グリム童話

グリム童話は、ヤーコプとヴィルヘルム・グリムによって編纂された、時代を超えた民話のコレクションです。これらの物語は、勇気、魔法、道徳をテーマにした話が世代を超えて共鳴し続ける、民俗の宝庫です。「シンデレラ」や「白雪姫」、「ヘンゼルとグレーテル」などの古典から、「漁師とその妻」や「ルンペルシュティルツキン」といったあまり知られていない珠玉の話まで、それぞれの物語がヨーロッパの口承伝承の豊かな織物を垣間見せてくれます。 グリム童話は、その鮮やかなキャラクター、道徳的教訓、そしてしばしば暗いトーンが特徴で、歴史的文脈の厳しい現実と幻想的な要素を反映しています。その永続的な魅力は、楽しませ、教え、驚きをもたらす能力にあり、これが子ども文学の礎となり、民俗学や物語の研究者たちにとっての魅力的な源となっています。

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三人の見習い職人

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、三人の職人がいました。三人は旅の間いつも一緒にいて、いつも同じ町で働くことに決めていました。ところが、あるとき親方に三人に渡す仕事がもう無くなり、とうとう三人はぼろを着て、食っていくものがなくなってしまいました。それで一人が、「どうしようか?ここにはもういられないよ。また旅に出よう。それで行った町で仕事が見つからなかったら、そこの宿の主人に頼んで、いつもお互いのことを知っているように、おれたちがどこにいるか書いて言っておこう。それから別れることにしよう。」と言いました。他の二人にもそれが一番いいように思われました。
三人は出かけて、途中でりっぱな服を着た男に会い、男は、お前さんたちは誰だね?と尋ねました。「私たちは仕事を探している職人です。今まで三人一緒にいたのですが、もしやることが見つからなければ、別れようと思っているんです。」「その必要はないよ。」と男は言いました。「私が言うことをやってくれれば、金や仕事に事欠かなくさせてやるよ。いや、大だんなにして馬車を乗りまわすようにするさ。」一人の職人が、「おれたちの魂と天国行きが危うくならないんなら、やっていいとも。」と言いました。「そんなことはない。」と男は答えました。「お前たちを欲しいわけではない。」しかし、もう一人の職人は男の足を見ていて、片方が馬の足でもう片方が人間の足なのがわかると、その男とかかわりたくありませんでした。すると悪魔は「安心しろ。お前たちではなく別の魂を狙っているんだ。半分はもうおれのものになっているんだが、逃がさないように十分計っておくだけさ。」といいました。もう心配ないとわかって、三人は承知し、悪魔はやってほしいことを三人に言いました。
最初の男は、何を聞かれても「おれたち三人みんなだ」と答え、二番目の男は、「金とひき換えに」と言い、三番目の男は「その通りだとも。」と言うんだ。いつもこれを順番に言うんだぞ。だが、あと一言も余分に言ってはならない。この命令に背いたら、金は全部すぐに消えてしまうぞ。だが、これを守っていたらお前たちの懐はいつもいっぱいになっている。そう悪魔は言いました。
初めに、悪魔は三人に持てるだけたくさんの金を渡し、町に着いたらこれこれの宿に行くようにと言いました。三人はそこに行き、宿の主人は三人を出迎えに来て、食べ物を何かお望みですか?と尋ねました。最初の男は、「おれたち三人みんなだ」と答えました。「はい、そのつもりです。」と主人は言いました。二番目の男が、「金と引き換えに」と言い、「もちろんです。」と主人は言いました。三番目の男が、「その通りだとも。」と言い、「確かにそうでございます。」と主人は言いました。おいしい食べ物と飲み物が運ばれ、三人はよいもてなしを受けました。食事の後支払いになり、宿の主人は勘定書きを渡し、その男は「おれたち三人みんなだ」と言い、二番目の男は「金と引き換えに」と言い、三番目の男は「その通りだとも」と言いました。「全くその通りです。みなさん3人ともお支払いですよ。お金をいただかなくては私どもは何もさしあげられませんので。」と主人は言いました。しかし、三人は主人が請求した金額よりもっとたくさん払いました。これをそばで見ていた他の泊り客は、「この人たちは気違いにちがいない」と言いました。「ええ、本当にそうですね。」と主人は言いました。「あの方たちはあまり頭がよくないですよ。」そうして三人はしばらくその宿にとどまり、「おれたち三人みんなだ」「金と引き換えに」「その通りだとも」の他は何も言いませんでした。しかし、三人はまわりで何が起こっているか見て知っていました。
たまたま、大商人がたくさんのお金を持ってやってきて、「ご主人、私の金を預かっておいてほしいんだ。ここには三人気違いの職人がいて、私から金を盗むかも知れないからね。」と言いました。主人は頼まれた通り預かり、自分の部屋に旅行かばんを運んでいる時、かばんが金で重たいと感じました。そうして、主人は三人の職人の部屋を下にしましたが、商人は上の階の分かれた部屋を受け取りました。
真夜中になり、主人はみんなが眠っていると思ったとき、妻と一緒に斧をもってきて、金持ちの商人を打ち殺し、殺した後で、またベッドに戻って寝ました。夜が明けると、大騒ぎになりました。「商人が血まみれでベッドで死んでいるぞ。」 客たちはみんな走り出てきました。しかし、主人は、「三人の気違いの職人がこれをやったんだ。」と言いました。泊り客たちはそれを認めて、「他に誰もやったはずがない。」と言いました。しかし、宿の主人は三人を呼んできてもらい、「商人を殺したのかい?」と言いました。「おれたち三人みんなだ」と最初の男は答えました。「金と引き換えに」と二番目の男が言い、三番目の男が「その通りだとも」と言いました。  
「ほらね、聞いたでしょう?あの人たちは自分で白状しましたよ。」と主人は言いました。それで、三人は牢屋に連れていかれ、裁判を受けることになりました。三人はことがとても重大になってきたとわかり、結局怖くなりましたが、夜に悪魔がやってきて、「あと一日だけ我慢しろ。せっかくの幸運をのがすな。お前たちの頭の毛一本も傷つかないようにしてやるからさ。」と言いました。次の朝、三人は法廷に連れていかれ、裁判官が言いました。「お前たちは人殺しか?」「おれたち三人みんなだ」「どうして商人を殺したんだ?」「金と引き換えに」「このばちあたりな人でなしめ。自分の罪を恐ろしいと思わんか?」「その通りだとも。」「三人は白状した。それでもまだ強情だ。すぐ死刑にせよ。」と裁判官は言いました。
それで三人は連れ出され、宿の主人は関係者に混じって一緒に行くように言われました。三人が処刑人の部下たちにつかまれて、首切り役人が抜き身の刀を持って立っている断頭台にひいていかれようとしたとき、四頭の栗毛の馬にひかれた馬車が突然近づいてきました。それはとても速く走っていたので石から火花が散りました。そして誰かが窓から白いハンカチで合図を送りました。すると首切り役人が「恩赦がきてるんだ。」と言い、「恩赦だ、恩赦だ」と馬車からも言われました。それから、悪魔が、りっぱな服を着て、とても立派な紳士として馬車からおりてきて、「お前たち三人は無実だ。もう話してもよい。お前たちが見て聞いたことを知らせるがよい。」と言いました。それで一番年上の職人が、「おれたちは商人を殺さなかったぞ。殺したのはそこの関係者の中に立っているんだ。」と言って宿の主人を指差しました。「この証拠に、宿の地下室に行ってみてください。そこにはそいつがころした他の人たちがたくさんまだぶらさがっているんだ。」それで裁判官は処刑人の部下たちをそこへ行かせました。そして職人たちが言った通りだとわかりました。このことを裁判官に報告すると、裁判官は宿の主人を断頭台に引っ張って行かせ、その首が切られました。それで、悪魔は三人に言いました。「今、欲しいと思っていた魂を手に入れたよ。お前たちは自由だし、一生暮らしていける金をもってるわけだ。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

昔、七人のシュヴァーベン人が一緒になりました。最初はシュルツさん、二番目はジャックリ、三番目はマルリ、四番目はジェルグリ、五番目はミケル、六番目はハンス、七番目はバイトリでした。七人はみんな世界を旅してまわり、冒険を求め、偉大なことをなしとげようと決心しました。しかし、安全に武器を手にしていくためにただ一本ですが、とても強力でとても長い槍を作ってもらうのがよかろうと考えました。この槍を七人が一緒に持ちました。先頭は、一番度胸があり勇敢な人、それはシュルツさんでした。他のみんなが一列になって続き、バイトリが一番最後でした。
七月のある日のことでした。七人はもう長いこと歩きましたが、泊ることができる村に着くまではまだ長い道のりがありました。たそがれ時に草原にいたので、大きなカブトムシかスズメバチがやぶのかげから出て七人のそばを飛び、脅すようにブンブン羽音をたてました。シュルツさんはとても驚き、槍を落としそうになって、体じゅうびっしょり冷や汗をかきました。「しっ、耳を澄まして!」とシュルツさんは仲間に叫びました。「わっ、太鼓の音が聞こえるぞ。」シュルツさんの後ろで槍を握っていたジャクリは、鼻が何か匂いをかぎつけ、「確かに何かおこっているぞ。火薬と火縄の匂いがする。」と言いました。
これを聞いてシュルツさんはあわてて逃げ、あっというまに垣根を跳び越えました。しかし、干し草作りのあと置きっ放しにしてあった熊手の歯の上に飛び下りたので、熊手の取っ手が顔にはね返りしたたかにぶんなぐられました。「あいたた、あいたた」とシュルツさんは悲鳴をあげました。「捕虜にしてくれ。降参だ。降参だ」他の六人みんなが次々と跳び越えてきて、「あんたが降参するなら、私も降参するよ。」「あんたが降参するなら、私も降参するよ。」と口々に言いました。やがてとうとう、敵の誰も自分たちを縛って連れて行かないので、勘違いしていたと分かりました。そのことが人に知れて、馬鹿だと笑われないように、誰か一人がうっかりその話をしてしまうまでは黙っていようと誓い合いました。そのあと七人はまた旅を続けました。
七人がきりぬけた二番目の危険は最初のと比べ物になりません。何日かあとのことですが、道をすすんでいくと休閑地を通りました。そこにウサギがひなたで眠っていましたが、耳が真直ぐに立ち、大きなガラスのような目が大きく開いていました。七人はみんな恐ろしい野の獣を見てびっくりし、どうしたら一番危険でないか相談しました。というのは、もし逃げたとして、怪物は追いかけてきてみんなをまるごと食べてしまうと知っていたからです。それで、七人は、「おれたちは大きく危険な戦いをしなくてはならない、思い切ってやれば半分勝ったと同じだ。」と言いました。
七人全員が槍を握りました。シュルツさんが先頭、バイトリがしんがり。シュルツさん①は槍を前にでないようにひたすら踏ん張っていましたが、後ろのバイトリ⑦はまるで勇ましくて前方に突撃したがって、どなりました。「突け!シュヴァーベンの一人一人の名にかけて、突かぬなら、足萎えになれ!」
しかしハンス⑥はこれをギャフンとさせて、言いました。「ひどい悪口だ、べらべら喋るのは簡単だが、竜退治ではお前はいつもしんがりだ。」ミケル⑤が、「まったくそのもの。毛の一本も違わない。そこにいるのは悪魔そのものだ。」とどなりました。次はジェルグリ④の番で、「悪魔でなけりゃ、少なくとも悪魔の母親。または悪魔の義兄弟か。」今度はマルリ③で良い考えがあり、バイトリ⑦に言いました。「進め、バイトリ⑦、進め、前へ行け。おれは代わりに後ろで槍をもつ。」しかし、バイトリは従いませんでした。それでジャックリ②は言いました。「先頭は何と言ってもシュルツさんだ。シュルツさん以外はだれもその誉にふさわしくない。」それでシュルツさんは勇気を振り絞って、重々しく言いました。「それじゃ思い切って戦いに臨もう。こうしてわれわれの勇気と力を示そう。」こうして七人みんなで竜に襲いかかっていきました。シュルツさんは十字を切って、神様のご加護を祈りましたが、何の役にも立たず、敵にだんだん近づいてきて、とても苦しくて「ハァッ、ハァッ、ハァ、ハァ」と大声をあげました。この音でウサギは目を覚まし、とても驚いて、パッと跳んで逃げていきました。シュルツさんはウサギがこうして戦場から逃げて行くのを見て、嬉しくて叫びました。「ほら、バイトリ、ほら、見てみろ、あそこだ、怪物はただのウサギだ。」
しかし、シュヴァーベン同盟軍は更なる冒険を求めて進んでいき、モーゼル川にやってきました。これは苔が多く、静かで深い川で、あまり橋がかかっていないので、人々は船で渡らなくてはならない場所が多いのです。七人のシュヴァーベン人はこのことを知らなかったので川の向こう側で働いている人に声をかけて、どうやって川を渡るか知ってるか、と聞きました。遠く離れているのと、シュヴァーベンの方言とで、その男は七人が何を言っているのかわかりませんでした。それで男は、トレヴス近辺の方言で「ウワット(何)?ウワット(何)?」と聞き返しました。シュルツさんは男が川を渡るのを「ウェィド(歩いて)、ウェィド(歩いて)」と言っているのだと思いました。それで先頭だったので、一番先にモーゼル川に入って行きました。まもなくシュルツさんは泥にはまり打ち寄せる深い波間に沈んでしまいました。しかし、帽子の方は風に吹かれて向こう岸に着き、蛙がそのそばに座って、「ウワット、ウワット、ウワット」と鳴きました。反対岸の六人はそれを聞いて、「ああ、みなさん、シュルツさんがわれわれを呼んでますな。あの人が歩いて渡れるんだから、おれたちもできますよ。」と言いました。それで六人全員が大急ぎで一緒に水にとび込み、溺れて死んでしまいました。こうして一匹の蛙が六人全員の命を奪い、シュヴァーベン同盟軍は誰ひとり故郷に帰りませんでした。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

三人の軍医

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

自分たちの腕前は完璧だと思っている三人の軍の外科医が世の中を旅していました。そして、一軒の宿に着き、そこで泊ろうと思いました。宿の主人は、どこから来なすった?どちらへいらっしゃるつもりですか、と尋ねました。「私たちは世の中を歩き回って腕試しをしているのです。」「どんなことがおできなのか一度見せてくださいよ。」と主人は言いました。すると最初の外科医が、私は自分の手を切り落として、次の朝早くまたつなげてみせます、と言いました。二番目の外科医は、私は自分の心臓をとりだして、次の朝戻します、と言いました。三番目の外科医は、私は自分の両目をえぐりだして次の朝また治してみせます、と言いました。「もしそんなことがおできなら」と主人は言いました。「みなさんは何もかも覚えなすったんですね。」しかし、三人は塗って体をくっつけることができる軟膏をもっていて、いつも小さなびんに入れて持ち歩いていたのです。それから三人は言った通りに自分たちの体から手と心臓と両目を切りとり、みんな一緒に一枚の皿におき、その皿を宿の主人に渡しました。主人はそれを戸棚に入れて大事にするようにと女中に渡しました。
ところが、その娘には内緒の恋人がいて、その人は兵士でした。それで、主人と三人の軍医、家の他のみんなが眠った時、兵士がやってきて、何か食べ物を欲しがりました。娘は戸棚を開け、兵士に食べ物を持って行き、浮き浮きしていたので戸棚の戸を閉めるのを忘れました。娘は食卓の恋人の隣に腰掛け、一緒にお喋りしていました。娘がそこで楽しく座って、悪いことが起きるとは考えないでいるうちに、猫が忍びこんで来て、戸棚が開いていたので、三人の軍医の手と心臓と両目をとって、逃げて行きました。
兵士が食べ終わり、娘はものを片づけ、戸棚を閉めようとして、主人が大事にするようにと渡した皿が空っぽなことがわかりました。それで、娘はぎょっとして恋人に、「ああ、どうしよう、手がなくなったわ。心臓も目もなくなった。明日の朝、私はどうなるの?」と言いました。「落ちつけよ」と兵士は言いました。「おれがなんとかしてやるよ。外の首つり台に泥棒がかかっている。その手を切りとってやるよ。どっちの手だ?」「右手よ。」それから娘は兵士によく切れる包丁を渡し、兵士は出かけて行って、可哀そうな罪人の右手を切りとって娘にもってきました。このあと、猫をつかまえ、その両目をえぐりだし、あとは心臓だけがありませんでした。「家畜を殺していないかい?地下に死んだ豚がないかい?」と兵士は言いました。「あるわ。」と娘は言いました。「それはよかった。」と兵士は言い、下りて行って豚の心臓をとってきました。娘は全部まとめて皿に置き、戸棚にしまいました。このあと恋人が帰ってしまうと娘は静かにベッドに入りました。
朝に三人の軍医が起きると、娘に、手と心臓と目が入っている皿を持ってくるように言いました。それで娘は戸棚からそれを持って行きました。最初の軍医は泥棒の手をとりつけて軟膏を塗ると、たちまち切り口が伸びて腕につながりました。二番目の軍医は猫の目を持って、自分の顔に入れました。三番目の軍医は豚の心臓を、自分の心臓があったところにしっかりとりつけました。宿の主人はそばで見ていて、三人の腕前に感心し、こんなことは今まで見たことがありませんよ、皆さん方のことをほめて、みんなに勧めますよ、と言いました。それから、三人は宿賃を払い、さらに旅を続けました。
三人が道を行くと、豚の心臓をつけた外科医は、全然一緒にいないで、どこでもすみがあるところへ走っていき、豚がやるように鼻でそこを掘りました。他の二人は上着の裾をつかんで引き留めようとしましたが、だめでした。男はふりほどいて、汚いものが一番多いところへ走って行ってしまうのでした。
二番目の外科医もとても変に振舞いました。目をこすって、他の二人に、「なあ、どうしたのかな?これはおれの目じゃないよ。全然見えないんだ。おれが転ばないようにどっちか一人手を引いてくれないか。」と言いました。それから、苦労して三人は夜まで歩き、別の宿に着きました。
三人は一緒に食堂へ入りました。すみのテーブルで金持ちの男が座って金を数えていました。泥棒の手をつけた軍医はその男の近くを歩き回り、腕を二、三回ぴくぴくさせ、とうとう、その男がわき見したとき、積んであった金をひったくって一握りとってしまいました。三人のうちの一人がこれを見て、「何をするんだい?盗んではだめじゃないか。恥だな。」と言いました。「えっ」と男が言いました。「だけどどうしようもないんだ。おれの手がぴくぴくして、おれの気持ちに関係なく、ものをとるようにされてしまうんだ。」このあと、三人は眠ろうと横になりました。それでそこに寝ているあいだ、とても暗くて、だれも自分の手が見えませんでした。突然、猫の目をつけた軍医が目を覚まし、他の二人を起こして、「兄弟、ちょっと上を見てみろよ。白いねずみがそこを走り回っているのが見えるか?」と言いました。二人は起きあがりましたが、何も見えませんでした。それで、男は、「おれたち、おかしいよ。おれたちは自分のものを取り戻していないんだ。あの宿の主人のところへ戻らなくちゃいけないな。おれたちをだましたんだ。」と言いました。
それで次の朝、三人は戻り、主人に、自分たちのものを受け取らなかった、最初の男には泥棒の手が、二番目の男には猫の目が、三番目の男には豚の心臓がついてる、と言いました。宿の主人は、それは女中のせいに違いない、と言って、呼んでこようとしました。しかし、女中は三人がやってくるのを見て、裏口から逃げてしまい、戻りませんでした。それで三人は宿の主人に、金をたくさん寄こせ、さもないと家の屋根に赤いおんどりを置くぞ、と言いました。-赤いおんどりが火を意味するのはずっと昔の言い回しです‐主人は有り金を全部、それから工面できたものは全て、三人に渡しました。それで三人はそれを持って立ち去りました。それは三人が死ぬまで暮らすのに十分でしたが、それでも自分の元々の手や心臓や目をつけていたかったでしょう。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

