グリム童話
グリム童話は、ヤーコプとヴィルヘルム・グリムによって編纂された、時代を超えた民話のコレクションです。これらの物語は、勇気、魔法、道徳をテーマにした話が世代を超えて共鳴し続ける、民俗の宝庫です。「シンデレラ」や「白雪姫」、「ヘンゼルとグレーテル」などの古典から、「漁師とその妻」や「ルンペルシュティルツキン」といったあまり知られていない珠玉の話まで、それぞれの物語がヨーロッパの口承伝承の豊かな織物を垣間見せてくれます。 グリム童話は、その鮮やかなキャラクター、道徳的教訓、そしてしばしば暗いトーンが特徴で、歴史的文脈の厳しい現実と幻想的な要素を反映しています。その永続的な魅力は、楽しませ、教え、驚きをもたらす能力にあり、これが子ども文学の礎となり、民俗学や物語の研究者たちにとっての魅力的な源となっています。
Episodes
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
兵士はくびになって暮らしをたてるものがなく、どうしたらよいかわかりませんでした。それで森へ入って行きしばらく歩いていると、小人に出会いましたがその男は悪魔だとわかりました。小人は兵士に「どうしたのかね?とてもしょんぼりしているね。」と言いました。それで兵士は、「腹が減ってるのさ。だが、金がない。」と言いました。悪魔は言いました。「おれに雇われて仕えれば、一生食っていけるようにさせるぞ。七年仕えてそのあとは自由の身にしてやるよ。だが一つだけ言っておくぞ、それは、体を洗ったり、櫛を当てたり、ひげを切りそろえたり、髪や爪を切ったり、目から出る水をぬぐってはいけないということだ。」兵士は、「そうするしかないんなら、いいですよ。」と言い、その小人と一緒にでかけましたが、小人は兵士をまっすぐ地獄に連れていきました。
そこで小人は何をしなければいけないか兵士に話しました。地獄がゆを煮ている釜の下の火をかきおこし、家をきれいにし、掃いたごみをみんな戸の後ろにやり、なんでもきちんとしておかねばならない、しかし、釜の中を一度でものぞいたら、まずいことになるぞ、というのでした。兵士は、「わかった、気をつけよう」と言いました。すると悪魔はまた旅に出かけました。兵士は新しい仕事にとりかかり、火をおこし、ゴミを戸のかげにしっかり掃いて、言われた通りにしました。
おなじみの悪魔がまた戻ってくると、全てが言いつけどおりにやられたか見てまわり、満足そうにして、また出かけて行きました。さて兵士は周りをよくよく見てみました。釜は地獄中にあり、その下にすごい火が燃え、釜の中ではぐつぐつぼこぼこ煮えていました。兵士は、もし悪魔があんなに念を押して禁じなかったら、釜の中を覗くために何でもさしだしたでしょう。
とうとう、もうがまんできなくなって、兵士は最初の釜のふたを少し上げて、中を覗きこみました。するとそこに以前の上官だった伍長がいました。「へえ!おなじみの野郎だ。」と兵士は言いました。「ここであんたに会うのか?昔はおれを好き勝手にしやがったが、今度はこっちの番だ」そうしてさっさとふたを下ろすと火をかきおこし、新しい木をくべました。そのあと二番目の釜に行き、そのふたも少し上げ、中を覗きこみました。そこには以前の少尉がいました。「なるほど!おなじみ野郎だ。ここにいるとはね。昔はおれを好き勝手にしやがったが、今度はこっちの番だ」兵士はまたふたを閉め、べつの木をとってくべ、うんと熱くしました。そうして三番目の釜に誰が入っているのか見たくなりました。すると、なんと大将が入っているではありませんか!「へえ!おなじみ野郎だ、ここで会うとはね、昔はおれを好き勝手にしやがったが、今度はこっちの番だ」そうして兵士はふいごをとってきて、大将の真下で地獄の火をごうごう燃え盛らせました。
そうして兵士は地獄で七年間仕事をし、その間体を洗わず、髪に櫛を入れず、ひげを切りそろえず、髪や爪を切らず、目から出る水を拭いませんでした。兵士には七年はとても短く感じられ、たった半年くらいに思えました。さて、その期間がすっかり過ぎてしまうと悪魔がやってきて「さて、ハンス、お前は何をしてきたかね?」と言いました。「おれは釜の下の火をかきおこし、戸のかげにゴミをみんな掃き出してきた。」
「だが、お前は釜の中も覗いたろうが。新しい木を足したのはよかったよ、さもないと命が無くなっていたんだぞ。もう期限が過ぎたから、お前は帰るのか?」「ああ、そうだ」と兵士は言いました。「父親が家でどうしてるのか見たいからね。」「稼いだ手当てを受け取るのに、背のうにごみをいっぱい詰めて、それを持って帰れ。それに、体を洗わず、髪に櫛を入れず、髪やひげを長くのばしたままでいかなくてはならんぞ。それで、どこから来たか?と聞かれたら、地獄からと答えるんだ。お前は誰だ?と聞かれたら、私の王でもある悪魔のすすだらけな兄弟だ、と答えるんだぞ。」と悪魔は言いました。
兵士は文句を言わず悪魔が言いつけた通りにしましたが、手当てには全く満足しませんでした。そうして、地獄から上がってまた森の中に来るとすぐ、兵士は背中から背のうを下ろし、中身を捨てようとしました。ところが開けてみると、ごみは本物の金貨になっていました。「こんなことだとは思っていなかったよ。」と兵士は言って、とても喜び、町に入って行きました。
宿の主人は宿屋の前に立っていて、兵士が近づいていくのを見るとぎょっとしました。というのはハンスの見た目はとてもひどく、かかしより悪かったからです。主人は兵士に呼びかけて、「どこから来たんだい?」と言いました。「地獄から」「あんたは誰だい?」「私の王である悪魔のすすだらけな兄弟だ」すると主人は宿に入れようとはしませんでしたが、ハンスが金貨を見せると、やってきて自分で戸を開けました。そこでハンスは一番良い部屋と食事を頼み、腹いっぱい飲んだり食べたりしました。しかし、悪魔の言いつけどおりに体を洗わず櫛を入れないで、とうとう横になり眠りました。
しかし、宿の主人は目の前に金貨が詰まった背のうがあるので、落ち着かなく、とうとう夜の間に忍んでいき盗みました。次の朝、ハンスは起きて、主人に宿賃を払い旅を続けようとしたところ、なんと背のうがありませんでした。しかし兵士はすぐに落ち着きを取り戻し、(自分のせいではないのに災難にあってるんだ)と考えました。
そうしてまっすぐ地獄に戻ると、おなじみの悪魔に災難のことをうったえて、助けを求めました。悪魔は、「腰をおろせ、お前の体を洗い、櫛をあて、ひげをそり、髪や爪を切り、目を洗ってやろう。」と言いました。
それを終えると、悪魔はまたごみがいっぱい詰まった背のうを渡し、「宿の主人のところに行って、『金を返せ、さもないと悪魔が来てお前を連れていくぞ、おれの代わりに火をかきおこすことになるぞ』と言ってやれ。」と言いました。ハンスは地上に出て宿の主人に、「おれの金を盗んだな。金を返さなければ、おれの代わりに地獄に下りて、おれと同じように身の毛もよだつ有様になるぞ。」と言いました。すると主人は金を返しただけでなくもっと付け足してよこし、このことは内緒にしてほしいと頼みました。そうしてハンスはもう金持ちになりました。
ハンスは父親のところへ帰っていきましたが、粗末な上っ張りを買って着て、音楽をやりながら、あちこち歩いていました。音楽は地獄で悪魔と一緒だったときに習い覚えたのです。
ところで、その国に年とった王さまがいて、ハンスはその王さまの前で演奏することになりました。すると王様はハンスの演奏にとても喜んで、一番上の娘を妻に与えると約束しました。しかし、その娘は、上っ張りを着た身分の卑しい男と結婚させられると聞くと、「そんなことをするくらいなら、一番深い水の底にとび込みたいわ。」と言いました。それで王様は一番下の娘をハンスに与えました。その娘は父親のためならと喜んで承知しました。こうして悪魔のすすだらけな兄弟は王さまの娘を妻にし、年とった王さまが亡くなると、その国もまるまる手に入れました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、朝早くから夜遅くまで精を出して働く貧しい木こりがいました。やっといくらかお金を貯めたとき木こりは息子に、「お前はおれのたった一人の子供だ。おれは汗水流して稼いだ金をお前の教育に使うよ。お前がなにかまともな仕事を覚えれば、おれが年とって、手足がこわばり、家にいなければならなくなったとき、養うことができるよな。」と言いました。
そこで男の子は高校へ入り、熱心に学んだので教師たちは誉め、男の子は長い間そこにいました。2年終えたけれどまだ全部覚えきったわけではなかったとき、父親が稼いだ少しのお金が使い果たされてしまい、男の子は父親のところへ戻るしかなくなりました。
「あ~あ、もうお前にあげられない。この厳しい時世では毎日のパンを買うのに十分なだけで、それ以上は一ファージングも稼げないんだ。」と父親は悲しそうに言いました。「おとうさん」と息子は答えました。「そんなこと心配しないで。もしそれが神様のおぼしめしなら、将来ぼくの役にたつようになるんだよ。僕は早くそれに慣れようと思うよ。」父親が木を切って束ねる手伝いでお金を稼ごうと森へでかけようとすると、息子が「僕も一緒に行って手伝うよ。」と言いました。「だめだよ、お前」と父親は言いました。「お前には難しいだろうよ。お前は荒仕事には慣れていない、だから耐えられないだろう。それに、斧が一丁しかないし、もう一丁買う金も残ってないよ。」「いいから隣に行ってよ。」と息子は答えました。「僕が自分のを一丁買うまで斧を貸してくれるさ。」
それで父親は隣の人の斧を借り、次の朝夜明けに二人は一緒に森に出かけました。息子は父親を手伝い、仕事をとても快活にてきぱきとやりました。しかし、太陽がちょうど頭の上にきたとき、父親は「休んで昼飯を食べよう。そうしたら二倍働けるぞ。」と言いました。息子はパンを手に持って、「お父さん、お父さんは休んでいて。僕は疲れてないよ。森をちょっとあちこち歩いて、鳥の巣を探すんだ。」と言いました。「もう、呆れたやつ」と父親は言いました。「なんでそこらを走り回るんだ?あとで疲れて、もう腕をあげられなくなるぞ。ここにいて、おれのそばに座ってろ。」
しかし、息子は森へ入って行き、パンを食べ、とても浮かれて、どこかに鳥の巣を見つけられないか確かめるために緑の枝の間を覗きこんでいました。それであちこち歩いて、ついに物騒にみえる大きなカシの木に来ました。その木は確かにもう何百年もたっていて、5人でも幹を囲めないくらいでした。息子はじっと立ってその木を眺め、(この木にはたくさんの鳥が巣を作ったに違いない)と思いました。すると突然声が聞こえたような気がしました。息子は耳を傾け、だれかがくぐもった声で「出してくれ、出してくれ」と叫んでいるとわかりました。周りを見回しましたが何もみつかりませんでした。それで声が地面からきているのかなと思い、「どこにいるんだ?」と叫びました。声が「ここカシの木の根の間にいるんだよ。出してくれ、出してくれ」と答えました。
息子は木の下の土を掘って根の間を探し始めました。そしてとうとう小さなくぼみにガラスのビンを見つけました。そのビンを持ち上げて光にかざしてみると、蛙のような形をした生き物がその中で跳びはねているのが見えました。「出してくれ、出してくれ」その生き物はあらためて叫びました。そして男の子は悪いことが起こるだろうとは考えないで、ビンの栓を抜きました。あっという間に魔物がそこから立ち昇り、大きくなりはじめました。そしてとても速く大きくなったので、ほどなくして男の子の前に立っていました。その木の半分ほども大きい恐ろしい魔物でした。「知ってるか?」と魔物は恐ろしい声で言いました、「おれをだしたほうびは何か?」「いや」、男の子は恐れて答えました、「知るわけがないでしょ?」「じゃあ教えてやろう」と魔物は言いました、「お前を絞め殺すのさ」「もっとはやくそれを言ってくれればいいのに」と学生は言いました、「そうしたら閉じ込めたままにしておいたのに。
だけどなんとしても僕の頭を曲げたりするのはやめてくれ。それについてもっとたくさんの人と相談してくれよ。」「こっちに他の人たち、あっちに他の人たちか?ふん。おまえはやってくれたほうびを受けるんだ。おれがこんなに長い間喜んで閉じ込められていたと思うか?そんなことはない。これはおれへの罰だった。おれは強力メルクリウスだ。おれを解き放したものは絞め殺さねばならぬ。」「ま、ま、ちょっと」と若者は答えました、「そんなに急がないで。君が本当にあの小さいビンに閉じ込められていたのかまず知らなくてはね。それに君が本当の魔物なのかも知らないと。もし、本当にきみがまた入れるなら、信じるから君がしたいようにすればいいよ」魔物は「そんなのはわけないことさ。」と横柄に言うと、縮まっていき、はじめと同じくらい小さく細くなりました。それで、小さいビンの口から入り、またビンの首もす~と通りました。魔物が中に入るとすぐ、男の子はビンの中に前に抜いた栓をおしこみ、カシの木の根元の前にあった場所に投げました。魔物は騙されたのです。
そうして学生が父親のところへ戻ろうとしましたが、魔物はとても哀れっぽく「ああ、お願いだから出してくれよ、お願い」とさけびました。「だめだ。2回目は無いよ。一度命をとろうとした奴を自由にしないよ、また捕まえたからにはね。」と学生は答えました。「自由にしてくれたら、たくさんのお礼をして一生困らないようにしてあげるよ。」と魔物は言いました。「だめ。お前ははじめそうしたようにだますだろ。」と学生は答えました。「おまえは、幸運をはねつけているんだよ。なにも悪いことをしないでたっぷりお礼をするよ。」と魔物は言いました。学生は「やってみようかな。ひょっとして奴は約束を守るかもしれない。とにかく僕は奴に言い負かされたりしないよ。」
それで学生が栓をぬくと魔物は前と同じようにビンから立ち昇り、伸びて巨人と同じ大きさになりました。「さあお礼をあげよう。」と魔物は言って、学生に絆創膏のようなぼろ切れを渡し、「傷の上にこれの一方の端を広げれば傷が治る、もう一方の端ではがねや鉄をこすれば銀に変わるよ。」と言いました。「試してみるよ。」と学生は言って、木のところに行き、斧で皮を切り裂き、その絆創膏の片端でこすりました。傷口はすぐに閉じ治りました。「うん、大丈夫だ。じゃあ別れよう」と魔物に言いました。魔物はビンから出してくれたお礼をいい、学生は魔物に贈り物の礼を言って父親のところに戻りました。
「どこを走り回っていたんだ?何で仕事を忘れた?お前は何にもものにできないっておれはいつも言ってたよな。」と父親は言いました。「まあまあ、お父さん、これから取り返すよ。」「取り返すだって、まったくもう。無駄だよ。」と父親は怒って言いました。「気をつけて、おとうさん、じきあの木を切って、割れるから。」そして息子は絆創膏をとり、斧をそれでこすり、力を入れて打ちおろしましたが、鉄が銀に変わっていたので、刃が曲がりました。「ねえ、お父さん、どんなひどい斧をよこしたか見てよ。曲がっちゃったよ。」父親は驚いて「ああ、何て事をしたんだよ!今度はそれを弁償しなくちゃならないよ。しかもその金はないんだよ。お前の仕事でおれが得たのはこれだけだ。」と言いました。「怒らないで、お父さん」と息子は言いました、「僕がすぐ斧を弁償するよ。」「この馬鹿野郎!」と父親は言いました。「なんで弁償する気だ?お前はおれがあげるものの他は何もないじゃないか。こんなのはお前のあたまにこびりついている学生の屁理屈だ。お前は木こりのことを何もわかっちゃいないよ。」
しばらくして息子は「お父さん、僕、本当にもう働けないよ。今日は休日にしよう。」と言いました。「はあ、何だって?おれがお前のように膝に手をおいて座ってると思うのか?おれは仕事を続けなきゃ。だけどお前は休んで家に帰っていいよ。」と父親は言いました。「お父さん、初めてここの森に来たから一人では道がわからないよ。頼むから一緒に帰ってよ。」腹立ちがもうおさまっていたので、父親はとうとう説き伏せられて息子と一緒に帰りました。それから息子に「行ってその壊れた斧を売ってこい。いくらもらえるかみてみろ。それでおれは隣に払うために差額を稼がなくちゃならん。」と言いました。
息子は斧を持ち、町の金細工師のところに行きました。金細工師は斧を調べて、秤にかけ、「400ターラーの値打ちがある。それだけたくさん現金が手元にはありませんよ。」と言いました。息子は「今あるだけ下さい。残りは貸しておきます。」と言いました。金細工師は300ターラーを渡し、100ターラーを借金に残しました。それで息子は家に帰り、「お父さん、お金をもってきたよ。隣へ行って斧の代金をいくら欲しいか訊いてきて。」と言いました。「もう知ってるよ。1ターラー6グロッシェンだ。」と年とった男は言いました。「じゃあ、2ターラー24グロッシェン渡して。それだと2倍で十分だよ。ほらね、お金たくさんあるでしょ。」と息子は父親に100ターラー渡して、「これからお金に苦労させないよ、好きなだけ楽に暮らしてね。」と言いました。
「なんとまあ、どうやってこんな金を手に入れたんだい?」と父親は言いました。それで息子はどうしてそうなったか、また自分の運を信じて、そんな布を得たんだ、と話しました。しかし、残りのお金で息子は高校に戻り、もっと学業を続け、絆創膏でどんな傷も治せるので、世界中でもっとも有名な医者になりました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、クラブという名の貧しいお百姓がいました。お百姓は荷車にたきぎを積んで二頭の雄牛にひかせて町へ行き、二ターラーで博士に売りました。お金が渡されているとき、たまたま博士は食卓についていて、博士が良い物を食べたり飲んだりしてるのをお百姓は目にし、自分もああいうものが欲しいもんだ、自分も博士だったらよかったなあと思いました。それでしばらくそこにたたずんでいましたが、とうとう、私も博士になれるもんでしょうか、と尋ねました。「ああ、なれるとも」と博士は言いました。「そんなのはすぐになれるさ。」「どうすればいいのですか?」とお百姓は尋ねました。「まず、口絵に雄鶏があるABCの本を買いたまえ。」
「二番目に荷車と二頭の牛をお金に変え、自分の服や、他に医者にかかわる物を全部買うんだ。三番目に『私はものしり博士です』という看板を作ってもらって家の戸口に立てるんだよ」お百姓は言われたことを全部やりました。しばらく、といっても大して長くないのですが、人々を診たあと、金持ちの領主がお金を盗まれました。すると、領主はこれこれの村にものしり博士がいて、お金がどうなったかわかるにちがいないときかされました。そこで馬車に馬をつながせ、その村にでかけ、クラブに、あなたがものしり博士ですか、と尋ねました。「はい、そうです」とクラブは言いました。「それでは、私と一緒にいき、盗まれたお金を取り戻してもらいたい」と領主は言いました。「いいですとも、だが、妻のグレーテも一緒に行かなくてはなりません。」領主は承知して、二人とも馬車に乗せ、みんなで一緒にでかけました。
その貴族の家に着くと、食卓が整えられ、クラブは座るように言われました。「はい、では妻のグレーテも一緒に」とクラブは言って、妻と一緒に食卓につきました。
最初の召使がご馳走をのせた皿をもってくると、お百姓は妻をつついて「グレーテ、あれが最初だよ」と言いました。それが最初の料理を運ぶ召使だという意味だったのです。ところが、召使の方は、あれが最初の泥棒だ、と言っているのだと思い、実際その通りだったので、ぎょっとしました。それで、外にいる仲間に、「あの博士は何でも知ってるよ、まずいことになりそうだ、おれが最初だと言ったんだよ」と言いました。二番目の召使は全く入って行きたくありませんでしたが、どうしようもありませんでした。そこで料理を持って入っていくと、お百姓は妻をつつき、「グレーテ、あれが二番目だ」と言いました。この召使も同じようにびっくりし、そそくさと出て行きました。
三番目の召使も同じ目にあいました。というのはお百姓はまた「グレーテ、あれが三番目だ」と言ったからです。四番目の召使はふたをかぶせた料理を運ばされて、領主は博士に、腕前を見せてもらおう、ふたの下には何があるか当ててください、と言いました。実はカニが入っていたのです。博士はその皿を見て、どう言えばいいのか見当がつきませんでした。それで「ああ、あわれなクラブ(カニ)だ」と叫びました。領主はそれを聞くと、叫びました。「そら、わかってるぞ。誰が金を持ってるかもわかってるにちがいない」
これで召使たちはひどくおろおろして、博士にちょっと外に出てもらいたいと合図を送りました。それで出ていくと、召使たちが四人とも金を盗んだと打ち明け、もし自分たちのことを言わなければ、すすんでお金を返し、おまけにたくさんのお金を博士にさしあげます、というのは博士が言えば自分たちは縛り首になりますから、と言いました。
四人は博士を金を隠したところへ連れていきました。これで博士は納得し、広間へ戻って食卓に座ると、言いました。「領主様、では金貨がどこに隠されているか私の本で探しますので。」ところで五番目の召使は博士がまだもっと知ってるのか聞くためにストーブの中にひそんでいました。博士はじっと座り、ABCの本を開き、あちこちめくり、雄鶏を探しました。すぐに見つけることができなかったので、「お前がそこにいるのは知ってるんだ、だから出てきた方がいいぞ。」と言いました。するとストーブの中にいた召使は自分のことだと思って、びっくりして「この人は何でもわかるんだ」と叫びながら、飛び出てきました。それから、ものしり博士は領主に金のありかを教えましたが、誰が盗んだかは言いませんでした。そうして双方からお礼にたくさんのお金を受け取り、名高い人になりました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、病気の王様がいましたが、誰も王様がその病気から回復すると信じませんでした。王様には3人息子がいて、王様の病気を悲しんで宮廷の中庭に降りて行き、泣きました。そこへおじいさんが来て、なぜ悲しんでいるのか、と尋ねました。息子たちは、父親の病いが重く、どうにも治しようがないので死んでしまうだろう、と言いました。するとおじいさんは、「私はもうひとつの薬のことを知ってるよ。それは命の水だ。それを飲めばまた良くなるが見つけるのが難しいんだ。」と言いました。一番上の息子は、「なんとか見つけてみせる。」と言い、病気の王様のところへ行き、命の水を探しに行くことをお許しください、それだけがお父さんを救えるのですから、とお願いしました。「だめだ」と王様は言いました。「危険が大きすぎる、それよりむしろ私は死んだ方がましだ。」
しかしあまりしつこく頼むので、王様は了承しました。王子は心の中で、「僕が水を持ってくれば、お父さんに一番かわいがられ、国を継ぐことになる。」と考えました。それで王子は出発し、馬で少し行くと、道に小人が立っていて、王子に呼びかけ、「急いでどこへ行くんだい?」と言いました。「馬鹿なチビめ」と王子は、とても傲慢に言いました。「お前に関係ないだろ。」そして馬で進みました。しかし小人は怒って悪い願かけをしました。この後まもなく王子は渓谷に入りましたが、行けば行くほど山同士が近づいていき、とうとう道がとても狭くなって一歩も前に進めなくなりました。また馬の向きを変えることも鞍から降りることもできなくて、まるで牢獄にいるかのようにそこに閉じ込められてしまいました。病気の王様は長い間王子を待ちましたが、王子は帰ってきませんでした。
