同じように自分の分を持って行ったので、その人が死んだあとは光はずっと弱くなりました。四人目が墓に入ったとき、また昔の暗闇に戻り、人々が夜にカンテラを持たないで外を歩くと頭をぶつけあいました。
ところが、お月さまの四つのかけらは、暗闇だけがいつも広がっていた地下の世界でまたお互いにくっついて元通りになりました。それで、死人がそわそわし、眠りから覚めました。死人たちはまた物がみえるようになりびっくりしました。死人たちには月明かりで十分でした。というのは目がすっかり弱っていたので、太陽の明るさには耐えられなかったのです。
死人たちは起きあがると陽気になり、前の暮らし方をしだしました。遊びに出かけ踊るものもあれば、飲み屋に急ぎ、ワインを注文し、酔っぱらって、怒鳴り合って喧嘩をし、果てはこん棒まで持ちだしてお互いに殴り合う者までいました。その騒ぎはだんだん大きく大きくなって、とうとう天国までとどきました。
天国の門を守っている聖ペテロは、下の世界で暴動が起こったと思い、天国の軍勢を集めました。その軍勢は、悪魔と仲間が祝福されている者たちの住まいに押し寄せたら追い返すために使われていたのです。ところが、悪魔たちがやってこなかったので、聖ペテロは馬に乗り、天国の門を通り抜け、下の世界に下りて行きました。そこで死人たちをおとなしくさせてまた墓に寝るように言いつけ、お月さまを一緒に持って帰り、天に吊るしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

ふくろう

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

二、三百年前、人々が今ほどずる賢くなく悪知恵が働かないとき、小さな町で奇妙なことが起こりました。どういうわけか、ワシミミズクという大ふくろうが一羽、夜の間に近くの森から町の人の納屋に入りこみ、このふくろうが現れると恐ろしい叫び声をあげる他の鳥たちを恐れて、夜が明けてもこの避難場所から二度と出ていこうとしませんでした。
朝に、下男はわらをとりに納屋に入って行った時、片隅にふくろうが止まっているのを見てひどくおどろいたので、逃げて行って、主人に、「生まれてこのかた見たこともない怪物が納屋にいて、いとも簡単に人を食いそうにして、目をぐるぐる回しているんです。」と知らせました。「お前というやつを知ってるよ。」と主人は言いました。「お前は野原でつぐみを追いかけ回す勇気はあるが、めんどりが死んでるのを見ると近くへ寄る前に棒を持たなくちゃいけないんだからな。わしが自分で行ってどんな怪物か見てこなくてはならぬな。」と主人は付け加え、全く平気で納屋に入って行き、辺りを見回しました。
ところが、自分の目で奇妙なゾッとする生き物を見たら、下男に負けず劣らずびっくり仰天しました。二回跳びはねて外へ出て、近所の人たちのところへ駆けていき、見たことのない危険なけものをやっつけるのに手を貸してくれ、さもないと閉じ込めてある納屋から抜け出るようなら町中が危険にさらされるぞ、と泣きださんばかりにお願いしました。町の通りがみな大騒ぎになり、町の人たちは、まるで敵に立ち向かっていくかのように、槍や熊手や草刈り鎌や斧で武装してやってきました。
最後に、町長を先頭に議員たちがやって来ました。みんなは広場で整列し、納屋に行進して、周りを取り囲みました。そのあとすぐ、一番勇気のある男が進み出て槍を構えて入っていきましたが、すぐ後で悲鳴を上げたかと思うと死人のように青ざめて駆け戻ってくると、一言も口を言えませんでした。それでもあと二人が入って行きましたが、同じような結果になりました。とうとう、戦争の手柄で有名な大きな力のある男が出てきて、「あんた方、ただ見ていたって怪物を追い払うことにならん。ここは本気にならなくてはいかんのに、あんた方はみんな女に変わってしまったようだの。誰ひとりとしてそいつと戦おうとせんのか。」と言いました。
男はみんなに鎧をくれと命じ、刀と槍を持って来させ、身支度を整えました。男の命を心配する人も多かったのですが、みんな男の勇気を誉めたたえました。二枚の納屋の戸が開かれ、みんなにふくろうがみえました。ふくろうはその間に大きな横げたの真ん中にとまっていました。男ははしごを持って来させ、立てかけると上る支度をしました。周りで見ていたみんなは、勇敢に頑張ってくれよと声援をおくり、竜を退治した聖ジョージに、この人をどうぞお守りください、と祈りました。男が上に着いた途端、ふくろうは男が自分を狙っているとわかり、また大勢の人と大声にどぎまぎして、逃げ場がわからないので、目をぐるぐる回し、羽を逆立てて、翼をばたばたさせ、くちばしを鳴らし、ホーホーと耳障りな声で鳴きました。「グサリやれ、グサリやれ」外の人たちが勇敢な戦士に叫びました。「おれがいるところにいれば」と男は答えました。「誰も『グサリやれ』と叫ばないだろうよ。」男ははしごの一段上に足をのせることはのせましたが、震え出し、半ば気を失って戻って来ました。さあ、これでそんな危険に身を置く人は誰も残りませんでした。
「怪物は」と人々は言いました。「おれたちの中で一番強い男に、毒を吹きかけ死ぬ目にあわせたのだ。くちばしを鳴らし、ただ息を吹きかけるだけでな。おれたちも命をかけねばならんのか」みんなは町がすっかり破壊されないようにするにはどうしたらよいか相談しました。しばらくの間どの案も役に立ちそうに思えませんでしたが、とうとう町長が間に合わせの手立てを見つけました。
「わしの意見は」と町長は言いました。「町の金でこの納屋と中に入っている麦、わら、干し草などいっさいの分を支払って持ち主に埋めあわせするんだ。それから建物と恐ろしいけものを一緒に燃やす。こうすれば誰も命を危険にさらさなくてよいではないか。今は費用を考える時ではないし、けちけちするのは当てはまらないだろうよ。」みんなはこれに賛成しました。それで納屋の四隅に火をつけ、納屋と一緒にふくろうは惨めにも燃やされてしまいました。
信じない人はそこへ行って自分で尋ねてごらん。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

「群れにえさをやるのにどこが一番好きかい?」と男が年とった牛飼いに言いました。「ここですよ、だんな、草が良すぎでも悪すぎでもないところですよ。でないと駄目です。」「どうして駄目なんだ?」と男が尋ねました。「あそこの草原からあの憂鬱な鳴き声が聞こえますか?あれはサンカノゴイですよ。サンカノゴイは昔牛飼いでした。ヤツガシラもそうでした。こんな話ですよ。サンカノゴイは群れを花がたくさん生えている豊かな緑の草原に放しました。それで牛たちは荒々しくて手に負えなくなりました。ヤツガシラは高いやせ地の山に牛を駆り立てました。そこでは風が砂と遊び、牛たちはやせて力が無くなりました。夕方になって牛飼いたちは牛を帰らせようとしましたが、サンカノゴイは二度と牛を集められませんでした。牛たちはあまりに元気がよすぎて逃げてしまったんですよ。サンカノゴイは『来い、牛よ、来い、』とよびましたが、無駄でした。牛は呼び声に全然注意しませんでした。だけど、ヤツガシラは牛たちの脚を立たすことすらできませんでした。とても弱ってしまったんですよ。『立て、立て、立て』とヤツガシラは叫びましたが、無駄でした。牛たちは砂にねたままでした。人がほどほどにやらないときそうなるんです。それで、今日まで、今は監視する群れもないけれどもサンカノゴイは『来い、牛よ、来い』と鳴くし、ヤツガシラは『立て、立て、立て』と鳴くんです。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

かれい

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

魚たちは、自分たちの国で秩序が全然行き渡っていないので、長い間不満でした。だれも他の人のために脇によけたりしないで、みんな好きなように右や左に泳いだり、一緒にいたい人たちの間に突進したり、道をふさいだりしていました。そして強い魚は弱い魚を尻尾で突いて、追い散らしたり、さもなければさっさとのみこんでしまっていました。
私たちの中に法と正義を行う王様がいれば、どんなに喜ばしいでしょう、と魚たちは言って、水の中を最も速く進み、弱いものを助ける魚を自分たちの支配者に選ぼうと、一緒に集まりました。海岸のそばに列を作って並び、カワカマスが尻尾で合図をし、みんなスタートしました。矢のようにカワカマスがぱっと進み、ニシンが、セイヨウカマツカが、スズキが、鯉が、そして残り全員がでました。カレイですら、一緒に泳ぎ、レースに勝ちたいと望みました。突然「ニシンが一番だ、ニシンが一番だ。」と叫び声が聞かれました。「誰が一番だって?」と平べったく羨しいカレイは怒って叫びました。カレイはずっと後ろに残されていたのでした。「誰が一番だって?」「ニシン、ニシン!」が答えでした。「裸のニシンか。」と嫉妬深い動物は叫びました。「裸のニシン。」そのとき以来、カレイは、、片側に口をつけられ、罰せられています。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