わがままな子供

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、頑固で母親が望んだことをどうしてもやらない子供がいました。そのため神様はその子供を好まなくて病気にさせました。医者はだれもどうしようもなくまもなく子供は死の床につきました。子供が墓に下ろされ、土がかぶせられたとき、突然子供の腕が出てきて上に伸び、中にいれてまた新しい土をかけました。それはまったく無駄で、必ず腕はまた出てきました。それで母親自身が墓に行くしかなくなって、その腕を棒で打ちました。すると、腕は中へ引き込まれて、やっと子供は地面の下で安らかになりました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

青いランプ

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、ある兵士がいました。長年忠実に王様に仕えてきましたが、戦争が終わると、受けたたくさんの傷のためもう仕えることができなくなりました。王様は兵士に、「家に帰ってよろしい。もうお前は必要ない。金ももうやらんぞ。給金は見合う働きをした者だけ受けるのだからな。」と言いました。それで兵士はどうやって暮らしをたてたらよいのかわからず、大いに困って立ち去り、一日中歩き、とうとう夕方には森に入りました。暗くなると明かりが見えて、近づいていくと、魔女が住んでいる家につきました。「どうか一晩泊めてください、それと少し食べ物と飲み物をください。」兵士は魔女に言いました、「そうしないと私は飢え死にしてしまいます。」「おや!」と魔女は答えました、「逃げてきた兵士に誰が食べ物をやるかね?だけどまあ、かわいそうだから、私の望むことをやるなら、入れてやってもいいよ。」「何をして欲しいんですか?」と兵士は言いました。「明日、私の庭の周りをぐるりと掘って欲しいのさ。」兵士は承知し、次の日、力いっぱい働きましたが夕方までに終えることができませんでした。「十分よくわかるよ」魔女は言いました「今日はこれ以上やれないとね。だけど、あす積み荷のたきぎを切って、小さく割ってくれたらもう一晩おいてもいいよ。」兵士はそうするのにまる一日かかりました。そして夕方に魔女はまた一晩泊らないか、と言いました。「明日はほんのちょっとした仕事をしてもらうだけさ。この家の後ろに古い涸れた井戸があって、その中に私の明かりが落ちたんだよ。青くもえて、消えることはないんだよ。それをとってきてもらいたいのさ。」
次の日おばあさんは兵士を井戸に連れて行き、かごに入れて下ろしました。兵士は青い明かりを見つけ、また引き上げる合図をしました。魔女は確かに引き上げましたが、兵士が縁まで来ると、手を伸ばして青い明かりを兵士からとろうとしました。「だめだ」と兵士は魔女の悪巧みを知って言いました、「地面に両足で立つまでは明かりを渡さないよ。」魔女は怒って兵士をまた井戸に落として、行ってしまいました。
可哀そうな兵士は湿った土に怪我をしないで落ち、青い明かりは燃え続けていましたが、それが何の役に立ったでしょう?兵士はこれでは死んでしまうととてもよくわかりました。しばらくの間、とても悲しく座っていました。それから急にポケットの中をさぐると、たばこのパイプが見つかり、まだ半分たばこが詰まっていました。「これを最後の楽しみとしよう。」と考え、ポケットから引っ張り出すと、青い明かりで火をつけ、たばこを吸い始めました。煙が穴の中に回ったとき、突然小さな黒い小人が兵士の前に立ち、「ご主人さま、ご命令は何でしょう?」と言いました。「おれの命令は何か、だって?」と兵士はすっかり驚いて、答えました。「私はあなたが命令することを何でもしなければならないのです。」と小人は言いました。「よろしい。」と兵士は言いました。「じゃ、最初にこの井戸から出してくれ。」小人は兵士の手をとり、地下の通路を連れて行きましたが、兵士は青い明かりを持ってくるのを忘れませんでした。途中で小人は、魔女が集めそこに隠した宝物を見せ、兵士は持てるだけ多くの金をとりました。井戸から出ると、兵士は小人に「今度は年とった魔女を縛りに行ってくれ、それで裁判官の前に連れていくんだ。」と言いました。
まもなく、魔女がヤマネコに乗り、恐ろしい叫び声をあげながら風のように通りすぎました。またまもなく小人が現れ、「終わりました。魔女はもう首つり台にぶら下がっています。次のご命令は何でしょう?ご主人様」とききました。「今のところ、何もない」と兵士は答えました。「お前は帰ってもよいが、呼んだら、すぐ来るようにしておいてくれ。」「青い明かりでパイプに火をつけるだけでいいんです。他は必要ありません。そうすれば私はすぐにご主人様のところに現れます。」そう言って小人は消えていなくなりました。
兵士は自分が出て来た町へ戻りました。一番良い宿屋へ行き、りっぱな服を注文し、宿の主人に部屋にできるだけすばらしい家具を入れてくれるよう告げました。用意ができると兵士はその部屋に入り、小さな黒い小人を呼び、「おれは王様に忠実に仕えてきたが、王様はおれをくびにして、腹をすかせておいたんだ。それで今おれは仕返しをしたいんだ。」と言いました。「私は何をすればよろしいですか?」と小人は尋ねました。「夜遅く、王様の娘が寝ている時、眠ったままここに連れて来い。娘に女中の仕事をさせてやる。」小人は、「それは私には簡単なことですが、ご主人様にはとても危険なことです。もし見つかればひどいことになりますよ。」と言いました。12時になると、戸がパッと開き、小人が王女を運び込みました。「へえ、お前はそこか?」と兵士は叫びました。「すぐに仕事にかかれ。ほうきをとって部屋を掃け。」王女がこれをやってしまうと、自分の椅子のところにこいと命令し、足を伸ばして、「長靴を脱がせろ」と言い、それから長靴を娘の顔に投げ、もう一度拾わせて、きれいに磨かせました。ところが王女は、反対もしないで命じたことを全部黙って、目を半分閉じて、やりました。最初のおんどりが鳴くと、小人は王宮に王女をもどし、ベッドにねかせました。
次の朝、王女は起きると父親のところへ行き、とても変な夢を見たと話しました。「私は稲妻のようなはやさで通りを運ばれていって、兵士の部屋へ連れていかれたのよ。それでその兵士に女中のように仕えなければいけなかったの。部屋をそうじしたり、長靴を磨いたり、召使がやる仕事を全部よ。ただの夢だけど、今、本当にみんなやったみたいに疲れてるわ。」「夢は本当だったのかもしれないぞ。」と王様は言いました。「お前にいいことを教えてやろう。ポケットにえんどう豆をいっぱい入れて、ポケットには小さな穴を空けておくんだ。それでお前がまた連れていかれたら、豆が落ちて、道に跡ができるだろう。」しかし、王様に見えなくして、小人は王様がそれを言っている時そばにたっていて、全部聞きました。夜に眠っている王女がまた通りを運ばれた時エンドウ豆はたしかにポケットから落ちましたが、跡はつきませんでした。というのは賢い小人はそのちょうど前にどの通りにもエンドウ豆をまいておいたからです。そして今度も王女はおんどりが鳴くまで女中の仕事をせざるをえませんでした。
次の朝、王様は家来をやって跡を捜させましたが、無駄でした。というのはどの通りにも貧しい子供たちが座りこんでエンドウ豆を拾いながら、「夕べ、エンドウ豆が降ったにちがいないよ。」と言っていたからです。「何かほかのことを考えねばなるまい。お前は寝るとき靴を履いたままでおれ。それで連れ去られたところから帰る前に、そこに片方の靴を隠しておくのだ。わしはすぐにそれを見つけるとしよう。」と王様は言いました。黒い小人はこの計画も聞いていて、夜に兵士がまた王女を連れて来いと命令したとき、それを兵士に打ち明けて、この策略を防ぐ方法を知りません、もしもその靴が兵士の家で見つかればひどいことになります、と言いました。「命じたことをやれ。」と兵士は答え、この3晩目もまた王女は召使のように働かなければなりませんでしたが、立ち去る前にベッドの下に靴を隠しました。
次の朝、王様は娘の靴を町中で捜させました。それは兵士のところでみつかり、兵士自身は、小人の頼みで町の門の外に出てしまっていましたが、すぐに連れ戻され、牢屋に入れられました。逃げるときに、兵士は持っていた一番大事なもの、青い明かりと金、を忘れてしまい、ポケットにたったダカット金貨一枚しか入っていませんでした。今鎖でつながれ、地下牢の窓のところに立っていましたが、たまたま兵士仲間の一人が通りかかるのが見えました。兵士は窓ガラスをたたき、この男が近くへ来ると、「頼むから、おれが宿に置いてある小さな包みを持って来てくれないか、お礼に一ダカットやるよ。」と言いました。
兵士の仲間はそこへ走り、望みのものを持ってきました。兵士はまた一人になるとすぐ、パイプに火をつけ、黒い小人を呼び出しました。「恐れることはありません。」と小人は主人に言いました。「あの人たちが連れて行くどこへでも行って、やりたいようにやらせてください。ただ青い明かりを忘れないで持っていてください。」次の日、兵士は疲れました。何も悪いことをしていないけれども、裁判官は死刑を言い渡しました。死刑場に連れて行かれる前に、兵士は王様に最後の頼みをお願いしました。「それは何かね?」と王様は尋ねました。「途中であと一回たばこを吸ってもよいかということです。」「3回吸ってもよいぞ。ただし、わしがお前の命を助けるなどとは考えるなよ。」と王様は答えました。それで兵士はパイプを出し、青い明かりでそれに火をつけました。煙の輪が2,3昇ったらすぐに、小人が手に小さなこん棒を持ってそこに出てきて、「ご主人さま、ご命令は何でしょう?」と言いました。「不実な判事とその警備、を殴り倒せ、それからおれにとてもひどい扱いをした王様も容赦するな。」それで小人は稲妻のように襲いかかり、サッとあちこち動いて、そのこん棒に触れた誰もが地面に倒れ、二度と動こうとしませんでした。王様は恐れおののいて、兵士に、ただ生きてるだけでよいと許しを乞い、国を兵士に与え、娘を妻に与えました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

仕立て屋の職人が仕事を探して世間を旅をして歩いていました。あるとき仕事が何もみつからなくて、とても貧しくなり、一文無しになってしまいました。まもなく道で一人のユダヤ人に出会い、金をたくさんもっているだろうと考え、神様を心から追い出し、ユダヤ人に襲いかかって、「金をよこせ。さもないとぶっ殺すぞ。」と言いました。するとユダヤ人は、「命ばかりはお助け下さい。お金は8ファージングしかもっていないのです。」と言いました。しかし、仕立て屋は「金は持ってるはずだ。出せ。」と言って、暴力をふるい、ユダヤ人が死にそうになるまでなぐりました。死にかかっているユダヤ人は最後に、「明るいお日様がこれを明るみに出すだろう。」と言って、死んでゆきました。仕立て屋の職人はユダヤ人の懐をさぐって、金をさがしましたが、ユダヤ人が言ったように8ファージングしかみつかりませんでした。それから職人はユダヤ人を持ち上げて、密集した木々のかげに運び、仕事を探しに旅を続けました。職人は長い間旅をした後、ある町の主人のところに仕事を見つけ、その主人の美しい娘と恋をし、結婚して、仲むつまじくしあわせに暮らしていました。
しばらくして、この夫婦に子供が二人できたとき、妻の父母が死に、若い人たちだけで世帯を切り盛りしました。ある朝、夫が窓の前のテーブルに座っていたとき、妻がコーヒーを持ってきました。夫が受け皿に注いで、これから飲もうというとき、お日さまがそれに当たって、はね返った光が上の壁であちらこちら光り、そこでたくさんの輪を作りました。それで、仕立て屋は見上げて、「そうだな、お日さまはあれをとても明るみに出したいようだができないんだ。」と言いました。妻が、「あら、あなた、じゃあそれって何なの?なんのことを言ってるの?」と言いました。仕立て屋は、「お前に言えないよ。」と答えました。しかし、妻は、「私を愛してるなら、話してよ。」と言って、とても愛情たっぷりの言葉をいろいろ使い、誰にも言わないから、と言ってしつこくせがみました。それで、仕立て屋は、何年も前、仕事を探して旅をしていたときすっかり疲れ無一文で、ユダヤ人を殺したんだ、それで苦しんで死ぬ間際に、そのユダヤ人が「明るいお日さまが、これを明るみに出すぞ」という言葉を言ったんだ、それで今、お日さまがそれを明るみに出したがって、壁で光って輪を作ったが、そうできなかったよ、と妻に話しました。このあと、このことを誰にも言わないんだぞ、そうしないとおれは命を失うからな、と妻に特に念を押しました。妻はしっかり約束しました。ところが、また仕事を続けようと座った時、妻は親しい友達のところへ行ってこの話を打ち明け、誰にも言わないようにと頼みました。しかし、3日もたつと、町中がそれを知ってしまい、仕立て屋は裁判にかけられ、処刑されました。こうして、結局、明るいお日さまはそれを本当に明るみに出したのです。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

昔、とても高慢な王女がいて、求婚者が来ても、なぞを出して解けなければ馬鹿にして追い返しました。王女はまた、なぞを解いたら誰でも自分と結婚できる、誰でも来てよい、というお触れも出させました。そういうわけで、しまいには三人の仕立て屋がそろってやってきました。年上の二人は、手先を使う仕事をこれだけうまくたくさんこなしたのだから、これも必ずやり遂げられるさと自信満々でした。三人目はチビで役立たずのお調子者で、自分の仕事さえできなかったのですが、これで運が開けるに違いない、そうでなければ運はどこからくるというんだ?と考えていました。そのとき他の二人はチビの仕立て屋に、「家にいろよ。お前のちっぽけな頭の程度では大したことができないさ。」と言いました。しかし、チビの仕立て屋はやる気をなくさないで、一度これをやってみようと決めたんだからやってみせる、と言って、世界じゅうが自分のものとでもいうふうに意気揚々と出かけていきました。
三人とも王女に申し出て、どうぞなぞを出してください、今こそふさわしい人がやってまいりました、とても細やかな頭の働きがあるので針に糸を通せます、と言いました。すると王女は、「私の頭には二種類の髪の毛があります。その色は何でしょう?」と言いました。「それだけなら」と最初の仕立て屋が言いました。「それは白と黒ですな。ゴマ塩と呼ばれる布と同じです。」王女は「はずれ。はい、二番目の者、答えてください。」と言いました。すると二番目の仕立て屋は、「白と黒でなければ、茶と赤です。私の父親のコートのようにね。」と言いました。「はずれです。」と王女は言いました。「はい、三番目の者、答えなさい。きっと答えを知っているように見えますから。」
それでチビの仕立て屋は堂々と前に出ていき、「王女様の頭には金と銀の髪の毛があります。それが二種類の色になります。」と言いました。王女はこれを聞いて青ざめ、恐ろしくて倒れそうになりました。というのはこの世の誰もわからないと王女は固く信じていたのに、チビの仕立て屋はなぞの答を当てたのです。気を取り直すと王女は言いました。「お前はそれだけでは私の夫になれません。まだ他にやらなければならないことがあります。下の小屋に熊がいます。その熊と一緒に一晩過ごして下さい。朝私が起きた時お前がまだ生きていれば、私と結婚していいことにします。」ところが、王女はこうして仕立て屋を厄介払いできると思っていたのです。というのは熊は自分の手に落ちた誰も生かしておかなかったからです。チビの仕立て屋は怖気づいたりしないですっかり喜び、「思い切ってやって、半分勝ったも同然だ」と言いました。
そこで、夕方になると、チビの仕立て屋は熊のところに連れて行かれました。熊はすぐにこのおチビちゃんに襲いかかり、手で心から歓迎しようとしました。「まあ、まあ、お手柔らかに」とチビの仕立て屋は言いました。「すぐにお前を静かにさせてやるよ。」そうして、すっかり落ち着きはらって、まるで世界に心配事がないかのように、ポケットからクルミをとりだすと割って実を食べました。熊はそれを見て、自分もクルミを欲しくなりました。仕立て屋はポケットの中をさぐり、熊に一握り差し出しました。しかしそれはクルミではなく石ころだったのです。熊はそれらを口に入れましたが、いくらかんでも、割ることができませんでした。「なんてこった!」と熊は考えました。「おれはなんて間抜け野郎なんだ。クルミを割ることもできないなんて。」それで熊は仕立て屋に言いました。「ほら、クルミを割ってくれよ。」「ほらね、お前はなんてバカだ!」と仕立て屋は言いました。「そんな大きな口をして、小さなクルミを割ることができないんだ!」
それから仕立て屋は石ころをうけとり、素早くクルミとすりかえて口に入れ、割ると、二つになりました!「もう一度やってみる」と熊は言いました。「お前を見ていたら、おれもやれそうに思ったよ」それで仕立て屋は熊にまた石ころを渡しました。熊は体全体に力を入れ、それに歯をたてようと何度も何度もやってみました。しかし、だれも熊がやりとげたと思わないですよね。
それが終わると、仕立て屋は上着の下からバイオリンをとりだし、一曲弾きました。熊はその曲を聞くと、踊りださずにはいられなくなりました。しばらく踊ったあと、熊はとても気に入ったので仕立て屋に言いました。「なあ、バイオリンは難しいのか?」「子供にだってできるさ。見てろよ。左手の指をこうおくだろ、右手はこうやって弓を持って弦をひくのさ。すると陽気に音が出て、ホップ、ササ、ビバラレラ!」「じゃあ」と熊は言いました。「バイオリンはおれも覚えたいな。そしたら好きな時に踊れるもんな。お前はどう思う?おれに教えてくれないか?」「喜んで教えてやるよ。」と仕立て屋は言いました。「もし才能があるようならな。だけど、お前の爪を見せてみろ。ひどく長いじゃないか。まず少し爪を切らなくちゃな。」そうして、万力を持って来て、熊が爪をそこに入れると、仕立て屋は固くねじをしめ、「さあ、鋏を持ってくるまで待ってな。」と言って、熊を好きなようにうならせておいて、すみのわらの上に寝転がり、眠ってしまいました。
王女は熊が夜の間激しく唸っているのを聞いて、熊が仕立て屋を殺して嬉しさのあまり唸っているとばかり思っていました。朝に王女は何の屈託もなく楽しい気分で起きました。しかし小屋を覗くと、仕立て屋が目の前にご機嫌で立っていて、水を得た魚のようにぴんぴんしていました。王女はみんなの前で約束したので、もう何も結婚式に反対して言えませんでした。王様は王女が仕立て屋と一緒に乗って教会へ行き結婚するために馬車をさしむけるよう命じました。
二人が馬車に乗った後、他の二人の仕立て屋は意地悪で、この仕立て屋の幸運を妬んでいたので、小屋に入り、熊を万力からはずしてしまいました。熊は猛然と馬車を追いかけて行きました。王女に熊が鼻を鳴らし唸っているのが聞こえたので、恐ろしくて、「ああ、熊が追いかけてくるわ。あなたをねらっているのよ。」と叫びました。仕立て屋は素早く逆立ちすると、両脚を窓から突きだして、「万力がみえるか?すぐに立ち去らないとまた万力に挟むぞ。」と叫びました。熊はそれを見ると、向きを変え、逃げて行きました。仕立て屋は静かに教会までいき、王女とすぐに結婚しました。仕立て屋は王女ともりひばりのように楽しく暮らしました。
この話を信じない人、一ターラー払いなさい。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