すると二番目の息子が、「お父さん、水を探しに私を行かせてください。」と言いました。そして心で「もし兄さんが死んでいれば、国はぼくのものになる。」と思いました。初め王様は行くのをやはり許しませんでしたが、最後は折れました。それで王子は兄が行ったのと同じ道を出発し、兄と同じように小人に会いました。小人が王子をとめて、そんなに急いでどこへ行くのか、と尋ねると、「チビめ」と王子は言いました。「お前には関係ないだろ。」そして二度と見ないで先へ進みました。しかし、小人は王子を魔法にかけ、この王子もまた、兄のように、渓谷へ入って行き、前へも後ろへも行けなくなりました。傲慢な人々はそんな風になります。
二番目の息子も帰って来ないので、一番下の息子が水をとりに行かせてほしいと願い、ついに王様はこの息子も行かせるよりしかたがありませんでした。王子が小人に会うと、小人は「そんなに急いでどこへ行くんだい?」と尋ねました。王子は止まって、事情を説明し、「命の水を探しに行くところです。父が死ぬほどの病気なものですから。」と言いました。「じゃあ、どこで水が見つけられるか知っているのかい?」「いいえ」と王子は言いました。「お前は礼儀にかなったふるまいを身につけていて、不誠実な兄たちのようには傲慢でないから、どうしたら命の水を得られるか教えてやろう。命の水は魔法のかかった城の中庭にある泉から湧き出ている。だが、私が鉄の棒と2つの小さなパンをお前にやらなければ、お前はその城へ進んで行けないよ。城の鉄の扉をその棒で3回たたきなさい。そうすれば扉はぱっと開く。中には2頭のライオンが大きな口を開けている。だけど、それぞれのライオンにパンをひとつずつ投げれば、ライオンはおとなしくなるからね。それから12時になる前に急いで命の水をとってくるんだ。そうしないと扉がまた閉まってお前は閉じ込められてしまうぞ。」
王子は小人にお礼を言って、棒とパンを受け取り、道を進んで行きました。着いてみると全部小人の言った通りでした。扉は棒で3回たたくとぱっと開きました。王子はパンでライオンたちをなだめたあと、城に入り、大きく豪華な広間に着きました。そこに魔法にかけられた王子が何人かいたので、その指から指輪を抜いてはずし、剣とパンがそこにあったので、それを持ち去りました。このあと、王子は一つの部屋に入りました。その中には美しい乙女がいて、王子を見ると喜び、キスし、「あなたが私を救ってくれました。そして私の国は全部あなたのものになります。1年経ってあなたが戻れば私たちの結婚式が行われます。」と言いました。また、乙女は、どこに命の水の泉があるかを教え、12時前に急いで水をくまなければいけない、と言いました。それから王子はさらに進み、とうとう美しく新しいベッドがある部屋に入りました。王子はとても疲れていたので少し休みたいと思い、ベッドに寝て、眠り込みました。
目が覚めると12時に15分前でした。王子はびっくりしてぱっと跳ね起き、泉に走り、近くにあったカップに水を汲み、急いで立ち去りました。しかし、ちょうど鉄の扉を通りぬけているとき、時計が12時をうち、扉がバタンと閉まったので、王子のかかとが少しとれてしまいました。
しかし、王子は命の水を得て喜び、帰途に着きました。そしてまた小人に会いました。小人は剣とパンを見ると、「これをもって大きな財産を得たんだよ。剣でたくさんの軍勢をまるまる切れるし、パンは決して食べ尽きるということがないんだ。」と言いました。しかし王子は兄たちと一緒でないので父親のところへ帰る気になれなくて、「小人さん、私の兄たちがどこにいるかわかりませんか?二人は命の水を探しに私より前に出かけて、戻っていないのです。」と言いました。
「二つの山の間に閉じ込められているよ。」と小人は言いました。「あまり傲慢だから、私が二人をそこに閉じ込めたのさ。」それで王子はお願いして、小人に二人を解放してもらいました。しかし小人は、「二人に気をつけるんだよ、悪い心を持ってるからね。」と言いました。兄たちが来ると、王子は喜び、自分にあったことを話し、命の水を見つけてカップに1杯持ち帰ったこと、美しい王女を救ったこと、その王女が1年自分を待って、その時結婚式が行われ自分は大きな国を得る、ということを二人に話しました。
そのあと三人は一緒に馬を進め、戦争と飢きんに苦しんでいる国をたまたま通りがかりました。もうそこの王様は滅びるに違いないと思っていました。というのは食料がとても不足していたからです。それで王子は王様のところへ行き、パンを渡しました。それで王様は国じゅうの人々に食べさせ、おなかを満たしました。それから王子は剣も渡し、それで敵の集団を切り伏せ、安心して平和に暮らせるようになりました。それで王子はパンと剣を返してもらい、三人の兄弟はまた馬で進みました。しかし、このあと、三人は戦争と飢きんに苦しんでいるもう2つの国に入り、そのたびに王子は王様たちにパンと剣を渡し、こうして3カ国を救ったのでした。そのあと三人は船に乗り海を渡りました。航行中に二人の兄は二人だけで話し、「ぼくたちではなく弟が命の水を見つけた。それでお父さんは弟に国を譲るだろう。僕たちの国だよ。そして弟は僕たちの財産をみんな奪ってしまうんだ。」と言いました。それで二人は仕返しをしようとして弟をつぶす計画を相談しました。二人は弟がぐっすり眠るまで待って、カップから命の水を出して自分たちでとって、そのカップに塩辛い海水を入れました。
三人が家に着くと、一番下の息子は病気の父親が飲んで治るようにと、カップを持って行きました。しかし、塩辛い海水をほんの少し飲むとすぐに、王様は以前よりいっそう病気が悪くなりました。これを嘆いていると、二人の兄たちがやって来て、弟のことを父親に毒をもろうとしたと非難し、自分たちが本当の命の水を持ってきました、と言って、父親に渡しました。王様はそれを飲むとすぐ、病気が離れて行く感じがして、若い時のように健康で丈夫になりました。
そのあと兄たちは二人とも弟のところへ行き、嘲って「お前は確かに命の水を見つけたさ。だけどお前は骨折りをしただけ、僕たちは得をとったのさ。お前はもっと賢くなって目をしっかり開けておくんだったな。海でお前が眠っている時にお前からそれをとったんだよ。それで1年過ぎたら、僕たちのどっちかが美しい王女をもらいに行くよ。だけど、このことは何もお父さんにばらさないように気をつけろ。実際お父さんはお前を信用しないし、もし一言でも言えば命もおまけに失うことになるさ。だけど黙っていれば命は助けてやるよ。」と言いました。
年とった王様は末の息子が自分の命を狙ったと思い、怒っていました。それで裁判を召集し、息子に対して、密かに撃ち殺されるべきた、という判決が下されました。それであるとき、王子が、悪いことを何も疑わないで、馬で狩りにでかけました。王様の猟師が一緒に行くように言われていて、森で二人だけになったとき、猟師がとても悲しそうなので、王子は「猟師さん、どうしたの?」と言いました。猟師は「言えません。でも言うべきなんです。」と言いました。それで王子は「何なのかはっきり言ってごらん。お前を許すから。」と言いました。「ああ、私はあなたを撃ち殺すことになっています。王様がそう命令しました。」と猟師は言いました。それで王子はあっと驚いて、「猟師さん、殺さないでくれ。ほら、王家の服をやるよ、かわりにお前の粗末な服をくれ。」と言いました。猟師は「喜んでそうしますよ。全くあなたを殺さなくてよくなったのだから。」と言いました。それから二人は服を取り替え、猟師は家に帰り、一方王子は森に深く入って行きました。
しばらくして、金と宝石の荷馬車が末の息子を訪ねて王様のところにきました。それは、王子の剣で敵を倒し、王子のパンで国民を生かしておくことができた3人の王様たちが感謝の気持ちを示すために送ったものでした。年とった王様はそのとき「息子は無実だったのではないか?」と思い、家来たちに「あの息子がまだ生きていたらなあ。殺させてしまったのはなんと悲しいことだ。」と言いました。「まだ生きています。」と猟師は言いました。「王様のご命令を実行するのは忍びなかったのです。」そしてどういうことだったのか王様に話しました。それで王様の心から重荷がとれ、息子は戻ってよい、そして喜んで迎えられる、というお触れをあらゆる国に知らせました。
ところで、王女は宮殿につづく道をとても明るい金で作らせました。そして家来たちに、その道をまっすぐ自分のところに来る人がその当人だから入れてよい、しかし道のわきを通ってくる人は当人ではないから入れないように、と言いました。
時が近づいてきたので、一番上の王子は急いで王様の娘のところに行き、王女を救った人として名乗り、花嫁に迎え、おまけに国をいただこう、と思いました。それで馬ででかけ、宮殿の前に着き、見事な金の道を見ると、この上を馬で行くのは許しがたいことだ、と思いました。そして脇へ寄って道の右側を通りました。しかし、入口に来ると、家来たちは、当人ではない、立ち去るように、と言いました。
この後まもなく二番目の王子が出発し、金の道に来て馬が片足を道にのせたとき、許しがたいことだ、金が踏みつけられてはがれるかもしれないではないか、と考えました。それで脇へ寄って道の左側を通りました。しかし、入口に来ると、家来たちは、当人ではない、立ち去るように、と言いました。
とうとう1年がすっかり過ぎてしまったとき、三番目の息子も、森から出て愛する人のところへ行こう、そして娘と一緒にいて悲しみを忘れよう、と思いました。それで王子はでかけ、ずっと王女のことを考え速く会いたいとばかり思っていたので、金の道にまったく気づきませんでした。それで王子の馬は、道の真ん中を進み、入口に着くと扉が開かれ、王女が喜んで王子を迎え、「あなたが私を救ってくれた人です。そしてこの国のあるじです。」と言いました。二人の結婚式は大きな喜びでもって祝われました。式が終わると、王女は、あなたのお父さんがあなたを許してあなたを戻るように促していると王子に言いました。
それで王子は馬に乗ってそこへ行き、王様にすべて、兄たちが自分を裏切ったこと、それでも自分は黙っていたこと、を話しました。年とった王様は兄たちを罰しようと思いましたが、二人は海に逃げてしまって生きてる限り戻りませんでした。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
千年かもっと昔には、この国には小さな王様しかいませんでした。そういう王様のうちコイテル山に住んでいる王様は狩りが大好きでした。あるとき、王様は猟師と一緒に城から馬で出かけて行ったとき、三人の娘が山で牛の番をしていて、王様と従者を見て、一番上の娘が王様を指差し、他の二人の娘に「おーい、おーい、あの人と結婚しないなら誰とも結婚しないわ。」と言いました。すると二番目の娘が山の向こう側から、王様の右側にいる人を指差して、「おーい、おーい、私はあの人と結婚しないなら誰とも結婚しないわ。」と答えました。すると三番目の娘が王様の左側にいる人を指差して、「おーい、おーい、私はあの人と結婚しないなら誰とも結婚しないわ。」と答えました。ところで、これらの人たちは二人の大臣でした。王様にはこれが全部聞こえていて、狩りから戻った時、三人の娘を呼んで来させ、昨日山で何を言っていたのかね?と尋ねました。このことを娘たちは王様に言おうとしませんでした。それで王様は一番上の娘に、本当に私を夫にしたいかね?と尋ねました。すると娘は、はい、と言いました。二人の大臣は二人の姉妹と結婚しました。というのは娘たちはみんなきれいで顔が美しく、とりわけお后は亜麻のような髪をしていました。
二人の妹たちには子供がいませんでしたが、ある時王様は家から出かけなければいけなくなって、お后にもうすぐ子供が生まれるので元気づけてもらうため、二人をお后のところに招きました。お后には明るい赤の星がついている男の子が生まれました。すると、二人の妹たちは、その美しい男の子を川に捨てようとお互いに相談しました。ウェザー川だと思いますが、子供を川に投げ入れたとき、小さな鳥が空中に飛び上がって歌いました。「汝の死に、汝はせかされるか、神の言葉が言われるまで、白いユリの花の中に、勇敢な子よ、汝の墓があると」
二人はそれを聞くと死ぬほど驚いて、大急ぎで逃げました。王様が帰ってきたとき、二人は、お后は犬を産みました、と王様に言いました。すると王様は、「神様のなさることはいいことだ」と言いました。しかし、川の近くに住んでいる漁師が、その小さな男の子をまだ生きてるうちに釣り上げて、妻には子供がいなかったので、その子を育てました。
一年過ぎて、王様はまた出かけ、お后はまた小さな男の子を生みました。その子もまた、不誠実な妹たちはとりあげ川に捨てました。すると小さな鳥がまた飛び上がって歌いました。「汝の死に、汝はせかされるか、神の言葉が言われるまで、白いユリの花の中に、勇敢な子よ、汝の墓があると」
王様が帰ってきたとき、二人は、お后はまた犬を産みました、と王様に言いました。すると王様は、「神様のなさることはいいことだ」と言いました。ところが、川の近くに住んでいる漁師が、その小さな男の子もまた釣り上げて、その子を育てました。
王様はまた旅に出かけ、お后は小さな女の子を生みました。その子もまた、不誠実な妹たちはとりあげ川に捨てました。すると小さな鳥がまた飛び上がって歌いました。「汝の死に、汝はせかされるか、神の言葉が言われるまで、白いユリの花の中に、美しい子よ、汝の墓があると」
王様が帰ってきたとき、二人は、お后は猫を産みました、と王様に言いました。すると王様は怒って、妻を牢屋にいれろ、と命令しました。そこにお后は長年閉じ込められました。
子供たちが大きくなったとき、一番上の子があるとき他の男の子たちと釣りにでかけました。しかし他の子たちがどうしても仲間に入れてくれず、「あっちへ行けよ、拾い子め」と言いました。
これについて子供はとても悩んで、それは本当なのか?と年とった漁師に尋ねました。漁師は、昔釣りをしていたときお前を川から引き上げた、と話しました。それで男の子は、父親を捜しにでかけたい、と言いました。漁師は子供に家にいてくれと頼みましたが、どうしてもきかないので、了承しました。それから男の子はでかけ何日も歩いて、とうとう広い大きな川に着きました。その岸辺でおばあさんが釣りをしていました。「おばさん、こんにちは」と男の子は言いました。「有難う」とおばあさんは言いました。「何かつかまえるまで時間がかかりそうですね。」「お前が父親を見つけるまでしばらくかかりそうだよ。どうやって川を渡るんだい?」とおばあさんは言いました。「さあ、神様だけがご存知です。」するとおばあさんは男の子を背負い、川を渡してくれました。それから男の子は長い間探しましたが父親は見つかりませんでした。 一年過ぎたとき、二番目の男の子が兄を探しに出かけました。男の子は川にやってきて、兄と全く同じにことが進みました。そして今度は家に娘しか残っていなくて、娘は兄たちのことをとても嘆き、とうとう漁師に、兄たちを探しに行きたいので行かせてくださいと頼みました。それから娘もまた大きな広い川にやって来て、おばあさんに「こんにちは、おばさん。」と言いました。「有難う。」とおばあさんは答えました。
「神様があなたの釣りをお手伝いしてくださいますように。」と乙女は言いました。おばあさんはそれを聞くととても愛想がよくなり、川を渡してくれ、魔法の杖をくれて、「娘さん、この道をずうっと行くんだよ。そして大きな黒い犬にであったら、それを笑ったり見たりしないで、黙って堂々と通りすぎなくてはだめだよ。それから大きな高い城に着くよ。その城の敷居にその杖を落として、城を通り抜け、反対側にでなくてはいけないよ。そこに大きな木が生えている古い泉があって、その木にかごに入っている鳥が下がっている。これを下ろさなくてはいけない。また泉からグラスいっぱいの水を汲みなさい。そしてこの二つの品を持って同じ道を戻るんだよ。敷居から杖を拾って持って行くんだ。それでまた犬のそばを通る時、その杖で犬の顔を打つんだ、必ずやるんだよ。それからここの私のところに戻っておいで。」と言いました。
娘がでかけてみるとまったく全てがおばあさんの言った通りでした。帰り道でお互いをさがして世界の半分を行った二人の兄たちを見つけました。三人は一緒に黒い犬が道にいる場所に行きました。娘が犬の顔を打つと、犬はハンサムな王子に変わり、みんなと一緒に川へ行きました。そこにおばあさんはまだいました。おばあさんはまたみんなにあえてとても喜び、みんなを向こう岸に渡してくれました。それからおばあさんも行ってしまいました。というのは今おばあさんの魔法もとけたからです。しかし、他のみんなは年とった漁師のところに行きました。そしてみんながお互いを見つけたことに喜びましたが、鳥は壁にかけておきました。
しかし、二番目の息子は家におちつかず、石弓を持って狩りに出かけました。疲れてくると、フルートをとって鳴らしました。王様も狩りをしていて、それを聞き、そちらへ行き、若者に会うと、「誰がここで狩りをする許可を与えたのかね?」と言いました。
「え、誰にも許可を得ていません。」「じゃあ、お前は誰の子かね?」「私は漁師の息子です。」「だが、あれには子供がいないじゃないか」「もし信じないなら、一緒にきてください。」
王様は一緒に行き、漁師に問いただしました。それで漁師は王様に全てを話しました。すると壁の小さな鳥が歌い出しました。「母は小さな牢屋にひとりいる、王家の血の王様よ、ここにいるのはみんな汝の子ら、二人の妹たちはとても不実、二人が子らに災難を与え、深い川に漁師は来て行く」
するとみんな驚いて、王様は、鳥と漁師と三人の子どもたちを一緒に城に連れて戻りました。そして牢屋をあけて妻を出すように命じました。お后はとても具合が悪く弱っていました。それで娘がお后に泉の水を飲ませると、お后は丈夫で健康になりました。しかし二人の不実な妹たちは焼かれ、娘は王子と結婚しました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、お百姓とおかみさんが住んでいました。そして村の牧師がそのおかみさんを好きで、まる一日をおかみさんと一緒に楽しく過ごしたいと長い間思っていました。百姓女もすっかりその気でした。それで、ある日、牧師は女に、「ねぇ、今私たちが一度まる一日楽しく過ごせる方法を思いついたんだけどね。いいかい、水曜日にベッドに寝たままで、だんなに病気だと言って、具合が悪いとこぼしたり演じたり、日曜まで続けるんですよ。日曜は私が説教しなければいけない日ですが、そのとき、説教で、病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、家にいる人は誰でもイタリアのゴッケルリ山に巡礼し、そこでは1クロイツアーで月桂樹の葉が1ペックもらえるんだが、病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、すぐに健康を回復すると言うよ。」と言いました。「やってみるわ。」とおかみさんはすぐいいました。それで水曜日に百姓女はベッドを離れず、打ち合わせ通り具合が悪いとこぼしたり嘆いたりし、だんなは思いつく限り何でもやってみましたが、何も役に立ちませんでした。そして日曜になると、女は「すぐにも死にそうな気がするわ。だけど、死ぬ前に一つやりたいことがあるの。今日話すことになっている牧師さんのお説教を聞きたいのよ。」と言いました。それに対して、お百姓は「だめだよ、お前、起きあがったらもっと悪くなってしまうよ。ほら、おれがお説教を聞くよ。とても注意して聞いてきて、牧師さんがいうことを全部お前に教えてやるよ。」と言いました。「じゃあ、行ってきて。よく聞いてね。聞いたことを全部私に繰り返してきかせてよ。」と女は言いました。
それでお百姓はお説教を聞きました。牧師は、「病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、家にいる人は誰でもイタリアのゴッケルリ山に巡礼すると、そこでは1クロイツアーで月桂樹の葉が1ペックもらえるんだが、病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、すぐに健康を回復する。それでその旅をしたい者はだれでも礼拝がおわったら私のところに来てください。月桂樹の葉をいれる袋と1クロイツアーをあげます。」と言いました。それでお百姓以上に喜んだ人はいませんでした。礼拝が終わるとすぐに牧師のところにいき、牧師は月桂樹の葉をいれる袋と1クロイツアーをあげました。
そのあと、お百姓は家に帰りましたが、家の戸口にしか来ていないのに、「万歳!お前、もうよくなったも同じだぞ。牧師さんは今日、『病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、家にいる人は誰でもイタリアのゴッケルリ山に巡礼すると、そこでは月桂樹の葉1ペックが1クロイツアーするんだが、病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、すぐに治る』と説教したんだ。それでおれはもう牧師さんから袋とクロイツアー硬貨をもらってきた。お前が速く治るようにすぐに旅にでるからね。」と叫びました。それでお百姓は出かけました。ところが女は夫が出かけるとすぐ起き上がり、牧師もすぐそこにきました。だけど今はこの二人のことはしばらく放っておいて、お百姓の話を続けましょう。
お百姓はゴッケルリ山にそれだけ早く着くために止まらないでさっさと歩いて行きました。そして途中でお喋り仲間に会いました。その友達は卵商人で卵を売った市場からちょうど戻るところでした。「あなたに祝福がありますように。」と友達は言いました。「そんなに急いでどこへ行くんだい?」「永久に、友達よ」とお百姓は言いました。「うちのかみさんが病気で、今日牧師さんの説教に行ってきたんだ。そうしたら、『病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、家にいる人は誰でもイタリアのゴッケルリ山に巡礼すると、そこでは月桂樹の葉1ペックが1クロイツアーするんだが、病気の子供、病気の夫、病気の妻、病気の父、病気の母、病気の兄弟、他の誰でも、すぐに治る』と説教したんだ。それでおれは牧師さんから袋とクロイツアー硬貨をもらって、いま巡礼を始めているところさ。」「だけど、ねぇ、じゃあ、そんなことを信じるなんてお前さんはバカじゃないかい?本当はどういうことか知らないのかい?牧師はかみさんと二人だけで仲良く一日過ごしたいんだよ、それでおまえさんが邪魔にならないようにこの仕事をさせてるんだよ。」と友達は言いました。「なんだって?それが本当かどうか是非知りたいもんだ。」とお百姓は言いました。「じゃあ、来いよ。どうしたらいいか教えてやろう。卵のかごに入れよ、そうしたらおれがお前を家に運んで行くよ、それで自分で見ろよ。」と友達は言いました。それで話は決まり、友達がお百姓を卵のかごに入れ、家に運びました。