みそさざい

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔には、どの音にもまだ意味と意義がありました。鍛冶屋のハンマーの音がとどろくとき、「きたえろ、きたえろ」と叫んでいました。大工のかんなは削るとき、「ほら出るぞ、ほら出るぞ」と言いました。水車の車がカタカタ回り始めるなら、「助けて、神様、助けて、神様」と言いました。粉屋がずるい奴で水車を回すとき、水車は高度なドイツ語で話し、最初はゆっくり「そこにいるのは誰だ、そこにいるのは誰だ」と尋ね、そのあと素早く「粉屋、粉屋」と答え、最後にとても早口で、「堂々と盗む、堂々と盗む、一ガロンで三ペック」と言いました。
このころは鳥たちも誰でもわかる自分の言葉を持っていました。今はただチュンチュン、キィー、ピーピー、とか、時には言葉のない音楽のようにきこえるだけです。ところで、鳥たちは、治める者がいないままでいるのはもうやめて、自分たちの一人を王様に選ぼうと思いました。そのなかで一羽だけ、タゲリがこれに反対しました。タゲリは自由に生き、自由に死ぬつもりでいたので、心配して、あっちこっち飛んで、「どこへ行こうか?、どこへ行こうか?」と叫びました。寂しい誰も訪ねない沼地に引っ込んで、もう仲間のところに姿を現しませんでした。
鳥たちはこのことを話しあおうと思い、ある晴れた5月の朝に、森や野原からみんな集まって来ました。ワシ、ズアオアトリ、フクロウ、カラス、ヒバリ、スズメ、全部の名前を言いきれません。カッコウでさえも来たし、その受付係のヤツガシラも来ました。ヤツガシラはいつもカッコウの2,3日前に鳴き声が聞かれるので、そう呼ばれているのです。それからまだ名前がついていないとても小さな小鳥も群れに混じっていました。
めんどりはどういうわけかそのことについて何も聞いていなくて、ものすごい数の集会に度肝を抜かれ、「何だ?何だ?何がおっぱじまるの?」と鳴きました。しかしおんどりは、愛するめんどりを落ち着かせ、「金持ち連中だけだよ」と言って、手元にどれだけあるか話しました。一番高く飛ぶことができる者を王様にすると決められました。やぶに座っていたアマガエルが、それを聞いて、だめ、だめ、だめ、だめ、と警告して叫びました。そうしたらたくさんの者が涙を流すことになるだろうと思ったからです。しかし、カラスはカーカーと鳴いて、何でも平和にうまくいくさと言いました。
さて、このあとで、「もっと高く簡単に飛べたのに、夜がきてしまったから」と誰も言うことができないように、この晴れた朝にすぐに飛び上がることに決まりました。それで、合図で、全員が一斉に空に飛び上がっていき、地面から土煙が上がって、翼のパタパタ、ヒューン、バタバタとものすごい羽ばたきがあり、まるで黒い雲が昇っていくかのように見えました。
小さな鳥たちはすぐに遅れをとり、もう先へ進めなくなって地面に戻ってきました。大きめの鳥たちはもっと長くもちこたえましたが、ワシにかなうものはいませんでした。ワシはとても高く昇って、お日さまの目をつついて出せるほどでした。他の鳥たちがだれも追いついて来れないとわかって、ワシは「これ以上もっと高く飛ばなくていいや。おれが王様だ。」と考えて、また下りはじめました。ワシの下の鳥たちはすぐにワシに向かって、「きっと君が王様だよ。誰も君ほど高く飛んでいないよ。」と叫びました。
「僕以外はね。」と名無しの小さいやつが叫びました。この鳥はワシの胸毛の中に忍びこんでいたのです。それで全く疲れていなかったので、上がっていき、とても高く昇って天そのものに届きました。ところがここまで行ったとき、羽をたたんで、下に向かってはっきりとよく通る声で「僕が王様だ、僕が王様だ」と叫びました。「お前が?おれたちの王様?お前はずるとインチキをしたじゃないか」と鳥たちは怒って叫びました。
それで鳥たちは別の条件を作りました。地中の一番下までもぐることができた者を王様にする、というものです。カモは土の上を広い胸でどれだけパタパタたたいたことでしょう。おんどりはどんなに素早くひっかいて穴にしたでしょう。アヒルは一番悪い結果になりました。というのは溝に跳び込みましたが、脚をねん挫し、近くの池へ「ずるい、ずるい」と叫びながらよたよた歩いて去りました。ところが、名無しの小さな鳥はねずみの穴を探しだし、その中に滑り込んで、そこから小さな声で、「僕が王様だ、僕が王様だ」と叫びました。「お前が?おれたちの王様?お前のずるがみんなに通ると思うのか?」と鳥たちはさらに一層怒って叫びました。
鳥たちは、この名無し鳥をその穴に閉じ込めて飢え死にさせることにしました。フクロウがその前で番をし、自分の命と換えてもこの悪者を出さないことになりました。夜が来て鳥たちは力を出し切って跳んだのでとても疲れていて、妻や子供たちと家へ帰りました。フクロウだけが、ねずみの穴のそばにたったまま、大きな目でじっと穴を見つめていました。するとフクロウも疲れてきて、(片目はつぶってもまだもう一つの目で見張れるさ。それでちびっこの悪党は穴から出て来させないよ。)と思いました。それで片目をつぶり、もう一つの目でネズミの穴をまっすぐ見ていました。ちびすけは頭を出して覗き、ひょいと逃げようとしましたが、フクロウがすぐ前に出てきたので、ちびすけは頭をまたひっこめました。それから、フクロウは夜通しかわるがわる目を閉じようとして、つぶっていた目を開け、もう一方の目を閉じました。しかし、次に片目をつぶったとき、もう一方の目を開けることを忘れ、両方の目が閉じた途端、眠りこんでしまいました。
ちびすけはすぐにそれがわかり、ひょいと跳び出ました。その日から、フクロウは昼間姿を現すことは決してありませんでした。というのは、もし出ていけば、他の鳥たちが追いかけフクロウの羽をむしりとるからです。フクロウは夜だけ外に飛んででますが、そんな醜い穴をあけるねずみを嫌っておいかけるのです。小さな鳥も、つかまれば命にかかわると思うので、見られるのをとても嫌がります。それで垣根の中を忍び歩き、すっかり安全になると時々、「僕は王様だ」と鳴きます。こういうわけで、他の鳥たちはばかにして、この鳥を垣根の王様と呼びます。しかし、小さい王様に従わなくてよいことではヒバリほど喜んだ者はいませんでした。お日さまがでるとすぐ、ヒバリは空高く昇り、「ああ、なんて美しいんだ、美しい、美しい、何て美しい」と鳴きます。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

苦楽をわかつ

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、一人の仕立て屋がいました。この仕立て屋は短気な男で、おかみさんは善良で働き者で信心深い人でしたが、決して亭主の気に入りませんでした。おかみさんが何をしても、亭主は満足しなくて、ぶつぶつ文句を言い、叱り、ぶちのめしたりしました。
ついに役所がそのことを聞き及んで、男を呼んで来させ、よくなってもらおうとして牢屋に入れました。しばらくパンと水を与えられ牢屋に入れられていましたが、また自由になりました。しかし、もうおかみさんをぶたないで、結婚している人たちがそうであるように穏やかに、喜びと悲しみを分かち合って暮らす、と約束させられました。一時は万事うまくいっていましたが、亭主はまた元に戻って不機嫌で喧嘩早くなりました。おかみさんをぶってはいけないので、髪をつかんでひきむしるのでした。女は男から逃げて、庭に跳び出しましたが、男はものさしと鋏を持って追いかけてきて追い回し、ものさしや鋏を投げつけるだけでなく、手近の何でも投げる始末でした。女にあたると笑い、外れると怒鳴って悪態をつきました。こういうことがしばらく続いたので、近所の人たちがおかみさんを助けにのりだしました。
仕立て屋は裁判官の前にまたも呼び出され、約束を思い出させられました。「だんな方、約束を守ってきましたよ。うちのやつをぶたないで、喜びと悲しみを分かち合いました。」と亭主は言いました。「それはいったいどういうことだ?おかみさんは相変わらずお前にかなりひどく苦情を言ってるぞ。」と裁判官が言いました。「あいつをぶっていませんが、ただあいつがとてもみょうちきりんなので私の手で髪をすこうとしたんですよ。ところが、あいつがおれから逃げて、とても意地悪くおれを置いていっちゃったんです。それで、急いで追いかけて、妻の務めに戻すために、ちょうど具合よく手元にあったものを、いい意味で思いだしてもらおうと、あいつに投げたんです。また喜びと悲しみも分かち合っていますよ。だって投げたのがあいつにあたればいつもおれは嬉しさでいっぱいで、あいつは悲しみでいっぱいですから。それで外れればあいつは喜んで、おれは悲しいんですからね。」裁判官たちはこの答えに納得しないで、仕立て屋にふさわしい罰を与えました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

森の家

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

さびしいもりのはずれの小さな小屋に、貧しい木こりが妻と3人の娘と一緒に住んでいました。ある朝、木こりは仕事に出かけようとしている時、妻に「上の娘に森に弁当を持たせてよこしてくれ。そうしないと、仕事が終わらないからね。」と言い、「道に迷わないようにキビを一袋持って行って道にまいておくよ。」と付け加えました。それで、太陽が森のちょうど中央にあるとき、娘はスープのどんぶりをもって出かけて行きました。しかし、野のすずめ、森のすずめ、ひばりやアトリ、つぐみやマヒワがずっとまえにキビをついばんでしまっていて、娘はお父さんの通った道を見つけられませんでした。適当に見込みをつけて娘はどんどん行きましたが、太陽が沈み夜になり始めました。暗闇で木々がガサガサ鳴ってフクロウが啼き、娘は怖くなりました。
すると、遠くに木々の間にチラチラ光る明かりが見えました。娘は、「あそこに人が住んでいるはずよ。一晩泊めてくれるわ。」と思い、明かりに近づいて行きました。ほどなくして娘は窓が全部明るくなっている家に着きました。娘がノックすると、中からガラガラ声が「お入り」と叫びました。娘は暗い入口に入り、部屋の戸をノックしました。「お入りよ」と声が叫び、戸を開けると、白髪頭のおじいさんがテーブルの前に座って、顔を両手で支え、白いあごひげがテーブルの上から床に届くほど垂れ下がっていました。ストーブのそばには3匹の動物、めんどりとおんどりとぶちの雌牛がいました。娘はおじいさんに事情を話して一晩の宿をお願いしました。
男は「かわいいめんどり、かわいいおんどり、かわいいぶちの雌牛、お前たちの意見はどうだ?」と言いました。「ドゥクス」と動物たちは答えました。それは「賛成だ」という意味だったにちがいありません。というのはおじいさんは、「ここに宿も食べ物もあるよ。かまどへ行ってわたしたちに夕食を作っておくれ。」と言ったからです。娘は台所に何でもたくさんあったので、おいしい夕食を作りましたが、動物たちのことは何も考えませんでした。どんぶりにいっぱいテーブルに運び、白髪のおじいさんのそばに座り、満腹になるまで食べました。十分食べ終わると、「だけどもう疲れたわ。私が横になって眠るベッドはどこにあるの?」と言いました。動物たちは「お前は爺さんと食べた、お前は爺さんと飲んだ、お前は私たちの事は何も考えなかった、だから、夜泊るところを自分で探せ」と答えました。するとおじいさんが、「二階へ行きなさい。そうすれば2つベッドのある部屋がみつかるよ。布団をよく振って、白いリンネルをかけなさい。それから私も行って寝るからね。」と言いました。娘は上へ行き、布団を振って、きれいなシーツをかけると、もうおじいさんを待たないでベッドの一つに寝ました。
しばらくして白髪のおじいさんが来て、娘の上にろうそくをかざして頭を振りました。娘がぐっすり眠っているのがわかると、落とし穴の戸を開け、娘を地下室に落としてしまいました。
夜遅く、木こりは家へ帰り、一日中、空腹のままにさせられたと妻を責めました。「私のせいではないよ。娘は弁当を持って出かけ、道に迷ったに違いないわ。だけど明日はきっと帰ってくるでしょう。」と妻は答えました。しかし木こりは森へ行くのに夜明け前に起き、その日は二番目の娘が弁当をもってくるようにと頼み、「レンズ豆の袋を持っていくよ、種がキビより大きいから娘は前より良く見えて道に迷わないよ。」と言いました。それで、昼食時に、娘は食べ物を持って行きましたが、レンズ豆は消えてしまっていました。森の鳥たちが前の日と同じようについばんで食べてしまって、何も残さなかったのです。
娘は森の中を夜までさ迷い、またおじいさんの家にたどりつき、入るように言われ、食べ物とベッドを頼みました。白いひげのおじいさんはまた動物たちに、「かわいいめんどり、かわいいおんどり、かわいいぶちの雌牛、お前たちの意見はどうだ?」と尋ねました。動物たちは再び「ドゥクス」と答え、まるで昨日とおなじに万事がすすみました。娘はおいしい食事を作り、おじいさんと飲んで食べ、動物たちのことは無関心でした。娘がベッドのことを聞くと、動物たちは「お前は爺さんと食べた、お前は爺さんと飲んだ、お前は私たちの事は何も考えなかった、だから、夜泊るところを自分で探せ」と答えました。娘が眠っているときおじいさんがきて、娘を見て、頭を振り、地下室に落としました。
3日目の朝に木こりは妻に、「今日は3番目の子供に弁当をもたせてよこしてくれ。あの子はいつもいい子で素直だから、ちゃんとした道をくるさ。ブンブン蜂の姉たちのようにあちこちうろうろしないだろよ。」と言いました。母親はそうしたくなくて、「一番かわいい子も失くすのかい?」と言いました。「心配するな。あの子は迷わないよ。とても慎重だし分別があるからね。それにエンドウ豆を持って行き,まくよ。レンズ豆よりもずっと大きいから、道がわかりやすいだろ。」と木こりは答えました。しかし、娘が腕にかごをさげてでかけると、森の鳩がもうエンドウ豆を食べてしまっていました。それで娘はどっちへいけばいいのかわかりませんでした。悲しさでいっぱいで、おとうさんはどんなにおなかがすいてるだろう、もし自分が家へ帰らなければやさしいおかあさんはどんなに悲しむだろうとずっと考えていました。
暗くなったときとうとう、明かりが見えて、森の家へ着きました。娘はとても行儀よく一晩泊めていただけないでしょうかとお願いしました。そして白いひげのおじいさんは再び動物たちに「かわいいめんどり、かわいいおんどり、かわいいぶちの雌牛、今度はお前たちの意見はどうだ?」と尋ねました。「ドゥクス」と動物たちは言いました。すると、娘は動物たちがいるストーブのところに行き、手でおんどりとめんどりの滑らかな羽をなでてかわいがり、ぶちの牛の角の間を触ってなでました。おじいさんの命令に従って、おいしいスープを用意し、ドンブリをテーブルに置いたとき、「私が好きなだけ食べて、かわいい動物たちが何もなくていいの?外にはたくさん食べ物があるわ。先に動物たちの世話をしましょう。」と言いました。それで出て行って、大麦をもってくると、おんどりとめんどりにあげ、そして雌牛には甘いかおりのする干し草をあげました。「気にいるといいんだけど、可愛い動物さん、それから喉がかわいていたら、さっぱりした飲み物をあげるわね。」と言いました。それから桶いっぱいの水を汲むと、おんどりとめんどりは桶のふちに跳びあがってくちばしを突っ込み、鳥が飲むときするように頭を持ち上げました。ぶちの雌牛も心ゆくまでグーッと飲みました。
動物たちが食べると、娘は食卓のおじいさんのそばに座り、おじいさんが残したものを食べました。まもなくおんどりとめんどりが翼の下に頭を入れ始め、雌牛の目も同じようにしょぼしょぼし始めました。それで娘は「もう寝た方がいいのじゃないの?かわいいめんどり、かわいいおんどり、かわいいぶちの雌牛、お前たちの意見はどう?」と言いました。「ドゥクス、お前は私たちと一緒に食べた、お前は私たちと一緒に飲んだ、おまえには私たちみんなにやさしい思いやりがあった、おやすみなさい」と動物たちは言いました。それで娘は二階に行き、羽の布団を振り、きれいなシーツをかけると、終わったころにおじいさんが来てベッドの一つに寝て、白いひげが足まで伸びて垂れました。娘はもう一つのベッドに寝て、お祈りをし、眠りました。
娘は真夜中まで静かに眠りました。すると家の中がとても騒がしいので目が覚めました。どのすみでもピシピシ、ガタガタ割れるような音がして、戸がぱっと開き、壁にガツンとぶつかりました。はりが継ぎ目からやぶれているかのように唸りました。階段は崩れ落ちているかのようでした。そしてとうとう屋根全体が落ちてくるかのようにガラガラという音がしました。しかし、ふたたび全く静かになり、娘は怪我しなかったので、そのまま静かに寝ていたら、また眠ってしまいました。
しかし太陽のまばゆさで朝目が覚めると、娘の目には何が見えたことでしょう。娘は大広間に寝ていて、まわりの物はすべて王宮の豪華さで輝いていました。壁には、金の花が緑の絹の地に育っていて、ベッドは象牙でできており、天蓋は赤いびろうどでできていました。近くの椅子には真珠で刺しゅうされた室内履きがありました。娘は自分が夢の中にいるにちがいないと思いましたが、3人のりっぱな服の従者が入ってきて、「なにかご用がございませんか?」と尋ねました。「皆さんが行ったら、すぐに起きて、おじいさんにスープを用意します。それからかわいいめんどりとかわいいおんどりとかわいいぶちの雌牛にえさをやるわ。」と娘は答えました。
娘は、おじいさんはもう起きているのだと思い、振り向いておじいさんのベッドをみました。ところが、そこにねていたのはおじいさんではなく、見知らぬ人でした。娘がその人を見ていて、若くてハンサムな人だとわかってきたとき、その男の人は目を覚まし、ベッドに起きあがって、「私は王様の息子なのです。悪い魔女に魔法をかけられ、この森で白髪の老人として住まわされました。おんどりとめんどりとぶちの雌牛の形の3人の従者しか一緒にいることが許されませんでした。心がとてもよくて、人間だけでなく動物にもいっぱい愛を示す娘が来るまでは魔法はとかれなかったのです。それをあなたがしてくれました。あなたのおかげで真夜中に私たちは解放され、森の中の古い小屋はまた王宮に戻りました。」と言いました。二人が起きた後、王様の息子は3人の従者にでかけて結婚式に娘の父と母を連れてくるようにと命じました。「だけど、私の二人の姉たちはどこにいるの?」と娘は尋ねました。「二人を地下室に閉じ込めておきました。明日、森に連れて行き、もっとやさしくなって、可哀そうな動物たちを空腹にさせなくなるまで、炭焼きの召使として暮らさせます。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