王の子ふたり

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、ある王様に小さな男の子がいて、その子の星まわりで16歳のときに牡鹿に殺されると予言されていました。それでその年になったあるとき、猟師たちが一緒に狩りに行きました。森で王様の息子は他の人たちと離ればなれになって、急に大きな牡鹿が見え撃ち殺そうとしましたが当たりませんでした。とうとう遠くまで牡鹿を追いかけてすっかり森から出てしまいました。すると突然牡鹿の代わりに大きな背の高い男がそこに立って言いました。「よし、つかまえた。お前を追いかけてガラスの靴を六足すり減らしてしまったのにお前をつかまえられなかったんだからな。」
それから男は王様の息子を連れて、大きな湖を引きずって大きな宮殿にいきました。王子は男と一緒に食卓に座り食べさせられました。一緒に食べ終わったとき、その王様は言いました。「わしには娘が三人いる。お前はひと晩一番上の娘の見張り番をしなければいけない。夜の九時から朝の三時までだ。時計の鐘が鳴るたびにわしは自分で行って呼ぶぞ。その時にお前が返事をしなかったら、明日の朝お前の命はない。だが、いつも返事をすれば娘をお前の妻にやろう。」
若い二人が寝室に行くと、聖クリストフォロスの石像が立っていました。王様の娘が石像に言いました。「お父様が九時に来るわ、三時まで毎時間くるから、お父様が呼んだら、王子様の代わりに返事してね。」すると聖クリストフォロスの石像はとても速く頭を縦に振り、それからだんだんゆっくりになり、最後には動かなくなりました。次の朝、王様は王子に言いました。「お前は仕事をよくやった。だが、娘をやれん。今度は二番目の娘の寝ずの番をしてくれ。そうしたら一番上の娘を妻にやるかどうか考えよう。だが、わしは自分で毎時間行くぞ。お前を呼んだら返事をしろ。呼んでも返事をしなければお前の血を流すことになるぞ。」
それから二人とも寝室にはいりました。そこにはさらに大きい聖クリストフォロスの石像が立っていました。王様の娘が石像に言いました。「お父様が呼んだら返事をしてね。」すると聖クリストフォロスの大きな石像はとても速く頭を縦に振り、それからだんだんゆっくりになり、最後には動かなくなりました。
王様の息子は敷居の上に横になり、手を頭の下において眠りました。次の朝王様は王子に言いました。「お前は仕事を実によくやった。だが娘をやれない。今度は末の王女の寝ずの番をしてもらおう。そうすれば二番目の娘を妻にやれるか考えてみよう。だが、わしは自分で毎時間行くぞ。お前を呼んだら返事をしろ。呼んでも返事をしなければお前の血を流すことになるぞ。」
それで二人は一緒に寝室に行くと、前の二つよりさらに大きく丈の高い聖クリストフォロスの石像が立っていました。王様の娘が石像に言いました。「お父様が呼んだら返事をしてね。」すると聖クリストフォロスの大きな丈の高い石像はとても速く頭を30分縦に振り、それからだんだんゆっくりになり、最後には動かなくなりました。王様の息子は敷居の上に横になり、眠りました。次の朝王様は王子に言いました。「お前は寝ずの番を実によくやった。だが今は娘をやれない。わしには大きな森がある。今朝の六時から夜七時まで森の木をすっかり切り倒せば、それを考えよう。」それから王様は王子にガラスの斧とガラスの槌とガラスのくさびを渡しました。王子は森へ入り、すぐに切り始めましたが、斧は二つに割れました。それから槌を持ってくさびを一度うつと、くさびは砂のようにこなごなになりました。それで王子はとても困り、死ぬしかないと思い座って泣きました。
さて昼になると王様は「誰か一人あの男に食べるものを持っていきなさい。」と言いました。「嫌よ」と上の二人は言いました。「私たちは持って行かないわ。最後に見張りをしてもらった人が持って行けばいいのよ」それで末の王女が食べ物を持って行くしかありませんでした。王女は森へ入って行くと王子に、仕事の具合はどうなっていますか、と尋ねました。「ああ」と王子はいいました。「とてもひどいですよ。」すると王女は、こっちへいらして少し食べてください、と言いました。「いや」と王子は言いました。「そんなことできない。どっちにしても死ななくちゃならないんだから、もう何も食べない。」そこで王女はやさしく慰めて味見だけでもしてみて、と頼みました。それで王子はやってきて食べました。王子が食べ終わると、王女は言いました。「あなたのシラミを少しとってあげるわ。そうしたらもっと気持ちも明るくなるでしょ。」
そこで王女はしらみをとり、王子は疲れが出て眠ってしまいました。すると王女はハンカチをとりだし、結び目をつくると、それで地面を三回たたいて、「地の働き手たち、出ておいで」と言いました。途端に、たくさんの地の小人たちが出てきて、王女様、ご用はなんでしょう?と尋ねました。すると王女は「三時間のうちに大きな森の木を全部切り倒し、全部山に積みなさい」と言いました。そこで地の小人たちは出かけて行って親戚じゅう集めて仕事を手伝わせました。小人たちはすぐに仕事をはじめ三時間たつと全部おわり、王様の娘のところへ行ってそう報告しました。それから王女はまた白いハンカチを取り出し、「地の働き手たち、お帰り」と言いました。すると小人たちはみんないなくなりました。王子が目覚めて喜んでいると、王女は「六時になったら家に帰るのよ」と言いました。王子はその通りにしました。
すると王様が、「森の木は切ってしまったか?」と尋ねました。「はい」と王様の息子は言いました。二人が食卓についているとき、王様は「娘をまだ妻にやれない。娘と結婚するにはまだもっとやらねばならないことがある。」と言いました。それで王子は、それは何でしょう?と尋ねました。「わしには大きな魚の池がある。」と王様は言いました。「明日の朝、その池へ行って泥をぜんぶさらって、鏡のようにぴかぴかにし、あらゆる種類の魚をそこに入れるんだ。」
次の朝、王様はガラスのシャベルを渡し、「六時までに魚の池を終えなければならん」と言いました。それで王子は魚の池にでかけてきて、泥にシャベルをつっこむとシャベルは二つに折れました。それから泥にくわをつっこむとこれも壊れました。それで王子は本当に困りました。昼に末の娘が食べ物を持って来て、すすみ具合はどうですか?と尋ねました。そこで王様の息子は、なにもかもとてもひどいです、きっと首を切られるでしょう、道具もまたこなごなに壊れてしまいましたよ、と言いました。「まあ」と娘は言いました。「とにかくこっちへ来て何か食べなさい。そうすれば気分もかわるでしょう。」「いえ」と王子は言いました。「食べられません。とても気がふさいでそれどころじゃないんです。」すると娘はたくさんやさしい言葉をかけてやり、とうとう王子はやってきて食べました。
それから娘はまたしらみをとってやり、王子が眠ると、またハンカチを取り出し、結び目を作ってそれで地面を三回たたいて、「地の働き手たち、出ておいで」と言いました。途端に、たくさんの地の小人たちが出てきて、ご用はなんでしょう?と尋ねました。すると王女は三時間のうちに、魚の池の泥をすっかりさらって、人が映るようにきれいにしなければならない、それからあらゆる種類の魚を入れておくれ、と言いました。そこで地の小人たちは出かけて行って親戚じゅう集めて仕事を手伝わせました。そして二時間で仕事を終えました。それから小人たちは娘のところに戻り、「ご命令通りやりました」と言いました。王様の娘はまた白いハンカチを取り出し、また三回地面をたたき「地の働き手たち、お帰り」と言いました。すると小人たちはみんないなくなりました。
王様の息子が目覚めると魚の池は仕上がっていました。それから王様の娘も帰っていき、王子に六時になったら家に帰るのよ、と言いました。王子が家につくと、王様は「池は終わったか?」と尋ねました。「はい」と王様の息子は言いました。それはとてもよくできました。
二人がまた食卓についているとき、王様は「確かに魚の池は終わった。だが娘をまだ妻にやれない。あと一つやらねばならないことがある。」と言いました。「それでは、それは何ですか?」と王様の息子は尋ねました。王様は、大きな山があるが、そこにはイバラしか生えていない、それをみんな切り払ってもらわねばならない、そしてその上に大きな城を建て、その城は考えられる限り強固で、城につく家具や調度類も中になければならん、と言いました。
次の朝起きると、王様は王子にガラスの斧とガラスの錐(きり)を渡し、六時までに終えねばならんぞ、と言いました。王子が斧で最初のイバラを切ると斧はすぐに壊れ、ばらばらになってまわりに飛び散り、錐も使えませんでした。そこで王子はすっかり惨めになり、困っているのを助けにきてくれないかと思っていとしい人を待ちました。昼になると娘はやってきて食べ物をもってきました。王子は娘に会いに行き、全て話して食べ、シラミをとらせて眠りました。
すると娘はまた結び目を作ってそれで地面をたたき、「地の働き手たち、出ておいで」と言いました。途端に、たくさんの地の小人たちが出てきて、ご用はなんでしょう?と尋ねました。すると王女は三時間でイバラを切り倒し、考えられるだけ強固な城を山の上に建て、城につく家具もその中に入れておくれ」と言いました。そこで地の小人たちは出かけて行って親戚じゅう集めて仕事を手伝わせました。そして時間になると仕事を終えました。それから小人たちは娘のところに戻り、そう言いました。王様の娘はまた白いハンカチを取り出し、また三回地面をたたき「地の働き手たち、お帰り」と言いました。すると小人たちはみんないなくなりました。王様の息子は目覚めて全部仕上がっているのがわかると空の小鳥のように喜びました。
六時になると二人は一緒に家に帰りました。すると王様は言いました、「城はできたか?」「はい」と王様の息子は言いました。二人が食卓につくと、王様は「上の二人が結婚するまでは末の娘をやれない。」と言いました。それで王様の息子と王様の娘はすっかり悲しみ、王子はどうしたらよいかわかりませんでした。しかし、王子は夜に王様の娘のところへ行き、一緒に逃げました。二人が少しいくと王様の娘は振り返って父親が後ろに迫っているのが見えました。「まあ」と娘は言いました。「どうしよう?お父様が追ってくるわ。私たちを連れ戻すつもりよ。すぐあなたをイバラに変え、私をバラの花にしてイバラのやぶの真ん中にいて身を守るわ。」
父親がその場所に来てみるとバラの花が一つ咲いているいばらがありました。バラの花をとろうとしたら、トゲが指を刺し、仕方なくまた家へ帰りました。妻が、どうして娘を連れ帰らなかったのですか?と尋ねました。それで父親は、娘のすぐそばまで行ったんだが、急に見えなくなって、花が一つ咲いているイバラがそこに生えていたんだ、と言いました。するとお后は、「そのバラを摘んでいたら、イバラも来るしかなかったのに。」と言いました。そこで父親はバラをとりに戻りましたが、その間に二人はもう平原を越えて遠くにいて、王様は走って追いかけました。すると娘はまた振り返り、父親がやってくるのが見え、言いました。「まあ、今度はどうしよう?すぐあなたを教会に変え、自分は牧師になって説教壇で説教するわ。」そこで父親は説教を聴き、また家に帰りました。
するとお后は、どうして娘を連れ帰らなかったのですか?と尋ね、王様は「いや、ずっと走って追いかけてじきに追いつくとおもったら、そこに教会があって牧師が説教壇で説教していたんだ。」と言いました。「牧師を連れてくればよかったのよ」と妻は言いました。「するとすぐ教会も来たのよ。あなたをやってもだめね。私が自分で行かなくちゃ。」お后がしばらく歩くと、二人が遠くに見えました。王様の娘は振り返り、母親が来るのが見えました。「まだ終わりじゃないわ。お母様が自分でやってくる。すぐにあなたを魚の池に変え、私は魚になるわ。」
母親がその場所に来ると大きな魚の池があり、真ん中で一匹の魚が跳びはね水から外を見てすっかりご機嫌でした。母親は魚をつかまえようとしましたができませんでした。それでとても怒って、魚をつかまえるために池の水を飲み干しましたが、とても気分が悪くなって吐きだすしかありませんでした。それでまた全部吐き出してしまいました。するとお后は、「もう戻っておいでと頼むしか何もできないのがわかったわ。」と叫びました。それで娘が戻ると、お后は娘にクルミを三個与え、「これがあればお前がとても困ったとき助けになるからね。」と言いました。 
それで若い二人はまた一緒にでかけました。たっぷり10マイル歩いた時王様の息子が生まれた城に着きました。その近くに村がありました。村に着くと王様の息子は「ここにいて、いとしい人、ちょっと城へ行って馬車と従者をつれて迎えにくるから。」と言いました。
城に着くと、王様の息子が戻ったとみんなが大喜びしました。王子は、今村に花嫁がいるから馬車で迎えに行っておくれ、と言いました。それですぐに馬に馬車がつながれ、従者たちが大勢馬車の外の席につきました。王様の息子が乗り込もうとしたら、母親が息子にキスしました。すると王子はあったことをみんな忘れてしまい、また何をしようとしていたかも忘れてしまいました。こうして母親はまた馬を馬車からはずすように命じ、みんなは家に戻ってしまいました。しかし娘は村にいて、迎えに来てくれると思って何度も見ましたが誰も来ませんでした。それから王様の娘は城のものである水車小屋に雇われ、毎日午後に池のそばに座り、桶を洗うしかありませんでした。
ある日、お后が城から歩いてきて池のそばをとおり、成長した乙女がそこに座っているのを見て、「何て立派な娘でしょう、気に入ったわ。」と言いました。そのとき、お后と一緒にいたみんなも娘を見ましたが、だれも娘を知りませんでした。そうして娘が粉屋で真面目に忠実に働いて長い月日が経ちました。そのうち、お后が息子に妻を見つけてきました。その花嫁は遠く離れた国の人で、やってくるとすぐに結婚することになりました。
たくさんの人が結婚式をみようと駆けつけました。それで娘も、行ってみてもよろしいでしょうか、と粉屋に言いました。粉屋は、「ああ、行っておいで」と言いました。娘は出かけるときに、三つのクルミのうち一つを開けました。その中には美しいドレスが入っていました。娘はそれを着て、教会に入り祭壇の前に立ちました。突然花嫁と花婿がやってきて、祭壇の前に腰を下ろしました。牧師が結婚する二人を祝福しようとしたとき、花嫁はよこをみたので、娘がそこに立っているのが見えました。すると花嫁はまた立ちあがって、自分もあの人と同じくらいきれいなドレスを手に入れるまでは結婚したくありません、と言いました。
それで二人はまた家に帰り、使いを出してその人にドレスを売ってくれませんかと尋ねさせました。いいえ、売りません、でも花嫁は手に入れる方法もありますよ、と娘は答えました。それで花嫁は、どうしたらいいんですか?と娘に尋ねました。すると娘は、私が一晩王様の息子の戸の外で眠ってもよければ、お望みの物をさしあげます、と言いました。そこで、花嫁は「ええ、いいですよ。」と言って承知しました。しかし、召使たちは王様の息子に眠り薬を飲ませるように命じられ、娘は敷居に横になり一晩じゅう嘆いて言いました。私はあなたのために森の気を切り倒させました、魚の池の水をさらってあげました、城も建ててあげました、あなたをいばらに変え、それから教会にも変え、最後には魚の池に変えました、それなのにあなたはすぐに私のことを忘れてしまったのね。
王様の息子にはその一言もきこえませんでした。しかし召使たちは目が覚め、それに耳を傾け、一体どういう意味なのかわかりませんでした。次の朝、みんなが起きたとき、花嫁はそのドレスを着て花婿と教会へ出かけました。その間に娘は二番目のクルミを開けましたが、さらにいっそう美しいドレスが中に入っていました。娘はそれを着てでかけ教会の祭壇のそばに立ち、前におきたことと同じことになりました。娘はまた王様の息子の部屋に入る敷居の上で一晩じゅう横になり、召使たちはまた花婿に眠り薬を飲ませることになりました。ところが召使は王子のところに行き、目を覚ましておくものを与えました。それから王様の息子はベッドに入り、粉屋の娘は戸の敷居の上で前のように嘆いて、自分がやったあげたことを話しました。王様の息子はこれを全部聞き、ひどく驚いて、昔のことがよみがえってきました。それで王子は娘のところに行こうとしましたが、母親が戸に鍵をかけていました。
しかし、次の朝すぐに、王子は愛する人のところにでかけ、自分に起こったことを全て話して、忘れてしまったことを怒らないでくださいとお願いしました。それから王様の娘が三つ目のクルミを開けると、中にはさらにいっそう素晴らしいドレスが入っていました。王女はそれを着て花婿と一緒に教会へ行きました。たくさんの子供たちが二人に花を渡し、二人の足のあたりを縛る華やかなリボンを差し出しました。二人は牧師に祝福され、賑やかな結婚式をあげました。しかし不実な母親と花嫁は出て行かされました。
この話を前に話した人の口はまだ暖かいのよ。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

天のからさお

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、ある田舎の人が二頭の雄牛で畑を耕しにでかけました。畑へ着くと、牛の角が二頭とも伸び出して、伸び続けました。それで、お百姓が家へ入ろうとしたとき、角が大きすぎて、牛たちが門を通れませんでした。運よく肉屋がちょうどそのとき通りがかり、お百姓は牛を渡し、次のように取引しました。お百姓は肉屋に一ペック(約9リットル)の菜種を持っていく、それで肉屋は種一粒あたりブラバントターレル銀貨を一枚をはらう、というものでした。それはうまく売ったと私は言いますよ。
さてお百姓は家へ帰り、一ペックの菜種を背負っていきました。ところが途中で袋から種を一粒落としました。肉屋はお百姓に取り決め通りきっちり払いました。もしお百姓がその種を失くさなかったらあと一ターレル多くもらったでしょう。お百姓が戻るまでに、その種から木が育ち、天まで届きました。それでお百姓は、(せっかくだから、上で天使たちが何をしてるかちょっくら見なくてはな)と思いました。
それでお百姓は登って行くと、上の天使たちがから竿でからす麦を打っているのが見え、見物していました。こうして見ていたら、自分の登っている木がぐらつき始めているのに気がつきました。下を見ると、誰かが木を切り倒そうとしているのが見えました。(ここから落ちたら、えらいことになるな)とお百姓は思いました。切羽詰まって、そこに山になっていたからす麦のわらをとり、それで縄をなうよりもよい助かる方法が思い浮かびませんでした。また天国であたりにちらばっていたクワとから竿もつかみ、縄をつたって下りました。しかし、地上の深い深い穴のちょうど真ん中に下りてしまいました。それで、クワをもってきたのはもっけの幸いでした。というのはお百姓はそのクワで掘ってひとつづきの階段を作り上へ登りましたから。それから真実の印として、から竿をもっていきました。それで誰もお百姓の話を疑うことができませんでした。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