家に着くと、やったー、そこではもう万事がとても陽気でした。女は農場にあるほとんど何でも殺してもらい、パンケーキを作ってありました。牧師はそこにいて、バイオリンを持って来ていました。友達がドアをたたくと、女は「どなた?」と尋ねました。「私です。」と卵商人は言いました。「今晩泊めてもらえませんか、市場で卵が売れ残って、今また家へ持って帰らなくてはならないんだがね。あんまり重いので持って帰れそうもない。もう暗くなっているからね。」「そうね。とても都合が悪いときにきたんだけど、もうここにいるんだから仕方ないわね。入って。ストーブのそばのベンチに座って。」それから女はストーブのそばのベンチにかごを背負った卵商人を連れて行きました。ところで、牧師と女はこの上なく陽気でした。とうとう牧師は「ねぇ、君、君は歌がうまい。なにか歌ってよ。」と言いました。「あら、今は歌えないわ。若いころは本当に上手に歌えたんだけど、今はもうおしまいよ。」と女は言いました。「さあ、ちょっと歌ってよ。」と牧師はまた言いました。それで女は歌い始めました。「あたしゃ、だんなをイタリアのゴッケルリ山に送り出した」それで牧師が「だんなが帰るまで1年あればいいのになあ。月桂樹の葉の袋は欲しくない、ハレルヤ」と歌いました。それで、後ろの友達が歌い始めました。-だけどお百姓はヒルデブランドという名前だとみなさんに言わなくちゃね―それで友達は「ヒルデブランド、お前は何をしてるんだ、そんなに近くストーブのそばのベンチで、ハレルヤ」と歌いました。それからお百姓はかごから「歌は全部今日からきらいになるよ。このかごのなかにはもういないよ。ハレルヤ」と歌いました。そしてかごから出て、牧師をこてんぱんにやっつけて家から追い出しました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、貧しい百姓がいました。土地がなく、たった小さな家と一人の娘しかありませんでした。それで、娘は、「王様に新しく切り開いた土地を少しもらうべきだわ。」と言いました。王様はこの親子が貧しいのを聞くと、一区切りの土地を贈りました。その土地を娘と父親は掘り起こし、少しの麦とその種の穀物を播こうとしていました。畑のほぼ全体を掘った時、純金でできているすり鉢を見つけました。「なあ、王様がとても親切にしてくれてこの畑をくださったのだから、お返しにこのすりばちをさしあげるべきだよ。」と父親は娘に言いました。ところが娘はこれに賛成しようとしませんでした。「お父さん、すりこぎも一緒に持たないですり鉢をもっていけば、すりこぎも手に入れさせられるわ。だからそのことは何も言わない方がいいわよ。」しかし、父親は娘の言うことをきかないで、すり鉢を持って王様のところに行き、切り開いた土地の中にこれを見つけました、贈り物としてお収めいただけるでしょうか、と言いました。王様はすり鉢を手にとり、そばに何も見つけなかったか?と尋ねました。はい、と百姓は答えました。
すると王様は、今度はすりこぎを持ってこなくてはならんな、と言いました。百姓は、すりこぎはみつからなかった、と言いましたが、風に話しているようなもので、牢屋に入れられ、すりこぎを出すまではそこにいることになりました。家来たちは毎日百姓にパンと水を、それが牢屋にいる人々がもらうものなので、運ばなければなりませんでしたが、男がずっと「ああ、娘のいうことをきいていたらよかったよ、ああ、娘のいうことをきいていたらよかったよ、」と叫ぶのが聞こえ、男は食べようとも飲もうともしませんでした。それで王様は家来に命じて牢屋の百姓を連れてこさせ、なぜいつも娘のいうことをきいていたらよかったと泣いているのか、娘は何と言っていたのか、と百姓に尋ねました。「娘はすり鉢を持っていくべきでない、というのはすりこぎも出さなくてはいけなくなるだろうから、と私に言ったのです。」「それほど賢い娘がいるなら、娘をここに来させろ。」
それで娘は王様のまえに出ていかなければなりませんでした。王様は、お前は本当にそんなに賢いのかと尋ね、「なぞをかけてみるぞ。もしお前がそれを解ければお前と結婚しよう。」と言いました。娘はすぐに「はい、解いてみせましょう。」と言いました。それで王様は「服を着ないで、裸でもなく、乗らないで歩かないで、道の中ではなく道から離れないで、わしのところに来てみろ。それができればお前と結婚しよう。」と言いました。
それで娘はひきさがり、着ていたものを全部脱ぎ、それで服を着ていなくなり、大きな魚とり用の網を持って来てその中に座り体をすっかりぐるぐる巻きにしました。それで裸ではなくなりました。それからロバを借りてきて、尻尾に漁師の網を結わえつけました。それでロバに娘をひきずらせました、これで乗ってもいなくて歩いてもいないことになりました。ロバはまたわだちの中を娘をひきずらなければいけなかったので、娘は足の親指だけが地面に触れていて、それで道の中でもなく、道から離れてもいなくなりました。このようにして娘が着いたとき、王様は、お前はなぞをとき全部の条件を満たした、と言いました。
それから王様は父親を牢屋から出すように命じ、娘を妻に迎え、王室の財産を娘に任せました。さて何年か過ぎて、あるとき王様は閲兵式を視察していたとき、木を売っていた百姓たちが宮殿の前で荷車を止めていました。荷車は牛にひかせているのもあれば馬にひかせているのもありました。一人の百姓に馬が三頭いましたが、そのうちの一頭が仔馬を産みました。その仔馬が逃げて荷車の前にいた二頭の牛の間に横になりました。百姓たちが一緒になると、言い争いをしてお互いをなぐりさわぎを起こし始めました。牛の方の百姓は仔馬を持っていようとし、牛の一頭がそれを産んだのだと言いました。もう一方の百姓は自分の馬が産んだのだ、その仔馬は自分の物だ、と言いました。喧嘩は王様の前に持ち込まれ、王様は、仔馬は見つかったところにいるべきだと判決を言い渡しました。それで牛の方の百姓が、自分の物で無い仔馬を手に入れました。
それからもう一方の百姓は去っていき、泣いて仔馬のことを嘆きました。さてこの百姓はお后が自分が貧しい百姓から出たのでとても慈悲深いとききました。それでお后のところへ行き、自分の仔馬を取り戻す手伝いをしていただけないでしょうかとお願いしました。お后は、「いいですよ。私のことをもらさないと約束するなら、どうしたらよいか教えましょう。」と言いました。
「明日の朝早く、王様が衛兵を閲兵するとき、王様が通らなくてはならない道の真ん中にいて、大きな魚とり網を持って魚取りをしているふりをしなさい。魚取りを続けて網がいっぱいになったふりをして網から魚を出すのよ。」それから、お后は、王様に問いただされたら何と言ったらいいかも百姓に教えました。それで、次の日、百姓はそこに立ち、乾いた地面で魚取りをしました。王様がとおりがかり、それを見て、あの馬鹿な男が何をしているか訊いて来いと使いの者を送りました。百姓は「魚取りをしています。」と答えました。使いの者が、「そこに水がないのにどうやって魚をとることができるのだ?」と尋ねると、百姓は、「私が乾いた土で魚をとるのは牛が仔馬を産むのと同じくらい簡単ですよ。」と言いました。
使いの者は戻って王様にその答えを告げました。すると王様は百姓を連れて来いと命じ、これは自分で考えたことではあるまい、と言い、誰の考えか知りたがりました。王様は、「すぐに白状せよ。」と百姓に言いましたが、百姓はどうしても白状しないで、いつも「とんでもない、自分で考えたことです。」と言いました。それで、家来たちが百姓をわらの山にねかせ、殴って、長い間痛めつけたので、とうとうお后からその考えをもらったと認めてしまいました。
王様は家へ帰ると、妻に「お前はどうしてわしにそんなに不実にしたのだ?もうお前を妻にしておく気がない。お前の時は終わりだ。お前が来たところ、お前の小屋へ戻れ。」と言いました。しかし、王様は一つだけ許し、お后から見て最も大切で、最もよいものを一つ一緒に持って行ってよい、それでお前とはお終いだ、と言いました。
お后は、「はい、あなた、それがご命令なら、そう致します。」と言って、王様を抱きしめキスをし、お別れいたします、と言いました。それからお后は強い眠り薬をもってこさせ、王様と別れの盃をかわしました。王様はごくごく飲みましたが、お后はほんの少し飲んだだけでした。王様はまもなく深く眠り込みました。お后はそれがわかると、家来を呼び、きれいな白い敷布を出し王様を包み込み、家来に運ばせて入口のまえにある馬車に王様を乗せました。そして自分の小さな家に王様と一緒に馬車でいきました。
お后は王様を自分の小さなベッドにねかせ、王様は目覚めないで一昼夜眠っていました。目が覚めると周りを見回し、「おや、ここはどこだ?」と言いました。王様は従者たちを呼びましたが、誰もそこにいませんでした。とうとう妻がベッドのそばにやってきて、「私の大切な王様、あなたは私に、私に最も大切で貴重なものを宮殿から持っていってよい、とおっしゃいました。私には、あなたご自身より貴重で大切なものはありません。それで私はあなたを一緒にお連れしました。」と言いました。
涙が王様の目にわいてきて、王様は「愛する妻よ。お前は私のもので、私はお前のものだ。」と言いました。そして、宮殿にお后を連れて戻ると、もう一度結婚しました。それでね、今、このお二人はまだ生きているようですよ。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、一人のお后さまがいました。お后には小さい娘がいましたが、まだ幼くて歩けませんでした。ある日、子供がむずかって、母親がどんなにあやしても、どうしてもおとなしくなりませんでした。それでお后は我慢できなくなって、宮殿のあたりをオオガラスが飛んでいたので、窓を開けて「お前がカラスになって飛んで行ったらいいと思うわ。そうしたらいくらか休めるわ。」と言いました。その言葉を話すとすぐ、子供はカラスに変えられてお后の腕から窓の外へ飛んで行きました。カラスは暗い森へ飛んでいき、しばらくそこにいました。そして両親は子供の噂を何も聞きませんでした。
それからある日、一人の男がこの森を通りがかって、オオガラスが鳴くのを聞き、声をたどり近づくと、鳥は「私は生まれが王様の娘で、魔法にかけられました。でもあなたは私を救うことができます。」と言いました。「何をすればいいんだ?」と男は尋ねました。オオガラスは「森をずっと行くと、一軒の家があり、そこにおばあさんが住んでいます。おばあさんはあなたに肉と飲み物を出しますが、何も受け取ってはいけません。というのは、あなたがなにか飲んだり食べたりすれば、眠ってしまい、私を救うことができなくなるのです。家の裏の庭に、タン皮が大きな山になっています。この上に立って私をまっていてください。3日間、私は馬車で毎日午後2時に来ます。最初の日は、4頭の白馬が馬車につけられ、次の日は4頭の栗毛の馬、最後の日は4頭の黒馬です。しかしもしあなたが目が覚めていなくて眠っていれば私は救われません。」と言いました。男はオオガラスが望むことを何でもすると約束しましたが、オオガラスは「ああ、あなたは私を救わないだろうともう知ってるわ。あなたはその女から何か受け取ってしまうのよ。」と言いました。それで男はもう一度、飲み物や食べ物に絶対触れないと約束しました。
しかし、男が家に入るとおばあさんが来て、「可哀そうに、ずいぶんつかれているんだね。さあさ、元気を出して。食べて飲んでごらんよ。」と言いました。「結構です。食べませんし飲みませんから。」と男は言いました。ところが、おばあさんはしきりにすすめて「食べないのなら、グラスから一口飲みなさい。一口は何でもないよ。」と言うので、男は説き伏せられて飲みました。午後2時少し前にオオガラスを待つために庭のタン皮の山に行きました。そこに立っていると急にどっと疲れてきて、抵抗できなくなり、短い間横になりましたが、男は眠らないよう決心していました。ところが、横になった途端、目がひとりでに閉じて、眠り込み、とてもぐっすり眠ってどんなことがあってもおこすことができないくらいになりました。
2時にオオガラスは4頭の白い馬の馬車に乗って来ましたが、もう深く悲しみながら、「あの人が眠っているのはわかっています。」と言いました。そして庭に入ると、男はタン皮の山で本当に眠っていました。オオガラスは馬車から降り、男のところに行き、揺り動かし、呼びましたが、男は目覚めませんでした。次の日の昼ごろ、おばあさんはまたやってきて、食べ物と飲み物を持ってきましたが男はどれもどうしてもとりませんでした。しかし、おばあさんはしきりにすすめて説得したので、とうとう男はグラスから一口飲みました。2時ごろ、男はオオガラスを待つため、庭のタン皮の山に行きましたが、突然大きな疲れを覚えたので、手足がもう男を支えていられなくなり、しかたなく横にならなくてはなりませんでした。そして深く眠り込んでしまいました。
栗毛の馬の4頭立て馬車で来たとき、オオガラスはもう悲しさでいっぱいで、「あの人が眠っているのは知ってるわ。」と言いました。オオガラスは男のところへ行きましたが、そこで眠っていて、起こすことができませんでした。次の日、おばあさんは、「これはどうしたことだ」と尋ね、「何も食べないし、何も飲まないじゃないか。死ぬつもりなのかい?」と言いました。男は「食べたり、飲んだりしてはいけないんだ。そうしないよ。」と答えました。しかし、おばあさんは男の前に食べ物の皿と、ワインのグラスをおきました。男はそのにおいをかぐと我慢できなくなって、ぐいっと一飲みしました。時間が来ると男は庭のタン皮の山に行って王様の娘を待ちましたが、前の日よりももっと疲れて横になり石になったようにぐっすり眠ってしまいました。2時にオオガラスは黒馬の4頭立て馬車で御者も他の物も全部黒でやってきました。オオガラスはもうこの上なく悲しんでいました。そして「あの人が眠っていて私を救えないのは知ってるわ。」と言いました。
オオガラスが男のところに来たとき、男はぐっすり眠っていました。オオガラスは男をゆすって呼びましたが、目をさまさせることができませんでした。それで、オオガラスは男のそばにパン1個をおき、そのあと肉一切れを、3つめにひと瓶のワインを置きました。それは男が好きなだけ飲み食いしても決して減らないものでした。このあと、オオガラスは自分の指から金の指輪をはずし、男にはめました。指輪には自分の名前が彫られていました。最後に、自分が男に何をあげたか、その品は決して減らないこと、を書いた手紙を置きました。また手紙には、「ここではあなたは私を救うことができないとよくわかりました。でもあなたがまだ救ってくれる気があるなら、ストロンバーグの金のお城にきてください。それをあなたは自分でできます。それは確かです。」ということも書いてありました。男にこれらの物を与えてオオガラスは馬車に乗り、ストロンバーグの金のお城に行きました。
目覚めて眠ったのがわかると、心から悲しくて、「オオガラスはきっと来たにちがいない。私は救わなかったのだ。」と男は言いました。それから自分のそばにおいてある品に気付き、ことの次第を書いてある手紙を読みました。それで男は起きあがり、ストロンバーグの金のお城にいくつもりででかけましたが、それがどこにあるのかわかりませんでした。長い間世界を歩き回った後、暗い森に入り、14日間歩きましたが森を出る道が見つけられませんでした。また夜がやってきて、男はとても疲れたので茂みに横になり眠りました。次の日また進んで行き、夜にまた茂みの下に寝ようとしたとき、吠えたり鳴いたりする声が聞こえてきて寝入ることができませんでした。人々がろうそくをともすときに、ひとつの灯がちらちらするのが見えて起きあがり、そちらの方へ行きました。 すると一軒の家に着きましたが、その家はとても小さくみえました。というのは家に前に大きな巨人が立っていたからです。「もし入って行けば巨人が私を見て、命を落としそうだ。」と心でおもいましたが、とうとう思い切って入っていきました。巨人は男を見ると、「お前が来てくれてよかったよ。長い間食ってないんだ。早速夕食にお前を食おう。」と言いました。男は「食べないでくれよ。私は食われたくない。だけどなにか食べたいなら、私はあんたを満足させるくらいたくさん持ってるよ。」と言いました。「それが本当なら、安心していいよ。他に何もないからお前を食おうとしただけだよ。」と巨人は言いました。 それから二人は食卓に行って座り、男は決してなくならないパンとワインと肉をとりだしました。「これはうまい。」と巨人は言って、満足するまで食べました。それから男は「ストロンバーグの金の城がどこにあるかわかるかい?」と巨人に言いました。巨人は「地図を見てみるよ。町や村や家が全部それでみつかるんだ」と言いました。
巨人は部屋にあった地図を持ち出して城をさがしましたが、そこに城は見つかりませんでした。「大丈夫だ」と巨人は言いました。「二階の戸棚にもっと大きい地図がある。それを見てみよう。」しかし、そこにも載っていませんでした。男はもうまた出発しようとしましたが、巨人は食べ物をとりに出かけた兄が帰ってくるまであと二、三日待つようにと頼みました。兄が帰ってくると、二人はストロンバーグの金の城について尋ねました。兄は「食事をして腹ごしらえをしてから、地図を見るよ。」と答えました。
それから男は二人と一緒に兄の部屋に上がって、兄の地図で探しましたが見つけられませんでした。すると兄はもっと古い地図をたくさん持ち出して、三人で休まないで探し、とうとうストロンバーグの金のお城を見つけました。しかしそのお城は何千マイルも離れたところにありました。「どうやってそこへ行くことができるだろう?」と男は尋ねました。巨人は、「二時間あるから、その間に近くまで連れていってあげるよ。そのあとはうちの子供に乳を飲ませるため家にいなくちゃだめだがな。」と言いました。 それで巨人は男を城から歩いて100時間くらいのところに連れて行き、「あとは一人で歩いて行けるよ。」と言って戻りましたが、男は日夜進んで、とうとうストロンバーグの金の城に着きました。 金の城はガラスの山の上にあり、魔法にかけられた乙女は馬車で城をまわり、それから中に入っていきました。男は乙女を見ると喜び、乙女のところまで登って行こうとしましたが、登り始めるといつもまたガラスを滑り落ちてしまいました。乙女にたどりつけないとわかり、男はとてもやきもきして、「下のここにいて、乙女を待とう」と心の中で思いました。それで男は小屋を建て、そこに一年まるまるいました。そして毎日王様の娘が上で馬車で走っているのが見えましたが、娘に連絡をつけることはできませんでした。
すると、ある日、男は小屋からお互いをなぐりあっている三人の強盗を見て、「神のご加護があらんことを!」と叫びました。強盗たちはその叫び声を聞いて殴り合いをやめましたが、誰も見えないのでまたお互いを殴り始めました。しかもかなりすさまじくなりました。それで男はまた、「神のご加護があらんことを!」と叫びました。また三人はやめ、周りを見回しましたが誰も見えないのでまたお互いを殴り始めました。それで男は三回目に、「神のご加護があらんことを!」と叫び、(この三人がなんのことで喧嘩しているのか確かめないと。)と思い、そちらへ行って、「どうしてそんなに激しく殴り合っているんだい?」と尋ねました。一人は、「おれは杖を見つけたんだが、それで戸をたたくと戸はパッと開くんだ。」と言いました。二人目は、「おれはマントを見つけたんだが、そのマントを着ると、姿が見えなくなるんだ」と言いましたが、三人目は、「おれは人がどこにでも乗って行ける馬を見つけたんだ。ガラスの山でも行けるんだ。」と言いました。それでこれらのものをみんなで使うか、別々にするのかわからない、というのでした。
それで男は、「この3つのものと交換にいいものをあげよう。実をいうと金は持っていないんだが、もっと値打ちがある他の物をもっているんだ。だけど、あんたたちが本当のことを言ってるか試してみなくてはならないな。」と言いました。すると強盗たちは男を馬に乗せ、体にマントをかけ、手に杖を握らせました。男がこれらのものを全部もつと三人はもう男を見ることはできませんでした。それで男は強盗たちを強く殴りつけて「さあどうだ、ごろつきめ、お前たちにふさわしいものをやったぞ。満足したか?」と叫びました。そして男はガラスの山に馬に乗って登りました。しかし山のてっぺんの城の前に来ると城は閉まっていました。
それで男が杖でたたくと門がすぐにパッと開きました。男が中に入り階段を登ると、広間につき、そこでは乙女が自分の前にワインの入った金のさかずきを置いて座っていました。ところが乙女はマントをはおっていたので男がみえませんでした。男は乙女に近づいて、乙女がくれた指輪を自分の指から外し、さかずきの中へ投げ入れました。それでさかずきは鳴りました。すると、乙女は「これは私の指輪だわ。じゃあ私を救うはずの人がここにいるにちがいないわ。」と叫びました。
みんなは城中を探しましたが、男は見つかりませんでした。しかし男はもう城を出てしまって馬にまたがりマントを脱いでいました。人々が門に出てみると、男が見え、喜んで大声で叫びました。それから男は馬を降り、王様の娘をだきしめました。しかし娘は男にキスをして、「今度はあなたは私の魔法をといてくれました、明日は私たちの結婚式を祝いましょう。」と言いました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
ある商人に、二人子どもがいて、男の子と女の子でした。二人ともまだ幼くて歩けませんでした。あるとき、商人の荷物をたくさん積んだ二そうの船が商人の全財産をのせて海に出て行きました。そうしてその荷でたくさんのお金を得るつもりでいたところが、船が海の底に沈んでしまったという知らせがつきました。そうして商人は金持ちになるどころか貧乏になり、町の外にある畑一つしか残りませんでした。少し不幸を考えないようにしようと、商人はこの畑へ出かけていきました。そして畑の中をあちこち歩いていると、黒い小人が突然となりに立って、「どうしてそんなにしょんぼりしているんだい?何をそんなに悩んでいるんだね?」と尋ねました。
それで商人は、「あんたが助けられるなら、話すんだがね」と言いました。「わからないよ」と黒い小人は答えました。「多分、助けられると思うよ。」それで商人は、財産が全部海の底に沈んでしまい、この畑しか残っていないんだ、と話しました。「くよくよするな」と小人は言いました。「家に帰ったときあんたの脚に触れる最初のものをくれると約束して、12年後にここへ持ってくるんなら、望むだけたくさん金をやるよ。」商人は、(それは犬の他に考えられないな)と思い、小さな息子のことは思い出さなくて、「いいよ」と言い、黒い小人に証文を書いて印をおして渡し、家に帰りました。
家に着くと、小さな男の子がとても喜んでベンチにつかまって、父親にとことこ走り寄り脚にしがみつきました。父親はどきっとしました。というのは約束を思い出して、何を証文にして渡したか今わかったからです。ところが、箱にはやはり金がみつからなかったので、小人はただふざけていたんだと思いました。
一か月経って、商人は古い錫を集めて売るつもりで屋根裏部屋に上がっていき、そこにお金が大きな山になってあるのが見えました。それでまた嬉しくなり、品物を買いつけ、前よりも大きな商人になり、運に恵まれていると感じていました。そのうちに男の子は大きくなり、利口で賢い子になりました。しかし12年目が近づけば近づくほど商人は心配になり、顔にも出るようになりました。ある日、息子は、お父さん、どうしたの?と尋ねましたが、父親は言おうとしませんでした。ところが、息子が何度もしつこくきくので、父親はとうとう、何のことか分からずに黒い小人にお前をやると約束してしまったんだ、そうしてその代わりにたくさんのお金をうけとってしまった、と話しました。それから、これを誓って署名をして、12年が過ぎたらお前を渡さなくてはならないのだ、と付け加えました。