やせたリーゼ

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

やせっぽちのリサは、何ものにも安らぎを邪魔させないものぐさハリーや太っちょトリナとはとても違う考え方をする人でした。朝から晩まであくせく働き、夫ののっぽのローレンスにとても多くの仕事を担わせたので、夫は3つの袋を載せているロバより重い重量を背負っておりました。しかし、それは何にもなりませんでした、というのは二人には何もなく、何の結果も得られなかったからです。ある晩、リサはベッドに寝ていて、疲れから腕一本動かせないので、あれこれ考えてまだ眠れないでいました。それで、肘で夫のわき腹をつついて、「ねえ、レンツ、今考えていることを聞いて。もし1フローリン見つけて、1フローリンもらって、それに足してもう1フローリン借りて、あんたがもう1フローリンくれるとすると、4フローリンをまとめてすぐ若い雌牛を買うわ。」と言いました。夫はこの話がとても気に入りました。それで、「実際、お前がおれからもらいたがっている1フローリンをどこから手に入れたらよいかはわからないよ。だけど、そのお金をまとめて雌牛を買えるなら、お前の計画を実行するのにうまいやり方だよね。」と言い、「嬉しいだろうな、もしその雌牛が子牛を産んだらさ。おれもときどき元気づけに一杯ミルクを飲めるだろう。」と付け加えました。「ミルクはあんた用じゃないわ。子牛が大きく太くなるように子牛に吸わせなくちゃならないんだから。そしたら子牛を売れるでしょ。」と女は言いました。「そうだね、だけど、それでも少しはおれたちもミルクを飲めるだろ。それでも全く差し支えないよ。」と男は答えました。「誰があんたに牛の管理の仕方を教えたんだい?差し支えがあろうとなかろうと、そんなこと許さないの!あんたが逆立ちしたってミルクは1滴もやらないからね。のっぽのローレンス、あんたは満足できないから、あたしがすごく苦労して稼いだものを全部食っちまう気でいるのかい?」と女は言いました。「黙れ、そうしないと口をなぐるぞ!」と男は言いました。「何だって!脅かすのかい!この大食らいの人でなしの怠け者のハリーめ!」と女は叫びました。リサは夫の髪につかみかかろうとしていました。しかしのっぽのローレンスは立ち上がって、やせっぽちのリサの干からびた両腕を片手でつかみ、もう一方の手で頭を枕に抑えつけ、リサにガミガミ言わせたまま抑えていました。とうとうリサはとても疲れ果てて眠ってしまいました。次の朝目覚めたときリサが喧嘩の続きをしたかどうか、見つけたいと思っていたフローリンを探しにでかけたかどうか、私は知りません。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

天国へ行った水呑百姓

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

あるとき、貧しい信心深い水のみ百姓が死に、天国の門に着きました。同時に、とてもとても金持ちの領主も、天国に入りたいと思って、そこに来ました。すると、聖ペテロが鍵を持って来て、門をあけ、お偉方を入れましたが、どうやら百姓は見なかったようで、またドアを閉めました。それで外の百姓にはお偉方が天国で大喜びで迎えられ、中で音楽を奏で、歌っているのが聞こえました。
とうとう再び静かになると、聖ペテロがまたやって来て、天国の門を開け、百姓を入れました。ところが、百姓は自分が入って行ったときも音楽を奏で歌ってくれるものと期待したのですが、全く静かなままでした。なるほど大きな愛で迎えられ、天使たちも会いに来てくれたのですが、誰も歌いませんでした。それで、百姓は聖ペテロに、金持ちの男が入っていったときやったようにどうして自分には歌ってくれなかったかと尋ね、天国でも地上と同じくえこひいきで物事は行われているようですね、と言いました。すると、聖ペテロは、「決してそんなことはありません。あなたは他のみなさんと全く同じに大切で、金持ちの人と同じくすべての天国の喜びを味わえるんです。ただあなたのような貧しい人は毎日天国に来ますが、このような金持ちの人は100年に1回以上は来ませんのでね。」と言いました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