腕のいい狩人

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、錠前屋の仕事を習い覚えた若い男がいて、父親に、もう世間に出て運を試してみる、と言いました。「よかろう。わしもそれに賛成だ。」と父親は言って、旅のお金をいくらか渡しました。そこで若い男はあちこち旅をして仕事を探しました。しばらくして男は錠前屋の仕事はもうやめようと決めました。というのはもうその仕事が好きでなくなって猟師になりたかったからです。
男があてもなく歩いていると緑の服を着た猟師と出会いました。猟師は、お前はどこから来たんだ?どこへ行くんだい?と尋ねました。若者は、私は錠前屋の職人なのですが、その仕事はもう面白くないので猟師になりたいのです、私に教えてもらえませんか、と言いました。「ああ、いいとも」と猟師は言いました。「おれと一緒に来るならね。」そこで若者は猟師と一緒に行き、そこで何年か修業をつみ、猟師のわざを習いました。このあと、若者はよそで運を試してみたいと思いました。猟師は一丁の空気銃の他は何も支払ってくれませんでしたが、その銃は撃つと必ず当たるという性質がありました。そこで若者はでかけていき、とても大きな森に着き、一日で森のはずれにたどりつけませんでした。夜になると若者は野のけものを避けるために高い木に登りました。
真夜中近くに、遠くで小さな明かりがちらちらするように思われました。そこで若者は枝の間からそちらを見下ろし、どこにあるかよく覚えておきました。それでも下りたとき目印とするため、最初に帽子をとって明かりの方へ投げておきました。それから木から下り、帽子のところへ行き、またかぶって、まっすぐ進みました。
進めば進むほど明かりは大きくなり、近くへ行ってみると、それはとてつもなく大きな火だとわかりました。三人の巨人がそのそばに座り、串に刺した一頭の牛を焼いていました。まもなく一人が「肉の焼き具合がいいか食ってみよう」と言って、かたまりを引きちぎって口に入れようとしました。とその時、猟師は銃を撃ち、巨人の手から肉を飛ばしました。「おっと、しまった」と巨人は言いました。「風で肉が飛んでしまったわい」それでまたべつの肉をとりました。しかし、それにかみつこうとしたちょうどそのとき、猟師はまた撃って飛ばしました。これでその巨人は隣に座っていた巨人に平手うちを食らわせ、「なんでおれから肉をひったくるんだ?」と怒ってどなりました。「ひったくっていないぞ」ともう一方の巨人は言いました。「狙い撃ちのうまいやつがお前の肉を撃ってとばしたにちがいない。」巨人は別のかたまりをとりましたが、また手に持っていることはできませんでした。というのは猟師が撃ち飛ばしたからです。すると巨人は「口のところから撃ってとばすなんて相当の腕だぞ、そんなやつは仲間なら役にたつんだがな。」と言いました。そうして大声で叫びました。「こっちへ来いよ、鉄砲名人よ、おれたちのそばに来て、火のところに座り、たっぷり食いな。お前に何もしないよ。だが、来ないで力づくで連れて来なきゃいけないんなら、お前の命はないぞ。」
それで若者は巨人たちに近づいていき、私は腕利き猟師だ、私の銃で狙ったものは必ず当てるんだ、と言いました。そこで、巨人たちは、おれたちと一緒に行ってくれれば良くもてなすがな、と言い、森のはずれに大きな湖がある、その後ろに塔が立っていて、塔の中に美しい王女が閉じ込められているんだ、その王女を是非とも連れて来たいんだ、と話しました。「いいとも」と若者は言いました。「すぐに王女をとってやるよ。」それから巨人たちは付け加えて、「だがな、まだほかに問題があるんだ。ちんころがいるんだが、だれかが近くにいくとすぐ吠え出すんだ。それでそいつがほえると王宮のみんなが目を覚ましてしまう。それでおれたちはそこに行けないのさ。そのちんころを撃ち殺すのを引き受けてくれるか?」と言いました。「いいよ」と若者は言いました。「そいつは面白そうだ。」
このあと、若者は舟に乗り、湖をこいで渡りました。陸にあがるとすぐ、小犬が走ってきて吠えようとしました。しかし猟師は空気銃を出し、撃ち殺しました。巨人たちはそれを見ると喜び、もう王様の娘を無事に手に入れたようなもんだぜと思いました。しかし猟師はまずどんな様子か見たいと思い、巨人たちに、呼ぶまで外で待っていてくれ、と言いました。それから城に入っていくと、中はまるでしんとしてみんな眠っていました。最初の部屋の戸を開けると、壁に刀が下がっていて、それは純銀でできており、上に金の星と王様の名前がついていました。またその近くのテーブルに封をされた手紙があったので若者が破って開けると、この刀を持つ者は歯向かう何でも殺せる、と中に書いてありました。そこで猟師は壁から刀をとり、腰に下げて進んでいきました。
それから王様の娘が眠っている部屋に入りました。王女はとても美しかったので若者は立ち止まり、息を飲んで眺めました。若者は心の中で考えました。(けがれない乙女をどうして荒くれ巨人たちのなすままにさせられよう?悪いことを考えているのに?)さらに見回すと、ベッドの下に一足の室内履きがあり、右足には星と父親の名前が、左足には星と王女自身の名がついていました。王女は金の刺繍がされた絹の大きなスカーフをつけていましたが、その右側には父親の名が、左には王女自身の名が金文字でありました。そこで猟師は鋏をとり、右端を切りとって背のうに入れ、また王様の名前が付いている右の室内履きも背のうに投げ込みました。さて乙女はまだ横たわって眠っていて、寝巻にすっかりくるまっていましたが、寝巻も少し切りとって投げ込んで他の物と一緒にしましたが、全て王女に触れないでやりました。それから猟師は出ていき、王女を眠らせたままにしておきました。
門のところに戻ると、巨人たちはまだそこに立ち、王女を連れてくるものと期待しながら猟師を待っていました。しかし、猟師は巨人たちに、入って来てくれ、乙女はもう手のうちにある、あんたたちに門を開けてやることはできないんだが、這って通れる穴があるから、と叫びました。そこで一人目の巨人が近づいたとき、猟師は巨人の髪を自分の手に巻きつけて頭を引き込み、刀を一振りして切り落とし、それから残りの体を引っぱりこみました。二人目の巨人を呼んで同じように頭を切り落とし、それから三人目も殺しました。こうして猟師は美しい乙女を敵の手から自由にしたことを喜びました。それから巨人たちの舌を切りとって背のうに入れました。そうして、猟師は(お父さんのところへ帰ってどんなことをもうやったか知らせて、そのあと、世の中を旅して歩こう。おれはきっと神様が喜んでおれにくださる幸運にあえるさ。)と思いました。
しかし、城の王様が目覚めると、三人の巨人が死んで転がっているのを見ました。そこで娘の寝室に入り娘を起こして、いったい誰が巨人たちを殺したのだろう?と尋ねました。すると王女は、「お父様、私は知りませんわ。眠っていましたもの。」と言いました。しかし、王女が起きあがって室内履きをはこうとしたら、右足がなくなっていました。スカーフを見ると切られて右端がありませんでした。寝巻を見るとこれも少し切りとられていました。王様は城じゅうの宮廷人を、兵士やそこにいる他のものも、みんな呼び出して、誰が娘を自由にし巨人たちを殺したのか、と尋ねました。
さて、王様には片目でひどく醜い大尉がいました。この大尉が、私がやりました、と名乗り出ました。そこで年とった王様は、お前がこれをなしとげたのだから娘と結婚させよう、と言いました。ところが、乙女は、「お父様、あの者と結婚するくらいなら、世間に出ていき、足の続くかぎり歩いていきたいですわ。」と言いました。しかし、王様は、もしお前が大尉と結婚する気がないなら、王家の服を脱ぎ百姓の服を着て出て行け、焼物師のところに行き、瀬戸物の商売を始めるがよい、と言いました。
それで王女は王家の服を脱ぎ、焼物師のところへ行って、店に必要な瀬戸物を借り、夕方までに売ってお支払いします、と約束しました。それで王様は娘に、隅に座って売るがよい、と言っておいて、何人かの百姓には瀬戸物の上を荷車でひいて全部こなごなにこわれるように手配しました。それで王様の娘が通りに店を広げると、荷車が通りかかり、品物を全部小さなかけらだらけにしてしまいました。王女は泣きだして、「ああ、これで焼物のお金をどうやって払ったらいいの?」と言いました。一方王様はこうして王女を無理に大尉と結婚させようと思っていたのでした。しかし、娘はそうしないで、また焼物師のところへ行き、もう一回貸してもらえませんか?と頼みました。焼物師は、「だめだ、もう借りてる分を支払ってくれ。」と言いました。
そこで王女は父親のところに行き、泣いて嘆き悲しみ、「世間に出ていきます。」と言いました。それで王様は「外の森にお前のために小さな小屋を建ててやろう。そこに一生とどまってみんなに料理をしてやるがよい。だが金を受け取ってはならぬぞ。」と言いました。小屋ができあがると、戸に「今日はただ、明日は売ります」という看板が下がっていました。そこに王女は長い間とどまっていました。そして、お金をとらないで食事をだしてくれる娘がそこにいるんだ、入口の外にそう書いてある看板がある、と世間で噂されました。
猟師もそれを聞き、(それはいい、おれは貧しく金が無いからな)と思いました。そこで空気銃と、証拠の印として城から持ってきたものが全部まだ入っている背のうを持ち、森へ入って行き、「今日はただ、明日は売ります」と看板がかかっている小屋を見つけました。
猟師は三人の巨人の頭を切り落とした刀を帯びたまま、小屋に入り、何か食べ物をくれと頼みました。猟師は美しい乙女にうっとりしました。まさに絵に描いたように美しかったのです。娘は、あなたはどこから来てどこへ行くのですか、と尋ねました。猟師は「私は世間を旅しているのです。」と言いました。すると、娘はどこでその刀を手に入れたのですか?私の父の名前が上についているんですが、と尋ねました。猟師は、あなたは王様の娘なんですか?と尋ねました。「はい」と娘は答えました。「この刀で」と猟師は言いました。「私は三人の巨人の頭を切り落としたのだ。」そして証拠に背のうから巨人たちの舌をとり出しました。それから、室内履きやスカーフの隅や寝巻の切れはしも王女に見せました。これで王女は大喜びして、あなたこそ私を救ってくれた人です、と言いました。そうして二人は一緒に年とった王様のところへ行き、小屋へ王様を連れて行きました。そこで娘は王様を部屋に入れ、猟師が本当に巨人から私を救ってくれた人だと話しました。そして王様がその証拠の品々を見ると、もう疑うことはできなくて、出来事がすっかりわかってとてもよかった、猟師がお前を妻にするべきだ、と言いました。それを聞いて乙女は心から喜びました。それで王女は猟師によその国の君主のように服を着させ、王様は祝宴の用意をさせました。
みんながテーブルについたとき、大尉は王様の娘の左側に座りましたが、猟師は右側に座りました。それで大尉は猟師が訪ねてきたよその国の君主だと思っていました。みんなが飲んだり食べたりしてしまったあとで、年とった王様は大尉に、お前に解いてもらいたい謎を出そう、と言いました。「だれかが、三人の巨人を殺したと言ったとする、その巨人の舌はどこにあるか?と聞かれ、その男はしかたなく見に行ったのだが、舌はなかったのだ。いったいどうしてそうなったのかね?」大尉は、「それでは巨人に舌は無かったはずです。」と言いました。「いいや違う。」と王様は言いました。「動物にはみな舌がある。」それから同じように、そのような嘘の答をした者にはどんな罰を与えるべきか、と王様は尋ねました。大尉は、「八つ裂きにされるべきです。」と答えました。すると王様は、お前は自分の判決を言い渡したのだ、と言いました。大尉は牢屋に入れられ、そのあと四つ裂きにされました。一方王様の娘は猟師と結婚しました。そのあと、猟師は父親と母親を呼び寄せ二人は息子と幸せに暮らしました。また、年とった王様が死んだあと、猟師は国を受け継ぎました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

いばらの中のユダヤ人

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、金持ちの男がいました。その男には真面目によく働いて仕えた下男がいました。この下男は毎朝一番先に起きて、夜一番あとに休んで寝ました。誰も引き受けたがらない難しい仕事があるときはいつも、この下男が一番先にとりかかりました。それだけでなく、決して文句を言わないで何でも満足し、いつもほがらかでした。
一年の務めが終わったとき主人は下男に手当てを出しませんでした。というのは(これが一番賢いやり方だわい。金を節約できるし、あいつは出ていかないで黙って務めるだろうからな)と思ったのです。下男は何も言わないで一年目と同じように二年目も仕事をしました。それで二年目の終りにも手当てを受け取りませんでしたが、楽しそうにしてやはりとどまって務め続けました。
三年目も過ぎたとき、主人は考えて、ポケットに手をつっこみましたが、何もとりだしませんでした。するととうとう下男が、「だんなさん、私は三年間真面目に務めました、お願いですから、その分のお手当をください。私は出ていってもう少し世間を見てまわりたいのです。」と言いました。「いいとも、そうだな」と年とったけちんぼは答えました。「お前はよく務めてくれたよ、だから気持ちよく手当てをだせるよ。」そうしてポケットに手を入れましたが、たった三ファージングだけ数えて、「ほら、毎年一ファージングだ。これは大した金で気前のいいことだぞ。こんなに払ってくれるだんなはあまりいないだろうよ。」と言いました。真正直な下男は、お金のことをほとんど知らなかったので、財産をポケットに入れ、(さあ、財布はいっぱいになったし、もうきつい仕事をしてくよくよしたりあくせくすることはないぞ)と思いました。
そうして出かけていき、山を登り谷に下り、心ゆくまで歌ったり跳ねたりしました。さてあるとき、やぶを通りすぎているときに小人が出てきて、下男に呼びかけました。「どこへ行くんだい、陽気な兄さん?何も心配事がないようだね。」「何で落ち込むことがある?」と下男が答えました。「たっぷりあるんだ。三年分の手当てがポケットでチャリンチャリンしているのさ。」「お宝はいくらあるんだい?」と小人は尋ねました。「いくらか?全部で、しっかり三ファージングさ」「あのね」と小人は言いました。「わしは貧しくて困ってる男だ。その三ファージングをおくれ。わしはもう働けないが、あんたは若くて簡単にパンを稼げるしな。」下男はやさしい心の持ち主でその年寄りを可哀そうに思い、「じゃあやるよ、おれはその金が無くても大丈夫だろうから」と言って三ファージングをあげました。すると小人が、「あんたは心がやさしいとわかるから、願いを三つかなえてやろう。一ファージングに一つでな、全部叶えてやるよ。」と言いました。「へえ!」と下男は言いました。「あんたは不思議な術を使う人たちの一人なんだな。うん、じゃあ、そういうことなら、先ず、銃を願おう、狙った獲物に必ず当たるやつな。二番目は、バイオリンだな、それを弾くと、聞こえるやつはどうしても踊らなくちゃいけないやつ。三番目に、おれが頼んだら、だれでも断れないようにしてもらいたいな。」「それをみんな叶えてあげよう」と小人は言ってやぶに手をつっこみました。するとどうでしょう、もうバイオリンと銃が、まるで注文を受けたように、準備してありました。これらを小人は下男に渡して、それから言いました。「いつでも何を頼もうと、世界中の誰もあんたを断れない。」(信じられない!これ以上望むものがあるか?)と下男は独り言を言い、上機嫌で進んでいきました。
それからまもなく、下男は長いヤギひげのユダヤ人に出会いました。ユダヤ人は木のてっぺんにとまっている小鳥の歌に耳を傾けて立っていました。「なんとまあ!」とユダヤ人は感嘆の声をあげました。「あんな小さな生き物があんなに大きな声を出すとは!あれがわしのものならいいのになあ。だれかあの尻尾に塩を振りかけ(注)てくれればなあ。」「それだけなら」と下男は言いました。「すぐ鳥をここに落としてやろう」そして狙いをつけ、引き金を引きました。すると小鳥はいばらのやぶに落ちました。「行けよ、この悪党」と下男はユダヤ人に言いました。「自分で鳥をとってこい!」「おう!」とユダヤ人は言いました。「悪党は抜きですよ、だんな、そうすれば私がすぐにやりますよ。あんたが本当に当てたんだから、自分でとりにいきます。」それからユダヤ人は地面にふせて、やぶに這って行きはじめました。
ユダヤ人がすっかりいばらの間に入ると、人の良い下男は試してみたい気分になり、バイオリンをとり上げて弾き出しました。途端にユダヤ人の脚が動き始め、宙に跳びはね、下男が弾けば弾くほど踊りも激しくなりました。しかし、いばらがユダヤ人のみすぼらしい上着を引き裂き、ひげを櫛削り、体じゅうを刺したりひっかいたりしました。「わあ!」とユダヤ人は叫びました。「バイオリンを弾いてほしくありませんよ。バイオリンをやめてください、だんな、私は踊りたくないんです。」しかし下男は耳を貸さないで、(お前は人々からさんざん金品を巻き上げてきたじゃないか。今度はいばらのやぶがお前に同じことをするのさ)と思っていました。
そしてまた繰り返し弾き始めたので、ユダヤ人は一そう高く跳ねて上着の切れはしがあちこちいばらにひっかかっていました。「わあ、ひどい!」とユダヤ人は叫びました。「バイオリンを止めてくれさえすれば、だんなに何でもあげます、金がいっはい入ってる財布だってあげます。」「お前がそんなに気前がいいなら」と下男は言いました。「音楽をやめるよ。でもほめて言わなくちゃな。お前は踊りがすごくうまくて商売できるくらいだ。」そして財布を受け取ると歩いて先へ進みました。
ユダヤ人は立ち止まって、遠くに見えなくなるまで黙って下男をみつめていました。それから、声を限りに叫びました。「やい、けちな楽士!ビアホールのバイオリン弾き!待ってろよ、お前だけのときとっつかまえてやる。お前の靴底が抜け落ちるまで追うからな、このごろつき!口に5ファージング入れてみろ、そうしたらお前は3個の半ペンスしか値打ちがないんだぞ。」そして口から出るだけ早口に悪口を言い続けました。こういうふうにして少し気分がすっきりして息をつぐとすぐ、ユダヤ人は町の裁判官のところへ走っていきました。
「裁判官どの」とユダヤ人は言いました。「私は訴えにまいりました。天下の公道で悪党が私から盗み、ひどい目にあわせました。地面の石だって私をあわれに思うでしょう。服はぼろぼろに引き裂かれ、体中刺されたりひっかかれたりしました。あるだけの金も財布ごととられました。きれいなダカット金貨でどれもこれもぴかぴかのものです。お願いですから、その男を牢屋に入れてください。」「それは兵士だったのか?」と裁判官は言いました。「お前をそういうふうにサーベルで切りつけたのか?」「そういうんじゃないんです!」とユダヤ人は言いました。「あいつが持っていたのは刀なんかじゃなくて、背中に鉄砲をしょって、首にバイオリンをかけてました。あいつはすぐにわかりますよ。」
そこで裁判官は家来たちにその男を追わせました。家来たちは、ゆっくり歩いていた人の良い下男を見つけ、身につけていた財布も見つけました。裁判官の前にひきだされるとすぐ、下男は、「そのユダヤ人に手を触れていないし、お金もとっていません。自分から私にくれたんですよ。私の音楽が我慢できないからバイオリンを弾くのをやめてもらおうとしてね。」と言いました。「冗談じゃない!」とユダヤ人は叫びました。「嘘八百だ。あいつは壁に群がるハエの数と同じくらい嘘をついてるんだ。」
しかし、裁判官も下男の話を信じないで、言いました。「下手な言い訳だ。ユダヤ人ならそんなことはしないだろうよ。」そして天下の公道で強盗をはたらいたとして、人のよい下男に縛り首の刑を言い渡しました。下男がひかれていくときもまた、ユダヤ人は後ろから叫びました。「このごろつき!バイオリン弾きの犬野郎!これでお前もふさわしい報いを受けるんだ」下男は首吊り役人と一緒に黙ってはしごを登っていきましたが、最後の段で向きを変え、裁判官に言いました。「死ぬ前にただ一つだけ頼みをきいてもらえませんか」
「いいとも、命乞いをするのでなければな」と裁判官は言いました。「命乞いはしません。」と下男は答えました。「だが、最後のお願いとして、もう一度バイオリンを弾かせてください。」ユダヤ人は大声をあげました。「殺せ!殺せ!頼むからそれを許さないでください!それを許すな!」しかし裁判官は「どうしてこの短い楽しみを許さないでいよう。もう認めたのだ。バイオリンを弾くがよい。」と言いました。ところが実は、裁判官は下男に授けられた贈り物のために断れなかったのです。
するとユダヤ人は叫びました。「ああ!なんと悲しいことだ!私を縛ってくれ!しっかり縛ってくれ!」一方、人の良い下男は首からバイオリンをはずし、用意しました。下男がギィと最初にひと弾きすると、裁判官も、書記も、首吊り役人も、その下役人も、みんなが揺れ動き出し、ユダヤ人をきつく縛ろうとしていた人の手から紐が落ちました。二回目にギィと弾くと、みんな脚を上げ、首吊り役人は人のよい下男を放して踊る用意をしました。三回目にギィと鳴らすと、みんな飛びあがって踊りはじめました。裁判官とユダヤ人が一番上手に跳ねました。じきに、もの珍しさから広場に集まっていたみんなが一緒に踊り出しました。老いも若きも、太ったのもやせたのも、みんな一緒になって踊りました。そこを走っていた犬たちもまた、後ろ足で立ってはね回りました。下男が長く弾けば弾くほど、踊り手たちは高く飛びあがって、お互いに頭をぶつけあい、おそろしい悲鳴をあげはじめました。
とうとう裁判官が、息を切らしながら叫びました。「バイオリンをやめてくれれば命を助けてやるぞ。」それで人の良い下男は可哀そうになり、バイオリンをやめてまた首にかけ、はしごを降りていきました。それから、息を切らしてぜいぜいいいながら地面に転がっていたユダヤ人に近づいていくと、言いました。「このごろつきめ、さあ、あの金をどこからとってきたか白状しろ。さもないとバイオリンをもってまた弾き始めるぞ。」「盗みました!、盗みました!」とユダヤ人は叫びました。「だけどあなたはまっとうに手に入れたんです。」そこで裁判官はユダヤ人を首つり台にひったてさせ、泥棒として縛り首にしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