すると息子は言いました。「お父さん、心配しないで。みんなうまくいくよ。黒い小人は僕をどうともできないよ。」息子は牧師に祝福してもらいました。その時期がくると、父親と息子は畑へ一緒に出かけ、息子は円を描いてその中に父親と一緒に入りました。それから黒い小人がやってきて、父親に、「約束のものをもってきたか?」と言いました。父親は黙っていましたが、息子が「お前はここに何の用だ?」と尋ねました。すると黒い小人は、「お前の父親と話があるのだ、お前とではない」と言いました。息子は、「お前は父を欺きだましたのだ。証文を返せ。」と答えました。「いやだ」と黒い小人は言いました。「おれの権利を棄てるもんか」こうして二人は長い間話しあっていましたが、とうとう意見がまとまりました。つまり、息子は人間の敵のものでもないし、もう父親のものでもないので、小さな舟に乗って、その船を流れていく川に浮かべ、父親が自分の足で舟を押し出す、そうして息子は川に身をまかせたままにする、というものでした。そこで、息子は父親に別れを言って小舟に乗り、父親は自分の足で小舟を押し出さなければなりませんでした。小舟はひっくり返り、底が上に甲板が水の下になりました。それで父親は息子が亡き者と思い、家に帰り息子の死を悲しみました。
ところが小舟は沈まないで静かに流れていき、男の子は無事にその中にいました。こうして舟は長い間漂っていましたが、とうとう見知らぬ岸辺に着きました。そうして息子が陸に上がると目の前に美しい城が見えたのでそこに向かってでかけました。しかし、城に入ると、魔法にかけられた城だとわかりました。若者はどの部屋にも行ってみましたが、みんな空っぽで、とうとう最後の部屋に着くと、蛇が一匹とぐろを巻いていました。ところが、その蛇は魔法にかけられた乙女で、若者をみると喜び、「ああ、救い主よ、とうとう来たのね」と言いました。
「私はもう12年あなたを待っているんです。この国は魔法にかけられています。そうしてあなたはその魔法を解かなくてはなりません。」「どうしたらいいんですか?」「今夜、体を鎖で巻いた12人の黒い男たちが来ます、それであなたに、ここで何をしているのだ?と聞くでしょう。だけど黙って返事をしないでください。その者たちに好きなようにやらせてください。男たちはあなたを苦しめ、殴ったり、刺したりします。全部やらせてください。ただ絶対口を言ってはいけません。12時になると、男たちはまた去らなくてはいけないのです。二日目はまた別の12人が来ます。三日目は24人が来て、あなたの頭を切り落とします。でも12時になると、男たちの力は終わります。そうしてあなたが全部耐え忍んで一言も口にしなければ、私の魔法は解けます。私はあなたのところに、びんに入れた命の水を持っていきます。その水をあなたに塗れば、あなたは生き返り、前と同じに元気になります。」そこで若者は言いました。「喜んであなたを救います。」そして何もかも娘が言ったように起こって、黒い男たちは若者に一言も話させることができなかったので、三日目の夜に蛇は美しい王女になり、命の水をもってやってきて、若者を生き返らせました。
そうして王女は若者に抱きついてキスしました。城じゅうに喜びがあふれました。このあと、二人の結婚式があげられ、若者は金の山の王様になりました。二人は一緒にとても幸せに暮らし、お后はりっぱな男の子を生みました。すでに8年が過ぎていました。王様はふと父親のことを思い出して心を動かされ、訪ねてみようと思いました。ところがお后は王様を行かせようとしないで、「今からもうわかるわ。あなたが行くと私は不幸になるの。」と言いました。しかし、王様が何度もしつこくその話をもちだすので、とうとうお后は承知しました。別れるときにお后は王様に願掛け指輪を渡し、「この指輪を指にはめてもっていってください。そうすればたちまち行きたいところへ行けますわ。ただその指輪で私をここから連れ出してあなたのお父さんのところに呼ばないと約束して下さい。」と言いました。それを王様は約束して指輪をはめ、ふるさとの父親が住んでいる町のすぐ外に行きたい、と願いました。途端に王様はそこにいました。それで町をめざして進んだのですが、門にくると門番が入れようとしませんでした。王様がとても奇妙で、それでいてぜいたくなりっぱな服を着ていたからです。そこで王様は羊飼いが羊の番をしている山に行き、羊飼いと服を取り替え、古い羊飼いの上着を着ました。するとさえぎられずに町に入れました。
王様は父親のところにやってきて、素性を明かしましたが、父親は羊飼いが息子だとまるで信じないで、確かに息子は一人いたがずっと昔に死んでしまったよ、だがあんたは貧しくあわれな羊飼いに見えるから、食べ物をやろう、と言いました。そこで羊飼いは両親に、「私は本当にあなたがたの息子です。息子だとわかる体の印を知りませんか?」と言いました。「知っていますよ」と母親が言いました。「息子には右腕の下にきいちごのあざがあったわ。」羊飼いがシャツを後ろにずらすと右腕の下にきいちごのあざが見えました。それでもう息子であることを疑いませんでした。それから息子は両親に、自分は金の山の王様で、王様の娘と結婚し、7歳のりっぱな息子がいる、と話しました。
すると父親は、「それは絶対本当と思えない。羊飼いのぼろ上着を着て歩き回っている王様ってのはおかしいじゃないか。」と言いました。これを聞いて息子はかんしゃくを起こし、約束のことを考えもせず、指輪を回し、妻と息子が一緒にいればなあ、と願掛けしました。あっという間に二人は目の前にいました。しかしお后は泣いて、王様を責め、あなたは約束を破ったのね、それで私を不幸にしたのよ、と言いました。王様は、「うっかりやってしまったのだ。悪気はなかったのだが」と言って、お后を落ち着かせようとしました。お后はそれを信じたふりをしましたが、心の中では夫を恨みに思っていました。
それから王様はお后を町の外の畑へ連れて行き、小舟が押し出された川を見せました。そのあと、王様は、「ああ、疲れたな。座ってくれ。少し君の膝で眠りたいな。」と言いました。そして王様はお后の膝に頭をのせ、お后がしばらくしらみをとってあげているうちに、やがてねいりました。すると、眠っている間に、お后はまず王様の指から指輪をはずし、次に頭の下から膝を抜いて、あとには自分の上履きだけ残して、腕に子どもを抱え、自分の王国に帰りたい、と願掛けしました。
王様が目覚めると、たった一人でねころがっていて、妻も子どももいなくなっていました。指輪も指からなくなって上履きだけが記念の印としてまだそこにありました。(親のところへは戻れないな)と王様は考えました。(お前は魔法使いだと言うだろうから。でかけて、自分の国に着くまで歩き続けよう)そこで王様はでかけて、やがて三人の巨人が立っている山に来ました。巨人たちは父親の財産をどうわけるかわからなくて喧嘩していました。
三人は王様が通りかかるのを見て、呼びとめ、「小さな人間というのは頭が回る。あんた、遺産をおれたちに分配してくれないか」と言いました。ところで遺産というのは、まず刀で、それを手にし、『おれ以外の頭が落ちろ』と言えばどの頭も地面に落ちてしまうというものでした。二つ目は、それを着た者の姿が見えなくなるマントでした。三つ目は長靴で、それを履いた者は行きたいどこでもすぐに行けるというものでした。王様は、「まだ役に立つのか見るからその三つの品をちょっと貸してくれないか」と言いました。
それで三人はマントを渡し、王様が着てみると姿が見えなくなってハエに変わりました。それから元の姿に戻り、「マントは大丈夫だ。今度は刀をよこせ。」と言いました。巨人たちは、「だめだ、それは渡せない。あんたが『おれ以外の頭は落ちろ』と言えば、おれたちの頭が落ちてしまい、あんたの頭だけがくっついていることになるぜ。」それでも、木で試してみるだけだという条件付きで、王様に刀を渡しました。王様がやってみると、刀はわら茎でもあるかのように木の幹を真っ二つに切りました。それから王様は長靴も欲しいと思いましたが、巨人たちは「だめだ、長靴は渡さない。あんたが履いて山のてっぺんへと願えば、おれたちは何も無くてここに残されてしまうからな。」と言いました。「ああ、まさか」と王様は言いました。「そんなことはしないさ。」そこで巨人たちは長靴も渡しました。王様はこれらの品物を全部手にしているとき、妻と子供のことしか考えていなくて、独り言のように「ああ、金の山にいるならなあ」と言ってしまいました。途端に王様は巨人の目の前から消えてしまい、こうして遺産の分配は終わりました。
宮殿の近くへ行くと、喜びの声とバイオリンや笛の音が聞こえてきました。人々は、お后さまが別の方と結婚するんです、と王様に言いました。それで王様は怒って、「不実な女め、わたしが眠っている間に裏切って捨てていったな。」と言いました。それで王様はマントを着て、誰にも見られず宮殿に入りました。広間へ入ると、大きなテーブルにご馳走が並び、お客たちが飲んで食べて、笑って冗談を言っていました。その真ん中に王冠をかぶり豪華な衣装を着てお后がいました。
王様はお后の後ろに行きましたが誰にも見えませんでした。お后が皿に肉を一切れとりわけると、王様はそれをとって食べ、お后がワインをグラスにつぐと王様はそれをとって飲みました。お后は何か口に入れようとしてはいつもなくなりました。皿やグラスがすぐ消えてしまったからです。それで気落ちして恥ずかしくなり、立ち上がって自分の部屋へ入り泣き出しました。王様はそこへついていきました。お后は「悪魔が私を思いのままにしているの?私の救い主は来なかったの?」と言いました。それで王様はお后の顔をなぐり、「救い主がこなかったか、だと?今お前を思いのままにしているのはその救い主だよ。この裏切り者め、お前からこんな目にあわされる覚えはないぞ。」と言いました。
そうして姿を現すと、広間に入っていき、「結婚式は終わりだ。本物の王が帰ったのだ」と叫びました。そこに集まっていた王様や王子や相談役たちはばかにしてあざ笑いましたが、王様はわざわざ相手にしないで、「出ていくのか、いかないのか?」と言いました。するとみんなが王様をつかんでおさえつけようとしました。しかし王様は刀を抜いて、「おれ以外の頭は落ちろ」と言いました。それで頭がみんな床に転がり王様だけが勝利者になり、もう一度金の山の王様になりました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、娘が三人いる金持ちの王様がいました。娘たちは毎日宮殿の庭園に散歩に行き、王様はあらゆる種類のきれいな木が大好きでしたが、特に大事にしている木があり、その木からりんごをもぎとる者は100尋(ひろ)地下にいけ、と願掛けしていました。収穫時期になると、この木のりんごは血のように赤くなりました。三人の娘たちは毎日木の下にいき、風で一個でもりんごが落ちていないかと探しましたが、まったく見つからず、木にはりんごがたわわに実り枝が折れそうになって地面に垂れていました。
王様の末娘はりんごが欲しくてたまらなく、姉たちに「お父様は私たちのことをとても愛してるのだから、まさか地下に行ってほしいと願わないわ。他の人たちだけにそうするんだって私は思うの。」と言って、話しながらかなり大きなりんごを一個もぎとりました。そして姉たちのところに走って行き、「食べてみて、お姉さんたち、こんなにおいしいもの食べたことないわ。」と言いました。それで二人の姉たちもそのりんごを食べ、三人ともおんどりの鳴き声の聞こえない地中深く沈んでいきました。
昼になると、王様は娘たちを食事に呼ぼうとしましたが、どこにも見つかりませんでした。宮殿や庭園のあちこちを探しても見つけられませんでした。それで王様はとても悲しんで、娘たちを連れ戻した者には娘たちの一人を妻に与えると国じゅうにお触れを出しました。そこでたくさんの若者が国じゅうを探しまわりました。その数は数えきれませんでした。というのは三人の娘たちは誰にもやさしく顔もとてもきれいだったのでみんながこの三人を好きだったからです。
三人の若い猟師たちも出かけていき、八日間旅をしたあと、大きな城に着きました。その城には美しい部屋がたくさんあり、一つの部屋には食卓があり、まだ暖かく湯気があがっているご馳走が並んでいましたが、城じゅうに人の姿も見当たらず声も聞こえませんでした。三人はそこで半日待ちましたが食べ物はやはり暖かく湯気があがったままでした。とうとうあまりにお腹がすいて三人は座って食べ始めました。そしてその城にとどまって暮らそうと相談しました。また、くじ引きで決めて、一人が家に残り、他の二人が王様の娘たちを探しに行くことにしました。
三人はくじ引きをし、一番上の兄にあたりました。それで次の日、二人の弟たちは探しにでかけ、兄は家に残らなければなりませんでした。昼に小さな、小さな小人がやってきて、パンを一切れくださいと言いました。それで兄はそこにあったパンをとり、かたまりから一切れ切りとり、小人に渡そうとしましたが、渡している間に小人が落とし、兄に、もう一度渡してくれと頼みました。兄は拾おうとしてかがみこむと、小人は棒を取り出し兄の髪をつかんでしたたかになぐりました。
次の日、二番目の兄が家に残り、同じ目にあいました。他の二人が夕方に戻ると、一番上の兄が、「それでお前はどうしてた?」と言うと、「いやあ、さんざんだった」と二番目の兄は言いました。それから二人で災難のことを話しあっていましたが、末の弟には何も言いませんでした。というのはこの弟を嫌っていたからで、世の中のことを知らないというわけで間抜けなハンスといつも呼んでいました。
三日目に末の弟が家に残ると、また小人がやってきてパンを一切れくださいと言いました。若者がパンを渡すと、小人は前と同じようにそのパンを落とし、また渡してくれと頼みました。するとハンスは小人に、「何だって?自分で拾うことができないのか?毎日食べるパンにそれほど手間をかけないようじゃ、食べるねうちがない。」と言いました。すると小人はとても怒って、拾え!と言いました。しかし弟は拾おうとせず小人をつかまえるとさんざんぶちました。それで小人は悲鳴をあげて、「やめてくれ、やめてくれ、放してくれ、そうしたら王様の娘たちがいるところを教えてあげる。」と叫びました。
ハンスはそれを聞くとぶつのを止めました。小人は、私はノーム(地中の小人)です、私のような小人は千人以上います、一緒に来れば王様の娘のいるところを教えてあげます、と言いました。それから弟を深い井戸に案内しましたが、井戸の中に水はありませんでした。小人は、あなたと一緒にいる仲間はあなたをまっとうに扱う気がないとよく知っていますよ、だから王様の娘たちを救いたければ一人でやらなければいけません、と言いました。
二人の兄さんたちも王様の娘たちを取り戻したがってはいますが、厄介なことや危険なことはしたくないんです、それであなたは大きなかごをもってきて、狩猟用ナイフと鐘をもってそのかごに座り下りるんです、下には三つの部屋があり、その部屋の一つずつに王女が一人います、頭がたくさんある竜のシラミをとっているんです、その頭を切り落とさなくてはなりません、これだけ話すと、小人は消えました。
夕方になると二人の兄が帰ってきて、どうだった?と尋ねました。それで弟は、「今のところ、うまくいってるよ。」と言って、誰にも会わなかったが、昼に小人が来て、パンを一切れくれと言ったんだ、パンをあげたんだが、その小人は落として拾ってくれと頼んだよ、だけどおれがそうしなかったもんで小人ががみがみ言いだして挙句はかんしゃくをおこしたのさ、だからおれはぶんなぐってやったよ、そうしたら小人は王様の娘たちの居場所を教えてくれたよ、と話しました。二人の兄たちはこれを聞いてとても腹を立てたので顔が緑や黄色になりました。
次の朝、三人はつれだって井戸に行き、誰が最初にかごにすわるかくじ引きをしました。するとまたもや一番上の兄が当たりました。兄はかごに座り、鐘を持たねばなりませんでした。すると、「おれが鈴を鳴らしたらすぐに引っ張り上げてくれよ。」と兄は言いました。少し下に下りると兄は鈴を鳴らし、二人の弟はすぐに引っ張りあげました。それから二番目の兄がかごに座りましたが、一番上の兄と全く同じにやりました。そうして末の弟の番になりましたが、底まで下ろさせました。
弟はかごから出るとナイフをとって最初の戸の外へ行って立ち止まり、聞き耳をたてました。竜がとても大きないびきをかいているのが聞こえました。ゆっくり戸を開けると、王女の一人が九つの竜の頭を膝にのせシラミをとりながら、そこに座っていました。それで弟はナイフを手に頭に切りつけ、九つの頭を切り落としました。王女はサッと立ち上がり、弟の首に腕をまきつけ、だきしめて何度もキスしました。それから純金でできたストマッカー(胸衣)をはずし弟の首にかけました。
それから二番目の王女のところに行くと、五つの頭の竜のシラミをとっていましたが、この王女も助け、末の王女は四つの頭の竜と一緒にいましたがそこにも行って助けました。三人とも大喜びで弟を抱きしめ何度もキスしました。
それから上にいる二人に聞こえるようにとても大きく鐘をならし、かごに王女たちを次々とのせ、三人を引っ張り上げさせました。ところが自分の番になると、弟は、仲間の人たちはあなたに良い感情をもっていないという小人の言葉を思い出しました。それで、そこに転がっていた大きな石を拾ってかごにのせました。かごが半分ほどあがると、上の不実な兄たちは綱を切り、石ののったかごは地面に落ちました。二人の兄たちは弟が死んだと思い、三人の王女と逃げていって、王女たちには、王様に助けたのは兄たちだと言え、と約束させました。そうして二人は王様のところへ行って、それぞれが王女様と結婚させてください、と言いました。
その間、末の弟はとても困って三つの部屋を歩き回り、ああ、ここで死ななければならないのか、と考えていました。すると笛が壁にかかっているのが目に入り、弟は「お前はどうしてそこにあるんだ?だれもここでは陽気になれないのに。」と言いました。
弟は竜たちの頭も見て、「お前たちももう役にたたないしな。」と言いました。長い間あっちこっち歩き回ったので地面がすっかり滑らかになりました。しかし、しまいには気を取り直して、壁から笛をとると、二、三音を出してみました。すると突然小人が何人か出てきて、一つの音を出す度に一人でてきました。そうして部屋がすっかりいっぱいになるまで笛を吹きました。
小人たちはみんな、ご用は何でしょう?と尋ねました。それで弟は、「上の光のあたるところに戻りたいんだ」と言いました。すると小人たちは弟の髪の毛を一本ずつつかんで、一緒に地上まで飛んでいきました。地上に出ると、弟はすぐに王様の宮殿へ行きました。ちょうど一人の王女の結婚式が行われるところでしたが、弟は王様と三人の娘たちがいる部屋に行きました。王女たちは弟をみると気を失いました。
それで王様は怒って、娘たちになにか害を加えたと思い、すぐに弟を牢に入れろと命令しました。ところが王女たちは気がつくと、王様に、あの方を自由にしてください、と頼みました。
王様が理由を聞くと、娘たちは、それを言うことは許されていないのです、と言いました。しかし父親は、それじゃストーブに言えばよかろう、と言って、出ていき、戸口で聞き耳をたて、全部聞きました。それで王様は二人の兄たちを縛り首にさせ、弟には末娘を与えました。
そのときに私はガラスの靴を履いていたんだけど、石にぶつけたら、カチャン、と鳴って壊れてしまったよ。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、村人がいました。この村人には息子が一人いましたが、親指ぐらいの大きさで、ちっとも大きくならず、何年経っても髪の毛一本ほども太くなりませんでした。あるとき、父親が畑を耕しにでかけようとすると、この子が「お父さん、僕も一緒に行く。」と言いました。「お前が一緒に行くって?」と父親は言いました。「ここにいろ。畑へ行っても何の役にも立たないし、迷子になるかもしれないからな。」すると親指太郎は泣き出したので、なだめるために父親は息子をポケットに入れ、一緒に連れて行きました。
父親は畑に着くと息子を取り出し、作ったばかりの畝の間に置きました。太郎がそこに座っていると大きな巨人が山の向こうに出てきました。「あの大きなお化けが見えるか?」と父親は言いました。親指太郎を怖がらせておとなしくさせようと思ったのです。「あれはお前をつかまえに来てるんだぞ。」ところが、巨人は長い脚で二歩も歩かないうちに、畝の間に来ていました。
巨人は小さな親指太郎を二本の指でそっと持ち上げ、しげしげ見ていましたが、一言も言わないで太郎を連れ去りました。父親はそばに立っていましたが、恐ろしくて声が出ませんでした。そして子どもはもう亡くなって、生きてる間二度と会えないんだ、と思うしかありませんでした。
しかし、巨人は太郎を家に連れていき、自分の乳を飲ませました。すると親指太郎は大きくなって、巨人なみに背が伸び力が強くなりました。二年経ったとき、巨人は太郎を森へ連れていき、力を試そうとして、「一人で木を抜いてみろ」と言いました。すると男の子はもうかなり力があったので、若木の根ごと地面から引き抜きました。しかし、巨人は(これよりもっとよくなければならない)と考え、太郎をまた連れ戻し、さらに二年乳を飲ませました。それから太郎を試すと、とても力がついていたので、古い木を地面から引き抜くことができました。
それでも巨人には十分でありませんでした。巨人はさらに二年乳を飲ませました。それから太郎と一緒に森に行くと、「さあ、本物の木を引き抜け」と言いました。男の子は地面から一番大きい樫の木を引き抜いたので、木が裂けてめりめりと音がしました。それはほんのつまらぬことでした。「さあ、これでよい。お前は申し分ない。」と巨人は言って、前にさらっていった畑へ連れ戻しました。畑では父親が鋤(すき)で耕していました。若い大男は父親に近づいて、「お父さん、わかりますか?あんたの息子は立派な男になったでしょう?」と言いました。
お百姓は驚いて、「いいや、お前は私の息子じゃない、お前に用はない、あっちへ行ってくれ。」と言いました。「本当にあんたの息子なんだ。僕にその仕事をやらせて。お父さんと同じくらいうまく耕せるから、いや、もっとうまくやれるよ。」「いや、いや、お前は私の息子じゃないよ。それに鋤を使えないよ、あっちへ行ってくれ」ところが、父親はこの大男がこわかったので、鋤を放し、後ろに下がって畑の脇に座りました。そこで若者は鋤をとり、片手でつかんだだけなのですが、鋤が地中深く入りました。
お百姓はそれを見ていられなくて「お前が本気で耕す気なら、そんなに強く押しちゃだめだ。それじゃうまくいかない。」と声をかけました。ところが、若者は馬をはずして、自分で鋤を引っ張り、「お父さん、いいから家に帰ってよ。お母さんに、大皿いっぱい食べ物を用意するように言って。その間に僕が畑を耕すから。」と言いました。それでお百姓は家に帰り、おかみさんに食べ物を用意するように言いました。一方、若者は二エーカーの広さがある畑を全くひとりで耕し、それから馬鍬{まぐわ}を自分につないで畑全部をならしました。一度にふたつの馬鍬を使ったのです。それが終わると、森へ入って二本の樫の木を引き抜き、肩にかけると、一本には前と後ろに一つずつ馬鍬を、もう一本の前と後ろに馬をのせ、それをみんな一束のわらであるかのように両親の家へ運びました。
若者が中庭に入ると、母親は見ても息子だとわからず、「あの恐ろしく大きい男は誰なの?」と尋ねました。父親は「あれはおれたちの息子だ」と言いました。母親は「いいや、息子のわけないでしょ。うちの息子はあんな大男じゃなく、チビすけだったわ。」と言いました。母親は若者に、「出て行ってくれ、あんたに用はないよ。」と叫びました。若者は黙って馬を馬小屋に入れ、からす麦と干し草をやり、必要なことをみんなやりました。これが終わると、部屋に入り、ベンチに座って、「お母さん、食べものが欲しいんだけど、すぐできる?」と言いました。母親は「できるよ」と言って食べ物でいっぱいのすごい大皿をもってきました。それだけあればおかみさんと亭主なら一週間腹いっぱい食べるのに十分な分量でした。ところが若者はひとりで全部食べてしまい、もっと何かないのかと尋ねました。「ないよ」と母親は言いました。「それであるもの全部だよ。」「だけど、これじゃ味見にしかならないよ。どうしたってもっと食べたいよ。」