強力ハンス

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、子どもが一人しかいない夫婦がいて、人里離れた谷に全く家族だけで住んでいました。あるとき、母親はもみの木の枝を集めに森に入り、二歳になったばかりの小さいハンスを一緒に連れて行きました。春の季節で子どもが色とりどりの花を楽しんでいるので、母親は子どもと一緒に森の奥へと進んでいきました。突然、二人の強盗が茂みから飛びだして、母親と子どもをつかみ、暗い森の奥深くへ連れていきました。そこは今まで何年も誰も来ないところでした。
可哀そうに、母親は、自分と子どもを放してくれるようにとしきりに頼みましたが、心が石でできた強盗たちは母親の頼みに耳を貸そうとはしないで、力づくでさらに遠くへ追いたてました。二マイルほどやぶやいばらをかき分けて進んだ後、戸がついている岩のところにやってきました。強盗たちが戸をたたくと戸はすぐに開きました。長く暗い通路を通って、やがて大きなほら穴にたどりつきました。そこは炉に燃える火で明るくなっていました。壁には刀やサーベルや他の殺しの武器がかかっていて、明かりを反射して光っていました。真ん中に黒いテーブルがあり、そこで他の強盗が四人賭けごとをして座っており、その先に親分が座っていました。親分は母親を見るとすぐやってきて、話しかけ、安心しろ、こわがらなくていい、何もしやしないから、ただ家のことをやってくれればいいんだ、何でもきちんとしてくれれば悪いようにはしないよ、と言いました。そうして母親に食べ物を与え、子どもと一緒に眠るベッドを教えました。
母親は何年も強盗たちのところにいて、ハンスは背が伸び強くなりました。母親はハンスにお話をしてあげたり、ほら穴でみつけた騎士物語の古い本の読み方を教えました。ハンスが九歳になるともみの木の枝で頑丈なこん棒を作り、ベッドの下に隠しました。それから、母親のところへ行き、「お母さん、僕の父親は誰か教えてください。どうしても知りたいんです。」と言いました。母親は、口を言わず、教えようとしませんでした。ハンスが家を恋しがらないようにと思ったのです。それに、ばちあたりな強盗たちがハンスを行かせないと知っていました。しかし、ハンスが父親のところへ行けないことを思って胸が張り裂けそうでした。
夜に、強盗たちが泥棒の仕事を終えて帰ってくると、ハンスはこん棒を持ちだして、親分の前に立ち、「僕の父親が誰か今知りたい、すぐに教えないとぶちのめすぞ。」と言いました。すると親分は笑って、ハンスの横っ面をひっぱたいたのでハンスはテーブルの下に転がりました。ハンスは立ちあがり、口を言わないで、(もう一年待ってまたやってみよう、そのときはもっとうまくやれるだろう)と考えました。その一年が終わると、またこん棒をもちだし、埃をはらい、よく眺めて、「頑丈な強いこん棒だ。」と言いました。夜に泥棒たちが帰って次々とワインを飲み、頭が重たくなり始めました。するとハンスはこん棒をもちだして、親分の前に立ち、父親は誰か、と尋ねました。しかし、親分はまたハンスの横っ面を強くぶんなぐったのでハンスはテーブルの下に転がりました。ところが、まもなくハンスは立ちあがり、親分と強盗たちをこん棒でしたたかに打ちすえたので、強盗たちはもう手足を動かせなくなりました。
母親はすみに立って子どもの勇気と力に感心して見ていました。ハンスはやり終えると、母親のところへ行き、「今度は真剣にやったんだ。だけど今父親が誰なのかも知らなくちゃ。」と言いました。「ハンスや」と母親は言いました。「さあ、お父さんを見つけるまで探しに行きましょう。」
母親は親分から入口の鍵をとり、ハンスは大きな粉袋をとってきて、その中に金や銀や素晴らしいと思う物を何でも手当たり次第に袋がいっぱいになるまで詰め、背中に担ぎました。二人はほら穴を出ました。しかし、暗闇から日の光に出てきて、緑の森や花や鳥や空に浮かぶ朝の太陽を見てハンスは目を見開きました。ハンスはそこに立って、頭がすっかりまともでないかのようにあらゆるものに驚いてみとれました。母親は家へ帰る道を探し、ニ、三時間歩いた後、二人は無事に人里離れた谷に入り、自分たちの小さな家に着きました。父親は入口に座っていました。妻だと見てわかり、ハンスが息子だと聞くと、父親は嬉し泣きしました。というのは父親は二人がとっくに死んでしまったものと思っていたのです。
ハンスは、やっと12歳になったばかりでしたが、父親より頭一つ背が高くなっていました。三人は一緒に小さな部屋に入って行きましたが、ハンスがストーブのそばのベンチに袋を置いた途端、家じゅうがみしみし音を立て、ベンチが壊れ、次に床が壊れ、重い袋は地下室へ落ちていきました。「全くもう!」と父親は叫びました。「何だこりゃ?お前は家をめちゃめちゃに壊してしまったぞ」「心配いらないよ、お父さん」とハンスは答えました。「その袋に、新しい家を建てても有り余るくらい入ってるよ。」父親とハンスはすぐに新しい家を建て始め、家畜や土地を買い、農業を始めました。ハンスは畑を耕し、すきを地面に押し込んで押していくと、牛たちが引っ張る必要がないほどでした。次の年の春、ハンスは、「お金を全部とっといて、僕に100の目方の杖を作ってください、旅に出ようと思うんです」と言いました。
杖ができると、ハンスは父親の家を出て進んでいき、深い暗い森にやってきました。そこで何かバリバリ、バキンという音が聞こえてきて、下から上まで綱のようにぐるぐる巻きになっているもみの木が見えました。上の方を見ると、大きな男が木をつかんで柳の枝のように捻じっていました。
「おーい」とハンスは叫びました。「上で何をやっているんだい?」男は、「昨日たきぎを集めたから、今それを縛る縄をなっているんだ。」と答えました。(それはいいや、やつは力があるぞ)とハンスは考え、男に「そんなのほっといて、おれと一緒に来いよ。」と呼びかけました。男が降りてくると、ハンスは決して小さくないのに、そのハンスよりまるまる頭一つ分背が高い男でした。「お前の名前はこれから『もみ捻じり』だ」とハンスは男に言いました。
そうして二人が先へ進んでいくと、何かガンガンすごい力で打つ音が聞こえ、地面が一打ちごとに揺れました。そのあとまもなく、大きな岩のところに来て、その前で大男がこぶしで打ってその岩から大きな岩のかたまりを切り離していました。ハンスが、何をしているんだい?と聞くと、大男は「夜におれが寝ようとすると、熊や狼やそういう獣が来て、おれのまわりでフンフン、クンクン嗅ぎ回って、うるさいのさ。それで邪魔されないように家を建ててその中で寝ようと思ってるのさ」と答えました。(ああ!いいぞ)とハンスは考えました。(こいつも役にたつぞ)それで男に言いました。「家を建てるのはほっといて、おれと一緒に行こう。お前は『岩割り』という名前にしろよ。」
男が承知して、三人は森を通っていきましたが、どこへ行っても野の獣たちはビクッとして三人から逃げて行きました。日暮れに三人は人のいない古い城のところへ来て、そこに入り、広間に横になって眠りました。次の朝、ハンスが庭に入っていくと猪が突進してきました。しかしハンスはこん棒でしたたかに打ちすえたので猪はすぐ倒れました。ハンスはその猪を肩に担ぎ、運び込みました。三人は猪を串焼きにしておいしく食べました。そうして三人は毎日順番に二人が狩りに出かけ、一人は留守番をして一人9ポンド(約4kg)の肉を料理する、と取り決めました。もみ捻じりは最初に留守番で、ハンスと岩割りが狩りに出かけました。
もみ捻じりがせっせと料理をしていると、小さな皺だらけの年とった小人が城のもみ捻じりのところに来て、肉をくれと頼みました。「あっちへ行け、このコソ泥ちびめ」ともみ捻じりは答えました。「肉はやらないよ。」ところが、もみ捻じりがびっくりしたことに、小さな取るに足りない小人がとびかかってきて、こぶしでなぐりつけてきました。もみ捻じりは防ぐことができなくて地面に倒れ、はあはあ息を切らせました。小人は、すっかり怒りをぶつけて気がおさまるまで立ち去りませんでした。他の二人が狩りから帰ってきたとき、もみ捻じりは年寄りの小人のことも自分がさんざんなぐられたことも何も話さないで、(二人が留守番するようになったとき、あの小さなたわし野郎とやりあってみればいいのさ)と考えました。そうしてただそう考えるだけでもう面白がっていました。次の日、岩割りが留守番をしましたが、小人に肉をあげたがらなかったので、ひどい目にあわされ、もみ捻じりと全く同じことになりました。
夕方に他の二人が帰ってくると、もみ捻じりは岩割りがやられたのがはっきりわかりましたが、二人とも黙って、(ハンスにもあのスープを味わってもらわなくてはな)と思っていました。次の日はハンスが留守番になり、やらなければいけない台所仕事をしました。ハンスが立って鍋のあく抜きをしていると小人が来て、礼儀も何もなく、肉をくれ、と言いました。それでハンスは(かわいそうなやつだな、おれの分からいくらか分けてやろう。そうしたら他の二人の分が足りなくなることはないからな。)と思い、一切れ小人に渡しました。小人はそれを貪り食ってしまうとまた、肉をくれ、と言いました。お人よしのハンスはまた肉をあげて、それは大きな肉だぞ、それで満足しろよ、と言いました。しかし、小人はまた肉をくれと言いました。「お前は恥知らずだな」とハンスは言って何もあげませんでした。すると性悪な小人はハンスにとびかかってもみ捻じりや岩割りと同じ目にあわせようとしました。しかし小人は悪い相手を選んでしまいました。ハンスが大して腕をふるうまでもなくニ、三発なぐると、小人は城の階段を飛び下りていきました。
ハンスは追いかけようとしましたが、小人に蹴つまづいてばたりと倒れてしまいました。また起きあがった時は小人はもう先を進んでいました。ハンスは森まで小人を追いかけ、岩穴に入って行くのを見届けました。そして帰って行きましたが、その場所をしっかり心にとめておきました。他の二人が戻ったとき二人はハンスがぴんぴんしているので驚きました。ハンスは二人に出来事を話すと、二人ももうどういう目にあったかを隠しませんでした。ハンスは笑って、「そりゃ自業自得だな。なんでそんなに肉をけちったんだ?そんなに図体がでかいのに小人に負けるなんてみっともないじゃないか」と言いました。
そこで三人はかごと綱をもって、小人が入って行った岩穴に行き、ハンスとこん棒をかごに入れて下ろしました。穴の底に着くと、戸が見つかり、それを開けると、絵のように、いや言葉に言い表せないほど美しい乙女がそこにいました。そして娘のそばにあの小人が座っていましたが、ハンスを見るとオナガザルのように歯をむき出して笑いました。ところが娘は鎖につながれてとても悲しそうにハンスを見ました。ハンスはこの娘をとてもかわいそうになり、(娘を性悪な小人から救い出さなければならないぞ)と思い、小人をこん棒で強く打ちすえたので、小人は死んで倒れました。途端に鎖が乙女からはずれて落ちました。ハンスは娘の美しさにうっとりしました。娘は、ハンスに言いました。「私は王様の娘なのですが、無礼な伯爵がお城から私をさらい、岩の間にとじこめました。私が何も伯爵に言おうとしなかったからです。伯爵はあの小人を見張りにおいて、私はとても惨めで苦しい思いをしました。」そのあとハンスは娘をかごにのせ、引き上げさせました。
かごはまたおりてきましたが、ハンスは二人の仲間を信用しないで、(あいつらはもう不実なところをみせたことがある。おれに小人のことを何も言わなかったじゃないか)と考えました。(おれにどんなことを企んでいるかわからないぞ)それで、かごにこん棒を入れました。実際そうしてよかったのでした。というのはかごが半分ほど上がると、二人はまた落としてよこしました。ハンスが本当にかごにのっていたら、死んでいたでしょう。しかし、深い底からどうやって抜けだしたらいいものやらわかりませんでした。何回もあれこれ考えてみるものの良い知恵が浮かびませんでした。「全く情けない」とハンスは独り言を言いました。「ここで死ぬのを待つだけとはな」こうして行ったり来たりしていると、また先ほど娘が座っていた小さな部屋に来ました。すると、小人の指にきらきら光っている指輪が見えました。そこでハンスは小人の指から抜いて自分の指にはめ、指輪を回すと、突然頭の上でさらさら擦れ合うような音が聞こえました。
見上げると空気の精が上を飛んでいるのが見えました。空気の精は、あなたはわたしたちのご主人です、ご用はなんでしょうか?とたずねました。ハンスははじめ驚いて口が言えませんでしたが、そのあと、地上に運んでほしい、と言いました。空気の精はすぐに命令に従い、まるでハンスが自分で上へ飛んでいってるようでした。ところが上へ着いてみると誰も見当たりませんでした。もみ捻じりと岩割りは急いで去って美しい乙女を一緒に連れて行ってしまったのです。しかし、ハンスが指輪を回し、空気の精がくると、二人は海の上だと教えてくれました。
ハンスは止まらずに走りに走りました。とうとう海辺につくと、海のはるかかなたに不実な仲間がのっている小さな船が見えました。激しい怒りに駆られて、自分が何をしているのかも考えず、ハンスはこん棒を手に海に飛び込み、泳ぎ始めました。しかし、こん棒の目方が100あったので、ハンスは海の底の方に引きずられていき、あやうく溺れ死にそうにになりました。それであわやというところで指輪を回し、空気の精が来て、稲妻のように速く船に乗せました。ハンスはこん棒を振り回し、腹黒い仲間にふさわしい報いを与え、二人を海に放り投げました。娘はとても恐ろしい目にあっていましたが、今度もハンスに救われたのでした。それからハンスは美しい乙女と一緒に船に乗り、故郷の父親と母親のところへ送って行き、やがて娘と結婚しました。みんなの喜びは大変なものでした。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