きょうかたびら

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

かつて、7歳の男の子がいる母親がいました。その子はとても美しくて愛らしいので見る人は誰でもその子を好きになりました。また、母親自身もこの世の何よりもこの子を大事にして可愛がっておりました。ところが、男の子が急に病気になり、神様がこの子をひきとりました。このため母親は悲しみがいやされないで昼も夜も泣き通しでした。しかし、それからまもなく、子供が埋められたあと、生きていたときにいた場所や遊んだ場所に子供が出てきました。そして母親が泣くとその子も泣き、朝がくると消えました。
しかし、母親は泣きやまず、子供はある夜、ひつぎの中におさめられたとき着ていた小さな白い経帷子を着て、頭の周りに花の輪をつけて、やって来て、母親のベッドのそばに立ち、「ああ、おかあさん、お願いだから泣くのを止めて。そうしないと僕はお棺の中で眠れないんだよ。たっておかあさんの涙が落ちるから僕の経帷子が乾くことがないんだもの。」と言いました。母親はそれを聞いて心配になり、もう泣きませんでした。
次の夜、子供が手に小さな明かりを握ってまた来て、「ほら、おかあさん、僕の経帷子はだいぶ乾いたよ。だからお墓で眠れるよ。」と言いました。それで母親は悲しみを神様にお預けして、静かにじっとこらえました。それで子供はもう来なくなり、土の下の小さなベッドで眠りました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

昔、土地とお金がたくさんある村人がいました。しかし、どんなに裕福でも、この人の幸せにはまだ一つ不足したものがありました。子供がいなかったのです。他のお百姓たちと町へいくと、みんなはよくからかって、どうして子供がいないんだ?と聞きました。とうとうそのお百姓は怒って、家に着くと、「なんとしても子供がほしい、たとえはりねずみでもな。」と言いました。するとおかみさんに、体の上ははりねずみで下は人間の男の子が生まれました。おかみさんは子供を見ると、ぎょっとして、「ほら見てごらん、あんたが変なことを願うからよ。」と言いました。するとお百姓は、「もうどうしようもないじゃないか。この子に洗礼させて名前をつけなくちゃならないんだが、名付け親になってくれる人は見つからないだろうな。」と言いました。おかみさんは、「じゃあ、はりねずみハンスと呼ぶしかないわ。」と言いました。
洗礼を受けたとき、牧師は「針があるから普通のベッドには寝れないね。」と言いました。それでストーブのうしろに少しわらを敷いてはりねずみハンスをそこにねかせました。母親はお乳をあげられませんでした、というのは針で刺してしまったでしょうから。そうしてストーブの後ろにいて8年経ち、父親は息子にうんざりして、(死んでくれればいいのに)と思っていました。ところが死なないでそこにい続けました。
さて、あるとき、町に市があり、お百姓はそこにでかけるところでしたが、おかみさんにみやげは何がいいかと尋ねました。「肉を少しと白パンを2,3個お願い。家になくちゃいけないものだからね。」とおかみさんは言いました。それから召使に尋ねると、召使は室内履き一足と足首に刺しゅうのついた靴下が欲しいと言いました。おしまいにまた、「それで、はりねずみハンス、お前は?」と聞きました。「おとうさん」とハンスは言いました。「バグパイプを買ってきて。」そこで父親は家へ帰ってくると、おかみさんに買ってきた肉と白パンを、女中には室内履きと刺しゅう付き靴下を渡し、最後にストーブの後ろに行き、はりねずみハンスにバグパイプを渡しました。
はりねずみハンスはバグパイプを受けとったとき、「おとうさん、鍛冶場に行っておんどりの足に金具をつけてもらって。そうしたら僕はおんどりに乗って出ていき、二度と戻らないから。」と言いました。これを聞くと、父親は息子を厄介払いできると考え喜んで、おんどりの足に金具をつけさせました。それが済むとはりねずみハンスはおんどりに乗り、去っていきましたが、森で飼うつもりで豚とロバを何頭か一緒に連れて行きました。森に着くと、高い木の上に自分がのったおんどりを飛ばせ、そこに何年もいて、ロバと豚の番をしました。それでとても大きな群れになりましたが、父親の方は何も息子のことは知りませんでした。はりねずみハンスは木に座ってバグパイプを吹き、とても美しい音楽を奏でました。
あるとき、王様が通りかかりました。道に迷い、音楽を聞いて驚き、この音楽はどこからくるか辺りを探してこい、と家来を遣わしました。家来は探しまわりましたが、木の上にとまっている小さな動物しか見えず、それは、この音楽を奏でているはりねずみがのったおんどりのように見えました。
すると王様は家来に、どうしてそこにいるのか、自分の王国に行く道を知ってるか、尋ねるようにと言いました。それではりねずみハンスは木から下りて、言いました。「道を教えてあげましょう、もし王様が家に着いてすぐ、最初に王宮の中庭で出会うものをくれると約束し、証文にするならね。」すると王様は(そんなことは簡単だ、はりねずみは何もわからないんだから、何を書いても平気だ)と考えました。そこで王様はインクとペンをとり、何か書きました。それが終わるとはりねずみハンスは道を教え、王様は無事に家に着きました。しかし、娘が、遠くから王様の姿を見て、大喜びして駆けよってきて、王様にキスしました。それで王様ははりねずみハンスを思い出し、娘にあったことを話しました。そして、家に着いたら最初に出会う何でもあげると動物に約束させられたこと、その動物はまるで馬のようにおんどりに乗っていて、美しい音楽を奏でていたこと、しかし望むものを与えると書く代わりに与えないと書いたこと、を話してきかせました。そこで王女は喜んで、いいことをしたわ、だって私ははりねずみと一緒に行かないから、と言いました。
ところではりねずみハンスは、ロバや豚の世話をし、いつも陽気で木の上に座り、バグパイプを吹いていました。さて、別の王様が家来と使者を連れて通りかかり、道に迷って森がとても大きかったのでどうしたら家に帰れるかわからなくなりました。この王様も遠くから美しい音楽を聞いて、使者に、あれは一体何だろうと尋ね、行って見てこい、と言いました。そこで使者は木の下に行き、木のてっぺんにいるおんどりと、おんどりの上にいるはりねずみハンスを見ました。使者はハンスにそこで何をしているんですか、と尋ねました。「ロバと豚の番をしているんだ。だけど何か用かい?」使者は、私たちは道に迷い国に戻れないんだ、道を教えてくれませんかと言いました。それではりねずみハンスはおんどりと一緒に木からおりて、年とった王様に、道を教えてあげよう、もし王宮の前で最初に会うものをくれるならね、と言いました。
王様は「いいとも」と言って、はりねずみハンスに約束したように、望みのものを与える、と書いて渡しました。それが終わるとハンスはおんどりに乗って王様の前をいき、道を指差しました。王様は無事に国に着き、中庭に入っていくと、大喜びで迎えられました。さて王様にはとても美しい一人娘がいました。王女は父親を走って出迎え、首にだきついて、戻ったことを喜び、いったいこんなに長い間どこに行っていたの?と尋ねました。それで王様は、道に迷ってもう少しで帰れなくなるところだった、だが大きな森を通っているとき、半分はりねずみ半分人間の生き物が、大きな木におんどりにまたがっていてな、音楽を奏でていたんだ、それで道を教えてくれて森から出られたんだが、お返しに中庭で最初に会ったものをやると約束してしまったよ、それがお前なんだ、だから今悲しいよ、と話しました。ところがこれをきいて王女は、お父様のためですもの、このハンスとやらが来たら喜んで一緒に行きます、と約束しました。
さてはりねずみハンスは豚の世話をしていましたが、どんどん数が増えていき、とうとう森じゅうが豚だらけになりました。そこでハンスはもう森に住まないことに決め、村のどの豚小屋も空っぽにさせてください、すごい大群を連れていくので、殺したい人はみんな殺していいですから、と父親にことづけました。父親はそれを聞いて心配になりました。というのははりねずみハンスがとっくに死んでしまったものと思っていたからです。しかし、ハンスはおんどりに乗って、前に豚を追いやって村へやってくると、豚を殺し始めるように言いました。
そこで殺したり切ったりする音がものすごくなって二マイルも向こうまで聞こえただろうと思われました。このあと、はりねずみハンスは、「おとうさん、もう一度鍛冶場でおんどりの足に金具をつけてもらってください。そうしたら乗って行って、死ぬまで戻りませんから。」と言いました。それで父親はもう一度おんどりの足に金具をつけてもらい、もう二度とはりねずみハンスが戻らないことに喜びました。
はりねずみハンスは最初の王国に出かけました。そこでは王様は、ハンスが宮殿に入れないように、おんどりに乗ってバグパイプをもっているやつは誰でも撃ち殺すなり切り倒すなり刺し殺すなりせよ、と命じてありました。それではりねずみハンスがおんどりに乗ってそこに行くと、みんな槍をもって立ち向かってきました。しかし、ハンスはおんどりに拍車をかけ、飛びあがって門を越え王様の窓の前におりました。そこでハンスは、王様は約束したものをよこせ、さもないと貴様と娘の命をとるぞ、と叫びました。
それで王様は娘に話しかけ、自分とお前の命を救うためにどうかハンスと一緒に行っておくれ、と頼みました。それで娘は白い服を着て、父親は娘に金や財産ともども六頭立ての馬を用意し、きらびやかな召使たちをつけてやりました。娘は馬車に乗り、はりねずみハンスをおんどりとバグパイプと一緒に自分の横に座らせました。それから二人は別れを告げ出ていき、王様は二度と娘に会えないだろうと思いました。しかし、王様がそう思ったのは間違いでした。二人が町から少し出たところで、はりねずみハンスは王女のきれいな服を脱がせ、はりねずみの針で全身血だらけになるまで刺したのです。「それがお前たちの不誠実に対するお返しだ。」とハンスは言いました。「行ってしまえ、お前なんかいらないよ。」そうして王女をまた家に追い返しました。王女は死ぬまで体面をけがされたままでした。
それから、はりねずみハンスはまたバグパイプを持ちおんどりに乗って、道を教えてやった二番目の王様の国に行きました。この王様は、はりねずみハンスに似た者がきたら、捧げ筒をし、案内をして、万歳をとなえ、王宮につれてくるように、と手配してありました。
しかし、王様の娘はハンスを見ると恐怖に襲われました、というのは本当にとても変わってみえたからです。それから、お父様に約束したのだから今更心を変えられないわ、と思いだしました。それではりねずみハンスは王女に喜んで受け入れられ、結婚しました。それで王女と一緒に王様の食卓につくことになり、娘のとなりに座り、食べて飲みました。夜になって寝る時間になると、王女はハンスの針をこわがりましたが、ハンスは、恐がらなくていいよ、何も傷つけないから、と言いました。そしてハンスは王様に次のように話しました。寝室の戸のそばに四人見張りをおいて、たくさん火を燃やしてください、私は部屋に入ってベッドに入るときはりねずみの皮を脱いでベッドのそばにおいておきます、番兵たちはそれに素早く走って行き、火に投げ入れ、燃え尽きるまでそばにいなければなりません。
時計が11時を打つと、ハンスは寝室へ行き、はりねずみの皮を脱ぎ、ベッドのそばに置いておきました。すると、番兵たちがきて素早くそれをとり、火に投げ込みました。皮がすっかり燃えてしまうとハンスの魔法が解け、べっどに人間の姿で寝ていましたが、やけどしたように真っ黒になっていました。王様は医者を呼びにやりました。医者は貴重な軟膏でハンスを洗い、聖油を塗りました。するとハンスは白くなり、ハンサムな若者になりました。王様の娘はそれを見て喜びました。次の朝二人は喜びいっぱいで起き、食べて飲みました。それから結婚式が正式に行われ、はりねずみハンスは年老いた王様から国を引き継ぎました。
何年か経ったとき、ハンスは妻と一緒に父親のところへ行き、自分が息子だと言いました。ところが父親は、自分には息子がいない、はりねずみの針を持って生まれた子はいたが、世間に出て行ったきりです、と言いました。それでハンスは、それが自分だ、と知らせました。年とった父親は喜んで一緒に王国へ行きました。
これでお話はお終い。次のお話は小さなアウグスタの家へ行っちゃったよ。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