母親は逆らわず、出て行って豚の大きな飼葉桶に食べ物をいっぱい入れて火にかけました。そして出来上がると、部屋に持ってきました。「とうとう、少しかけらがきた。」と若者は言って、あるもの全部をがつがつ食いましたが、やはりすいたお腹がいっぱいにはなりませんでした。それで若者は、「お父さん、よくわかったよ、ここじゃ僕は腹いっぱい食べられないんだ。僕が膝で折れないくらい頑丈な鉄の棒をくれれば、僕は世間に出ていきます。」と言いました。お百姓は喜んで、二頭の馬に荷車をつなぎ、鍛冶屋から二頭の馬がやっと運べるくらいのとても大きく太い棒をもってきました。
若者はそれを膝にわたし、バキッ、豆のつるのように真ん中から二つに折って放り投げました。それで父親は四頭の馬をつないで行き、四頭でやっとひきずってこれるくらい長くて太い棒を持ってきました。息子はこれも膝で二つに折ってしまい、放り投げると、「お父さん、これじゃ僕の役には立たないよ。もっと馬をつないでもっと頑丈な棒を持って来なくちゃだめだよ。」と言いました。それで父親は八頭の馬をつないで行き、八頭でやっと運べる長くて太い棒をもってきました。息子はそれを手に持ち、すぐに端を折ってしまい、「お父さん、お父さんは僕が望むようなものを手にいれられないんだとわかったよ。もう僕はここにいないよ。」と言いました。
そこで若者は家を出て、自分は鍛冶屋の職人だと名乗りました。ある村に着くと鍛冶屋が住んでいましたが、この男はしみったれで人に親切な施しをすることは決してなく、何でも独り占めしたがりました。若者は鍛冶屋に入って行き、職人は要りませんか?と尋ねました。「ああ、要るよ」と鍛冶屋は言って若者を見、(こいつは力があるやつだな、ハンマーをよく打ってパンを稼ぐだろう)と思いました。そこで、「給金はいくら欲しいかね?」と聞きました。
「給金は全然要りません」と若者は答えました。「ただ二週間に一回、他の職人が給金をもらうとき、あんたを二発なぐらせてください、これは我慢していただきます」けちんぼは心の底から満足し、(そうしたらたくさんの金が節約になるぞ)と思いました。次の朝、見知らぬ職人は仕事にとりかかることになりましたが、親方が真っ赤に焼けた棒を持って来て、若者が一打ちすると、鉄がばらばらに飛び散って、かなとこが地中深くめり込んでしまい、もう取り出せなくなってしまいました。そこでけちんぼが怒って、「なんと、お前は使えないな。あまり強く打ち過ぎるんだ。このひと打ちにいくら欲しい?」と言いました。
それで若い大男は「ただあんたに軽く一発お見舞いするだけ、それだけです。」と言いました。そうして足をあげて親方をけとばしたので、親方は干し草の山四つを越えて飛んで行きました。そうして若者は鍛冶屋の一番太い棒を選び出し、それを杖にして先へ進んでいきました。
しばらく歩いたあと、若者は小さな農場にやってきて、管理人に、下男頭は要りませんか?と尋ねました。「そうだな」と管理人は言いました。「ひとり要るよ。あんたは腕がありそうだ。大したことができそうだ。給金は年にどれくらい欲しいのかね?」若者はまた、給金は何も要りませんが、毎年あんたに三発お見舞いする、それは我慢してもらわなければならない、と言いました。すると管理人は満足しました。というのはこの男も業突く張りだったからです。
次の朝、下男たちはみんな森へ行くことになり、他の下男はもう起きていましたが、下男頭はまだ寝ていました。そこで下男の一人が呼びかけて、「起きろよ、時間だぞ、おれたちは森へ行くところだ。あんたは一緒に行かなくちゃいけないよ。」と言いました。「ああ」と下男頭はすっかり荒っぽく不機嫌そうに言いました。「じゃあ、いいから行けよ。おれは誰よりも前にまた戻るから。」そこで他の下男たちは管理人のところへ行き、下男頭がまだベッドに寝ていて、一緒に森へ行こうとしないんだ、と言いました。管理人は、もう一回起こしに行って、馬を荷馬車につなげと伝えてくれ、と言いました。ところが、下男頭は、前と同じに、「いいからそこへ行け、おれは誰よりも先に戻るから」と言いました。そうしてそのあと二時間長くベッドにいました。とうとう布団から起きあがると、まず屋根裏部屋から豆を二マスとってきて、かゆを作り、ゆったりとそれを食べ、それが終わると、馬を荷馬車につなぎ、森へでかけました。
森から遠くないところに峡谷があり、そこを通らなければなりませんでした。そこで若い大男は先に馬を前に進めておいて止めると、荷車の後ろにいき、木やそだをとってきて大きな障害物をつくり、馬が通れなくしました。
森に入って行くと、下男たちは荷車にたきぎを積んで森を出て帰るところでした。そこで下男頭は下男たちに、「進め、それでもおれはお前たちよりさきに家に着くから。」と言いました。下男頭は森に深く入って行かないですぐに大きい木の二本を地面から引き抜き、荷車に投げ込み、引き返しました。障害物のところにやってくると、他の下男たちは、通れなくて、まだそこにいました。「な、わかったか?」と下男頭は言いました。「お前たちがおれと一緒にいたら、同じくらい速く帰って、もう一時間は眠っていられたのにな。」
今度は自分が進もうとしましたが、馬が通れませんでした。そこで馬をはずし荷車の上にのせ、自分の手で車の長柄(ながえ)をつかんで引っ張り通り抜けました。それをまるで羽根を積んでいるかのように軽々とやってのけました。それが終わると、「ほら、な、お前たちより速く通り抜けたぜ。」と下男たちに言って、馬を進めて行ってしまいました。下男たちは立ち往生したままでした。中庭に入り、下男頭は一本の木を手にとり、管理人にみせて、「ほら、すばらしいたきぎの束でしょう。」と言いました。それで管理人はおかみさんに「あの下男はいいぞ。確かに長く寝ていても、ほかのやつらより先に家に戻るんだからな。」と言いました。
そうして下男頭は管理人のところで一年働きました。それが終わってほかの下男たちが給金を受け取っているときに、下男頭は、おれも貰うときだ、と言いました。しかし、管理人はなぐられるのがこわいので、なんとか許してもらえないだろうか、それよりも自分が下男頭になるから、あんたが管理人になった方がいい、と熱心にお願いしました。「いいや、おれは管理人にならない。おれはずっと下男頭でいるんだ。だが、取り決めしたことはやらせてもらうぞ。」と下男頭は言いました。管理人は、欲しいものは何でもやる、と言いましたが、だめでした。管理人が何を言っても下男頭は「だめだ」の一点張りでした。
それで管理人はどうしたらよいかわからなくて、二週間待ってくれ、と頼みました。その間に何か逃れる道を見つけようと思ったのです。下男頭はこれを承知しました。管理人は、書記たちをみんな呼び集め、何とかする方法を考え出してくれ、と頼みました。書記たちは長い間考えていましたが、とうとう言いました。下男頭にやられてあなたが生きていられるか誰もわかりません、だってあの男は虫けらみたいに人を簡単に殺すでしょうからね、ですから、やつに井戸に入りきれいにしろ、と命じてください、やつが下におりたら、みんなでそこにある石臼の一つを転がしてやつの頭に投げ落すんです、そうしたら、やつは二度と日の光をおがめなくなるでしょう、ということでした。
その案は管理人の気に入りました。下男頭は井戸に下りていくことを承知しました。下男頭が井戸の底に立っていると、みんなは大きな石臼を転がして落とし、下男頭の頭をぶち割ってやった、と思いました。ところが、下男頭が「おい、にわとりを井戸から追い払ってくれ、上で砂をひっかきまわし、おれの目に砂粒が入って目が見えなくなったぞ。」と叫びました。そこで管理人は「しっしっ」と大声で言ってニワトリを追い払っているふりをしました。下男頭が仕事を終え、井戸からあがってくると、「ほら、いいネクタイをしてるだろ」と言いました。なんと、首に巻いているのは石臼でした。
今度は下男頭は給金を受け取ろうとしましたが、管理人はまたしても二週間の猶予を願いました。書記たちは集まって相談し、夜に、下男頭を化け物の出る水車小屋に小麦をひかせにやればいいですよ、なんせ、あそこからは朝誰も生きて戻った人はいませんからね、と言いました。
この案は管理人の気に入り、すぐその夜に下男頭を呼んで、水車小屋に8ブッシェルの小麦を持って行って、今夜ひいてくれ、どうしても必要なんだ、と命じました。そこで下男頭は屋根裏部屋へ行き、2ブッシェルを右のポケットに、2ブッシェルを左のポケットに入れ、4ブッシェルをずだ袋に入れて、半分は背中に半分は胸に荷を積んで、化け物の出る水車小屋に行きました。粉屋は、昼に粉をひくのはいいが、夜はだめだよ、化け物が出るからね、今まで夜に水車小屋に入ったやつはみんな、朝中で死んで見つかったよ、と言いました。下男頭は、「おれはやれるよ、あんたは行って寝てくれ」と言いました。
それから水車小屋の中へ入り、小麦をあけました。11時ころ、下男頭は粉屋の部屋に入りベンチに座りました。しばらく座っていると、戸が突然開いて、大きなテーブルが入って来ました。そのテーブルの上にワインや焼き肉がひとりでにのり出し、しかもとても上等の食べ物でしたが、なんでもひとりでに出てきました。というのは誰も運ぶ人はいなかったのですから。
このあと、椅子が動いて並びましたが誰も来ませんでした。しまいにとうとう急に指がたくさん見えて、ナイフやフォークを使って皿に食べ物をとり分けました。しかし、指だけで他には何も見えませんでした。お腹がすいていて食べ物が目の前にあるので、下男頭もテーブルに座り、指だけ見えて食べている者たちと一緒に食べ、味わいました。下男頭がお腹いっぱい食べて、他の者たちも皿をすっかり空にすると、ろうそくが全部吹き消される音がはっきり聞こえました。もう真っ暗闇になっていて、下男頭は何かが横っ面をなぐった感じがしました。そこで、「もう一度とそんなことをやったら、おれもお返しにぶつからな。」と言いました。二発目を受けたとき、下男頭も打ち返しました。
そしてそれが一晩じゅう続きました。下男頭は打たれると必ずお返しをして、さらにおまけまでつけて返し、手当たり次第に無駄なく打ちました。ところが夜明けになるとすっかり止みました。粉屋が起きて下男頭がまだ生きてるかと様子を見にきました。すると、若者は、「おれはたっぷり食ったよ。何発かくらったが、おれもお返しをしてやった。」と言いました。粉屋は喜んで、もう水車小屋は魔法から解放された、と言って、お礼にたくさんお金をあげようとしました。しかし、下男頭は、「お金は要らないよ、たくさんあるんだ。」と言いました。そうして粉を背負い、帰っていき、管理人に、言いつけられたことをやったから、もう取り決めの手当てをもらうぞ、と言いました。
管理人はそれを聞いて、本当にこわくなってすっかり取り乱しました。部屋の中をうろうろして額からは汗のしずくが流れ落ちました。そうして、すがすがしい空気を入れようと窓を開けましたが、気がつかないうちに下男頭が蹴飛ばしたので、管理人は窓から空中に飛び出して、どこまでも飛んで誰にも見えなくなりました。
すると、下男頭は管理人のおかみさんに、「だんなが戻って来ないなら、あんたがもう一発の方をうけなくちゃいけませんよ。」と言いました。おかみさんは、「だめ、だめ、私にゃ耐えられません。」と叫び、額から汗のしずくが流れ落ちていたのでもう一つの窓を開けました。その時に下男頭が蹴飛ばしたので、おかみさんも窓から飛び出ました。おかみさんの方が軽いので亭主よりずっと高く上がりました。亭主は「こっちへ来いよ」と叫びましたが、おかみさんは、「あんたがこっちへ来なさいよ、私はあんたのところへ行けないのよ。」と言いました。こうして二人は空中に浮かんでいましたが、お互いのところには行けませんでした。二人がまだ空中を漂っているかどうかは知りませんが、若い大男は鉄の棒を手に、また道を進んでいきました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、何年も前に夫を亡くした年とったお后がいました。お后には美しい娘がいて、大きくなるとはるか遠くに住む王子と婚約しました。王女が結婚する時期が来て、遠い国へ旅立たねばなりませんでした。年とったお后は、娘のために多くの金銀の豪華な器、これもまた金銀の装飾品、杯や宝石など王家の嫁入りにふさわしいあらゆる品々を荷造りしました。というのはお后は子供を心から愛していたからです。
お后は侍女もつけてやりました。侍女は王女と一緒に馬ででかけ、花婿に王女を引き渡すことになっていました。旅するための馬がそれぞれありましたが、王様の娘の馬はファラダといい、話すことができました。それで別れの時が来て、年とった母親は寝室に入り、小刀をとって指を切り、血を出しました。それから白いハンカチをもって、そこに三滴の血を落とし、それを娘に渡して、「娘よ、これを大事に持っているのですよ。途中で役にたつでしょうから。」と言いました。
そこで、二人はお互いに悲しい別れを告げ、王女は胸にハンカチをしまい、馬に乗って、花婿のところへでかけました。しばらく行ったあと、王女はやけつくように喉が渇き、侍女に、「馬を降りて、お前がもってきた私の杯をとっておくれ。」と言いました。侍女は、「自分で馬を降りて、腹ばいになって川の水を飲みなさいよ。私はあなたの女中になる気はないの。」と言いました。
それで、とても喉が渇いていたので王女は馬を降りて、小川の水にかがみこみ飲んで、金の杯からのむことが許されませんでした。それで、王女は「ああ、ああ」と嘆くと、三滴の血が、「これをあなたのお母様がご存知なら、心臓が二つに張り裂けるでしょうに。」と答えました。しかし王様の娘はつつましく、何も言わないでまた馬に乗りました。
さらに何マイルか進んでいくと、昼は暑く、太陽が焦がすように照りつけ、王女はまた喉が渇いてきました。そして小川の流れに来たとき、王女はまた侍女に叫びました。「馬を降りて、金の杯で水をおくれ。」というのは王女は侍女のひどい言葉をとっくに忘れてしまっていたからです。しかし、侍女は前よりいっそう高飛車に、「飲みたいなら自分で飲みに行きなさいよ。私はあなたの女中になる気はないんだよ。」と言いました。そこでひどく喉がかわいていたので、王様の娘は馬を降り、流れている小川にかがみこみ、泣いて、「ああ、ああ」と言いました。すると血の滴は「もしあなたのおかあさまがこれをご存知なら、心臓が二つに張り裂けるでしょう。」と答えました。
こうして飲みながら流れのすぐ上に体を傾けているときに、三滴の血がついたハンカチが胸から落ち、王女が気づかないままに水と一緒に流れて行きました。王女の苦しみはそれほどに大きかったのです。ところが、侍女はそれを見ていて、もうこれで花嫁に力をふるえると考えて喜びました。というのは、血の滴を失くしたので、王女は弱く無力になったからです。
それで、王女が自分の馬のファラダにまた乗ろうとしたとき、侍女は、「ファラダは私の方が合ってるわ。あなたにはこのやくざ馬で十分よ。」と言いました。王女はその馬に甘んじるほかありませんでした。それから、侍女は、激しい言葉を言って、王女に王室の服と自分の粗末な服を取り替えるよう命令しました。そしてとうとう、王女は、天に誓ってこのことを王室の誰にも何も言わないと約束させられました。もしこの誓いをしなければ、その場で殺されていたのです。しかし、ファラダは一部始終を目にし、よく見つめていました。
今度は侍女がファラダに乗り、本当の花嫁は悪い馬に乗って、進んで行き、とうとう二人は王宮に入りました。花嫁の到着は大喜びで迎えられ、王子は花嫁を出迎えて走り出て、侍女を馬から降ろしてあげ、侍女が花嫁だと思っていました。
侍女は階段へ案内されましたが、本物の王女は下に立ったまま残されました。そのとき年とった王様が、窓からながめ、王女が中庭に立っているのを見て、娘がとてもかわいらしく上品で美しいのに気付きました。それですぐ部屋に行き、花嫁に、一緒に来て今中庭に立っている娘は誰か、と尋ねました。「あの娘は途中で道づれとして連れてきた者です。遊んでいないように何か仕事をさせてください。」
しかし、年とった王様には娘にさせる仕事がなく、何も知りませんでした。それで、「がちょう番をしている子供がいるから、手伝いをさせよう。」と言いました。その男の子はコンラッドという名前で、本物の花嫁は、その子ががちょうを世話するのを手伝うことになりました。その後まもなく、偽の花嫁は、若い王様に、「あなた、お願いがありますの。」と言いました。「いいよ。言ってごらん。」と王子は答えました。「では、家畜を殺す人を呼んで、私がここに乗ってきた馬の頭を切ってもらってくださいませ。旅の途中であの馬には困りましたわ。」本当は、自分が王様の娘に何をしたか馬が話すかもしれないと恐れたからでした。
それから、偽花嫁は、王子にそうすると約束させることができ、忠実なファラダは死ぬことになりました。このことは、本物の王女の耳にも聞こえてきたので、こっそり畜殺人に、ちょっと仕事をしてくれたら金貨を一枚あげると約束しました。町に大きな暗い門があり、そこを王女は朝夕、がちょうを連れて通らなくてはなりませんでした。「お願いですから、一度以上会えるように、ファラダの頭をその門に釘でとめてほしいの。」と王女は言いました。畜殺人はそうすると約束し、頭を切りとると、暗い門の下にしっかり釘付けしました。
朝早く、王女とコンラッドはがちょうの群れをこの門の下に追い立てていくとき、王女は通りながら「ああ、そこにかかっているファラダ」と言いました。すると、頭は、「ああ、若いお后さま、なんとひどいことでしょう。あなたのお母様がこれを知ったら、心臓が二つにひきさかれるでしょう。」と答えました。
それから二人は町からずっと遠くまで出かけ、野原へがちょうを追いたてました。牧草地へ来ると、王女は座って、髪をほどきました。その髪は純金のようで、コンラッドはそれを目にし、輝いているのが嬉しくて、二、三本抜こうとしました。すると、王女は、「吹け、吹け、やさしい風よ、コンラッドの帽子を吹き飛ばし、コンラッドをあちこち追いかけさせておくれ。私が髪を編んで縛るまで。」
すると、突風が吹いて来て、コンラッドの帽子を野原の遠くまで吹き飛ばし、コンラッドは追いかけて行くしかありませんでした。戻って来たときは王女は髪をすきおわり、また結いあげているところでコンラッドは一本もとれませんでした。それでコンラッドはむくれて王女に話しかけようとしませんでした。こうして夕方までがちょうの番をして、家に帰りました。次の日、がちょうを追いたてて暗い門を通る時、「ああ、そこにかかっているファラダ」と言いました。すると、頭は、「ああ、若いお后さま、なんとひどいことでしょう。あなたのお母様がこれを知ったら、心臓が二つにひきさかれるでしょう。」と答えました。
そして、王女はまた野原に座り、髪をすき始め、コンラッドは走っていって髪をつかもうとしました。それで王女は急いで「吹け、吹け、やさしい風よ、コンラッドの帽子を吹き飛ばし、コンラッドをあちこち追いかけさせておくれ。私が髪を編んで縛るまで。」すると風が吹いて、コンラッドの帽子を頭から遠くまで吹き飛ばし、コンラッドは追いかけて行くしかありませんでした。戻って来たときは王女はとっくに髪を結い上げてしまっていて、コンラッドは何もとれませんでした。そうして夕方になるまでがちょうの番をしていました。
しかし、家に帰ったその晩、コンラッドは年とった王様のところへ行き、「もうあの娘と一緒にはがちょうの世話をしません。」と言いました。「どうしてかね?」と年老いた王様は尋ねました。「ああ、だってあの人は一日中私を怒らせるのです。」それで年老いた王様は、いったい娘が何をしたのか語らせました。コンラッドは言いました。「朝、がちょうと一緒に暗い門の下を通る時、壁に馬の頭がかかっていて、あの人は『ああ、そこにかかっているファラダ』と言うんです。すると、頭は、『ああ、若いお后さま、なんとひどいことでしょう。あなたのお母様がこれを知ったら、心臓が二つにひきさかれるでしょう。』と答えます。」コンラッドは続けて、がちょうの草地で起こったことや、そこで帽子を追いかけさせられたことを語りました。
年老いた王様は、コンラッドに次の日もがちょうを追うように命令し、朝が来るとすぐ、暗い門のかげに行き、娘がファラダの頭に話しかけるのを聞きました。それから自分もまた野原にいき、牧草地のやぶのかげに身を隠しました。そこに、まもなくがちょう番の娘とがちょう番の男の子が群れを連れてくるのを自分の目で見ました。また、しばらくして娘が座り髪をほどき、その髪がきらきら輝くのもみました。まもなく娘は言いました。「吹け、吹け、やさしい風よ、コンラッドの帽子を吹き飛ばし、コンラッドをあちこち追いかけさせておくれ。私が髪を編んで縛るまで。」
すると、サッと風が吹き、コンラッドの帽子をさらっていったのでコンラッドは遠くまで走らされました。一方、娘は静かに髪をすき、編み続けました。これをすべて王様は見ていました。それから、そっと王様は立ち去りました。がちょう番の娘が夕方に帰ってくると、王様は娘をそばに呼び、どうしてこういうことをしたのか尋ねました。「それを言ってはいけないのです。私は人間には誰にも悲しみを訴えられません。天に誓って言わないと約束したのですから。もしそう誓わなかったら、殺されていたのです。」
王様はしきりに促して何度も何度も話すようにと言いましたが、娘からは何もひきだせませんでした。それで、「わしに何も話すつもりがないなら、そこの鉄のストーブにお前の悲しみを話すがいい。」と言って立ち去りました。それで、王女は鉄のストーブに這って入り、泣いて訴え始め、心のありったけを打ち明け、「私は世間みんなから見捨てられここにいますが、私は王様の娘です。不実な侍女が力づくでむりやり私の王家の服を脱がさせ、私と入れ換わって花婿と一緒にいるのです。そして私はがちょう番の娘として卑しい仕事をするしかなくなりました。これをお母様が知ったら心が張り裂けてしまうでしょう。」と言いました。
ところが、年老いた王様は、外のストーブの煙突のそばに立って、娘の言うことに聞き耳をたて聞いていました。それからまた戻り、娘にストーブから出るように告げました。王族の服が娘の前に着せられ、娘がどんなに美しかったことか、驚くべきことでした。年老いた王様は、息子を呼び出し、ただの侍女が偽花嫁になったこと、本物は前のがちょう番の娘でそこにたっている、と明かしました。若い王様は娘が美しく若いのを見て心から喜びました。それから家来や親しい友達のみんなが招かれる大宴会が準備されました。
食卓の上座に花婿は座り、王様の娘と侍女は花婿の両隣に座っていましたが、侍女は目がくらみ、まばゆい衣装のため王女だとわかりませんでした。食べたり飲んだりして賑やかな時、年老いた王様は侍女に、これこれのやり方で主人に接した人にはどんな罰がふさわしいか、というなぞをかけました。そして同時にまるまる話をして、そんなひとはどんな刑に値するか、と尋ねました。すると不実な花嫁は、「その人は、すっ裸に服をはぎ、中にとがった釘をうちこんだ樽にいれ、その樽を2頭の馬につなぎ、死ぬまで、あちこちの通りを引きずりまわすのが一番よろしいでしょう。それよりもよい運は望めませんわ。」と言いました。