怪鳥グライフ

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、どこの国を治め、何という名前かは知りませんが、王さまがいました。王様には息子がいなくて娘がただ一人いましたが、ずっと具合が悪く、治せる医者がいませんでした。そうして、りんごを食べると娘は健康を回復する、という予言が王さまに伝えられました。そこで王様は、健康を回復するりんごを娘に持ってきた者に娘を妻として与え王にする、というお触れを国じゅうに出しました。
息子が三人いるお百姓がこれを知り、上の息子に、「庭に行って頬の赤いりっぱなりんごをかごいっぱいもってきなさい。そして宮廷に持って行くんだ。ひょっとすると王様の娘はそのりんごを食べて元気になれるかもしれないからな。そうしたらお前はお姫様と結婚し王様になれるぞ。」と言いました。若者はそうして出かけて行きました。少しばかり行くと、白髪の小人に出会いました。小人は、「かごに何が入ってるんだい?」と聞きました。するとユーレは、それがこの若者の名前ですが、「蛙の脚だよ」と答えました。これを聞いて小人は、「そうか、じゃ、ずっとそういうことにしておこう」と言って去って行きました。とうとうユーレは宮殿に着き、りんごをお持ちしました、お姫さまが召しあがればご病気が治るでしょう、と知らせました。王様はそれを聞いてとても喜び、ユーレを連れて来させました。ところが何としたことでしょう、かごを開けると、中にはりんごではなく蛙の脚が入っていて、まだあちこち蹴っていました。これを見て王様は怒り、ユーレを宮殿から追い出させました。
家に着くとユーレは父親にどうなったか話しました。そこで父親はゼーメという名の次の息子を行かせましたが、ユーレと全く同じになりました。ゼーメも白髪の小人に出会い、小人は、かごに何が入ってるんだい?と聞きました。ゼーメは、「豚の毛だよ」と言いました。すると、白髪の小人は、「そうか、じゃ、ずっとそういうことにしておこう」と言いました。ゼーメが王様の宮殿に着き、りんごをお持ちしました、これでお姫様は元気になるでしょう、と言うと、門番はゼーメを中に入れようとしないで、前に一人ここにきたやつがおれたちを馬鹿扱いしやがった、と言いました。ところがゼーメは、確かにりんごをお持ちしたのです、中に入れてください、と言い張りました。とうとう門番もゼーメの言うことを信じて、王様のところへ連れて行きました。しかしかごのふたをあけると、豚の剛毛しか入っていませんでした。それで王様はこの上なく怒って、ゼーメをムチで打たせて城から追い出させました。
家に帰ってゼーメはどんな目にあったか語りました。すると、ハンスという名前でしたがいつも馬鹿ハンスと呼ばれている末の子がやってきて、父親に、僕もりんごを持って行ってもいいかい?と聞きました。「おや」と父親は言いました。「そんなことはまだ無理だろうな。賢いやつができないのに、お前に何ができる?」ところが、男の子はしつこくせがんで、「ねえ、お父さん、僕も行きたいよ」と言いました。「もうあっちへ行け、この間抜けめ、もっと賢くなるまで待つんだ」と父親は言って、背を向けました。ところがハンスは父親の上っ張りの後ろを引っ張って、「ねえってば、お父さん、行きたいよ」と言いました。「それじゃ、行ってもいいが、どうせすぐまた家に帰ることになるさ。」と父親は意地悪い声で答えました。男の子はとても喜んでわーいととびあがりました。「ふん、馬鹿をやってろよ。お前って子は日増しに馬鹿になるな。」と父親はまた言いました。それでも、ハンスはやる気を失くしたりしょげたりしませんでした。しかし、そのときは夜だったので、今日は宮廷につけないから、明日まで待った方がいいと思いました。夜通しハンスはベッドで眠れませんでした。少しうとうとすると、美しい乙女たちや宮殿や金や銀やそういうことを夢にみました。
朝早くハンスはでかけました。するとそのあとすぐに、氷のような白い服を着たみすぼらしい小人がやってきて、かごに何が入っているんだい?と聞きました。ハンスは、りんごだよ、お姫様が食べたら、元気になるんだ、と返事をしました。すると小人は、「そうか、じゃ、ずっとそういうことにしておこう」と言いました。
しかし、宮廷では誰もハンスを入れようとしませんでした。門番が言うには、もう二人来てりんごを持ってきたと言ったが、一人は蛙の脚でもう一人は豚の毛だったからということでした。ところがハンスは、私がもってきたのは絶対蛙の脚ではなく国じゅうで一番すばらしいりんごなんです、と必死になって言い続けました。ハンスの話し方がとても感じのいいものだったので、門番は、うそをついてるようにはみえないな、と思い、入るように言いました。そして門番は正しかったのです。というのはハンスが王様の前でかごをあけると黄金色のりんごが何個も出てきたからです。
王様は喜んで、いくつかを娘のところへ持っていかせ、りんごの効き目があったかどうか知らせがくるまで心配と期待の入り混じった気持ちで待ちました。しかし、あまり経たないうちに、知らせがもたらされました。やってきたのは誰だと思いますか?それは娘自身でした。娘ははりんごを食べるとすぐに病気が治ってベッドから跳び起きました。王様の喜びようは言葉で言い表せません。しかし、そうなると王様は娘をハンスと結婚させたくありませんでした。それで、ハンスに、乾いた陸の上を水の上よりも速く走る舟を結婚より先に作らねばならない、と言いました。ハンスはその条件をのみ、家に帰り、どうだったか話しました。すると父親はそういう舟を作らせにユ―レを森にやりました。ユーレは口笛をずっと吹きながら、熱心に働きました。
昼に、太陽が一番高く上がったころ、白髪の小人がやってきて、何を作ってるんだい?と尋ねました。ユーレは「木のお椀だよ」と返事をしました。小人は「ずっとそういうことにしておこう」と言いました。夕方頃、ユーレは、さあ舟を作ったぞ、と思いましたが、乗ってみようとしたら、木のお椀しかありませんでした。次の日はゼーメが森へ入りましたが、何もかもユーレと同じことになりました。三日目には馬鹿ハンスが行きました。ハンスはとても熱心に働き、強く打ちつける音が森じゅうにこだましました。そのあいだずっとハンスは楽しそうに歌ったり口笛を吹いたりしました。昼に、一番暑いころ、小人がまたやってきて、何を作ってるんだい?と尋ねました。「陸の上で水の上より速く走る舟だよ」とハンスは答えました。「それを作ったら、お姫様を嫁さんにするんだ。」「じゃあ」と小人は言いました。「ずっとそういうことにしておこう。」
夕方に、太陽が金色に変わってしまったころ、ハンスは舟と舟に必要なもの全部を作り終えました。ハンスは舟に乗り、宮殿に漕いでいきました。舟は風のように速く進みました。王様はそれを遠くから見ましたが、まだ娘をハンスにやろうとはしませんでした。そして、その前に、100匹のうさぎを朝早くから夜遅くまで牧草地に連れていかねばならない、一匹でもいなくなったら、娘をやらないぞ、と言いました。ハンスはこれを承知しました。次の日、うさぎの群れを牧草地に連れて行き、一匹も逃げ出さないようよく気をつけました。
何時間も経たないうちに宮殿から侍女がやってきて、ハンスに、すぐうさぎを一匹ください、不意にお客さんがきてしまったので、と言いました。ところが、ハンスはそれがどういう意味か全くよくわかっていたので、うさぎをあげません、王様は明日お客さんにうさぎのスープを出したらいいのに、と言いました。
ところが、侍女はハンスが断っても聞き入れようとしないで、しまいにはハンスと言い合いになり始めました。そこでハンスは、お姫様自身がいらしたら、一匹さしあげます、と言いました。侍女はこれを宮殿で話し、実際に娘自身がやってきました。
その間に小人がまたハンスのところにきて、そこで何をしてるんだい?と尋ねました。ハンスは、100匹のうさぎの番をして一匹も逃げないようにしなくちゃいけないんだ、そうしたらお姫様と結婚して王様になれるんだ、と言いました。「いいね」と小人はいいました。「お前に笛をやろう。一匹でも逃げだしたら、それを吹けばいい。そうしたら戻ってくるから。」王様の娘が来たとき、ハンスはうさぎを一匹娘のエプロンに入れてやりました。しかし娘がうさぎを連れて100歩ほど行ったときハンスは笛を吹きました。するとうさぎはエプロンから飛び出て、娘が振り向く前に群れのところに戻りました。夕方になるとうさぎ番はもう一度笛を吹き、うさぎが全部いるか確かめてから、うさぎを追い立てて宮殿へいきました。
王様は、どうしてハンスが一匹も見失わず100匹のうさぎの番ができたのか不思議に思いましたが、やはりまだ娘をやりたくありませんでした。そして、今度はグライフ鳥の羽根をもってこなければならん、と言いました。ハンスはすぐに出発し、まっすぐ進んでいきました。ゆうがたにあるお城にたどりつくと、ハンスはそこで一晩泊めてくれるようお願いしました。というのはそのころは宿屋というものがなかったからです。城の主人はとても喜んで承知し、どこへ行くのか?と尋ねました。ハンスは、「グライフ鳥のところへ」と答えました。「へえ、グライフ鳥のところへねえ。グライフ鳥というのは何でも知ってるそうですよ。私は鉄の金庫の鍵を失くしたんだが、どこにあるかきいてきてもらえませんか?」「ええ、いいですとも」とハンスは言いました。「やってあげますよ。」
次の朝早くハンスは出かけて先へ進みました。途中で別の城に着き、そこでまた泊りました。そこにすんでいる人たちはハンスがグライフ鳥のところへ行くと知ると、家に病気の娘がいまして、治そうともういろいろ手を尽くしたんですが、何も効き目がありません、どうしたら娘を元気にできるかグライフ鳥にきいてもらえませんか?と言いました。ハンスは、ええ、いいですとも、と承知しました。そうして進んでいくと湖にやってきました。渡し舟のかわりに背の高い、高い男がそこにいてみんなを担いで渡さなければなりませんでした。男はハンスにどこへいくんだい?と尋ねました。「グライフ鳥のところへ」とハンスは言いました。「それじゃあ、着いたら」と男は言いました。「どうしておれがみんなを担いで渡さなければいけないのかグライフ鳥に聞いてくれないか」「いいとも、必ず聞いてあげるよ」とハンスは言いました。すると男はハンスを肩にのせ、川を渡らせてくれました。
とうとうハンスはグライフ鳥の家に着きました。しかし、おかみさんだけが家にいて、グライフ鳥本人は留守でした。するとおかみさんはハンスに、どんなご用ですか?と尋ねました。そこでハンスはおかみさんに全部話し、グライフ鳥の羽根を一枚手に入れなければいけないんです、また金庫の鍵を失くしたお城があって、どこに鍵があるかグライフ鳥にきかなければいけないし、別の城では娘が病気でどうしたら治るか知らなければなりません、それから、ここから遠くないところに湖があり、そのそばにいる男が人々を担いで渡らせなくてはいけないのですが、どうしてそうしなくてはいけないのか男がとても知りたがっているのです、と言いました。するとおかみさんが、「あのね、お前さんね、キリスト教徒はグライフ鳥と話すことはできないんだよ。グライフ鳥はキリスト教徒をみんな食べてしまうからね。だけど、よければベッドの下に入れるけどね。夜にグライフ鳥がぐっすり眠り込んだら、手を伸ばして尻尾から羽根を一枚抜けばいいよ。それからお前さんが知りたいことは、私が自分できいてあげるよ。」と言いました。ハンスはそれをきいてすっかり納得し、ベッドの下にもぐりました。
夕方に、グライフ鳥は帰って来て、部屋に入った途端、「おい、お前、キリスト教徒の匂いがするぞ」と言いました。「ええ」とおかみさんは言いました。「今日ひとりここに来ましたけど、すぐまた帰りましたよ。」するとグライフ鳥はもう何も言いませんでした。真夜中になってグライフ鳥が大いびきをかいているときにハンスは手を伸ばして尻尾から羽根を抜きました。途端にグライフ鳥が目を覚まし、「おい、お前、キリスト教徒の匂いがするぞ、それに誰かおれの尻尾を引っ張っているようなんだが」と言いました。おかみさんは「あんたはきっと夢を見てるんですよ。それに、キリスト教徒は今日ここに来たけどまた帰ったとさっき言ったでしょ。」と言いました。
「その人、いろんなことを言ったのよ、あるお城で金庫の鍵を失くしてどこにも見つけられないんですって」「ふん、馬鹿だな」とグライフ鳥が言いました。「鍵はまき小屋だよ、戸の後ろにある丸太のたきぎの下にあるのさ。」「それからね、別の城では娘が病気なんだけど、治し方がわからないんだと言ってたわ」「ふん、馬鹿だな」とグライフ鳥が言いました。「地下室へ行く階段の下に娘の髪の毛で巣を作ったのさ。その髪の毛を取り戻せば娘はよくなるんだがね。」「そうしてね、湖のところで岸にいる男がみんなを担いで渡らなければいけないという事も言ってたわね」「ふん、馬鹿だな」とグライフ鳥が言いました。「湖の真ん中で一人を降ろせば、あとは運ばなくてよくなるよ。」 
次の朝早く、グライフ鳥は起きて出かけました。するとハンスはベッドの下から出てきましたが、美しい羽根があり、鍵や娘や男についてグライフ鳥が言ったことをすっかり聞いていました。グライフ鳥のおかみさんは、ハンスが忘れないようにもう一回全部繰り返してくれました。そうしてハンスはまた帰っていきました。最初に湖のそばにいる男のところに来ました。
男は、グライフ鳥はどう言ってましたか?と尋ねました。しかし、ハンスは、先に向こう岸に渡してくれたら教えてあげよう、と答えました。それで男はハンスを向こう岸に運びました。渡り終えるとハンスは、湖の真ん中で一人降ろすだけでいいんだ、そうしたらもう二度と担いで渡らなくてよくなるよ、と言いました。男はとても喜んで、お礼にもう一回向こう岸に渡してまた戻ってあげよう、とハンスに言いました。しかし、ハンスは、いやいいよ、そんな手間をかけなくても、もうすっかり満足してるから、と言って、道を進みました。それから、娘が病気の城に来ました。ハンスは、娘が歩けなかったので背負って、地下室の階段を降り、一番下の段の下からひきがえるの巣を抜き取り、娘の手に渡しました。すると娘はハンスの背から飛び下りハンスより先に階段を登りすっかり治りました。そうして父親と母親はこの上なく喜んで、ハンスに金銀を贈りました。そうして他にハンスが望んだものは何でもくれました。それから、もう一つの城に着いた時、ハンスはすぐにまき小屋に入り、戸の後ろの丸太のたきぎの下に鍵をみつけ、それを城の主人に持って行きました。主人はとても喜んで、お礼に金庫に入っていた金をたくさんくれ、そのうえ牛や羊やヤギのようなものをいろいろくれました。
ハンスがこれらのお金や金銀や牛や羊やヤギを持って王様の前に着くと、王様はどうやってそれらを手に入れたのか?と尋ねました。そこでハンスは、グライフ鳥は誰でも欲しい人にくれるんです、と言いました。そこで王様は、わしもそういうものを手に入れよう、と思い、グライフ鳥のところへ出かけて行きました。しかし、湖に着くと、王様がたまたまハンスのあとでそこに行った最初だったので、男は湖の真ん中で王様を降ろして行ってしまいました。それで王様は溺れて死んでしまいました。一方ハンスは娘と結婚し、王様になりました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