二人の旅人

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

山と谷は出会いませんが人の子供は出会います、良い人と悪い人がね。こういう風に靴屋と仕立て屋があるとき旅をしている途中で出会いました。仕立て屋はいつも陽気で明るいハンサムで小柄な男でした。仕立て屋は向こう側から靴屋が向かって来るのが見え、どんな仕事をしているのかかばんをみてわかったので、すこしからかって歌いました。「縫い目を作って、糸を引っぱって、タールを塗りたくり、頭に釘を打て」
ところが靴屋は冗談がわからなくて、酢を飲んだような顔をし、仕立て屋の喉につかみかかる身振りをしました。しかし、仕立て屋は笑いだし、酒のビンを渡し、「悪気はなかったんだ。まあ一杯やって、怒りを静めてくれよ。」と言いました。靴屋はぐうっと一飲みすると顔の怒りが消え始めました。靴屋は仕立て屋にビンを返し、「ああ、よく飲んだ。喉が渇いているからではなく大酒飲みだからたくさん飲むんだよな。一緒に旅をしようか?」と言いました。「いいとも。」と仕立て屋は答えました。「仕事にあぶれない大きな町に行くのでよければね。」「大きな町こそおれが行こうと思ってるところさ。」と靴屋は答えました。「小さな村じゃ稼ぐものがないし、田舎じゃ人ははだしで歩くのが好きだからな。」それで二人は一緒に旅をして、雪の中のいたちのように、いつも片方の足をもう一方の足の前に出して、旅を続けました。
二人とも時間はたっぷりありましたが、食べたり休んだりする時間はほとんどありませんでした。町に着くと、二人は歩き回って職人たちに挨拶回りをしました。仕立て屋は元気がよく明るそうで、素敵な赤い頬をしていたので、みんなが喜んで仕事をくれました。運がいいときは親方の娘が戸口でキスもしてくれました。靴屋とまた会った時は仕立て屋の方がいつも包みの中に荷物がたくさんありました。不機嫌な靴屋は渋い顔をして、「悪党ほど運が強い」と思いました。しかし仕立て屋は笑って歌い出し、仲間の靴屋と何でも分け合いました。ポケットの中で2,3ペンスがチャリチャリ鳴っていれば、ご馳走を注文して、喜んで食卓をトントンたたいたので、グラスが揺れ動きました。仕立て屋は、"気楽にもうけ、気楽に使う"主義でした。
しばらく旅をしたあと、二人は大きな森にさしかかりました。この森を抜けると王様の都へ行く道へでるのです。ところが森を抜ける道は二つあり、一つは7日かかり、もう一つはたった二日しかかからなかったのですが、二人ともどっちが近道なのかわかりませんでした。二人は樫の木の下に腰を下ろし、どう見通しを立てるか、何日分のパンを持って行くか、相談しました。
靴屋は「転ばぬ先の杖だ。おれは一週間分持って行くよ。」と言いました。「待てよ」と仕立て屋は言いました。「荷物運びの動物みたいに7日分のパンを背負って歩くのか?周りを見ることもできなくて?おれは神様を信じて何も心配しないことにしよう。ポケットの金は冬も夏も同じだが、熱い季節のパンは固くなって、おまけにかびくさくなる。おれの上着だってそこまでもたないよ。それに近道の方がみつからないわけじゃないさ。二日分のパンで十分だ。」そういうわけで、それぞれが自分のパンを買い、森で運を試すことになりました。
森は教会の中と同じくらいシーンとしていました。風がそよとも吹かず、小川の流れも聞こえず、濃く茂っている枝からは日がさしこみませんでした。靴屋は黙りこくっていました。背中のパンがとても重く、不機嫌でむっつりした顔から汗が流れ落ちました。一方、仕立て屋はすっかりご機嫌で、跳びはねたり、草笛を吹いたり、歌を歌ったりして、(天国の神様はおれがこんなに楽しんでいるのを見てお喜びになるに違いない)と思っていました。
こうして二日過ぎましたが、三日目に森は終わりそうもなく仕立て屋はパンを食べ尽くしてしまったので、さすがに心が一ヤードも深く沈みこみました。それでも勇気を失わず神様と運を信じていました。三日目の夜に仕立て屋は腹をすかして木の下で寝て、次の朝やはり腹をすかして起きました。四日目もそうでした。靴屋が倒れた木の上に座り食事をしているとき、仕立て屋はただ眺めていました。少しパンをくれと頼めば、靴屋は嘲りわらって、「お前はいつもあんなに陽気だったんだから、一度悲しい目にあってみるがいい。あまり朝早くさえずる鳥は夜にタカにやられるのさ。」と言いました。要するに、靴屋は情け知らずでした。
しかし、五日目の朝にあわれな仕立て屋はもう立ち上がることができなくなり、弱って言葉も言えませんでした。頬は白く目は赤くなりました。すると靴屋は「今日はパンをすこしやろう。だが、お返しにお前の右目をえぐりだすよ。」命が助かりたい仕立て屋は従うしかなく、両目でもう一度涙を流すと、目を靴屋の方に差し出しました。靴屋は、石の心を持っていたので、鋭いナイフで仕立て屋の右目をえぐり出しました。仕立て屋は、昔食料置き場からこっそり食べた時母親が「食べれるときに食べ、苦しまなければいけないときに苦しめ」と言ったことを思い出しました。高くついたパンを食べ終わると、仕立て屋はまた立ちあがり、惨めさを忘れ、片目でもいつだって見えるさと思って自分を慰めました。
しかし、六日目にまたたまらなく空腹になり、心をさいなみました。夕方に仕立て屋は木のそばに倒れ、七日目の朝は気が遠くなって起きあがることができませんでした。死が間近に迫っていました。すると靴屋は「お前に情けをかけ、もう一度パンをやろう。だがただではないぞ。もう一つの目をえぐりだすことにする。」と言いました。それで仕立て屋は自分の人生がいかに無分別だったかわかり、神様に許しを願ってから、言いました。「好きなようにしてくれ。おれは耐えねばならないことを耐える。だが、覚えておけよ。神様は必ずしもただ見ているだけではないから、お前がおれにやった悪行に報いが来る時があるとな。おれはこんなことをされるいわれはないぞ。おれがうまくいってた時はおれの持っているものは何でもお前と分け合った。おれの仕事は縫い目がそろっていなくてはならないような仕事なんだ。もしもう目がなくなれば、、もう縫うことができなくなり、乞食をして歩かなければならない。とにかく、目が見えなくなってからここに置き去りにしないでくれ。さもないとおれは飢え死にしてしまうからな。」ところが、靴屋は心から神様を追い出してしまっていましたから、ナイフを取り出し、仕立て屋の左目をえぐり出しました。それから、仕立て屋に一切れのパンを渡して食べさせ、棒きれを持たせてひっぱって自分の後ろを歩かせました。
日が沈んだ頃二人は森から抜け出ました。目の前の野原に首つり台があり、靴屋はそこへ目の見えない仕立て屋を連れていくと、置き去りにして行ってしまいました。疲れたのと痛いのとお腹がすいたのとで、惨めな男は眠り込み、一晩じゅう眠っていました。夜が明けて仕立て屋は目を覚ましましたが、どこに寝ているのかわかりませんでした。二人のあわれな罪人が首つり台にぶら下がっていて、それぞれの頭にカラスがとまっていました。するとぶらさがっている男の一人が口をきき始め、「兄弟、起きてるか?」と言いました。「ああ、起きてるよ。」ともう一人が答えました。「じゃあ、ちょっと教えるが」と最初の男が言いました。「今夜首つり台からおれたちに落ちてきた露のことさ。これで洗うとまた目ができるんだぜ。もし目の見えない人がこれを知ってれば、絶対見えるようにならないと思っている人でも見えるようになるのにな。」
仕立て屋はそれを聞いて、ハンカチを取り出し草の上に押し付け、露で湿ると目の節穴を洗いました。途端に首つり台の男が言ったことが本当になり、新しい健康な両目が節穴を埋めました。まもなく仕立て屋に太陽が山のかげから昇るのが見え、目の前の平野に大きな王様の都があり、豪華な門や百の塔が見え、尖塔の上にある金の球や十字架が輝き出しました。木々の葉っぱが一枚一枚見分けられ、飛び過ぎてゆく鳥たちや空に舞う小虫も見えました。ポケットから針をとりだして、今まで通り糸を通すことができたので、仕立て屋の心は喜びで踊り上がりました。膝まづいて、恵みを授けてくださった神様にお礼を言い、朝のお祈りをしました。仕立て屋はまた、時計の振子のように風に揺れぶつかりあっている首つり台のあわれな罪人のために祈ることも忘れませんでした。それから背中に荷物をのせ、やがて耐え忍んだ苦しみを忘れ、歌ったり口笛を吹いたりして道を進んでいきました。
最初に出会ったのは野原を自由に走り回っている茶色の仔馬でした。仕立て屋はその仔馬のたてがみをつかまえ、飛び乗って町へ乗り入れようとしました。ところが仔馬は放してくれるようにと頼みました。「僕はまだ小さすぎます。」と仔馬は言いました。「あなたのような軽い仕立て屋でも僕の背中を折ってしまいます。力が強くなるまで放しておいてください。あなたにお礼をする時がひょっとしてくるかもしれませんよ。」「走っていけ」と仕立て屋は言いました。「なるほどお前はやんちゃ坊主だ。」仕立て屋は仔馬の背をパシッとたたいたので、仔馬は喜んで後足を上げ、茂みやみぞを跳び越えて、野原へ走っていきました。
しかし、小さな仕立て屋は昨日から何も食べていませんでした。「お日さまは確かに目にいっぱい入ってるが」と仕立て屋は言いました。「パンは口に入ってこない。出会う最初のものが半分しか食えないものでも食わなくっちゃ。」そのうちにコウノトリが厳かな足取りで草原を歩いてきました。「止まれ、止まれ」と仕立て屋は叫んで脚をつかまえました。「お前が食えるものかどうかわからないんだが、腹が減ってるから選んでられない。お前の頭を切り落として焼かなくちゃ。」「やめてくださいよ。」とコウノトリは答えました。「私は人間に大きな利益をもたらす神聖な鳥ですよ。だれも私に害を加えません。生かしておいてください。そうすればいつか別のお役に立てるでしょう。」「そうか、行きな、長足さん」と仕立て屋は言いました。コウノトリは空へ舞い上がり、長い脚をたらし、ゆったりと飛んでいきました。
「やれやれ、どうなるんだ?」とうとう仕立て屋は言いました。「だんだん腹が減って、胃はどんどん空っぽになる。今度来るやつは何であれ命がないぞ。」このとき池にいるカモのひなが2,3羽泳いでくるのが見えました。「お前たちはおあつらえのときにきたぞ。」と言って、一羽を捕まえ、首をへし折ろうとしました。これを見て、葦の間に隠れていた親ガモが大きな金切り声をあげはじめ、くちばしを開いてやってきて、しきりに子供たちの命を救ってくれるようお願いしました。「思ってもみてくださいな」と親ガモは言いました。「誰かがあなたをさらってあなたにとどめをさすなら、あなたのおかあさんはどんなに悲しむことでしょう。」「もういい。静かにしな。」とやさしい仕立て屋は言いました。「こどもたちを連れていきな。」そしてつかまえた子ガモを水に戻してやりました。
振り向くと、仕立て屋は一部うろになっている古い木の前に立っていて、そこから野の蜂が飛んで出入りしているのが見えました。「ほら、すぐにおれの良い行いのご褒美が見つかった。」と仕立て屋は言いました。「蜂蜜は元気がでるぞ。」しかし、女王蜂が出てきて仕立て屋を脅して言いました。「私の民に手を振れ巣を壊そうものなら、私たちは、一万本の真っ赤に焼けた針のように、お前の膚を突き刺してやるからね。だけど、私たちをそっとして道を行くなら、いつかお役に立ってみせますよ。」
小さな仕立て屋はここでも何もできないとわかりました。「三つの皿は空っぽで、四つ目の皿にも何もないってのはひどい食事だ。」そういうわけですきっ腹を抱えて町へのろのろ歩いて行きました。ちょうど12時になっていたので、宿屋ではもう料理ができていて、すぐに食卓につくことができました。お腹がいっぱいになると仕立て屋は「さあ、仕事にとりかかるか」と言いました。町を歩き回り、親方を探して、まもなくいい職につくことができました。腕がとてもよかったので、やがて有名になり、みんながこの小さな仕立て屋に新しい上着を作ってもらいたがりました。仕立て屋の名声は日増しに高くなっていきました。「おれの腕前は上がっていかない」と仕立て屋は言いました。「それでも商売は日増しに良くなっていってるなあ。」とうとう王様がこの仕立て屋をお抱えの仕立て屋に指定しました。
しかし、世の中には実に妙なことが起こるものです。その全く同じ日に前の仲間だった靴屋もお抱えの靴屋になりました。靴屋は仕立て屋をみつけ、また健康な両目があるとわかって、気がとがめました。「あいつがおれに仕返しするより先に」と靴屋は考えました。「おれがあいつの穴を掘らなくちゃならない。」ところが他人の穴を掘る者は自分でその穴に落ちるものです。日が暮れ仕事が終わって暗くなってから、靴屋はこっそり王様のところへ行き、「王様、あの仕立て屋は傲慢なやつで、古代に無くなった金の冠を取り戻してみせると自慢していましたよ。」と言いました。「そうなればとても嬉しいのだが。」と王様は言って、次の朝、仕立て屋を前に呼び寄せ、冠を取り戻せ、さもなくば町を永久に去ることだ、と命じました。「おっと!」と仕立て屋は思いました。「詐欺師ならあるもの以上に出すがね。不機嫌な王様がおれに誰にもできないことをやらせるんなら、明日まで待たずに今日すぐ出ていくよ。」
そういうわけで、仕立て屋は荷物をまとめましたが、町の門の外へ出ると、幸運をあきらめ、万事あんなに順調だった町に背を向けるのを悲しまずにはいられませんでした。仕立て屋はカモと前に知り合いになった池のところへやってきました。するとちょうどそのとき仕立て屋がヒナたちの命を助けてやった親ガモが岸に座ってくちばしで羽づくろいをしていました。親ガモはすぐに仕立て屋がわかり、どうしてそんなに頭を垂れているの?と尋ねました。「おれにどんなことが降りかかったか聞いたら不思議に思わないだろうよ。」と仕立て屋は答えて自分の巡りあわせを話しました。「それだけのことなら」とカモは言いました。「助けてあげられるわ。冠は水に落ちて、下の底にあるのよ。すぐに上にもってくるわ。その間に岸にハンカチを広げておいてね。」カモは12羽のヒナたちと一緒にもぐり、五分たつとまた上がってきました。親は冠を翼の上におき、12羽のヒナたちは冠の下にくちばしを入れ周りを囲んで泳いで、運ぶのを手伝っていました。カモたちは岸に泳いできて、冠をハンカチの上に置きました。その冠がどんなに素晴らしかったか誰も想像できません。太陽が照りつけると、冠は十万個のザクロ石のようにキラキラ輝きました。仕立て屋はハンカチの四隅を結んで王様のところへ持って行きました。王様は大喜びで仕立て屋の首に金の鎖をつけてあげました。
靴屋は一回目の企みが失敗したとみてとると、二つ目を企み、王様のところへ行って、「王様、仕立て屋はまた生意気なことを言っていますよ。王宮をそっくり、城にあるものも含めて、動くものも動かないものも、内も外も、全部ろうでまねてつくってみせる、と自慢しております。」と言いました。王様は仕立て屋を呼びにやり、王宮をそっくりろうで作れ、王宮にあるものも全部、動くものも動かないものも、内側も外側もだ、これをやり遂げられなかったり、壁の釘一本足りなければ、お前を一生地下牢に閉じ込めておくぞ、と命じました。
仕立て屋は「だんだん悪くなるよ。これじゃ誰も我慢できない」と考え、背に荷物を背負って出かけて行きました。うろのある木のところに来ると、仕立て屋は座り頭を垂れました。蜂たちが飛んで外に出てきて、女王蜂が、そんなに頭を垂れて、首が回らないの?と聞きました。「ああ、違うんだ。」と仕立て屋は答えました。「全然別のことでおれは押しつぶされてるんだ。」そして王様が自分に何を要求したか話しました。蜂たちは自分たちの間でブンブンやっていましたが、そのうち女王蜂が言いました。「また家へ戻りなさい。だけど明日のこの時間に戻ってきて、大きな布を持って来て。そうしたら全部うまくいくわ。」それで仕立て屋はまた戻りましたが、蜂たちは王宮に飛んでいき、開いた窓からまっすぐ入り、隅々まで巡り歩いて、とても念入りに全部調べました。それから急いで戻って、ものすごい速さでろうの模型を作りました。それで眺めている人がいたら、王宮が目の前で育っていくようにおもったことでしょう。夕方までには全部用意ができ、次の朝仕立て屋が来たときは豪華な建物がまるまるそこにあり、壁の釘一本、屋根の瓦一つ欠けているものはなく、その上、優美で雪のように白く、蜂蜜の甘い匂いがしました。仕立て屋はそれを注意深く布に包んで王様のところへ持って行きました。王様は感心することしきりで、それを一番大きな広間に置き、代わりに仕立て屋に大きな石の家を贈りました。
しかし、靴屋はあきらめず、三回目に王様のところへ行き、「王様、お城の中庭に水がどうしても湧かないということが仕立て屋の耳に入りました。それで、中庭の真ん中に人の高さまで湧きあがらせ、水晶のようにきれいな水にしてみせると自慢しています。」と言いました。それで王様は仕立て屋を呼ばせ、言いました。「お前が約束したように明日までに中庭に水があがらなかったら、処刑人にその場所でお前の首をはねさせるぞ。」かわいそうに仕立て屋はそれを長く考えていないで、町の門に急ぎました。今回は生死に関わる問題なだけに涙が頬を流れ落ちました。
こんな風にとても悲しみながら進んでいくと、前に放してやった仔馬が、今は美しい栗毛の馬になって、跳びはねながらやってきました。「あなたにご恩返しする時がきました。」と馬は仕立て屋に言いました。「あなたが何で困っているかもう知っていますよ。でもすぐ助けてあげます。さあ僕に乗って。僕の背はあなたを二人分運べますよ。」仕立て屋にまた勇気が湧いて来て、一跳びで馬に乗りました。馬は全速力で町に入り、まっすぐ城の中庭に行きました。それから馬は中庭を三回稲妻のように速く走り回って、三回目にどうっと倒れました。ところが、同時にものすごい雷鳴が起こり、中庭の真ん中で土の塊が大砲のように空中にとんで、城を越えていきました。すぐそのあと、水が馬に乗った人の高さまで迸り出ました。その水は水晶のように清らかで、お日さまの光が当たってきらきら踊り始めました。王様はこれを見ると驚いて立ち上がり、仕立て屋のところに行き家来たちみんなの見ている前で抱きしめました。
しかし、幸せは長く続きませんでした。王様には娘がたくさんいて、どの娘も他の娘にひけをとらず美しかったのですが、息子はいませんでした。それで意地悪な靴屋は四回目に王様のところへ行って、「王様、仕立て屋は傲慢さを失くしていませんよ。今度は、自分がその気なら空から王様に王子を運ばせることができるとおおぼらをふいています。」と言いました。王様は仕立て屋を呼び寄せて言いました。「9日のうちにわしに息子を持たせるなら、一番上の娘を妻にあげよう。」と言いました。(褒美は確かに大したもんだ。)と仕立て屋は考えました。(人はそのために喜んで何かをするだろう。だがサクランボはおれには高すぎて手が届かない。もしそれをとりに木に登れば下の枝が折れておれは落ちてしまうだろう。)
仕立て屋は家に帰り、仕事台にあぐらをかいて座り、どうしたらよいか考えました。しまいに「どうしようもない」と仕立て屋は叫びました。「やっぱり出ていくとしよう。ここでは落ち着いて暮らせないや。」仕立て屋は荷物を縛り、町の門に急いで出て行きました。
草原につくと、古い友達のコウノトリに気づきました。コウノトリは哲学者のように行ったり来たりして歩いていて、ときどき立ち止まり、蛙をとってよくよく考え、やっと飲みこみました。コウノトリは仕立て屋のところに来て、挨拶しました。「見たところ」とコウノトリは言い始めました。「背中に荷物があるが、どうして町をでていくのかね?」仕立て屋は王様が要求していることを話し、どうしたってできないと言って自分の不運を嘆きました。「そんなことをくよくよして白髪にしなさんな。」とコウノトリは言いました。「困ってることから救ってあげよう。もう長い間おくるみに入れた赤ん坊を町に運んできたんだ。だから見方によれば一度は泉から赤ん坊の王子をとってこれるさ。家に帰って安心してなされ。今から9日経ったら王宮に行きなさい。そこに私が行きますから。」
小さな仕立て屋は家に帰り、決められたときに城へ行きました。まもなくコウノトリがそちらへ飛んできて、窓をたたきました。仕立て屋が窓を開けると、脚長さんがそっと入ってきて、滑らかな大理石の敷石の上を厳かな足取りで歩きました。さらにコウノトリはくちばしに天使のように愛らしい赤ん坊を連れてきていました。赤ん坊はその小さな手をお后に伸ばしました。コウノトリがお后の膝に赤ん坊を置くと、お后は抱き上げてキスし、喜んで有頂天になりました。コウノトリが飛び立つ前に旅行鞄を背中から降ろし、お后に渡しました。その中には色とりどりの砂糖菓子が入っている小さな紙包みがたくさん入っていて、小さな王女たちの間で分けられました。ところで一番上の娘は何も受け取りませんでしたが、その代わりに陽気な仕立て屋を夫にもらいました。「おれは最高の賞をとったような気がするよ。おかあさんはやっぱり正しかったよ。『神様を信じて幸運さえあれば大丈夫だ』といつも言ってたんだ。」と仕立て屋は言いました。
靴屋は仕立て屋が結婚式で踊る靴を作らなければなりませんでした。そのあと、町を永久に去るように命じられました。森へ続く道を行くと、靴屋は首つり台のところに来ました。腹立ちと日中の暑さのため疲れ果てて、靴屋は身を投げ出しました。目を閉じて眠ろうとした時に二羽のカラスが首つり台の男たちの頭から下りてきて、両目をつついてえぐり出しました。靴屋は気が狂ったように森へ走っていきましたが、そこで飢え死にしたにちがいありません。というのは誰も二度と靴屋を見た人はいないし、噂にも聞かないからです。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