「それはお前だ。」と年老いた王様は言いました。「そしてお前は自分の刑を言ったのだ。それではおまえにその通りの刑を与えよう。」刑罰が実際に行われた時、若い王様は本物の花嫁と結婚しました。それから二人とも平穏で幸せに国を治めました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、長い旅にでかけようとしてした男が、三人の娘たちに、お土産は何がいい?、と別れ際に尋ねました。すると、一番上の娘は真珠を欲しがり、二番目の娘はダイヤモンドがいいと言いましたが、三番目の娘は、「お父さん、私は鳴いて舞い上がるひばりがいいわ。」と言いました。父親は、「いいよ、手に入れられたら、持って来てやろう」と言い、三人にキスし、出かけて行きました。
さて父親が家に帰る時が来て、上の二人の娘には真珠とダイヤを持ってきましたが、末の娘にやる鳴いて舞い上がるひばりはどこを探しても見つからないので、とても残念に思っていました。というのはこの娘を一番可愛がっていたからです。道が森を通っていて、森の真ん中に素晴らしい城がありました。城の近くに一本の木が立っていましたが、その木の上に、鳴いて舞い上がるひばりが見えました。「やあ、ちょうどいいときにでてきてくれたね。」と父親はとても喜んで言い、召使を呼んで木に登りその小さな生き物を捕まえるよう言いました。
ところが、召使がその木に近づくとライオンが木の下から跳び出してきて、身ぶるいし、木々の葉が震えるほど吠えました。「おれの歌って舞い上がるひばりを盗もうとするやつは」とライオンは叫びました。「食ってしまうぞ。」それで父親は「その小鳥があなたのものだとは知りませんでした。この償いはいたします。身代金のお金もたくさんお渡しします。命ばかりはお助け下さい」と言いました。
ライオンは言いました。「何をしたってだめだ。ただ家に帰ったとき最初に出会うものを私にくれると約束するなら命を助けてやろう。そうすればお前の命を助けてやるだけでなく、お前の娘にその鳥をくれてやろう。」しかし、父親はためらって、「それは私の末娘になると思います。私を一番愛していて、私が帰るといつだって走って出迎えるのです。」と言いました。ところが召使はこわがって「出迎えるのは娘さんとは限りませんよ、猫とか犬かもしれませんよ。」と言いました。そうして父親は説き伏せられて、鳴いて舞い上がるひばりを受け取り、ライオンに、家に帰って最初に出会うものをあげる約束をしました。
父親が家に着いて中に入ったとき、最初に出迎えたのは他ならぬ一番かわいがっている末娘でした。娘は走り寄ってきて、父親にキスし抱きしめました。父親が鳴いて舞い上がるひばりを持ってきたのを見ると、我を忘れんばかりに大喜びしました。しかし父親は喜ぶどころか、泣き出して、「娘よ、その小鳥はずいぶん高く買ってしまったよ。小鳥と引き換えに、お前をどう猛なライオンにあげる約束をする羽目になったんだ。お前を手に入れたら、あいつはお前を引き裂いて食ってしまうだろう。」と言いました。そして娘に起こったことをありのままに話して聞かせ、どうなろうとそこに行かないでくれ、と頼みました。
しかし、娘は父親を慰め、「お父さん、約束したことはちゃんと果たさなくてはなりませんわ。私はそこへ行ってライオンをなだめてみます。そして無事にお父さんのところへ戻ってきます。」と言いました。次の朝、娘は道を教えてもらい、お別れをして、こわがらないで森へ入って行きました。ところで、ライオンは魔法にかけられた王子で、昼のあいだはライオンになっていて、家来たちもみんな王子と一緒にライオンになっていましたが、夜には元の人間の姿にもどっていたのです。娘は着くと親切に迎えられ、城に案内されました。夜になるとライオンはハンサムな男に変わり、二人の結婚式がとても豪華にあげられました。
二人は一緒に幸せに暮らし、夜に起きていて、昼の間は眠っていました。ある日、王子がやってきて、「明日、一番上のお姉さんが結婚するので、お前のお父さんの家で祝宴がある。もし行きたいなら、家来のライオンたちに案内させるよ。」と言いました。娘は「ええ、お父さんにとても会いたいわ。」と言って、ライオンたちにつきそわれてそこへ行きました。娘が着くとみんな大喜びしました。というのは娘はライオンに引き裂かれ、とっくに死んでしまったものと思っていたからです。しかし、娘は、どんなにハンサムな夫を持ち、どれだけ豊かに暮らしているかをみんなに話し、結婚式のお祝いが続いている間みんなのところにとどまり、それからまた森へ戻りました。二番目の娘が結婚するときになり、また結婚式に呼ばれたときに、娘はライオンに、「今度は私一人で行くのではなく、あなたも一緒に来てくださいね。」と言いました。
ところが、ライオンは、それは僕には危険すぎるよ、燃えているろうそくの光があたると、ぼくは鳩に変えられてしまうんだからね、そうして鳩たちと7年間飛びまわっていなければならなくなるんだ、と言いました。娘は、「そう、でも是非一緒に来て。よく注意してあなたに光があたらないように私が守るから。」と言いました。そこで二人で一緒に出かけ、二人の小さな子どもも一緒に連れて行きました。娘はそこで部屋を、頑丈で壁を厚くし光がまるでさしこまないように作らせました。結婚式のお祝いにろうそくが灯されるとき、この部屋に王子は閉じこもることになりました。ところが戸は生木でできていて、そって小さな割れ目ができていたのに誰も気づきませんでした。
結婚式は盛大に祝われましたが、ろうそくやたいまつをたくさんもった行列が教会から戻ってこの部屋を通りすぎたとき、髪の毛ほどの光が王様の息子の上にさし、この光が触れるとたちまち王子は姿が変わり、娘が部屋に入り王子を探したときには、王子は見えなくて白い鳩がそこに座っていました。
鳩は娘に、「7年間僕は世界を飛びまわっていなければならない。だけどお前が歩く7歩ごとに僕は赤い血を一滴と白い羽根を一枚落としておく。これでお前は道がわかるだろう。お前がそのあとをたどってくれば僕の魔法を解くことができるよ。」と言いました。そうして鳩は戸口から飛んででていきました。娘はそのあとをつけました。すると7歩歩くごとに赤い血が一滴と小さな白い羽根が落ちてきて、娘に道を教えてくれました。
そうして娘は広い世の中にだんだん深く入っていき、脇目もふらず休みもしませんでした。そうしているうちに7年が過ぎようとして、娘は喜び、自分たちはまもなく救われるだろうと考えました。しかしとんでもありませんでした。あるとき、二人がこうして進んでいるとき、小さな羽根も赤い血も落ちてこなくなり、娘が目を上げると、鳩は消えてしまっていました。娘は、(これでは人間は誰もあなたを助けられないわ)と考え、お日さままでのぼっていき、お日さまに、「あなたは岩の割れ目の中も山のてっぺんの上もどこでも照らしています。白い鳩が飛んでいるのをご覧になりませんでしたか?」と言いました。「いいえ」とお日さまは言いました。「何も見なかったが、お前に宝石箱をあげよう。とても困ったときに開けなさい。」
そこで娘はお日さまにお礼を言い、歩き続けましたが、やがて夕方になり、お月さまが出ました。それで娘はお月さまに、「あなたはあらゆる野原や森を一晩じゅう照らしてますが、白い鳩が飛んでいるのを見ませんでしたか?」「いいえ」とお月さまは言いました。「鳩は見ませんでしたが、あなたに卵をあげましょう。とても困ったときに割るんですよ。」そこで娘はお月さまにお礼を言い、進んでいくと、夜風が近づいて来て、娘に吹きつけました。
それで娘は夜風に「あなたはどの木にもどの葉の下にも吹きますが、白い鳩が飛んでいるのを見ませんでしたか?」「いいえ」と夜風は言いました。「鳩は見ないが、他の三つの風たちにもきいてみよう。見たかもしれないから。」東風と西風が来ましたが、何も見ていませんでした。しかし、南風は「私は白い鳩を見ましたよ。紅海に飛んで行きましたが、そこでまたライオンになりました。7年が終わりましたからね。ライオンはそこで竜と戦っていますが、その竜は魔法にかけられた王女ですよ。」
すると夜風が娘に言いました。「いいことを教えてあげよう。紅海に行き、右の岸に高い葦が生えているから、数えて11番目を折り取るんだ。そうしてそれで竜をうつと、ライオンは竜に勝てるし、両方とも人間の姿に戻るよ。そのあと、見回すと紅海の岸にいるグライフ鳥が見えるだろう。その背に愛する人と飛び乗るんだ。すると鳥は海を越えてお前の家へ運んでくれる。さあくるみを一個あげよう。海の真ん中にきたら、そのくるみを落とすんだ。それはすぐに芽を出し高いくるみの木が水中から生える。その上でグライフ鳥は休むんだ。休めないとグライフ鳥は海を渡れるほど強くないからね。くるみを落とし忘れればグライフ鳥は海の中へお前たちを落としてしまうよ。」
それで、娘がそこへ行くと、すべてが夜風の言ったとおりでした。娘は海辺の葦を数えて11番目を切りとり、それで竜をうちました。するとライオンが竜に勝ち、途端に両方とも人間の姿に戻りました。しかし、前に竜だった王女は魔法から解かれると、若者の腕をとり、グライフ鳥に乗って一緒に連れ去ってしまいました。可哀そうな娘は、はるばる旅をしてきて、またもや見捨てられ、そこに立っていました。
娘は座りこみ泣きましたが、やがて勇気を取り戻し、「それでも私は、風が吹く限りどこまでも、雄鶏が時を作るかぎりいつまでも、あの人を見つけるまで行こう。」と言いました。そうして長い、長い道のりを歩いていって、とうとう二人が一緒に住んでいるお城に来ました。そこで娘は、まもなく祝宴が開かれ、二人が結婚式をあげる、という噂を聞きました。しかし、娘は「神様はそれでも助けてくださるわ。」と言い、お日さまがくれた宝石箱を開けてみました。そこにはお日さまそのもののようにまばゆいドレスが入っていました。それで娘はそれを取り出して着ると、お城に入って行きました。するとみんなが、花嫁自身でさえも、驚いて娘を見ました。
花嫁はそのドレスをとても気に入って、花嫁衣装にいいわ、と思いました。それで娘に「それを売ってくれませんか?」と尋ねました。「お金や土地では売りません」と娘は答えました。「でも肉と血でならいいわ。」花嫁はそれはどういう意味ですか?と尋ねました。それで娘は「花婿が眠る部屋で一晩眠らせてください」と言いました。花嫁はそうしたくありませんでしたが、とてもそのドレスが欲しかったので、しまいには承知しました。しかし、お付きの者に命じて王子に眠り薬を飲ませました。それで、夜になり若者がもう眠っているときに、娘は部屋に案内されました。娘はベッドの上に座り、言いました。「私は7年間あなたを追ってまいりました。お日さまやお月さまや四つの風のところにも行ってあなたのことを尋ねてきました。竜からあなたを助けました。それなのにあなたは私をわすれてしまったの?」しかし、王子はぐっすり眠っていたので、外でもみの木に風が吹きつけているようにしか聞こえませんでした。そうして夜明けになると娘はまた部屋から連れ出され、金のドレスをあきらめるしかありませんでした。
しかもそれすら何の役にも立たなかったので娘は悲しくなり、草原に出て行くとそこに座り泣きました。そこに座っているうちに、娘はお月さまがくれた卵のことを思いつきました。娘がそれを開けると、コッコッと鳴くめんどりが一羽出てきて、全部金のひよこを12羽連れていました。ひよこたちはぴよぴよ鳴きながら走り回り、まためんどりの羽の下にもぐりました。その有様はとても素晴らしく、この世でまたと見られないものでした。そこで娘は立ち上がり、ひよこたちを追って草原を渡っていくと、花嫁は窓から見ていました。花嫁は小さなひよこたちがとても気に入ったのですぐに下りてきて、売ってくれませんか?と尋ねました。「「お金や土地では売りませんが、肉と血でならいいわ。花婿が眠る部屋で一晩眠らせてください」と娘は答えました。花嫁は「ええ、いいわ」と言い、また前の番と同じように娘を欺くつもりでした。
しかし、王子は寝るときに、お付きの者に、夜にぶつぶつ、がさがさしていたのは何だったのか?と尋ねました。そこでお付きの者は、可哀そうな娘がこの部屋でひそかに眠ったので、あなたに眠り薬を飲ませるよう命じられたのです、今晩もまた眠り薬を飲ませることになっています、と全部話しました。王子は、「ベッドのわきに眠り薬を捨てろ」と言いました。
夜に、娘はまた部屋に案内されました。そうして娘がどれだけいろいろひどい目にあったか語り始めると、王子はその声ですぐに愛する妻だとわかり、飛び起きて、「今こそ本当に解き放たれた。僕は夢の中にいたようだった。というのは見知らぬ王女が僕を魔法にかけ、君を忘れさせたのだ。しかし神様が僕をちょうどよいときに魔法から救ってくださった。」と言いました。そうして二人は夜のうちに密かに城を抜け出しました。というのは王女の魔法使いの父親をおそれたからです。二人はグライフ鳥に乗り、グライフ鳥は紅海を渡って二人を運び、真ん中にきたとき娘はくるみを落としました。途端に大きなくるみの木が生えて、そこで鳥は休み、それから二人を家に運んでくれました。家には子どもがいましたが、もう背が高く美しく成長していました。それからみんなは死ぬまで幸せに暮らしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、神様自身がまだこの地上の人間の間を歩きまわっていたとき、あるとき疲れて宿屋に着く前に暗くなりました。目の前の道にお互いに向き合っている二軒の家が立っていて、一軒は大きくきれいで、もう一軒は小さくみすぼらしい家でした。大きな家は金持ちのもので、小さな家は貧乏人のものでした。それで、神様は、「金持ちなら負担にならないだろう。あそこに泊めてもらおう」と思いました。それから金持ちは誰かが戸をたたいている音を聞き、窓を開けて、「何の用だ?」と見知らぬ人に尋ねました。神様は「一晩泊めて欲しいんだが。」と答えました。すると、金持ちはその旅人を頭からつま先までながめて、神様が粗末な服を着ていてあまりお金を持っていない人のように見えたので、首を振って「だめだ、泊めてあげられない。部屋にハーブや種がいっぱいあるんでね。戸をたたく人みんなを泊めていたら、そのうち自分が物乞いして歩くようになるよ。よそで泊ってくれ。」と言って、窓を閉め、そこに神様を立たせておきました。
それで、神様は金持ちに背を向け、道を渡って小さい家に行き、戸をたたきました。そうするとすぐ、貧しい男が小さな戸をあけて、旅人に入るようにいいました。「うちに泊ってください。外はもう暗いですよ。今夜はこれ以上行けませんよ。」と男は言いました。神様はこれが気に入ったので、中に入りました。貧乏人のおかみさんが神様と握手し、歓迎して、「どうぞお楽になさってください。あるもので我慢してくださいね。さしあげるものがあまりありませんが、あるものは心をこめてお出ししますからね。」と言いました。それからじゃがいもを火にかけ、煮ている間に、じゃがいもに少しミルクを入れられるように、ヤギの乳をしぼりました。クロスが敷かれると、神様は男とおかみさんと一緒に席に着き、食事を楽しみました。というのは食卓でみんな楽しそうな顔をしていたからです。
食事が終わり寝る時間になると、おかみさんは夫を呼びだして「ねえ、あなた、今夜私たちが寝るわらの布団を作りましょう。それで可哀そうな旅の人は私たちのベッドで寝てよく休めるわ。だって一日中歩いてるんだから、お疲れですよ。」と言いました。「いいとも。」と男は答えました、「行ってお客に話してくる。」そして男は見知らぬ人のところに行き、もしよろしければ私たちのベッドで眠りゆっくり手足を休ませてください、と言いました。神様は二人のベッドを遠慮して受け取らなかったのですが、二人はそれでは気が済まず、とうとう神様は申し出を受けて二人のベッドに寝て、一方二人は床のわらに寝ました。
次の朝二人は夜明け前に起きて、お客のためにできるだけおいしい朝食を作りました。小さな窓から太陽の光が入ってきたとき、神様はもう起きていて、また二人と一緒に食べ、それから旅を続ける支度をしました。しかし戸口に立っている時、振り向いて、「あなたたちはとても親切でやさしいので、自分のために3つの願い事をしなさい、私が叶えてあげよう。」と言いました。
すると、男は「ずっと幸せでいるのが一番です。それから私たち二人が生きてる限り健康で毎日食べるパンがありますように。3番目に願うことは、何を望んだらいいのかわかりません。」と言いました。それで神様は「この古い家の代わりに新しい家を願うかね?」と言いました。「ああ、そうだね。新しい家も貰えるなら、是非そうしたいですね。」と男は言いました。それで神様は願いを叶えて、古い家を新しい家に変え、二人をもう一度祝福して、立ち去りました。
金持ちが起きたのは太陽が高く昇ってからで、窓によりかかって外を見ると、道の向い側の、前は古い小屋があったところに赤い瓦と明るい窓の新しいきれいな家がありました。男はとても驚いておかみさんを呼び、「いったい何があった?教えてくれ。昨日の夜はあそこにはみすぼらしい小さな小屋が建っていたんだ。それが今日はきれいな新しい家になっている。急いでいってどうしたのか聞いてこいよ。」と言いました。
それでおかみさんは行って貧しい男に尋ねると、男は「昨日の夜、旅の人がここに来て一晩の宿を頼んだんだよ。それで今朝、別れるとき3つの願いを叶えてくれたんだ。永遠の幸福とこの世での健康と毎日のパンだよね。その他に古い小屋の代わりに美しい新しい家だよ。」と答えました。金持ちのおかみさんはこれを聞くと、大急ぎで走って帰り、旦那に起こったことを話しました。男は、「おれは自分の体をずたずたに引き裂きたいよ。それを知っていたらなあ。旅の人はうちにも来たんだ。ここで泊りたいと言ったよ。なのにおれは追い返したんだ。」と言いました。「急いで、馬に乗って行って。まだ追いつけるわよ。そうしたらあなたにも3つの願いを叶えてくれるよう頼まなくっちゃ。」とおかみさんは言いました。
金持ちは、そうしよう、とおかみさんの言葉に従って、馬で走って行き、まもなく神様に追いつきました。男は神様にやさしくあいそよい口調で話し、すぐ家へ入れなかったことを悪くとらないようお願いしました。そして「玄関の鍵を探していたんですがね。そのうちにあなたは行ってしまわれたんです。同じ道を戻るのでしたら、家へ来てお泊りください。」と言いました。神様は、「ああ、また戻ってきたら、そうするよ。」と言いました。それで金持ちは、隣の人のように自分も3つ願い事をしてよろしいでしょうか、と尋ねました。ああ、いいよ、だけどお前のためにはならないだろうよ、何も願わない方がいいと思うがね、と神様は言いました。しかし金持ちは、叶えられると知ってさえいれば自分がもっと幸福になれるものを簡単に願うことができると考えました。それで神様は「じゃあ、馬に乗ってかえりなさい。これからする3つの願いは叶えられるよ。」と言いました。
金持ちは欲しいものを手に入れたので、馬で帰っていき、何を願おうかと考え始めました。こうして考えているうちに手綱を放し馬が跳ねまわり始め、男が考えにふけると常に邪魔されるので、全然考えをまとめることができませんでした。男は馬の首をたたいて「暴れるな、リサ」と言いましたが、馬は新しい悪ふざけを始めるばかりでした。それでとうとう腹がたち、すっかり苛立って「お前の首が折れて欲しいもんだ」と叫びました。その言葉を言った途端、馬は地面に倒れ、そこに死んで転がったまま二度と動きませんでした。こうして男の第一の願いが叶えられました。
男は生まれつきけちだったので、鞍をそこにおいていきたくありませんでした。それで鞍を切りとって背中にかつぎました。今度は歩いていかねばなりませんでした。「まだあと二つ願いが残ってるぞ。」と男は言って、そう思うことで自分を慰めました。砂地をゆっくり歩いていて、昼の太陽がかんかんにてっているので、男はすっかり機嫌が悪く怒りっぽくなってきました。鞍で背中は痛むし、何を願掛けするかまだ思いついていませんでした。「仮に世界中の富と財宝を願うとすれば、それでもあとでいろいろ他の物を思いつくだろうなあ。前からそれを知ってるよ。だけどあとで願いたいものがまったく残らないようになんとかやってみるさ」と独り言を言いました。それからため息をつき、「ああ、おれがあのバイエルン人の百姓だったらな、同じように3つの願い事を叶えてもらったじゃないか、それでどうしたらよいかとてもよく知っていたよな。まず第一に大量のビールだろ、2番目に飲めるだけのビールを、そしておまけに3番目に1樽のビールを願っていたっけな。」何度も何度も男は願うことを見つけたと思いましたが、あとで結局はその願いは少なすぎるように思えました。
それからふと、(うちのかみさんはなんて楽をしてるんだ、家にいて涼しい部屋でたのしくやってるんだからな。)と思いました。そう思うと、本当にイライラしてきて、気付かないうちに「かみさんがそこでこの鞍に乗ってておりられなければいいのに。おれが背中に担いで引きずらなくてはいけないんじゃなくてさ。」と言いました。そして最後の言葉を言い終わると、鞍は背中から消え、男は2番目の願いが叶えられたことをしりました。
それで男は実にカッカッと熱くなりました。家の自分の部屋で全く一人になり、最後の願掛けに本当に大きなことを考えようとして、走り出しました。しかし家へ着いて居間の戸を開けると、おかみさんが部屋の真ん中で鞍に座り、泣いて文句を言っていて、降りることができないでいました。それで男は、「我慢してくれ。お前のためにこの世の富すべてを願うからね。そこにいてくれ。」と言いました。しかし、かみさんは、男を馬鹿と呼び、「この鞍に乗っていなくちゃいけないなら、この世の富全てが何の役にたつのよ。あんたが私を乗るように願掛けしたんでしょ、だから降ろしてよ。」と言いました。それで否応もなく、男は3番目の願いを、かみさんが鞍から離れおりられますように、とするしかありませんでした。そしてすぐに願いは叶えられました。それで男は、いらいらし、骨折って、ののしられ、馬をなくした、ということのほかに何も得られませんでした。しかし、貧しい人たちは幸せな死を迎えるまで、満足して平穏に信心深く暮らしました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
あるとき、狐が太ったガチョウの集団がいる草原にきました。狐はにんまりし、「ちょうどいいタイミングで来たよ、君たちはとても見事にそろっているもんだ。それでおれは次から次へと君たちを食べていけるよ。」と言いました。ガチョウたちは恐怖でクワックワッと鳴いて跳び上がり、嘆き悲しんで哀れっぽく命乞いをしました。しかし狐は何も耳を貸そうとしないで「情けは無い。お前たちは死ななければならないな。」と言いました。
とうとう1羽が気を取り直して、「もし私たちガチョウが、命を差し出さなければならないなら、一つだけ願いを聞いて、罪の中で死ななくてもよいようにお祈りさせてください。そうしたら一列に並んであなたが一番ふとっているのをいつも選べるようにします。」と言いました。
「いいだろ。筋が通った話だ。信心深い頼みだな。祈れ、終わるまで待ってやる。」と狐は言いました。
すると最初のガチョウが、たっぷり長い祈りを始め、いつまでもガッガッといっていました。そして終わりそうもないので、2番目のガチョウは自分の番が来るのを待たずに、ガッガッと始めました。3番目と4番目も続いて鳴き出し、まもなく全員が一緒にグワッグワッと鳴いていました。
ガチョウがお祈りを終わったらお話は続けられるんですが、今のところ、まだ止まずに祈り続けています。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、小さな小屋の他は何もない貧しい男と貧しい女がいました。魚取りで生活費を稼いでいて、いつもその日暮らしでした。しかし、ある日男が水辺に座って網を投げていたとき、まるまる金でできている魚を引き揚げました。ひどくビックリして魚を見ていると、魚が話し始め、「ねえ、猟師さん、私をまた水に戻してくれたら、あなたの小さな小屋を素晴らしいお城に変えてあげます。」と言いました。