ものぐさハインツ

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

ハリーは怠け者でした。毎日ヤギを牧草地に連れていく他に何もやることがありませんでしたが、一日の仕事を終わって家に帰ると、呻くように言いました。「まったくきつい仕事だな。こんなふうに毎年毎年、秋遅くまで、野原にヤギを連れていくのは疲れる作業だよ。横になって眠っていられたらなあ、だけどだめだ、ちゃんと目を開けてなくちゃいけない、そうしないとヤギが若木を食べたり、垣根を通りぬけて庭に入ったり、逃げたりしちゃうから。いったいどうやって休んで楽しく暮らせるんだ?」
ハリーは腰をおろし、あれこれ考えをめぐらし、どうしたらこの重荷を肩からはずせるか考えました。しばらく考えてもどれも役にたちそうもありませんでしたが、突然目からうろこが落ちたようになりました。「わかったぞ!こうするんだ。」とハリーは叫びました。「太っちょトリーナと結婚するんだ。あいつもヤギを飼っているから、おれのヤギも一緒に連れ出してくれるさ。そうしたらおれはもう骨折ってやらなくてよくなるぞ。」
そこでハリーは起きあがり、かったるい脚を動かし、通りをすぐ横切り、太っちょトリーナの両親がすんでいるところに行きました。というのははそれだけしか離れていなかったからです。そして、働き者で身持ちのよい娘さんと結婚させてください、とお願いしました。両親は長く考えていませんでした。(類は友を呼ぶということだ)と二人は考え、承知しました。それで太っちょトリーナはハリーのおかみさんになり、ヤギを二頭とも連れ出しました。ハリーは楽しく過ごし、骨休みが必要な仕事はなくなって、自分の怠ける仕事だけが残りました。ハリーはたまにはおかみさんと出かけて、「こうするのはあとでもっと休みを楽しむためなんだ。そうしないと休みをなんとも感じられなくなるからさ。」と言いました。しかし、太っちょトリーナも負けずおとらず怠け者でした。
「ねえ、あんた」とある日トリーナは言いました。「私たち、必要もないのになんで骨折って暮らしてるの?そうして若くていいときが台無しじゃない。あの二頭のヤギをお隣にあげたらよくない?とってもいい気持ちで眠っているのに毎朝メエメエ鳴いてうるさいじゃないの。代わりにミツバチの巣箱をもらいましょう。家のうしろの日当たりのいいところに巣箱をおいたら、もう面倒がないわよ。ミツバチは世話したり、野原に連れて行かなくていいもの。自分で飛んでいって自分で帰る道をみつけるでしょ。それでちっとも面倒をかけないで蜂蜜を集めてくるのよ。」
「物分かりのいいことを言うね。」とハリーは答えました。「早速やろうじゃないか。おまけに蜂蜜はヤギの乳よりうまいし、栄養があるんだ。長持ちもするしな。」隣の人は二頭のヤギのかわりにミツバチの巣箱をひとつ喜んでくれました。ミツバチは疲れを知らず朝から夕方遅くまで巣箱から出たり入ったりして、とてもすばらしい蜂蜜で巣箱をいっぱいにしました。それで秋にハリーはつぼにいっぱい蜂蜜をとることができました。二人は寝室の壁にとりつけられた棚板の上につぼを置きました。盗まれたりネズミが見つけたりするのが心配なので、トリーナは太いはしばみの棒を持ちこみ、無駄に動かないでその棒に手が届き、招かれざる客を追い払えるように、ベッドのそばにおきました。
怠け者のハリーは昼前にベッドから出るのは好きでありませんでした。「早起きするやつは」とハリーは言いました。「身上を食いつぶすっていうよ。」ある朝、明るく日が照っているのにまだ羽根ぶとんに寝そべって、長く眠った後の休みをとっていましたが、おかみさんに「女ってのは甘いものが好きで、お前はいつもこっそり蜂蜜をなめている。お前が食べてしまわないうちに、ひなと一緒のがちようと取り替えた方がいいよ。」と言いました。「でも」とトリーナは答えました。「がちょうの面倒をみる子どもを生んでからの方がいいわよ。私はがちょうの心配をして意味も無く骨折って暮らすのかい?」
「こどもががちょうの世話をすると思っているのか?この頃では子どもはもう言うことをきかないぞ。自分の好き勝手なことをするんだ。両親より自分が賢いと考えてるからさ。牛を探しに行かされて三羽のつぐみを追いかけていたやつみたいにな。」とハリーは言いました。「そう!」とトリーナは答えました。「言うことをきかない子ならひどい目にあわすわ。棒をとって数えられないくらい打ちすえてやるの。ほら、あんた」と熱中して叫び、ネズミを追い払っていた棒をつかみました。「ごらん、こうして打ちすえてやるのよ」トリーナは打とうとして腕を伸ばしました。しかし運悪くベッドの上の蜂蜜のつぼに当たってしまいました。つぼは壁にぶつかり下に落ちてばらばらになり、すばらしい蜂蜜は床に流れ出ました。
「がちょうとひながそこにいるわいな」とハリーは言いました。「そんで世話がいらなくなった。だけどつぼがおれの頭に落ちなくてよかったよ。起こったことに文句を言ってもはじまらない。」そうしてまだかけらの中に蜂蜜がいくぶんか残っているのを見て、手を伸ばし、すっかり陽気に言いました。「残りがまだあるよ、お前、これを食べて、すこし休もう、びっくりしたあとだから。いつもより少し遅く起きたって構わないさ。一日はいつもたっぷり長いからね。」「そうね」とトリーナは答えました。「いつもちゃんとした時間に一日の終わりになるものね。ね、知ってる?かたつむりがあるとき結婚式によばれて出かけたんだけど、子どもの洗礼式のときに着いたんだって。その家の前で垣根を転げ落ちて、『急ぐとためにならん』と言ったってよ。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