Tuesday Aug 13, 2024

ある水車小屋に、妻も子供もいない年とった粉屋が住んでいて、三人の見習いがこの粉屋の下で働いていました。三人が何年かここで働いていたので、ある日粉屋は三人に、「私はもう年だから、隠居してストーブの後ろに座っていたい。出かけて行って、お前たちのうちで私に一番いい馬を持ち帰った者に、水車小屋をやろう。その代わり、私が死ぬまで面倒をみてもらうことにするよ。」と言いました。ところで、見習いのうち三番目はできが悪く他の二人から馬鹿だとみなされていました。二人はこの男に水車小屋を渡したくないと思いました。後になってその子は水車小屋を欲しいとすら思わなかったんですがね。そこで三人は一緒にでかけ、村に着くと、二人は間抜けなハンスに、「お前は生きてるうちに馬を手に入れられないだろうから、ここにいた方がいいぞ。」と言いました。しかし、ハンスは一緒に行きました。夜になるとほら穴に来て、三人はそこで横になり眠りました。二人のお利口な見習いはハンスが眠ってしまうのを見計らって立ちあがり、そこにハンスをおき去りにして行ってしまいました。二人はとてもうまいことやったぜと思ったのですが、あとでまずい結果になるのは確かでした。   
日が昇るとハンスは目が覚め、深いほら穴に寝転がっていました。辺りを見回し、「あれ~、ここはどこだ?」と叫びました。それから起きあがり、ほら穴から這って出て、森へ入っていき、「ここで全くひとりぼっちで捨てられているのに、どうやって馬を手に入れようか?」と思いました。こうして思いに沈んで歩いていると小さなぶち猫と出会いました。猫はとてもやさしく、「ハンス、どこへ行くの?」と言いました。「ああ、お前は手伝えないよ。」「あなたの望みをよく知ってるのよ。」と猫は言いました。「いい馬が欲しいのね。私と一緒に来て、七年私の忠実な召使をやりなさい。そうしたら生まれてこのかた見たこともないようなりっぱな馬をあげましょう。」(おや、これは変な猫だな、だが猫の言ってることが本当かどうか確かめてやろう。)とハンスは思いました。
それでぶち猫はハンスを自分の魔法にかかった城へ連れて行きました。そこには子猫だけがそのぶち猫の召使をしていました。子猫たちは素早く階段を上下して陽気で楽しそうでした。夜にハンスとぶち猫が食事の席につくと、三匹の子猫が音楽を奏でるように仰せつかり、一匹はチェロを弾き、もう一匹はバイオリンを弾き、三匹目は口にトランペットをくわえ、頬っぺたをいっぱいに膨らませて吹きました。食事が終わると、食卓が片づけられ、ぶち猫は言いました。「さあ、ハンス、こっちへ来て私と踊って。」「嫌だよ。」とハンスは言いました。「ニャンコとは踊らないよ。そんなことしたことない。」「それではハンスをベッドに連れてお行き。」とぶち猫は猫たちに言いました。それで一匹が明かりをつけて寝室へ案内しました。一匹がハンスの靴を脱がせ、一匹が靴下を脱がせ、最後に一匹がろうそくを消しました。次の朝、猫たちは戻ってきてハンスが起きるのを手伝い、一匹は靴下をはかせ、一匹は靴下止めを結わえ、一匹は靴を持って来て、一匹はハンスの顔を洗い、一匹は尻尾でその顔を拭きました。「わあ、とてもふわふわしてるよ。」とハンスは言いました。
しかし、ハンスはぶち猫に仕え、毎日たきぎを割らなくてはいけませんでした。それをするのに、ハンスは銀の斧を受け取りましたが、くさびと鋸も銀でできており、槌は銅でできていました。それでハンスはたきぎを小さく切り、その家にとどまり、おいしい食べ物と飲み物をだされましたが、ぶち猫とその召使の他には誰も見かけませんでした。あるときぶち猫はハンスに、「うちの草地へ行って草を刈り、干しておくれ。」と言って、銀の草刈り鎌と金の砥石を渡しましたが、忘れずにまた返すようにと言いました。そこでハンスはそこに行って言われたことをやり、仕事が終わったとき草刈り鎌と砥石と干し草を家に運び、まだお礼を受け取る時ではないんですか?と尋ねました。「まだです。」と猫は言いました。「同じようなことをもっとやらねばなりません。銀の角材、大工の斧、曲尺、必要なものは何でも、全部銀でできていて、そろっています。これで小さな家を建てておくれ。」それでハンスは小さな家を作り、もう全部やりました、と言いました。それでもやはり馬をもらえませんでした。
それにもかかわらず、七年はハンスにはまるで六か月のように過ぎてしまいました。ぶち猫が、私の馬をみたいかい?とハンスに尋ねました。「ええ」とハンスは言いました。するとぶち猫は小さな家の戸を開けました。そして開けてしまうと、12頭の馬がいました。それはとても見事な馬でつやがよく光っていたので、その馬たちを見てハンスの心は躍りました。今度はぶち猫はハンスに飲んだり食べたりさせ、「家にお帰り。今は馬を渡しませんが、三日経ったら、あなたを追って馬を連れていきますよ。」と言いました。そこでハンスは出かけ、ぶち猫は水車小屋に帰る道を教えてくれました。
ところで、ぶち猫は一度としてハンスに新しい上着をくれたことがなく、前にもってきた汚い古い仕事着を着続けるしかありませんでした。それで七年の間にどこもかしこも小さくなってしまいました。家に着くと、他の二人の見習いもまたそこにいました。二人とも確かに馬を連れてきてはいましたが、一頭は目がみえなくて、もう一頭は足が悪いうまでした。二人はハンスに、お前の馬はどこだ?と尋ねました。「三日したら着くんだ。」すると二人は笑って、「へ―え!間抜けなハンスよ、どこで馬を手に入れるんだい?」と言いました。「いい馬だよ。」ハンスは居間に行きましたが粉屋は、お前は食卓に座ってはいけない、そんなにぼろぼろで破れているんじゃ誰か入ってきたらみんな恥をかくからな、と言いました。それでみんなはハンスに外で食べさせました。夜になってみんなが休む時間になると、他の二人はハンスをベッドに入れようとしませんでした。それでとうとうハンスはがちょう小屋にもぐりこんでちいさな固いわらにねるしか仕方ありませんでした。
三日経って、ハンスが朝に目覚めると、六頭立ての馬車がやってきました。その馬はとても立派だったので見ても嬉しくなりました。一人の家来が七頭目もひいて来ていて、それはかわいそうな粉屋の若者にあげる馬でした。それからきらびやかな王女が馬車から下りて粉屋に入りました。この王女はかわいそうなハンスが七年仕えた小さなぶち猫だったのです。王女は、見習いのできそこないはどこか尋ねました。すると粉屋は、「あいつはここの家にいれられませんよ。ぼろぼろの服ですからね。がちょう小屋に寝ています。」と言いました。すると王様の娘は、すぐにつれてくるように、と言いました。そこでみんながハンスを連れ出すと、ハンスは小さすぎる仕事着をかきあわせて、体を隠さなくてはなりませんでした。家来たちは素晴らしい服をとりだし、ハンスの体を洗い、服を着せました。それが終わると、ハンスはどこの王様にも負けないくらい立派に見えました。それから、王女は他の見習いたちが連れてきた馬を見たがり、目が見えない一頭と足の悪い一頭を見ました。そこで自分が連れてきた七頭目の馬を連れてくるように家来に言いつけました。粉屋はその馬を見ると、こんな馬は今まで自分の庭に入ってきたことがない、と言いました。「それは三番目の見習いの馬です。」と王女は言いました。「それじゃハンスに水車小屋をやることにしよう。」と粉屋は言いましたが、王様の娘は、馬はここにおいていきますし、水車小屋もあなたがもっているように、と言って、忠実なハンスを馬車に連れていき乗せると一緒に去っていきました。
先ず二人はハンスが銀の道具で建てた小さな家に乗りつけました。なんと、それは大きなお城になっていて、中にあるものは全て金と銀でできていました。そのあと、王女はハンスと結婚しました。ハンスは金持ちに、一生暮らしてもお金に困らないほどの金持ちになりました。
このあと、間抜けな人は重要人物になれっこない、とは誰にも言わせませんよ。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

蛇の話

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

第一話
昔、小さな子供がいて、母親は毎日午後に小鉢にパン入りミルクをあげていました。子供はその小鉢をもって中庭にいき座りました。ところが食べ始めると、一匹の蛇が壁の割れ目から這い出て、皿に小さな頭を突っ込み、子供と一緒に食べました。子供はこれを喜んで、そこに小皿を置いて座って蛇がすぐにやって来ないと、叫びました。
「蛇さん、蛇さん、早くおいでこっちへおいで、おチビちゃんパンをあげるよミルクを飲んで元気になあれ!」
すると蛇が大急ぎでやってきて、おいしそうに食べました。さらに、蛇はお礼の気持ちを示しました。というのは、子供に隠された宝物から、光る石、真珠、金のおもちゃなど、きれいなものをいろいろもってきたからです。ところが蛇はミルクだけ飲んで、パンは残しました。それである日、子供は小さなスプーンをとって、それで蛇の頭をやさしくたたきながら、「パンも食べるんだよ、おチビちゃん。」と言いました。台所にいた母親に、子供が誰かと話しているのが聞こえ、子供がスプーンで蛇をたたいているのを見ると、まきをもって駆けていき、仲よしのおチビちゃんを殺してしまいました。
その時から、子供が変になり始めました。蛇が一緒に食べていた間は、子供は大きく丈夫に育っていましたが、今はかわいいバラ色のほおがなくなり、やせおとろえていきました。まもなく弔いの鳥が夜に鳴きだし、こまどりが葬式の花輪用の小さな枝や葉を集めだしました。それからまもなく、子供はひつぎ台の上に横たわりました。
第二話
みなし子の子供が町の塀に座って糸を紡いでいました。そのとき、蛇が塀の下の方の穴から出てくるのが見えました。子供はこの蛇のそばに青い絹のハンカチをサッと広げました。蛇というのはそういう布をとても好み、その上にしか這ってこないのです。蛇はそれを見ると引き返し、また戻ってきて、小さな金の冠を持ってくるとハンカチの上に置き、また帰っていきました。女の子がその冠をとってみると、それはキラキラ光り、金の細いより糸でできたものでした。まもなく蛇は2回目に戻ってきました。しかし、もう冠がないのを見ると、塀を這い上って、悲しくてもう力がなくなるまで小さな頭を塀に打ちつけ、とうとうそこで死んでしまいました。もし女の子が冠をあったところに置いておきさえすれば、きっと蛇は穴からもっと宝をもってきたでしょう。
第三話
蛇が「フーフー」と鳴きます。子供が「出ておいで」と言います。蛇は出てきます。すると子供は妹のことを尋ねます。「赤靴下ちゃんを見なかった?」蛇は「いいえ」と言います。「私も見なかったわ。」「じゃあ、僕は君と同じだね。フーフー。」このエピソードはPodbean.comがお届けします。

賢い人々

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

ある日、お百姓が隅からはしばみの棒をとり出しておかみさんに、「トリーナ、おれはよそへ行って、三日戻らないから。その間に牛買いが訪ねてきて、うちの三頭の雌牛を買いたがったらすぐに売っていいよ。だが、200ターラー貰えなくちゃだめだぞ。それより安いのはだめだ。わかったか?」と言いました。「安心して行って。」とおかみさんは答えました。「ちゃんとやるから。」「そうだなあ。」と亭主は言いました。「お前は小さい時、頭から落ちて今でも影響してるからな。だが言っておくぞ。もしお前が馬鹿なことをしたら、お前の背中を青黒くしてやるぞ。ペンキでじゃなく、今手に持っている棒でだ。その色はまるまる一年は落ちないだろうよ。本当だぞ。」そう言った後、亭主は出かけて行きました。
次の朝、牛買いがやってきて、おかみさんはあまり言わなくても済みました。牛買いは雌牛をみて値段を聞くと、「それだけ喜んで出しましょう。正直言ってこの牛にはそれだけの値打ちがありますからね。すぐに牛たちを連れていきます。」と言いました。それで牛の鎖をはずすと牛小屋から追いたてました。しかし、今にも牛買いが庭の入口から出て行こうとしたとき、おかみさんは牛買いの袖をつかみ、「今私に200ターラー渡して下さいよ。そうしないと牛はやれません。」と言いました。「確かにそうだな」と牛買いは答えました。「だがね、金を入れるベルトをしめるのを忘れてきちゃってね。だけど、心配しなさんな。金を払う担保をおいていきますから。牛を二頭連れて行って、一頭おいときましょう。そうすればりっぱな担保になるわけですからね。」おかみさんは担保の力をわかり、牛買いに牛を連れて行かせ、(私がうまくやったと知ったらハンスはどんなに喜ぶかしら)と心密かに思いました。
お百姓は言った通り三日目に帰ってきて、すぐに牛が売れたかと尋ねました。「ええ、売れたわ。あんた」とおかみさんは答えました。「あんたが言ったように200ターラーでね。あの牛はそんな値打ちはないんだけど、あの人は文句も言わないで連れて行ったわ。」「金はどこだ?」とお百姓は尋ねました。「あら、お金はもらってないのよ。」とおかみさんは答えました。「お金のベルトを忘れたんですって。だけどすぐ持ってくるわ。ちゃんとした担保を置いていったのよ。」「どんな担保だ?」と亭主は尋ねました。「三頭のうちの一頭よ。他の二頭に支払ってしまうまではもっていかないの。私はとても賢くやったのよ。一番小さい牛をとっておいたの、えさを少ししか食べないから。」亭主はかんかんに怒り、棒を振り上げ、約束したようにたっぷり打ちすえようとして、急に棒を下ろし、言いました。「お前ってやつはこの地上でよたよた歩くがちょう女のうちで一番間抜けだな。だが可哀そうなやつだな。おれは街道に出て、お前よりもっと間抜けなやつがみつかるか三日間待ってみるよ。おれがうまくやりおおせたら、お前を免除してやる。だが誰も見つからなかったら、割引をしないでお前にふさわしい報いを受けるのだぞ。」
お百姓は大きな街道に出て石の上に座り、どうなるか待っていました。すると、百姓の荷車がやってきました。一人の女がその真ん中にまっすぐつっ立っていて、そばにあるわらの束に座っているのでもなく、牛の近くを歩くでもなく、牛をひいてるわけでもありませんでした。お百姓は「あれは正しくおれが探しているようなやつだ。」と思い、パッと立ち上がり、頭がおかしい人のように荷車の前をあっちこっち走りました。「あんた、何の用?」とその女がお百姓に言いました。「あんた、見たことないね。どこから来たの?」「天国から落ちてきたんだ」とお百姓は答えました。「それでどう戻ったらいいかわからないんだ。天国まで乗せてくれないかい?」「だめよ」と女が言いました。「道がわからないもの。だけど、あんたが天国から来たんなら、うちの亭主がどうしてるかきっとわかるよね?ここ三年そこにいるんだけど。きっと亭主に会ったにちがいないよ。」
「そうだとも。会ったことがあるよ。だけど、みんながみんなうまくいってるとは限らないんだ。その人は羊の番をしているんだが、羊にはけっこうてこずっているね。羊が山を駆け上がり、荒れ野で迷子になったりして、それを追いかけてまた集めなくちゃいけないんだ。服もぼろぼろになって、体からじきに脱げ落ちちゃうんじゃないかな。天国には仕立て屋がいなくてね。聖ペテロが仕立て屋をいれないんだ。その話は知ってると思うがね。」「そんなこと知らなかった!」と女は叫びました。「ね、まだタンスにぶら下がっている礼服をとってくるよ。それを着たら、立派にみえるわ。あんた、持って行ってくれないかな?」「それはあまりよくないな。」とお百姓は答えました。「人は天国に服を持ちこめないんだ。門のところでとられてしまう。」「じゃあ、いい?」と女は言いました。「昨日いい小麦を売ったからお金がたくさん手に入ったのよ。それを亭主に送るわ。あんたがポケットに財布を隠しておけば、誰もあんたが持っているってわからないでしょ。」「それしか方法がないんなら」とお百姓は言いました。「やってあげてもいいがね。」「あんた、ここにいて。家へ帰って財布をとってすぐ戻ってくるから。私はわらの束の上に座らないで荷車に立つの。その方が牛には軽いからね。」
女は牛を追いたてて去って行きました。お百姓は、「あの女には馬鹿の立派な才能があるぞ。もし本当に金をもってきたら、うちのやつは運がいいと思うだろうよ。ぶたれなくて済むからな。」と考えました。間もなく女はお金を持って大急ぎでやってきて、自分の手でお百姓のポケットに入れました。立ち去る前に女はお百姓の親切に何度も繰り返しお礼を言いました。
女がまた家へ帰ると、畑から帰った息子がいました。母親は息子に、思いがけないことが起こったんだよ、と話し、「かわいそうなうちの人にものを送ることができてわたしゃ本当に嬉しいよ。あの人が天国でそんなに不自由して困ってるなんて誰が知るかねぇ」と付け加えました。息子はとても驚きました。「おかあさん」と息子は言いました。「こんな風に天国から人が来るなんて毎日あることじゃないよ。おれ、すぐ出かけて、まだその人が見つかるか見てこよう。天国はどんなふうなのか、どんなふうに仕事するのか聞いて来なくちゃ。」
息子は馬に鞍をつけ全速力で走って行きました。そして柳の木の下に座り、財布のお金を数えようとしていたお百姓を見つけました。「天国から落ちてきた男を見なかったかい?」と若者はお百姓に叫びました。「見たよ。」とお百姓は答えました。「その人なら天国へまた戻っていったぞ。あの山を登っていったんだが、ここから結構近いから、馬で急げばまだ追いつけると思うがな。」「ああ」と若者は言いました。「一日中仕事で疲れて、ここまで来るのでもうくたくたに疲れ切ったよ。あんたはその人を知ってるんだから、おれの馬に乗って行ってここに来てくれるように頼んでくれないかい?」(ははあ、脳みそのないやつがここにもいるわい)とお百姓は思いました。「いいとも、やってあげよう」とお百姓は言って、馬に乗り、速脚で走って行きました。若者はそこに座って暗くなるまで待っていましたが、お百姓は戻って来ませんでした。(天国から来た男はきっとすごく急いでいたにちがいない、それで戻って来ないんだ、お百姓はお父さんのところに届けるためにきっと馬を渡したんだ。)と若者は考えました。若者は家に帰り、母親にできごとを話し、父親が走り回らなくてもいいように馬を送った、と言いました。「お前はいいことをしたよ。」と母親は答えました。「お前の足はお父さんより若いんだから、歩けるものね。」
お百姓は家に帰ると、馬を馬小屋に入れ、担保にした牛のそばにつなぎました。それからおかみさんのところへ行き、「トリーナ、お前は運がよかったぞ。お前よりもっと間抜けな馬鹿を二人見つけたよ。今度はお前はぶたれなくて済んだ。次の時のためにとっておこう。」と言いました。それから、パイプに火をつけ、安楽椅子に腰を下ろし、言いました。「いい商売だったな。やせた二頭の牛とひきかえに、つやのある馬一頭と、おまけに金がたんまり入った財布とはな。もし間抜けがいつもそれだけいい商売になるなら、おれは喜んで間抜けに敬意をはらうんだがな。」そうお百姓は考えました。だけどあなたはきっとおバカさんの方が好きですよね。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