すると漁師は、「何も食べるものがなくちゃ、城が何の役に立つんだい?」と答えました。金の魚は続けて、「それも面倒をみますよ。城の中に戸棚があり、それを開けると、あなたが欲しいだけたくさん最高においしい肉料理があるようにします。」と言いました。「それが本当なら、願いをきいてやっていいよ。」と漁師はいいました。「お願いします。」と魚は言いました。「ですが、条件があります。あなたは世界中の誰にも、それが誰であっても、幸運がどこからきてるかもらしてはだめです。一言でも話せば、全部おしまいになりますよ。」それから男は不思議な魚を水に戻して、家へ帰りました。
しかし、前にあばら屋があったところに今は大きな城がありました。漁師は目を大きく見開いて入って行き、おかみさんがきれいな服を着て、豪華な部屋にいるのが目に入りました。おかみさんはすっかりご機嫌で、「あんた、どうしてみんなこうなっちゃったのかね?とってもいいわ。」と言いました。「そうだね。おれも気にいったよ。だけど、恐ろしく腹が減ってるんだ。なんか食べるものをくれよ。」と男は言いました。おかみさんは「だけど何もないし、この新しい家でどこを探せばいいのかわからないよ。」と言いました。「知らなくてもいいよ。あそこに大きな戸棚が見えるから。いいからその戸棚をあけてみろよ。」と男は言いました。おかみさんが開けると、ケーキ、肉、果物、ワインがあり、いかにも食事が楽しめそうでした。
すると女は喜んで、「最高よ!ね、あんた」と叫びました。そして二人は座って、一緒に食べて飲みました。おなかがいっぱいになった後、女は「でも、あんた、このお宝はどこからきたの?」と言いました。「ああ、」と男は答えました、「それは聞くな。何もお前に言ってはだめなんだから。誰かにもらしたら、この幸運はみんな消えちまうんだぞ。」「わかった。何も知ってはいけないなら、知ろうとしないわ。」とおかみさんは言いました。ところが、おかみさんは本気で言っていませんでした。昼も夜も気が休まらず、だんなをうるさくせっつくので、だんなは我慢できなくなって「おれが捕まえた不思議な金の魚のおかげなのさ。かわりにその魚を逃がしてやったのよ。」と打ち明けてしまいました。秘密がもれた途端に、豪華な城は戸棚も一緒にすぐ消えてしまい、二人は元の古い漁師の小屋の中にいました。そして男は前の仕事の魚とりに戻るしかありませんでした。
しかし、そういう運になっているのか、漁師はまたその金の魚を引き揚げました。魚は、「ねえ、また水に戻してくれたら、焼き肉や煮た肉がいっぱいの戸棚つきでお城をもう一度あげますよ。ただしっかり守ってください。誰からもらったか言ってはいけませんよ、そうしないとまた失くしますよ。」と言いました。「よく気をつけるよ。」と漁師は言って、魚を水に戻しました。さて家では何でもまた前の素晴らしさに戻っていて、おかみさんは幸運に大喜びしました。しかしわけを知りたくてたまらず気が休まりませんでした。それで2,3日もすると、どうしてそうなったのか、どうやって家をとりもどしたのか、とまた尋ね始めました。男は短い間黙り続けましたが、ついにとても腹がたってどなったら、秘密をもらしてしまいました。
一瞬にして、お城は消えてしまい、二人はまた古い小屋の中に戻っていました。「ほらね、気がすんだだろ。」と男は言いました。「おれたちはまた肉のついていない骨をしゃぶれるさ。」「ああ、だれからもらったか知ってはいけないならお宝はない方がましだわ。だってそれだと気が休まらないんだもの。」と女は言いました。
男はまた魚とりの仕事に戻りました。そしてしばらくすると、たまたま金の魚を3回目に引き上げました。「ねえ、私はあなたにつかまるようになっているというのが十分よくわかりましたよ。私を持って帰り、6つに切ってください。2切れをおかみさんに、2切れを馬に、2切れを土に埋めてください。そうすると幸運が訪れますよ。」と魚は言いました。漁師は魚を家へ持って帰り、言われたとおりにしました。ところが、土に埋めた2切れから2つの金のユリが出てきて、馬は2頭の金の子馬を産み、漁師のおかみさんはすっかり金でできている二人の子供を産みました。子供たちは成長し、背が高く美しくなりました。ユリと馬も同じように大きくなりました。すると子供たちは「お父さん、僕たちは金の馬に乗って世の中へ旅に出ようと思います。」と言いました。しかし父親は悲しそうに「お前たちが行ってしまえばおれはそれをどう耐えようか?それにお前たちがどうしてるかわからないよ。」と言いました。すると子供たちは「2つの金のユリがここに残っています。そのユリをみれば私たちがどうだかわかりますよ。ユリが生き生きしていれば私たちは健康です。しおれていれば私たちは病気です。枯れれば私たちは死んでいます。」と言いました。
それで二人はでかけ、宿屋にきました。そこにはたくさんの人がいて、金の子供たちに気付くと、笑って野次を飛ばし始めました。金の子供たちの一人は嘲りの言葉を聞いて恥ずかしくなり、世間に出て行く気がしなくなって向きを変え、父親のところへ戻りました。しかし、もう一人は前へ進み、大きな森に着きました。森へ入ろうとすると、人々が「君が馬で通り抜けるのは安全じゃないよ。森は強盗がいっぱいで君を酷い目にあわすよ。」「酷い目にあうよ。君が、そして君の馬もだが、全部金でできているのがわかったら、きっと殺すだろうよ。」と言いました。
しかし金の子供は怖そうにしないで、「森を抜けないといけないし抜けてみせる。」と言いました。それから熊の皮を取り出し自分と馬をおおって、もう金が見えないようにして堂々と森へ入って行きました。少し進むと、やぶでガサガサいう音が聞こえ、一緒に話している声が聞こえました。一方の側からは「一人だぞ」もう一方からは「通してやれ、熊の皮だぞ、教会のネズミみたいに貧乏ですっかんぴんさ。あんな奴から何をとれるんだ。」というどなり声が聞こえました。それで金の子供は楽しく森を通りぬけ、悪いことは何もおこりませんでした。
ある日、村へ入って行くと、これ以上に美しい人は世間にいないだろうと思うきれいな娘に会いました。それで愛のとりこになって、娘に近づき、「心底からあなたを愛しています。私の妻になってください。」と言いました。娘も金の子をとても気に入ったので承諾して、「はい、あなたの妻になります。そして生涯あなたに誠実でいます。」と言いました。
それで二人は結婚し、一番幸せでいる丁度そのときに花嫁の父親が帰ってきました。娘の結婚式が行われているのがわかったとき驚いて、「花婿はどこだ?」と言いました。人々は金の子を教えました、が、金の子はまだ熊の皮を着ていました。それで父親は怒って「熊の皮の男に娘はやらないぞ。」と言って金の子を殺そうとしました。すると、花嫁はできる限り一生懸命頼んで、「私の夫なのよ。私はこの人を心から愛してるの。」と言いました。それでとうとう父親は気持ちをなだめました。それにもかかわらず、思いは心から去らないで、次の朝、父親は早く起きて、娘の夫がただのぼろをまとった乞食かどうかみてやろうと思いました。しかし、中を覗き込むと、ベッドにねているすばらしい金の男と下においてある脱ぎ捨てた熊の皮が見えました。それで父親は戻って、「ああよかった、腹立ちをおさえて。すごく悪いことをしてしまうところだったよ。」と思いました。
しかし金の子はすばらしい鹿を馬で追いかけている夢をみて、朝目が覚めると、妻に「私は狩りにいかなくてはならない。」と言いました。妻は不安で、家にいるように頼み、「あなたがすぐにも大きな災難にあいそうな気がするわ。」と言いましたが、金の子は「ぜったい行かなくちゃならないんだ。」と言いました。
それで起きて、森へでかけました。まもなく夢と全く同じに立派な鹿が自分のいる道を横切りました。金の子は狙いをつけ、今にも撃とうとしたとき、鹿は逃げてしまいました。金の子は疲れを感じないで一日中やぶや溝を越えて追いかけましたが、夜に鹿は見えなくなってしまいました。金の子が周りを見回すと、小さな家が前に立っていて、そこには魔女が住んでいました。
金の子が戸をたたくと、小さなおばあさんが出てきて、「大きな森の真ん中でこんなにおそく何をしているんだい?」と尋ねました。「鹿を見たことがありませんか?」「ありますよ。その鹿をよく知ってるよ。」とおばあさんは答えました。そのあとすぐ、おばあさんと一緒に家から出てきた小さな犬が金の子を激しく吠えました。「静かにしないか、こいつめ、そうしないと撃ち殺してやるぞ」と金の子は言いました。すると、魔女はかっとして、「何だって、私の小犬を殺すってか!」と叫びました。そしてすぐに金の子を石に変えてしまいました。花嫁は帰らない夫を空しく待って、「私があんなに恐れて、心にひっかかっていたことが夫の身に起きたんだわ。」と思いました。
しかし、家では兄が金のユリの近くに立っていたとき、一本のユリが突然頭を垂れました。「うわ!弟が何か大きな災難にあってる。行って、ことによると助けられるか見てこなくちゃ。」と言いました。すると父親が、「ここにいろ。お前まで失くしたら、どうしたらいいんだ。」と言いました。しかし息子は「絶対行かなくちゃだめだ」と答えました。
それから、兄は金の馬にまたがり進んで行って、弟が石に変えられている大きな森に入りました。としとった魔女が家から出てきて、兄も罠にかけようとして呼びました。しかし兄は魔女の近くに行かず、「弟をまた生き返らせないとお前を撃つぞ。」と言いました。魔女は、とてもしぶしぶとでしたが、人差指で石に触りました。すると弟はすぐに人間の姿を取り戻しました。そして二人の金の子どもたちは再びお互いを見て喜び、キスし、抱き合いました。そして一緒に森を抜け、弟は花嫁のもとへ、兄は父親の元へ帰って行きました。
すると父親は、「お前が弟を助けたのがよくわかったよ。だって金のユリが突然首をあげてまた花が開いたからね。」と言いました。それからみんなは幸せに暮らし、死ぬまで栄えました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、ハンスという名の若い農夫がいて、叔父さんが金持ちの嫁さんを見つけてあげたいと思いました。それでハンスをストーブの後ろに座らせ、ストーブをとても熱くしました。それから鍋にいっぱいのミルクとたくさんの白パンをとってきて、ピカピカの新しいファージング硬貨を手に持たせ、「ハンス、そのファージングをしっかり握って、白パンをミルクに砕いて入れなよ。そして今いるところにいるんだ。おれが戻るまで動くなよ。」と言いました。「うん、全部やるよ。」とハンスは言いました。それから、叔父さんはパッチ(つぎはぎ)のついた古いズボンをはき、隣村の金持ちの農夫の娘のところに行きました。そして、「私の甥のハンスと結婚しないかね?あなたにぴったりの正直で分別のある男だよ。」と言いました。欲張りな父親が「財産についてはどうかね?砕いて入れるパンはあるかね(注)?」と尋ねました。
「ねえ、あなた、うちの若い甥は心地よいベッドがあるし、手に素晴らしいお金をもってるし、砕くたくさんのパンももっていますよ。それに私と同じくらいたくさんのパッチもありますよ。」と叔父さんは答えて、話しながらズボンのパッチ(つぎはぎ)をたたきました。しかしその地方では小さな土地の区画もまたパッチと呼ばれていました。「お手数をおかけしますが私と一緒に家へ来て見れば、すぐに私が言った通りだとわかりますよ。」すると欲張りはこの良い機会を失いたくなくて、「そういうことなら、これ以上結婚に反対して言うことはないよ。」と言いました。
それで決められた日取りで結婚式が祝われました。そして若い妻が花婿の財産を見ようと家から外へ出たとき、ハンスは礼服を脱ぎ、パッチのついた仕事着を着て、「上等な服をだめにするかもしれないからな。」と言いました。それから一緒にでかけて、ブドウ畑が見えたり畑や草地が区切られているところをどこでも指差し、仕事着の大小のパッチをたたきながら、「そのパッチはおれので、それもそうだ。おまえ、よく見てごらんよ。」と、妻が広い土地を見ないで、自分の服を、それが自分のものだから、見るべきだという意味で、ハンスは言いました。
「あなたも結婚式に出たの?」「ああ、確かにでたよ。正装してね。頭飾りは雪だったけど、お日様がでると溶けちゃったね。上着はクモの巣でできていて、イバラを通ったら破れてとれちゃった。靴はガラスでできていたんだが、石の上を歩いたらカチンと音がして、2つにわれちゃったよ。」
(注)俗語表現で「裕福なのかね」の意味らしいこのエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
ハンスは主人に七年仕えました。それで主人に「だんなさま、年季が明けました。もうくにの母のところに帰りたいんです。お手当をください。」と言いました。主人は「お前はかげひなたなくよく働いてくれた。それだけちゃんと手当てもはずむぞ。」と答えて、ハンスに頭と同じくらい大きい金の塊を渡しました。ハンスはポケットからハンカチを引っ張り出し、その塊を包んで肩にかけ、故郷に帰りはじめました。
足を交互に出しながら進んでいくと、馬に乗った人が目にとまりました。元気のよい馬に乗って速く楽しそうに走っていくのです。「いいなあ!」とハンスは大声で言いました。「馬で行くってなんていいんだろう。椅子に座っているようにして、石につまずかないし、靴は擦り減らないし、それで知らないうちに先へ進むんだもんなあ。」馬の乗り手はその声が聞こえて止まり、「やあ、ハンス、じゃどうして歩いているんだい?」とさけびました。「歩かなくちゃいけないんですよ。」とハンスは答えました。「この塊を家に持って行くもんでね。確かに金なんだけど、このせいで頭をまっすぐにあげられないし、肩は痛いし。」「なあ」と乗り手が言いました。「取り変えようか。お前に馬をやろう、お前はその塊を私にくれよ。」「喜んで」とハンスは言いました。「だけど言っておきますよ、あんたはこの塊を這いつくばって運ばなくちゃなりませんよ。」乗り手は降りて金を受け取り、ハンスを馬に乗せ、手に手綱をしっかり持たせ、「本当に速く進みたければ、舌を鳴らして、ハイッハイッとどなるんだ」と言いました。
ハンスは馬にまたがり力強く自由に進んでいくと心から嬉しくなりました。少し経って、もっと速く行かなくちゃと思って、舌を鳴らし、「ハイッハイッ」と怒鳴りました。馬は急に速足になり、ハンスは何が何だか分からないうちに投げ出され、畑と道をわけている溝にのびていました。牛を追いたてて道をやってきた村人が止めてくれなかったら、馬はどこまでも行ってしまったでしょう。
ハンスは手足をそろえるとまた立ちあがりましたがご機嫌斜めになって、村人に言いました。「下手な冗談と同じで面白くもない、この馬に乗るってのは。特にこんな馬に乗るのはな。蹴飛ばしたり振り落としたりして、下手すりゃ首の骨を折るってもんだ。僕は二度と馬にのらないぞ。そうするとあんたの牛はいいねえ。静かに後ろを歩いていけるんだから。それで何よりも乳や、バターやチーズが毎日間違いなく取れる。そんな牛をもらえるんだったら何だってあげちゃうよ。」「そうか」と村人は言いました。「そんなに牛が欲しいんなら、牛と馬を取り替えたっていいよ。」ハンスは大喜びで承知しました。村人は馬に飛び乗ってさっさと行ってしまいました。
ハンスは静かに牛を追いたてて、うまくいった取引のことを考えました。(パンが一切れあれば、しかもパンが無いということはない、好きなだけバターとチーズが食べられる、喉が渇けば、牛の乳を搾って飲める。これ以上いうことはないよな)
宿屋にやってくるとハンスは止まって、大いに満足して、昼食も夕食もあるものみんな食べてしまい、持っていたものもみんな、つまり最後のファージングもコップに半分のビールを飲んでつかってしまいました。それから牛を追いたてて母親の村へと道を進んでいきました。
昼に近づくにつれて、暑さがますますひどくなってきて、ハンスはこえるのに一時間ほどかかる荒れ野にきていました。熱くて熱くて喉が渇き舌が上あごにくっつきました。(これは治せるぞ)とハンスは考えました。(さあ乳をしぼってミルクで元気をつけよう)枯れ木に牛をつなぎ、桶がなかったので、下に革の帽子を置きました。しかし、どんなに搾ってもミルクは一滴も出てきませんでした。しかもやり方が下手くそなので、いらいらした牛はとうとうハンスの頭を後ろ足でガツンと蹴ったので、ハンスは地面に倒れ、しばらく自分がどこにいるのかわかりませんでした。
ちょうどそのとき運よく肉屋が手押し車に子豚をのせて道をやってきました。「こりゃどうしたんだい?」と肉屋は叫んで、お人よしのハンスを助け起こしました。ハンスは肉屋に何があったか話しました。肉屋はハンスに自分のビンを渡し、「一口飲んで元気をつけな。この牛はたしかにミルクを出さないだろうな。年をとってるからね。せいぜい農耕用か肉用にしか適さないよ。」と言いました。「おやおや」とハンスは頭の髪の毛を撫でおろしながら言いました。「そんなことは思ってもみなかったなあ。家でそんな牛を殺したら確かにいいだろうな、どんなに肉がとれるだろう。だけど牛肉はあまり好きじゃないな、僕には汁気が足りないもの。そんな子豚ならいいだろうね。味が全然違う。それにソーセージもできるしね。」
「いいかい、ハンス」と肉屋は言いました。「あんたのためなんだが、取り替えてやるよ。牛の代わりに豚を持っていっていいよ。」「あんたの親切にはきっといいことがありますよ。」とハンスは牛を渡して言いました。一方肉屋は豚を手押し車からおろし、つないでいた紐をハンスの手に渡しました。
ハンスは進んでいき、心の中で、何でも思い通りにいくなあ、困ったことがあればすぐにちゃんとなるなあ、と考えていました。まもなく脇に見事な白いがちょうをかかえた若者と一緒になりました。二人はこんにちはと挨拶を交わし、ハンスは自分の幸運のことを話し始め、いつもうまい取引をしてきたと話しました。その若者はがちょうを洗礼の祝いに持って行くところだ、と話しました。「ちょっと持ち上げてみろよ」と若者は行ってがちょうの羽をもちました。「すごく重いんだぜ。この8週間太らせてきたからね。焼き肉にしてこいつを一口食べたら口の両端から垂れる脂肪を拭わなくちゃいけないだろうよ」「そうだね」と片手で重さをはかりながらハンスは言いました。「確かに重いね、でも僕の豚だって悪くないよ」
そのうちに若者は疑わしそうにためつすがめつ豚を見まわして首を振りました。しまいに「ねえ」と若者は言いました。「君の豚は大丈夫じゃないかもしれないよ。僕が通って来た村では村長さんまで小屋から豚が盗まれたばかりだ。悪いけど‐‐悪いけどこれはその豚だと思うよ。人を出して豚を探しまわっているから、君がその豚をもっているところをつかまったら、ひどいことになるだろうね。少なくとも暗い穴に閉じ込められるんじゃないかな。」
お人よしのハンスはびくつき、「大変だ!」と言いました。「助けてくれよ。君は僕よりこの辺のことを知ってる。僕の豚を受け取って、君のがちょうをくれないか。」「すると僕がその豚で危なくなるな」と若者は答えました。「だけど僕のせいで君を面倒に巻き込みたくもないしなあ。」そうして若者は豚の紐を受け取り、脇道を通ってそそくさと豚を追いたてて行ってしまいました。
お人よしのハンスは心配がなくなり、がちょうを脇に抱えて家へ向かいました。「よくよく考えてみると」とハンスは独り言を言いました。「取り替えて得をしたよ。第一にうまい焼き肉があるし、次に垂れてくる脂肪だろ、まあ三か月はパンに塗る分あるだろう。最後に美しい白い羽根だ、枕に詰めてもらおう、そうすりゃ揺らさなくても眠れるよ。おふくろは喜ぶそ。」
最後の村を通り抜けているとき、手押し車をとめた鋏の研ぎ屋がいました。砥石車を回しながら男は歌いました。
「おれは鋏を砥いで切れ味をよくする、おれの上着に風が吹く」ハンスは立ち止まって男をみて、ついに話しかけました。「万事うまくいってるんだね、あんたは研ぎながらとても楽しそうだ」「そうとも」と研ぎ屋は答えました。「身につけたわざには金の土台があるんだ。本物の研ぎ屋というのはポケットに手を入れるたびに金貨があるって男だよ。ところでそのすてきながちょうはどこで買ったんだい?」「買ったんじゃないよ。豚と取り替えたんだ。」「で豚は?」「牛と取り替えた」「で牛は?」「馬のかわりにもらったのさ」「で馬は?」「馬をもらうのに僕の頭くらいの金の塊を渡したんだ」「でその金は?」「うん、それは僕が七年務めた給金だったよ」
「へえ、「取り替えるたびによく知っていたんだね」と研ぎ屋は言いました。「立ち上がるたびにポケットで金がチャリチャリいうのを聞けるほどやれれば、財産ができたのにね。」「それにはどうしたらいいの?」とハンスは言いました。「おれのように研ぎ屋にならなくちゃ。研ぎ屋には砥石の他は特に何もいらないよ、他はひとりでに見つかるのさ。砥石はここにある。確かにすこし擦り減っているが、この砥石の代わりにあんたのがちょうだけでいいよ。取り替えるかい?」「聞くまでも無いよ」とハンスは答えました。「僕はこの世で一番運がいいな。ポケットに手をいれるたびにお金があるんなら、もうくよくよすることは何もないものね。」そしてハンスは研ぎ屋にがちょうを渡し、代わりに砥石を受け取りました。「ほら」と研ぎ屋は言って、そばに転がっていた普通の重い石を持ち上げ、「おまけにここに強い石があるよ。この上でよくたたいて、古い釘をまっすぐにできるぜ。一緒に持って行って、大事にとっとけよ。」
ハンスは石を持って、満足して進んでいきました。ハンスの目は喜びで輝いていました。「僕は幸せの帽子をかぶって生まれたに違いない。」とハンスは叫びました。「何だって望んだようにことが運ぶんだもの、まるで日曜日の子供みたいだ。」
そのうちに、夜明けから歩いていたので、疲れはじめました。おまけにお腹もすいてたまらなくなりました。というのは牛を手に入れた取引で、嬉しさのあまりとっておいた食べ物を一度に食べてしまったからです。とうとう、ひいひいいいながらやっと進んで、一分ごとに立ち止まるしかなくなりました。石も恐ろしく重くのしかかりました。そうして、石を運ばなくてよければどんなにいいだろう、とハンスは考えざるを得ませんでした。
ハンスは野原の井戸にかたつむりのように這っていき、冷たい水を飲んで休み元気を取り戻そうと思いました。ところが座るとき石を傷つけないように自分のそばの井戸の縁に注意して置き、かがみこんで飲もうとしたら手がすべって石を押してしまい、二個とも水の中へ落ちてしまいました。ハンスは自分の目で石が底に沈んでいくのをみたとき、喜んで跳びはねました。それから膝まづいて、目に涙をためながら神様に感謝して、こんなふうにお恵みを示してくださり有難うございました、私を苦しめていたただ一つのものからとてもうまく救ってくださいました、おかげさまで自分を責めなくて済みました、と言いました。
「僕のように運がいいやつは日の下にいないよ。」とハンスは叫びました。心も軽くすべての重荷から解放されて、今度はハンスは走って家にいる母親に会いにゆきました。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、賭け事しかしない男がいました。それで人々はその男をばくち打ちのヘンゼルとしか呼びませんでした。そしていつも賭けていたので、自分の家と持っているものすべてをすってしまいました。さて、取立人が家を取り立てに来ることになっている前の日に、神様と聖ペテロが来て、一晩泊めてくれるように頼みました。ヘンゼルは、「おれとしちゃあ、あんた方が泊っても構わないんだが、ベッドも食べ物も無いんでね。」と言いました。それで神様が「お前は私たちを入れてくれるだけでよい。食べるものは自分たちで買うよ。」と言ったので、ヘンゼルは反対しませんでした。それで、聖ペテロはヘンゼルに3グロッシェンを渡し、「パン屋に行ってパンをもらってきてください。」と言いました。