ガラスの棺

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

貧しい仕立て屋なんて大きなことを成し遂げ高い名声をえることはできない、と誰にも言わせませんよ。必要なのは適切な場所に行くことだけです。そしてなにより大事なのは幸運に恵まれることです。あるとき、普通の賢い仕立て屋職人が旅に出かけ、大きな森に入りましたが、道がわからなかったので迷ってしまいました。夜になり、このもの寂しい場所でやることは寝る場所を探すことしか残っていませんでした。柔らかい苔の上はきっと寝心地がいいでしょうが、けものたちが怖いのでそこは気が休まりませんでした。そしてとうとう木に登って夜を過ごそうと決心しました。
高い樫の木を探しだし、てっぺんまで登りました。アイロンを持っていたのはありがたいことでした。というのは、そうでなければ木のてっぺんに吹きつける風で仕立て屋は吹き飛ばされていたでしょう。怖くて震えながら暗闇で何時間か過ごした後、かなり近いところに明かりがちらちらしているのが見えました。(あそこに人が住んでいるにちがいない、あそこの方が木の枝にいるよりいいだろう)と思ったので、気をつけて下りてその明かりへ向かっていきました。そうして歩いていくと葦とトウシンソウを編んで作った小さな小屋にたどりつきました。
仕立て屋が戸をドンドンとたたくと、戸が開き、もれてきた明かりで、白髪の年とった小人が見えました。小人はいろいろな色の布を縫って作った上着を着ていました。小人は「お前さんは誰だい?何の用だね?」とぶすっとした声で尋ねました。
「私は貧しい仕立て屋です。」と仕立て屋は答えました。「この荒れ野で思いがけなく夜になってしまったのです。お願いですから朝までこの家に泊めてくださいませんか」年寄りは「先へ行きな」と不機嫌そうな声で答えました。「さすらい者と関わる気はないよ。よそで泊るところを見つけな。」こう言った後で年よりはまたするりと家に入ろうとしました。しかし、仕立て屋は年寄りの上着の端をしっかりつかんで、必死になってお願いしました。すると年よりは、見せかけほど意地悪でなくて、やがて態度をやわらげ、家に入れてくれました。そうして、小人は食べ物をくれて、すみにあるとてもいいベッドも与えてくれました。
疲れていた仕立て屋は揺らしてもらうまでもなく朝までぐっすり眠りました。しかし、朝ですら、大きな物音で目が覚めなかったら、起き上がろうとは思わなかったでしょう。荒々しい叫び声や吠え声が家の薄い壁を通してひびいてきました。仕立て屋は、めったにない勇気を出して、飛び起き、急いで服を着ると、そとへ飛び出ました。すると、家のすぐ近くに大きな黒い雄牛と美しい牡鹿が見えました。二頭はまさにこれから激しい戦いを迎えるところでした。
二頭は猛烈な怒りをこめて相手に突進していきました。けものたちが踏みつける音で地面が揺れ、吠え声が空中にとどろきました。長い間どちらが勝利をかちとるかわかりませんでした。とうとう牡鹿が相手の体に角を突き刺し、雄牛は恐ろしい唸り声をあげて地面に倒れ、牡鹿にさらにニ、三回突かれてとどめをさされました。仕立て屋は、戦いを驚いて眺めていましたが、まだそこにじっとして立っていました。
すると牡鹿が全速力で仕立て屋まで跳びはねてきて、仕立て屋が逃げる間もなく、大きな角の上に持ち上げました。仕立て屋は考えをまとめるひまもありませんでした。というのは牡鹿は岩や石、山や谷、森や草原を越えてとても速く走っていったからです。仕立て屋は両手で角の端にしがみつき、運命に身を任せていましたが、まるで飛び去っていってるように思われました。しまいに牡鹿は岩の壁の前で止まり、そっと仕立て屋を降ろしました。仕立て屋は生きた心地がしなくて我に返るのにしばらく時間がかかりました。牡鹿はそばに立ったままでいましたが、仕立て屋がいくらか持ち直すと、角で岩の戸を力いっぱい押しました。すると戸がパッと開きました。
炎がぼわっと噴き出してきて、そのあともうもうと煙が出てきたので、牡鹿が見えなくなりました。仕立て屋はこの荒れ地から出て人間のいるところへ戻るにはどうしたらよいか、どこへ向かったらいいのかわかりませんでした。こうして決めかねて立っていると、岩から声が聞こえてきて、「恐がらないで入りなさい。何も悪いことはしません。」と叫びました。仕立て屋はためらいましたが、不思議な力に駆りたてられて、その声に従い、鉄の扉を通って大きく広々とした広間に入りました。広間の天井と壁と床はピカピカに磨かれた四角い石でできており、その一つ一つに仕立て屋の知らない刻印がついていました。仕立て屋はとても感心してあらゆるものを眺め、また出ていこうとしました。するとまた声が聞こえて、「広間の真ん中にある石の上にのりなさい。すると大きな幸運があなたを待っていますよ。」と言いました。
仕立て屋はもうかなり度胸がついていたのでその命令に従いました。石は足元で崩れ出し、ゆっくりと下に沈んでいきました。それがまたしっかり止まると、仕立て屋は辺りを見回し、自分が大きさが前と同じような広間にいると分かりました。しかし、ここには見て感心するものがもっとありました。壁を切りこんだくぼみがあり、その中に透明なガラスの入れ物があって、色のついた蒸留酒や青みががった気体が詰まっていました。広間の床には大きなガラスの箱が二つ向かい合ってあり、すぐに仕立て屋の好奇心をかきたてました。箱の一つに行ってみると、中には城のような素晴らしい建物が、農園の建物や、馬小屋や納屋や、たくさんの他のよいものに囲まれているのが見えました。どれもこれも小さかったのですが、とても念入りに精密に作られており、器用な手でとても正確に彫られたようにみえました。また声が聞こえてこなかったら、仕立て屋はしばらくこの珍しいもののことを考えて、目をそらさなかったでしょう。
声は、振り返って向かい側にあるガラスの箱を見るように、と仕立て屋に命じました。そこにはとても美しい乙女が入っていました。仕立て屋はさらに一層見とれました。娘は眠っているように横になっており、高級なマントのように長い金髪に包まれていました。目は固く閉じていましたが、顔色が明るく、リボンが息をするたび前後に動くので、娘が生きているのは間違いありませんでした。
仕立て屋が胸をどきどきさせながらこの美しい娘をみつめていると、娘が突然目を開け、仕立て屋を見てビクッとしましたが、喜びました。「まあ!」と娘は叫びました。「もうすぐ救われるのね。早く、早く。私をこの牢獄から助け出して。このガラスの棺のかんぬきをはずしてくれたら、私は自由になれるの。」
仕立て屋は早速従いました。娘はすぐにガラスのふたを上げて出てきて、部屋のすみに急ぐと、大きなマントをはおりました。それから石の上に腰をおろし、こっちへいらっしゃい、と若い男に言いました。娘は男の唇に親しみをこめたキスをしたあと、言いました。「長い間待ち望んだ救い主さん、恵み深い神様があなたを私のところに連れてきてくださって、私の悲しみを終わらせてくれました。悲しみが終わるまさにその日に、あなたの幸せが始まります。あなたは天が選んだ私の夫です。私に愛され、この世のあらゆる財産であふれるほど裕福に、とぎれることのない喜びのうちに人生を過ごすのです。お座りなさいな。私の身の上話を聞いてください。私は裕福な伯爵の娘です。両親は私がまだ幼いころに亡くなり、遺言で兄に私をゆだねました。それでその兄に私は育てられました。私たちはとてもお互いを愛していましたし、考え方や好みもとても似ていたので、二人とも誰とも結婚しないで、命が尽きるまで二人で一緒にいようと決心していました。
家ではお客が絶えることがありませんでした。近所の人たちや友達がよく訪ねてきて、私たちはだれでも手厚くもてなしました。そうしてある晩、見知らぬ人が馬でやってきて、次のところまで行くことができないからと言って、一晩泊めてください、と頼んできたのです。私たちはすぐ丁重に頼みをきき入れました。その男は夕食の間、色々なお話をまぜて会話をして、とても感じよく私たちを楽しませてくれました。兄はその見知らぬ人をとても気に入って、二、三日うちで過ごすように、と頼みました。少しためらったあと、男は了承しました。私たちは夜遅くなって席を立ちました。その見知らぬ男は一つの部屋に案内されました。
私は疲れていたので、自分の柔らかいベッドに手足を伸ばそうと急ぎました。私が寝入ってすぐ、微かな楽しい音楽の音で目が覚めました。その音がどこからくるのかわからなかったので、隣の部屋で眠っている侍女を呼ぼうとしましたが、驚いたことに、得体のしれない力に言葉を奪われて声が出なくなっていました。
私はまるで夢魔が私の胸にのしかかっているように感じ、ほんの少しの音も出せませんでした。そのうちに、夜につけておくランプの明かりで、あの見知らぬ男が、しっかり錠をかけてある二つの扉を通りぬけて、私の部屋に入ってくるのが見えました。男は私のところに来て、言いました。『私は自由に使える魔法の力で、あなたを目覚めさせる心地よい音楽を鳴らしたのだ、今あなたに求愛するつもりで錠もすべて破って押し入ったのだよ。』と。ところが、私は男の魔法が大嫌いでしたから、返事をしませんでした。
男はしばらく動かないで立ったままでした。多分好ましい返事を待つつもりだったのでしょう。しかし、私は黙り続けたままだったので、男は、お前の高慢を罰する方法を見つけてこの仕返しをしてやるぞ、と怒って言うと部屋を出て行きました。私はとても心配しながら夜を過ごし、明け方にかけてやっと寝入っただけでした。目が覚めて兄のところに急ぎましたが、部屋にいませんでした。召使たちに聞いて、兄は夜明けにその男と一緒に馬で狩りに出かけたとわかりました。
私はすぐに悪い予感がしました。急いで服を着ると、馬に鞍をつけさせ、一人の召使だけを連れて、森へ全速力で走っていきました。召使は馬と一緒に倒れ、あとをついてこれませんでした。馬が足を折ってしまったのです。私は止まらないで道を急ぎました。二、三分すると、その見知らぬ男が、綱でひいた美しい牡鹿を連れて、私の方へやってくるのが見えました。私は、兄をどこへおいてきたのか、この牡鹿はどうやって手に入れたのか、と尋ねました。牡鹿の大きな目から涙が流れているのが見えました。
答える代りに、男は大声で笑い出しました。私はこれをきいてかっとなり、ピストルを抜いてその怪物に発射しました。しかし弾は男の胸ではね返り、私の馬の頭に当たりました。私は地面に落ち、見知らぬ男が何か言葉をぶつぶつ言って、私の意識を失なわせました。意識が戻ったとき、私はこの地下のガラスのひつぎに入っていました。魔法使いがもう一度現れて、兄を牡鹿に変え、城とそれに付属するもの全部は魔法で縮めて、もう一つの箱に入れた、召使たちは、みんな煙に変え、ガラス瓶に閉じ込めた、と言いました。
男は、もし今おれの望みに応じれば、全部元に戻すのは簡単なことだ、入れ物を開ければいいだけだからな、そうすればすべてまた元の姿に戻る、とも言いました。私は初めの時と同じでほとんど返事をしませんでした。男は消え、私を牢獄に入れたままにしました。そうして深い眠りが私にやってきました。目の前に通っていった幻の中で、一番のなぐさめは、若い男の人が来て私を自由にしてくれたことでした。そして私が今日目を開けるとあなたが見え、私の夢が本当になったのがわかりました。さあ、これらの幻で起こった他のことをやりとげる手伝いをしてください。
初めに、二人で城が入っているガラスの箱を持ち上げて、あの広い石の上におくの。」箱を置くとすぐ、石は娘と若い男をのせたまま高く上がり始め、天井の開口部を通って上の広間にはまりました。そこから二人は簡単に外に出ることができました。ここで娘はふたを開けました。すると、驚いたことに、みるみるうちに、中に入っていた城や家々や農園の建物がものすごい速さで伸び広がり元の大きさになっていきました。
このあと、娘と仕立て屋は地下のほらあなに戻り、煙がつまっている入れ物を同じ石において運びあげさせました。娘がビンを開けた途端、青い煙が勢いよく流れ出て、生きている人間に変わり、それで召使たちや家来たちだとわかりました。さらに、娘はいっそう喜んだことに、雄牛の姿でいた魔法使いを殺した兄が、人間の姿に戻って森から二人の方にやってきたのです。そして約束通りその同じ日に、娘は祭壇の前で幸運な仕立て屋に手をさしのべて結婚しました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

賢い下男

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

主人の命令に耳を傾けるが、従わず、自分自身の賢さに従うのを好む賢い下男がいるとき、その主人はどんなに運が良く、家は万事がどんなにうまくいくでしょう。あるとき、主人は、こういう種類の下男である賢いハンスを行方不明の牛を探しに行かせました。長い間帰ってこないので、主人は、「忠実なハンスは仕事に手を抜かないな。」と考えていました。
しかし、全く帰ってこなかったとき、ハンスになにか悪いことが起こったのではと思い、自分でハンスを探しにでかけました。長い間探さなくてはなりませんでしたが、とうとう若者が大きな野原をあちこち走っているのを見つけました。「なあ、ハンスよ」主人はハンスの近くに来ると言いました。「探しにやった牛を見つけたのかい?」「いいえ、ご主人さま、牛は見つけませんでした。でも牛を探さなかったんです。」とハンスは答えました。「じゃあ、ハンス、お前は何を探しているんだい?」「3羽のつぐみです。」と若者は答えました。「それでどこにいるんだい?」と主人は尋ねました。「一羽を見て、もう1羽を聞いて、3羽目を追いかけているところです。」と賢い若者は答えました。
これを見本にして、主人や主人の命令に骨を折らずに自分の頭に浮かぶことや自分の気に入ることをしなさい。そうすればみなさんは賢いハンスと同じくらい賢くやれるでしょう。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