おいしいお粥

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

母親と二人だけで暮らしている、貧しいけれど心のやさしい女の子がいました。二人にはもう食べるものがなくなったので、子供は森へ入って行き、そこでおばあさんと出会いました。おばあさんは子供の悲しみを知って、ちいさな壺をあげました。その壺は「煮て、壺よ、煮て」と言えば、良いおいしいおかゆを作り、「止まって、壺よ、止まって」と言えば作るのをやめるのです。女の子はそのつぼを母親のところに持って帰り、もう貧乏と空腹から救われ、好きなだけおいしいおかゆを食べました。
女の子がでかけていたあるとき、母親は「煮て、壺よ、煮て」と言いました。それで壺は煮て、母親は満腹するまで食べました。それで壺に作るのを止めて欲しかったのですが、言葉を知りませんでした。それで壺はどんどん作り続け、おかゆがふちをこえてあふれてきました。それでも作り続け、台所と家中がいっぱいになりました。それから、隣の家が、それから通りが、いっぱいになり、まるで世界中の空腹を満たしたいかのようでした。とても困りましたが、だれも壺の止め方を知りませんでした。
とうとうただ一つの家が残ったとき、子供が帰ってきて、「止まって、壺よ、止まって」と言いました。それで壺は止まって作るのを止めました。町へ戻りたい人はみんな帰り道を食べて帰らなくてはなりませんでした。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

みそさざいと熊

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

夏のあるとき、熊と狼が森の中を歩いていました。すると熊が小鳥のきれいな鳴き声を聞いて、「狼兄い、あんなに上手に鳴いているのは何の鳥かな?」と言いました。「あれは鳥の王様だよ。」と狼は言いました。「あの鳥の前にでたらおれたちはお辞儀をしなきゃならん。」本当はその鳥はみそさざいでした。「そういうことなら」と熊は言いました。「是非その王宮をみたいものだ。さあ、そこへ連れて行ってくれ。」「君が思うようにはいかないよ」と狼は言いました。「お后さまが来るまで待たなくちゃいけないんだ。」そのあとまもなく、お后がくちばしに食べ物をくわえて帰ってきて、王様も帰り、二人で幼いこどもたちにえさをやり始めました。熊はすぐにも行きたかったのですが、狼が袖をつかんでひきとめて、「だめだよ、王様とお后さまがまたでかけるまで待たなくちゃいけないよ。」と言いました。それで巣がある穴をよくおぼえてから、立ち去りました。
ところが熊は王宮を見るまで落ち着かなくて、少し経つとまたそこへ行ってみました。王様とお后さまはちょうど飛び立ったところだったので、熊が覗きこむと5,6羽のひながそこにいるのが見えました。「これが王宮?」と熊は叫びました。「ひどい宮殿だな。お前たちは王様の子供なんかじゃない、ただのみすぼらしいガキだ。」みそさざいの雛たちがこれを聞き、ひどく怒って喚きました。「違うよ、そんなんじゃないやい、私たちの両親はまっとうな人たちだぞ。熊野郎、この仕返しはきっとしてやるからな。」
熊と狼はバツが悪くなり、向きを変えて自分の巣穴に戻りました。しかし、みそさざいの雛たちはぎゃあぎゃあ喚き続けていて、両親がまたえさを運んできたとき、「僕たちが立派な子かどうかきちんとしてくれるまでハエの足一本だって食べないからね。飢えて死んだって食べるもんか。熊野郎がここにきて、僕たちに無礼なことを言ったんだもの。」と言いました。すると年とった王様が、「落ち着け、こらしめてやるよ。」と言って、すぐにお后と一緒に熊のほら穴に飛んで行き、中にどなりました。「グルルル野郎、何でうちの子たちに無礼な振る舞いをした?償いをしてもらおう。血みどろの戦いでお前をこらしめてやる。」
こうして熊に宣戦が布告されました。四足の動物はみんな戦いに参加するよう召集されました。雄牛やロバや雌牛や鹿やその他地上にいる動物みんなです。一方、みそさざいは空を飛ぶ者全部、鳥だけでなく、大小にかかわらず、ブヨ、スズメバチ、ミツバチ、ハエまで呼び集めました。戦いを始める時がくると、みそさざいは敵の司令官が誰かさぐるために偵察兵を送り出しました。
ブヨは、一番抜け目がなく、敵が集まっている森へ飛んでいき、合言葉が知らされる木の葉っぱの下に隠れました。そこに熊が立っていて、狐を前に呼び、「狐くん、君は動物全体で一番賢い。君が総大将になってみんなを指揮してくれ。」と言いました。「いいよ。」と狐は言いました。「だけど、合図はどうきめようか?」誰にもわからなかったので、狐が言いました。「僕には、素敵な長いふさふさの尻尾がある。赤い羽根飾りみたいだろ。尻尾を高くかかげたら、万事異状なしで、進軍してくれ。尻尾を垂らしていたら、できるだけ速く逃げてくれ。」ブヨはそれを聞いたあと、また飛んでいき、みそさざいに細かく報告し、全部ばらしてしまいました。
夜が明け戦闘を始めるときがくると、四足の動物たち全部がものすごい地響きをたてて走ってきて、地面が揺れ動きました。みそさざいとその軍隊も空を飛んでやってきました。ブンブン、ヒューン、ブウォーンと大群がおしよせ、みんな不安になりこわくなりました。両軍とも敵に向かって進んでいきました。しかしみそさざいはスズメバチを送り、狐の尻尾のしたにとまり、ありったけの力で刺すようにと命令してありました。狐は最初にチクリと感じた時、痛くてビクッとなり片足を上げましたが、こらえてやはり尻尾を高くかかげていました。二回目に刺された時は一瞬だけ尻尾を下ろしてしまいました。三回目はもうもちこたえられなくて、悲鳴を上げ、尻尾を股の間に挟んでしまいました。動物たちはそれを見ると、戦いに負けてしまったと思いそれぞれの巣穴に逃げていきました。それで鳥たちは戦いに勝ちました。
それで王様とお后さまは子供たちのところに飛んで帰り、「お前たち、喜べ、お腹がくちくなるまで食べて飲みなさい。戦いに勝ったぞ。」と叫びました。しかし、みそさざいの雛たちは「まだ食べない。食べる前に熊野郎は巣に来て謝り、僕たちが立派な子供たちだと言わなくてはいけない。」と言いました。それで熊はおそるおそるそこへやってきて、謝りました。それでやっと雛たちは満足して一緒に座り、飲んだり食べたりして、夜遅くまでわいわい楽しみました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。

熊の皮

Tuesday Aug 13, 2024

Tuesday Aug 13, 2024

昔、兵士になり、勇敢に戦い、弾が雨あられと降る中でいつも先頭にたっていた若い男がいました。戦争が続いていた間は万事うまくいっていましたが、平和になるとクビを切られ、隊長が「好きなところへ行ってよいぞ。」と言いました。両親は死んでいて、もう家がなく、それで兄たちのところへ行って、戦争が始まるまで自分を置いて養ってほしいと頼みました。しかし、兄たちは心が冷たく、「おれたちがお前に何をしてやれるってんだ?お前は何の役にも立たない。行って自分でかせげよ。」と言いました。兵士には銃しか残っていなかったので、その銃を肩にかけ、世間に出て行きました。
兵士は広い荒野に来ました。そこには円になった木々以外何も見えませんでした。兵士はその木々の下に悲しげに腰を下ろし、自分の運命について考え始めました。(金はないし、戦うことの他は何も仕事を覚えなかったしなあ。平和になっちゃったらもうおれは要らないよな。この先飢え死にしちゃうって今からわかるよな。)と思いました。突然ガサガサという音が聞こえ、兵士が見回すと、目の前に見知らぬ男が立っていました。その男は緑の上着を着て本当に立派にみえましたが、忌わしいひづめの足(注)をしていました。「お前が何に困っているかもう知ってるよ。」と男は言いました。「何をしようとお前が使い放題の金や財をやろう。だがまず、お前が恐れ知らずかどうか知らなくてはならないな、金を無駄にあげないようにしないとね。」
「兵士が怖がってどうするんだよ?てなもんだな」と兵士は答えました。「試してみな。」「結構だ、それじゃあ」と男は答えました、「後ろを見ろ。」兵士が振り向くと、大きな熊がうなりながら自分に向ってくるのが見えました。「ほーっ!」と兵士は叫びました。「お前の鼻をくすぐってあげよう。そうしたらすぐにうなる気がしなくなるだろうよ。」熊に狙いをつけ、鼻ずらを撃ち抜きました。熊は倒れビクとも動かなくなりました。「なるほど、よくわかった。」と見知らぬ男は言いました。「お前に勇気がなくはないな。だが、お前がやらなくてはならない条件がまだもう一つあるぞ。」「それでおれの魂がやばくならないならな」と兵士は答えました。というのは兵士は自分の前に立っているのが誰か十分よく知っていたからです。「もしそうなら、おれはそれと関係しないよ。」「それはお前が自分で心がけるだろうよ」と緑の上着の男は答えました。「これから7年、体を洗ったり、ひげや髪に櫛を入れたり、爪を切ったりしてはならない。また一度でも神に祈ってはいけない。お前に上着とマントをやろう。それをこの期間来ていなくてはいけない。この7年のうちにお前が死ねば、お前はおれのものだ。もし生き残っていれば残りの人生は全部自由の身になって、おまけに金持ちだ。」兵士は今のとても切羽つまった状況を考え、何度も死にそうな目にあったのだから、今も賭けてみようと決心し、その条件をのみました。悪魔は緑の上着を脱いで兵士に渡し、「この上着を着てポケットに手を入れれば、いつも金がいっぱい詰まってるからな。」と言いました。それから熊から皮を引きはがし、「これがお前のマントで、寝床にもするがいい。そこでお前は眠るんだから。他のベッドに寝てはだめだ。この服のためにお前は熊の皮と呼ばれることになる。」そう言うとすぐ、悪魔は消えました。
兵士は上着を着、すぐにポケットの中を手さぐりしてみて、本当なんだとわかりました。それから熊の皮を来て世間に出て行き、自分がいいと思うことを何でもやり、お金はいくらでも使って楽しく過ごしました。
1年目は兵士の見た目はまずまずでしたが、2年目は怪物のように見え始めました。髪がほぼ顔全体をおおって、ひげはざらざらのフェルトのようで、指の爪は鉤づめになり、顔は泥でおおわれていたのでクレスを播けば芽が出てくるくらいでした。兵士を見た人はだれでも逃げていきましたが、兵士はどこでもその7年の間に自分が死なないようにとお祈りしてもらうお金を、貧しい人にあげ、何にでも気前よくお金を払ったので、まだいつも寝る場所は見つけました。
4年目に兵士はある宿屋に行きました。そこの主人は兵士をどうしても泊らせてくれず、馬が怖がると思うからと言って馬小屋にすら寝場所を貸してくれませんでした。しかし、熊の皮がポケットに手を入れて一握りのダカット金貨を取り出すと、主人は納得して、離れ家の部屋に入れてくれました。しかし、熊の皮は、宿の評判が悪くならないように人に見られないようにすると約束しなければなりませんでした。
熊の皮が夜一人でいて、(7年が終わったらなあ)と心の底から願っていると、隣の部屋から大きな嘆き悲しむ声が聞こえてきました。兵士は思いやりのある心をもっていたので戸を開けると、一人の老人が激しく泣いて両手をもみあわせているのが見えました。熊の皮は近くへ寄っていきましたが、老人はぱっと立ちあがって逃げようとしました。熊の皮の声で人間だと気づいて、とうとう男は落ち着いてきました。熊の皮は親切な言葉をかけて、老人がどうして悲しんでいるのか打ち明けさせることができました。財産がだんだん減っていき、私と娘たちは飢え死にするしかない、それにとても貧しく宿賃を払えないから、牢屋に入れられるだろう、と老人は言うのでした。「困ってることがたったそれだけなら」と熊の皮は言いました。「私にはお金がたくさんあるよ。」熊の皮は宿の主人をそこに呼んでもらい、支払いをしてあげただけでなく、貧しい老人のポケットに金貨がいっぱいの財布を入れてあげました。
老人は悩み事からすっかり解放されたと分かった時、どうお礼をしていいかわかりませんでした。「私と一緒に来てください。」老人は熊の皮に言いました、「娘たちはみんなこの上なくきれいです。妻に一人選んでください。あなたが私にしてくれたことを聞いたら、娘は嫌だと言わないでしょう。確かにあなたは実際少し変にみえますが、娘はやがてあなたをまた元の姿に戻すでしょう。」熊の皮はこれを聞いてとても気に入ったので出かけました。一番上の娘は熊の皮を見ると、その顔にひどく驚き、悲鳴をあげて逃げて行きました。二番目の娘はじっと立って頭から足まで熊の皮を見ましたが、「もう人間の形をしていない人をどうして夫にできるの。前にここに来て、人間だと通していた毛を剃った熊の方がはるかに良いと思うわ。だって、とにかくあれは騎兵の服と手袋をしていたじゃない。ただ醜いだけならそれに慣れるかもしれないけどね。」と言いました。
しかし、一番下の娘は「お父さん、お父さんが困っているのを助けてくださったのだから、きっとよい人だと思います。だからお父さんがお礼に花嫁を約束したのなら、約束を守らなくてはいけませんわ。」と言いました。熊の皮の顔が泥と髪でおおわれていたのは残念なことでした。というのは、もしそうでなかったら、これらの言葉を聞いて、熊の皮がどんなに喜んだか二人は見ることができたでしょう。熊の皮は自分の指から指輪を抜いて、ふたつに割り、半分を娘に渡し、残りの半分を自分でとっておきました。それから娘の半分に自分の名前を書き、自分の半分に娘の名前を書いて、娘にそれを大切にしまっておくようにと頼みました。それから熊の皮は別れを告げて、「私はまだ3年さまよい歩かなければなりません。そしてもしそのときに戻らなければあなたは自由です。というのは私は死んでいるでしょうから。だけど私の命があるように神様に祈ってください。」と言いました。
可哀そうないいなずけの娘は服を黒ずくめにして、未来の花婿のことを考えると、涙が眼に浮かんできました。姉たちはこの妹をたださげすんだり、ばかにしたりするだけでした。「気をつけてよ。」と一番上の姉は言いました、「あんたがあの人に手をさしだせば、手をかぎづめでひっかかれるわよ。」「ご注意あそばせ」と二番目は言いました、「熊は甘いものが好きなのよ。あんたを好きになったら、あんたを食べちゃうよ。」「あなたはいつもお婿さんの気にいるようにしなくちゃね、」とまたしても長女がはじめました、「そうしないとグルルルとうなるから。」そして二番目が、「でも結婚式は楽しくなるでしょう、だって熊って踊りがうまいのよね。」と続けました。花嫁は黙っていました。そして姉たちの言葉に悩んだりしませんでした。ところで、熊の皮はあちこち世界を歩き回り、できるだけよいことをし、自分のために祈ってくれるようにと貧しい人たちに気前よくお金をあげていました。
とうとう、7年の最後の日が夜明けを迎えました。兵士はまた荒野にでかけていき、木々の輪の下に座りました。まもなくピューと風の音がして悪魔が目の前に立ち、怒って兵士を見ました。それから熊の皮に上着を投げてよこして、自分の緑の上着を返してくれと言いました。「私たちはまだそこまで行っていないよ。」と熊の皮は答えました、「まず私をきれいにさせてくれよ。」いやでもなんでも、悪魔は水を汲んで来て、熊の皮を洗い、髪に櫛を入れ、爪を切ってやらなければなりませんでした。このあと、熊の皮は勇敢な兵士のように見え、以前よりずっとハンサムになりました。
悪魔が行ってしまうと、熊の皮は本当に心が軽くなりました。町に入って、立派なベルベットの上着を着て、4頭の白馬にひかれた馬車に乗り、花嫁の家に行きました。誰も熊の皮だとわかりませんでした。父親は兵士を優れた将軍だと思いちがいして、娘たちがいる部屋へ案内しました。兵士は二人の姉たちの間に座らされ、姉たちは兵士にワインを注いだり、肉の一番おいしいところを教えてすすめたりして、(世界中でこんなにハンサムな男を見たことがないわ。)と思っていました。一方、花嫁は黒いドレスを着て、兵士に向き合って座っていて、一度も目をあげず、一言も話しませんでした。とうとう兵士は父親に、娘のうちの一人を妻にもらえないか?と尋ねると、二人の姉たちはとびあがって、素敵なドレスを着ようと自分たちの部屋に駆け込みました。というのはそれぞれが選ばれたのは自分だとおもったからです。
その見知らぬ人は、自分の花嫁と二人だけになるとすぐ、指輪の半分をとりだし、ワインのグラスに入れて、デーブル越しに娘に渡しました。娘はワインを受け取りましたが、それを飲んでしまい底に半分の指輪を見つけたとき、心臓がドキドキし始めました。娘は、首のまわりにリボンでかけていたもう半分と合わせて、二つがぴったり合うのがわかりました。そのとき兵士は言いました。「私が婚約した花婿だよ。前は熊の皮として君は見たんだけど、神様のおかげでまた人間の形に戻れて、またきれいになったんだ。」兵士は娘に近寄り抱き締めてキスしました。その間に二人の姉たちはすっかりおめかしして戻ってきました。そしてそのハンサムな男が妹のものになったとわかり、熊の皮だと聞いたとき、二人は怒り狂って外に走りだしました。一人は井戸に落ちて溺れ死に、もう一人は木で首つりしました。夜に誰かが戸をたたきました。花婿が開くと、緑の上着を着た悪魔でした。悪魔は「どんなもんだい。お前の魂一つのかわりに二つの魂を手に入れてやったぜ。」と言いました。
*「悪魔のひづめ」・・・ヤギが悪魔の象徴とされていたことからこのエピソードはPodbean.comがお届けします。

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