雪白と薔薇紅

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、人里離れた小さい家に貧しい未亡人が住んでいました。家の前に庭があり、そこには2本のばらの木がありました。そのばらの木の一本には白い花が、もう一本には赤い花が咲きました。この人には二本のばらの木のような子供が二人いて、一人は雪白、もう一人はばら紅と呼ばれました。二人は善良で幸せで、よく動き、明るい子供で、世界を探してもこんな二人はいないと思われました。ただ雪白の方がばら紅より静かでおとなしいといえました。ばら紅は花を捜したりチョウをつかまえたりして草原や野原を走り回る方が好きでしたが、雪白は母親と一緒に家にいて、家事を手伝ったり、何もすることがないときは母に本を読んであげたりしました。二人の子供たちはお互いが大好きだったので、一緒に外に出るときはいつもお互いの手を握っていました。そして雪白は「私たちはお互いを離れないわ」と言い、ばら紅は「生きてる限りずっとね。」と答え、母親は、「一人が持ってるものをもう一人と分かち合うのよ」と付け加えるのでした。
二人はよく二人だけで森を走り回り、赤イチゴを摘みました。二人に危害を加える獣はいなくて、信用して二人に近づいてきました。子ウサギは二人の手からキャベツの葉を食べ、ノロジカは二人のそばで草を食べ、牡鹿はふたりのそはで楽しそうに跳ね、鳥たちは枝にじっとして知っている歌を歌いました。森にずっと遅くまでいても、何の災難も二人におきませんでした。夜が来ると、二人は苔の上に並んで寝て、朝が来るまで眠りました。母親はこれを知っていて、二人のために心配したりしませんでした。あるとき、二人が森で夜を過ごし、夜明けが二人を起こしたとき、輝く白いドレスを着た美しい子どもが二人の寝床の近くに座っていました。子供は立ちあがって二人をとてもやさしくみつめましたが、何も言わないで、森の中へ行ってしまいました。そして二人が周りを見回すと、二人は断崖のとても近くに眠っていて、あと2,3歩行っただけで暗いのでそこに落ちていたことがわかりました。母親は、それはよい子たちを見守っている天使だったにちがいないよ、と二人に話しました。
雪白とばら紅は母親の小さな家をとてもきれいにしておいたので、中を見るのは楽しいことでした。夏にばら紅は家の手入れをして、毎朝、母が目覚める前に母のベッドのそばに、それぞれの木からとった1本のばらを入れた花輪をおきました。冬には雪白が火を燃やし、炉にやかんをかけました。やかんは真鍮製でとてもあかるく磨かれて金のように輝きました。夕方に、雪がちらちら降ってくると、母親は「雪白や、戸にかんぬきをかけておいで。」と言いました。それからみんなで暖炉の周りに座り、母親は眼鏡をとりだして大きな本から声をだして読んであげ、二人の娘は座って糸を紡ぎながら、耳を傾けました。三人の近くには子羊が床にねて、後ろの止まり木には白い鳩が翼の下に頭を隠して座っていました。
ある夜、三人がこんなふうにくつろいで座っていたとき、だれかが、中に入れてもらいたがっているように戸をたたきました。母親は、「ばら紅、急いで戸を開けておやり。宿を探している旅の人にちがいないよ。」と言いました。ばら紅は行って、それが気の毒な人だと思いながら、かんぬきをはずしました。しかし、違いました。入口に広い黒い頭をぬっと入れたのは熊でした。ばら紅は悲鳴をあげ、飛び退りました。子羊はメエメエなき、鳩が羽をばたばたさせ、雪白は母親のベッドのかげに隠れました。しかし、熊は喋り始め、「こわがらないで。危害を加えませんから。私はもう凍えそうであなた方のそばで少し温まりたいだけなんです。」と言いました。「かわいそうな熊さん、どうぞ火のそばに横になって。ただ毛皮をこがさないように気をつけてね。」と母親は言いました。それから、大きな声で、「雪白、ばら紅、出ていらっしゃい、熊さんは何もしやしないわよ。こわがらないで。」と言いました。熊は、「さあ、子供たち、ちょっと毛皮から雪を払い落してくださいな。」と言いました。それで二人はほうきをもってきて、熊の皮をきれいに掃きました。それで熊は火のそばに体を伸ばし、満ち足りて気持ちよさそうにうなりました。
まもなく二人はすっかりなれてきて、この不器用なお客にいたずらを始めました。二人は手で熊の毛を引っ張ったり、背中に足をのせてあちこち転がしたり、はしばみの小枝をとってきてたたいたりして、熊がうなると二人は笑いました。しかし、熊は悪く取らないでなんでも二人にさせておきましたが、二人があまりにひどくなったときだけは、「私を生かしておいてくれ、雪白、ばら紅、君たちは求婚者を殺す気か」と叫びました。寝る時間になって他の人たちがベッドに行くと、母親は熊に、「あなたは暖炉のそばにねるといいわ。そうすれば寒さと悪天候から安全でしょ。」と言いました。夜が明けるとすぐ、二人の子供たちは熊を外に出し、熊は雪をこえて森に走って行きました。それ以来、熊は毎晩同じ時間にやってきて、暖炉のそばに寝て、好きなだけ子供たちを遊ばせておきました。そして熊にとても慣れたので黒い友達がやってくるまでは戸にかんぬきをしなくなりました。
春がやってきて、外一面が緑になったとき、ある朝、熊は雪白に、「もう行かなくてはならない。夏中は戻れないよ。」と言いました。「では、どこへ行くの?熊さん」と雪白は尋ねました。「森へ行って悪い小人たちから宝を守らなくてはいけないんだ。冬に地面が固く凍る時は小人たちは地下にいて、出て来れないんだが、お日さまが氷を溶かし地面を暖めると、地面から出てきて宝を掘って盗むんだ。それで一度やつらの手にはいったら、ほら穴にしまいこんで、二度とわからなくなってしまうんだよ。」と熊は言いました。雪白は熊と別れるのがとても残念でした。熊のために戸のかんぬきをはずしていて、熊が急いで外に出ようとしていたので、かんぬきにぶつかり、毛皮がすこし切れ、雪白にはその切れ目から金が光っているのが見えたように思いましたが、はっきりとはわかりませんでした。熊は素早く走り去り、やがて木々のうしろに見えなくなりました。
その後まもなく、母親はたきぎを集めに子供たちを森へやりました。そこで二人は地面に倒れた大きな木を見つけました。そしてその幹の近くの草の中で何かが前後に跳びはねていましたが、二人はそれが何かわかりませんでした。もっと近づいてみると、年とったしわくちゃの顔をして、雪のように白いあごひげが一ヤードも長い小人が見えました。ひげの端が木の割れ目に挟まり、この小さな生き物は綱につながれた犬のようにあちこち跳びはねていて、どうしたらよいのかわかりませんでした。小人は火のような赤い目で娘たちをにらみつけて、「お前たちはなぜそこにつっ立ってるんだ?こっちへ来てわしを助けんか?」と叫びました。「何をしようとしているの?小人さん」とばら紅が尋ねました。「この間抜けの馬鹿野郎」と小人は答えました。「料理に使う小さなたきぎをとろうとしてその木を割ろうとしていたんだわい。わしらが食べる少しの食べ物は重い丸太ではすぐこげてしまうんじゃ。わしらはお前たちのようなさつながつがつ食べる人種ほどは食わんからな。くさびをうまくうちこんだばかりで、思っていたとおりに万事がいっていたんだが、忌々しいくさびが滑らか過ぎたんだろう、急にはじけ出て、木が急に閉じてしまったから、わしの美しい白いひげが抜けなくなってしまったのじゃ。今はきつく挟まってわしは離れられん。それで、ばかな、でかいミルク顔の者が笑いおる。ああ、お前たちは何ていやなやつだ」子供たちはとても一生懸命やりましたが、ひげを引っ張りだすことができませんでした。あまりにきつく挟まっていたのです。「走って行って誰か呼んでくるわ。」とばら紅は言いました。「この無分別のとんま」と小人がどなりました。「なんでだれかをつれてこなきゃならん?お前たち二人でもわしには多すぎるんだ。もっとましなことを思いつかんのか?」「いらいらしないで、助けてあげるわ」と雪白は言って、ポケットから鋏を引き出し、ひげの端を切り離しました。
小人は自由になるとすぐ木の根の間にある金でいっぱいの袋を握り、「がさつ者め、わしのすてきなひげを切るなんて、悪運をお前たちに」とぶつぶつ独り言を言いながら、その袋を持ち上げ、背中に袋を振り担ぎ、子供たちを一度も見ないで去りました。その後しばらくして雪白とばら紅は魚取りにいきました。小川の近くに来ると、大きなバッタのようなものが跳び込もうとしているように水のほうへ跳ねていくのがみえました。二人は走っていき、それが小人だとわかりました。「どこへいくの?」とばら紅が言いました。「川に入りたいんじゃないのよね?」「わしはそんな馬鹿じゃない。忌々しい魚がわしをひっぱりこもうとしているのが見えんのか?」と小人は叫びました。
小人はそこで釣りをして座っていましたが、不運にも風でひげが釣り糸とからまってしまいました。そのすぐ後、大きな魚がえさに食いつき、その力のない生き物はその魚を引き上げる力がありませんでした。魚の方が優勢なまま小人を自分の方へ引きました。小人は手当たり次第に葦や灯心草につかまりましたがあまり役にたちませんでした。というのは小人は魚の動きに合わせるしかなく、今にも川に引きずり込まれる危険があったからです。娘たちはちょうどよく来たのです。二人は小人をしっかり押さえてひげを糸からはずそうとしましたが、無駄でした。ひげと糸はしっかりからまりあっていました。鋏を取り出してひげを切るしかありませんでした。それでひげの一部分がなくなりました。小人はそれをみると金切り声をあげました。「それが礼儀にかなってるか?この毒きのこめ、人の顔を台無しにしおって。ひげの端を切りぬくだけで十分ではなかったのか?今度は一番いいところを切りとりやがって。仲間に見られるわけにいかんではないか。お前たちなんぞ走って靴の底がはげ落ちるがいいんだ。」それから灯心草の中にある真珠の袋を取り出し、あとは一言も言わないで、それをひきずっていき、石の向こうに消えました。
それからまもなく、母親は二人の子供たちを針や糸、レースやリボンを買いに町へやりました。道をいくと二人は大きな岩があちこち散らばっている荒れ野を通りました。そこで二人は大きな鳥が空中を舞い、自分たちの上でゆっくりとぐるぐる回っているのに気付きました。鳥はだんだん低く降りてきて、ついにあまり遠くない岩の近くに止まりました。途端に大きな悲鳴が聞こえました。二人は走って行き、見てびっくりしました。ワシが二人の古い知り合いの小人をつかみ、連れ去ろうとしていたのです。子供たちは可哀そうに思い、すぐに小人をしっかりつかみ、しばらくワシと引っ張り合って、とうとうワシは小人の体を放しました。小人は初めの恐怖がなくなると、金切り声で「もっと気をつけてやれなかったのかい?わしの茶色の上着をひきずって、ずたずたで穴だらけじゃ。不器用な生き物め。」と叫びました。それから宝石でいっぱいの袋を持ち上げ、また岩の下の穴にするりと入りいなくなりました。娘たちは、これまでに小人の恩知らずに慣れていたので、道をすすんで町で用事を済ませました。
二人が帰り道にまた荒れ野を通ると、小人に出会い、小人はどきっとしました。宝石の袋をきれいな場所に空けていて、そんなにおそく誰かがやってくるとは思っていなかったのです。宝石があらゆる色でとてもきれいに光り輝いていたので、子供たちは立ち止まってじっとみました。「なんでそこで口を開けてたっとるんじゃ?」と小人は叫び、灰色の顔が怒りで赤銅色になりました。小人がまだ悪態をついていると、大きなうなり声が聞こえ、黒い熊が森から三人の方へ走ってきました。小人は驚いて跳び上がりましたが、ほら穴には入れませんでした。というのは熊はもう近くにいたのです。それで恐怖に駆られて、小人は、「熊さま、私はご勘弁を。宝をみんな差し上げます。ほら、そこに美しい宝石があります。命を助けてください。私のような細っこいのをどうしますか?食べたって歯ごたえを感じないでしょうよ。さあ、こちらの二人の意地悪な娘たちをどうぞ。これはやわらかくておいしいごちそうですよ。わかいウズラのように肥えていますからね。お願いだから二人を食べて。」と叫びました。熊は小人の言葉に何も注意を払わないで、この意地悪な生き物に手で一撃を加えました。それで小人は二度と動かなくなりました。
娘たちは逃げましたが、熊が二人に呼びかけました。「雪白、ばら紅、怖がらなくていいよ。待って、私も一緒に行くから。」それで二人は声でわかり、待ちました。熊が二人に近づいてきたとき、突然熊の皮が抜け落ち、そこにハンサムな男が、全身金の服を着て、立っていました。「私は王様の息子です。」とその人は言いました。「私は悪い小人に魔法にかけられていたのです。その小人は私の宝を盗んでいたのですよ。私は小人が死んで魔法がとけるまで、獰猛な熊になって森を走りまわらねばなりませんでした。今、小人は自分にふさわしい罰を受けたのです。」雪白はこの王子と結婚し、ばら紅はその弟と結婚しました。そして小人がほら穴に集めた大きな宝をみんなで分けました。年とった母親は何年も子供たちと一緒に平穏で幸せに暮らしました。母親は2本のばらの木を一緒に持って行き、自分の窓の下に植え、毎年白と赤の最も美しい花を咲かせました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

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