それでばくち打ちのヘンゼルはでかけましたが、ほかのばくち打ちのならず者が集まっている家に着くと、ヘンゼルからありったけ巻き上げたのですが、その連中が騒がしくヘンゼルを迎えて、「やあ、ヘンゼル、入ってこいよ」といいました。「おう、また3グロッシェン勝ちたいか?」とヘンゼルは言いました。これを聞いて連中はヘンゼルを放そうとしませんでした。それでヘンゼルは入っていき、また3グロッシェンをすってしまいました。この間、聖ペテロと神様は待っていて、ヘンゼルがなかなか帰ってこないので、会いにでかけました。しかし、ばくち打ちのヘンゼルは来ると、お金が溝に落ちてしまったふりをして、ずっとお金を探して溝の中をかき回し続けました。しかし神様はヘンゼルがばくちですってしまったことをすでに知っていました。それで聖ペテロはまた3グロッシェンをやり、今度はヘンゼルはもう一度脇道へそれることなく、パンを持ってきました。それから神様はワインは無いのかと尋ね、ヘンゼルが「ああ、樽はみんな空っぽですよ。」と言いましたが、神様は「地下室に降りて行きなさい。最高のワインがまだそこにありますから。」と言いました。長い間ヘンゼルはこれを信じようとしませんでしたが、とうとう「じゃあ、降りていってきますよ。だけど何もないって知ってるんです。」と言いました。ところが、栓を回すと、見よ!最上のワインが流れ出てきました。それで、それを持って行き、二人はそこで夜を過ごしました。
次の朝早く神様はばくち打ちのヘンゼルに3つ願い事を言ってみよと言いました。神様はヘンゼルが天国へ行くことを願うかと思ったのですが、ばくち打ちのヘンゼルは、何でも勝てる一組のトランプと、何でも勝てるさいころと、あらゆる種類の実がなり、登った誰もヘンゼルが命令するまで降りられない木を願いました。神様はヘンゼルが願ったものを全部あたえ、聖ペテロと出発しました。
さてばくち打ちのヘンゼルはすぐに本格的にばくちを始め、ほどなくして世界の半分を得ました。これを見て、聖ペテロは、「主よ、こんなことが続いてはいけません。最後にはヘンゼルは全世界を得てしまいますよ。死神をあいつに送らねばなりません。」と神様に言いました。そして死神を送りました。死神が現れたとき、ばくち打ちのヘンゼルはちょうどばくちのテーブルに座ったところでした。死神が「ヘンゼル、ちょっと出てくれ。」と言いましたが、ばくち打ちのヘンゼルは、「ばくちが終わるまでちょっと待ってくれ。その間、そこの木に登って、すこし果物を集めてくれよ。そうしたら途中でもぐもぐ食べるものがあるだろうからさ。」と言いました。そこで死神は登りましたが、また降りようとしても降りられなくて、ばくち打ちのヘンゼルはそこに7年間死神をおいていたので、その間誰も死にませんでした。
それで、聖ペテロは神様に、「主よ、こんなことが続いてはいけません。人々はもう死にません。私たちは自分で行かなくてはなりませんよ。」と言いました。そして自分で出かけ、神様はヘンゼルに死神を降ろすように命令しました。それでヘンゼルはすぐに死神のところに行き、「降りろ」と言いました。そして死神はヘンゼルを直接連れて行き、死を与えました。二人は一緒にこの世を去って別の世界へいきました。するとばくち打ちのヘンゼルはまっすぐ天国のドアへ向かい、たたきました。「誰だ?」「ばくちうちのヘンゼルだ。」「ああ、あいつとは関係ない。去れ。」それでヘンゼルは煉獄のドアへ行き、またたたきました。「誰だ?」「ばくちうちのヘンゼルだ。」「ああ、あいつがいなくてさえここには泣いたり嘆いたりが有り余るほどだ。ばくちはしたくない。また立ちされ。」それから地獄のドアに行くと、入れてくれました。
ところが、年とった魔王と背中の曲がった悪魔の他は誰もいませんでした。背中のまっすぐな悪魔は世界で忙しかったのです。ヘンゼルはそこに着くと早速ばくちをはじめようと座りました。ところが、魔王には背中の曲がった悪魔たち以外は何も負けるものがありませんでした。そしてばくち打ちのヘンゼルは、トランプで必ず勝つことになっていたので、その悪魔たちを魔王から勝ち取りました。そして背中の曲がった悪魔たちを連れてでかけ、ホーヘンフルトに行き、ホップの柱を引き抜き、それをもって天国へ行って、その柱で天国を打ち始めたので、天国はひび割れ始めました。それで聖ペテロはまた言いました。「主よ、こんなことが続いてはいけません。ヘンゼルを入れなくてはなりません。そうしないと、あいつは天国全体をひっくり返してしまいます。」そしてヘンゼルを入れました。しかしばくち打ちのヘンゼルはすぐにばくちを始め、とても騒がしく混乱したので、自分たちが言っていることも聞こえなくなりました。そういうわけで聖ペテロはもう一度、「主よ、これは続けられません。私たちはあいつを投げ落とさなくてはいけません。そうしないと、あいつは天国全部を反乱させます。」と言いました。二人はすぐにヘンゼルのところに行き、投げ落としました。それでヘンゼルの魂はこなごなに砕け、ばくち打ちのならず者たちの中に入りました。それで今日までばくち打ちたちは生きているのです。このエピソードはPodbean.comがお届けします。
Tuesday Aug 13, 2024
Tuesday Aug 13, 2024
昔、大きな戦争があり、戦争が終わるとたくさんの兵士がやめさせられました。そのときにのんき者もくびになり、小さな塊の軍のパン一つと4クロイツァーのお金だけ受け取り、それをもって出かけました。ところが、聖ペテロがあわれな乞食の身なりをして道にいて、のんき者が近づいてくると施しを求めました。のんき者は、「乞食のおっさん、何をやったらいいのかな?おれは兵士だったがクビになってね。この小さな軍のパンと4クロイツァーの金しか無いんだ。それがなくなりゃ、お前さんと同じでおれも乞食になるのさ。まあそれでも、ちっとはあげようか。」と言いました。そう言ってのんき者はパンの塊を4つに分け、使徒にその一つを渡し、一クロイツァーもまたあげました。聖ペテロはお礼を言い、先へ進むと別の身なりの乞食に扮してまた兵士のくる道に出て、兵士がやってくると前と同じように施しを求めました。のんき者は前と同じように話し、またパンを四分の一と一クロイツァーをあげました。聖ペテロはのんき者にお礼を言い、先へ進んでいきましたが、三回目の別の乞食になって道に出て、のんき者に話しかけました。のんき者はまた三度目の四分の一をあげ、三度目の一クロイツァーをあげました。聖ペテロはお礼を言い、のんき者は先へ進みましたが、四分の一のパンと一クロイツァーしか持っていませんでした。
それを持ってのんき者は居酒屋に入り、そのパンを食べ、一クロイツァー分のビールを飲みました。それが終わると、また旅を続けました。すると聖ペテロはクビになった兵士の身なりをしてのんき者に会い、「こんにちは、戦友、パンを少しと飲み物代に一クロイツァーくれないかい?」と声をかけました。「どこから出せばいいんだい?」とのんき者は答えました。「おれはお払い箱になったし、ひと塊の軍のパンと4クロイツァーしかなかったんだ。道で3人の乞食に会って、それぞれにパンを四分の一と一クロイツァーをやったし、居酒屋で最後の四分の一のパンを食べ、最後の一クロイツァーで一杯飲んでしまった。だからおれのポケットはすっからかんというわけさ。あんたもからっけつなら、一緒に乞食をしようぜ。」
「いや」と聖ペテロは答えました。「そこまでしなくていいよ。おれは少し医術の心得があるんだ。それで必要な分はじき稼ぐよ。」「へえ」とのんき者は言いました。「おれはそういうものを何も知らないな。じゃあおれは行って一人で乞食をやらなくちゃ。」「おれと一緒に来いよ」と聖ペテロは言いました。「おれがなにか稼いだら、お前に半分やるよ。」
「いいだろ」とのんき者は言い、二人は一緒にでかけました。そうして、お百姓の家にくると中から大声で嘆いたり泣いたりする声が聞こえてきました。そこで二人が入って行くとそこの亭主が重い病気でもうすぐ死にそうになっていておかみさんが大声で叫んだり泣いたりしていました。「泣き喚くのはやめなさい。」と聖ペテロは言いました。「わたしがまたご主人を元気にしてあげるよ。」そしてポケットから軟膏をとりだし、病気の男をあっという間に治したので、男は起きあがることができ、すっかり元気になりました。
夫婦はとても喜んで、「どうお礼をしたらよろしいでしょう?何をさしあげましょうか?」と言いました。しかし聖ペテロは何も受け取ろうとしませんでした。お百姓の夫婦が言えば言うほど、聖ペテロは固辞しました。ところがのんき者は聖ペテロを肘でつっついて、「おい、なんかもらえよ、おれたちが困っているのははっきりしてるじゃねぇかよ」と言いました。
とうとうおかみさんが子羊を一頭連れてきて、聖ペテロに、これは是非うけとってください、と言いましたが、聖ペテロはどうしても受け取りませんでした。それでのんき者は聖ペテロの脇腹をつついて、「貰えったら。もう、馬鹿だなあ。おれたち、それすごく要るじゃないかよ」と言いました。そこで聖ペテロは、「そうか、子羊はもらうか。でもおれは担がないぞ。お前がどうしても欲しいと言うんだからお前が担ぐんだぞ。」と言いました。「そんなの何でもないさ。簡単に担げるとも。」とのんき者は言って子羊を肩にのせました。
それから二人は出かけて、森へさしかかりましたが、のんき者は子羊が重くなり、お腹がすいてきました。それで聖ペテロに「見ろよ、いい場所だ。あそこで子羊を料理して食べよう。」と言いました。「お前が好きなようにしていいよ」と聖ペテロは答えました。「だがおれは料理に関わることはごめんだ。お前が料理するなら、鍋があるぞ。料理ができるまでおれは少し歩き回ってくるよ。だけどおれが戻るまで食べ始めないでくれよ。いいころに来るからな。」「じゃあ、行けよ。」とのんき者は言いました。「料理ならわかるから、やれるよ。」
それから聖ペテロは出かけて行き、のんき者は子羊を殺し、火をおこして、鍋に肉を放り込み煮ました。ところが子羊がすっかりできても、使徒ペテロは戻りませんでした。のんき者は鍋から肉を取り出して小分けに切っていると、心臓を見つけました。「心臓は一番うまいというよな」とのんき者は言って味見しましたが、とうとうみんな食べてしまいました。やっと聖ペテロが戻ってきて、「羊はお前がみんな食べていいよ、おれは心臓だけ食べるから、心臓をくれよ。」と言いました。
するとのんき者は、ナイフとフォークを手にとって子羊の肉の中を熱心に探しまわり、なかなか心臓を見つけられない振りをし、しまいにぶっきら棒に、「ここにはない」と言いました。「じゃ、いったいどこにあるんだい?」と使徒が言いました。「おれは知らないよ」とのんき者は言いました。「だけど、な、おれたち二人ともバカだよな、子羊の心臓を探すなんてさ、だって子羊ってのは心臓がないんだよな、二人ともそれを思い出さないってんだから。」「はあ!?」と聖ペテロは言いました。「そりゃ初めて聞く話だ。動物にはみんな心臓があるじゃないか、なんで子羊には無いんだ。」「無いんだよ、そいつぁ確かだ。兄き。」とのんき者は言いました。「子羊ってのには心臓がないもんだぜ。よく考えてみろよ、そしたらお前も本当に無いもんだと気づくからさ。」「じゃいいよ」と聖ペテロは言いました。「心臓が無いんなら、子羊はいらない。お前一人で食べていいよ。」「今食いきれないのは、背のうに入れて持って行こう」とのんき者は言って子羊を半分食べ残りを背のうに入れました。
二人はさらに進んでいきました。すると聖ペテロは進む道に大きな川の流れを作り、それを渡らなければいけないようにしました。「お前、先に行けよ」と聖ペテロは言いました。「いや、お前が先だ。」とのんき者は答え、(もし川が深過ぎたら、おれは渡らないでおこう)と考えていました。すると聖ペテロは大股で歩いて渡り、水はちょうど膝のところまできていました。そこでのんき者も渡り出しましたが、水はどんどん深くなって喉まで達しました。それで、「兄きぃ、助けてくれ!」とのんき者は叫びました。聖ペテロは言いました。「じゃあ、子羊の心臓を食ったと白状するか」「いいや」とのんき者は言いました。「おれは食わなかった。」そこで水はますます深くなって口まで上りました。「助けてくれ、兄き」と兵士は叫びました。聖ペテロは言いました。「じゃあ、子羊の心臓を食ったと白状するか?」「いいや」とのんき者はいいました。「おれは食わなかった。」それでも聖ペテロはのんき者を溺れさせる気はないので、水を低くし、のんき者を渡らせてやりました。
それから二人は先へ進んでいき、ある国にさしかかると、王様の娘の病が重く死にそうだと聞きました。「やったぜ、兄き」と兵士は聖ペテロに言いました。「こりゃいい。そのお姫様を治したら、おれたち一生食っていけるよ。」
しかし、聖ペテロはのんき者の半分も速く歩きませんでした。「さあ、兄き、しっかり歩くんだ」と兵士は言いました。「間に合うように着かなくちゃ」ところが、のんき者が必死に追い立て前に押し出しているのに、聖ペテロはだんだんのろくなり、とうとう、王女が死んだ、と聞きました。「ああ、お終いだ」とのんき者は言いました。「お前がぼうっと歩いてるからだぞ。」
「静かにしろよ」と聖ペテロは答えました。「おれができるのは病人を治すだけじゃない。死人も生き返らせることができるんだ。」「へえ、それができるなら、いいんだ。だけどそうやってせめて国の半分は貰ってくれよ。」とのんき者は言いました。そうして二人は王宮に行きました。そこではみんなとても悲しんでいましたが、聖ペテロは王様に、姫を生き返らせてさしあげましょう、と言いました。
聖ペテロは娘のところに案内されると、「釜と水を持って来てくれ」と言いました。釜が運ばれると聖ペテロはみんなに出ていくように告げて、のんき者だけ一緒に残ることを許しました。それから死んだ娘の手足を全部切り取り、水に入れて釜の下に火をたき、それを煮ました。骨から肉が落ちてしまうと、美しい白い骨を取り出してテーブルにおき、元の順番に並べました。それが終わると、聖ペテロは前に進み、「三位一体の名にかけて、死者よ、立ち上がれ」と三回となえました。すると三度目に王女は起き上がり、生き返って、元気で美しくなっていました。
それで王様はこの上ない喜びようで、聖ペテロに「ほうびをとらそう、たとえ国の半分でもわしはいとわぬ。」と言いました。しかし聖ペテロは、「お礼は何も欲しくありません」と言いました。(はあ?この馬鹿が!)とのんき者は思い、仲間の脇腹をつついて、「馬鹿を言うなよ、お前が何も要らなくても、おれは要るよ。」と言いました。それでも聖ペテロは何も貰おうとしませんでした。王様はもう一人がとても物欲しそうにしているのがわかったので、宝物係に命じてのんき者の背のうに金貨を詰めさせました。
そうして二人は進んでいき、森にさしかかると、聖ペテロはのんき者に、「さあ、金貨を分けようぜ」と言いました。「いいとも、やろう」とのんき者は答えました。そこで聖ペテロは金貨を分け、三つの山にしました。それで、のんき者は(こいつ、今度はどんなバカなことを考えてやがるんだ?三人分に分けているぞ、おれたち二人しかいないのによ)と思っていました。しかし、聖ペテロは、「きっちり分けたぞ。一つはおれの分で、一つはお前の分、一つは子羊の心臓を食ったやつの分だ」と言いました。
「ああ、それはおれが食った」とのんき者は答え、さっさとその金貨をさらい、「おれの言うことを信じていいよ」と言いました。「だけど、そんなはずはないだろ?」と聖ペテロは言いました。「子羊ってのは心臓がないのによ」「うん?何、兄き、何を考えているんだ?子羊には他の動物と同じで心臓があるさ。子羊だけ心臓が無いってことはないよ。」「じゃあ、いいよ」と聖ペテロは言いました。「金貨はお前がとっておけよ。だけどおれはもうお前と一緒にいるのはやめるよ。おれは一人で行くよ。」「好きなようにしろよ、兄き」とのんき者は答えました。「じゃあ元気でな」
そうして聖ペテロは別の道を行きましたが、のんき者は(あいつがいなくなってよかったよ。まったく本当に変わった聖者だよ。)と思いました。それでのんき者はたっぷり金貨をもっていましたが、使い道を知らなくて、無駄遣いをしたり人にやったりしてしばらくすると、また何もなくなりました。そうしてある国に着き、王様の娘が死んだと聞きました。
(しめた!)とのんき者は思いました。(こいつはいいぞ。その姫を生き返らせて、相応に金をもらおうではないか)そこで王様のところに出向き、死んだ姫を生き返らせて差し上げましょう、と申し出ました。さて、王様は兵隊あがりがあちこち旅をして死人を蘇らせていると聞いたことがあったので、のんき者がその男だろうと思いました。しかし、信用がならなかったので王様はまず相談役たちに聞いてみました。すると相談役たちは、もう姫は死んでしまったのですから、やらせてみてもよろしいでしょう、と言いました。
そうしてのんき者は水を釜に入れてもってくるように命じ、みんなを出ていかせ、手足を切りとり、水に入れて下で火をたき、聖ペテロがやったのと全く同じにしました。水が煮えたぎり始め、骨から肉がとれました。するとのんき者は骨を取り出しテーブルの上に置きました。しかし、骨を置く順番がわからずみんな間違ってごちゃごちゃに置きました。そうしてその骨の前に立ち、「最も聖い三位一体のみ名において、死者よ、たち上がることを命じる」と言いました。そうしてこれを三回となえました。しかし骨はピクリとも動きませんでした。そこでのんき者はまた三回となえました。が、これもだめでした。「恥ずかしがりやの娘だな、お前は。立てよ!」とのんき者はどなりました。「立てってば!さもないとお前はひどい目にあうぞ!」
のんき者がそう言うと、聖ペテロが前の兵隊あがりの姿で突然現れ、窓から入ってきて、「この罰当りめ!お前、何をやっているんだ?骨をそんなふうにごちゃごちゃにしているのに、どうして死んだ娘が起きあがれるんだよ?」と言いました。「兄き、おれにできることはみんなやったんだ」とのんき者は答えました。「今回だけお前を助けてやるが、一つだけ言っておくぞ。今度こういうことをしたら、お前はひどい目にあうからな、それから、このお礼を王様からほんの少しでも求めたり受け取るんじゃないぞ。」
そう言うと、聖ペテロは骨を正しい順番に並べ、娘に、「最も聖い三位一体のみ名にかけて、死者よ、立ち上がれ」と三回言いました。すると王様の娘は、以前と同じく元気な美しい姿で立ちあがりました。それから聖ペテロはまた窓から出て行きました。のんき者は、やれやれ万事うまくいったぜ、と喜びましたが、結局何も受け取ってはいけないんだっけと思ってかなり機嫌を悪くしました。(ほんとに知りたいもんだよ、あいつの頭はどうなってるんだよな、片方の手でくれるものをもう一方の手でとりあげちまうなんてさ。いったい何を考えているのかさっぱりわからん)と考えました。
それで、王様がのんき者に何でも望みの物をやるぞ、と言いましたが、受け取るわけにはいきませんでした。ところが、いろいろ仄めかしたり抜け目なく謀って王様を仕向け、背のうに金貨をいっぱい詰めさせました。それをもってのんき者はお城を立ち去り、外に出ると、聖ペテロが戸のそばに立っていて、「自分がなんてやつか見てみろ。何も受け取るなと言わなかったか?なのに、お前の背のうは金貨でいっぱいときてる。」と言いました。
「仕方ないじゃないか」とのんき者は答えました。「お城の人たちが無理やり入れるんだからさ。」「言っておくぞ、こういうことを二度とやってみろ、お前はそれで苦しむことになるからな。」「わかったよ、兄き、心配するな、もう金がある。何でいちいち骨を洗おうなんて思うもんか。」「本当だな」と聖ペテロは言いました。「その金貨は長持ちするだろうよ。この後、お前が禁じられた道に踏み込まないように、お前の背のうにこういう性質を授けてやろう、お前がその中に入って欲しいものは何でも入るってな。じゃ元気でな、これからもうお前に会うことは無いぞ。」「さよなら」とのんき者は言って、(お前が行ってしまっておれはとても嬉しいよ。変なやつ。絶対お前のあとについてなんか行かないよ。)と思いました。そうして、自分の背のうに授けられた魔法の力についてはもう何も考えていませんでした。
のんき者はお金を持ってあちこ旅をし、前と同じように無駄遣いをして持っているお金をなくしていきました。とうとう四クロイツァーしかなくなったとき、ある居酒屋を通りがかり、(ええい、この金も使ってしまえ)と思い、三クロイツァ―分のワインと一クロイツァー分のパンを注文しました。そこで座って飲んでいると、焼いたがちょうの匂いが鼻にプーンと漂ってきました。
のんき者は見回して覗きこみ、店の主人が二羽のがちょうをかまどで焼いているのが目に入りました。すると、仲間が背のうに入って欲しいものは何でも入ると言っていたのを思い出し、「そうだ、がちょうであれを試してみなくちゃ」と言いました。そこでのんき者は外に出ると、戸の外で、「二羽の焼いたがちょうはかまどから出ておれの背のうへ入るように」と言いました。言い終わると背のうを開け中を覗きこみました。するとなんと二羽が中に入っていました。「やった、そうこなくっちゃ」とのんき者は言いました。「さあ、これでおれも一丁前だ」そして草原へ行って焼き肉を取り出しました。
のんき者が食べてる最中に二人の旅人が近づいてきて、まだ手をつけていない二つ目のがちょうを物欲しそうな目で見つめました。のんき者は(おれは一羽で十分だ)と思い、二人の男を呼んで「がちょうを持って行って、おれの健康を祝して食べてくれ」と言いました。二人はのんき者に礼を言って、がちょうをもって居酒屋に行き、ワインを半ビンとパンを注文し、貰ったがちょうを出して食べ始めました。
おかみさんが二人を見て亭主に、「あの二人はがちょうを食べているよ。あれがかまどから出したうちのがちょうじゃないか見てきてよ。」と言いました。亭主がそこへ走っていって見ると、かまどは空っぽでした。「何だ、この泥棒仲間め、ただでがちょうを食おうってか。今すぐ金を払え、さもないとはしばみのこん棒でぶちのめしてくれる。」と亭主は叫びました。二人は、「おれたちは泥棒なんかじゃない。あっちの草原でもう辞めた兵士ががちょうをくれたんだ。」と言いました。「そんなんでおれの目はごまかされないぞ。その兵士ならここにいたさ。だけどさっき出て行った、まっとうにな。おれはそいつの後ろを見ていたんだ。お前らが泥棒だ、払ってもらおう。」しかし、二人は払えなかったので亭主は棒をとって二人を店から叩き出しました。
さて、のんき者が進んでいくと、素晴らしい城があるところにさしかかり、そこから遠くないところに粗末な宿屋がありました。のんき者はその宿屋に行き、一晩泊めてくれるよう頼みましたが、宿の主人は断って、「ここはもう部屋がありません。家は身分の高いお客でいっぱいです。」と言いました。「へえ、おどろくね。そのお客があんたのところに来て、あの素晴らしい城に行かないってのは変だね。」とのんき者は言いました。「なるほどそうなんだが」と主人は答えました。「あそこで一晩泊るのはおおごとなんですよ。これまでやってみた人は誰も生きて帰ってこなかったのです。」
「他のやつらがやってみたんなら」とのんき者は言いました。「おれもやってみよう。」「やめときなさいよ」と主人は言いました。「命がなくなりますよ」「すぐには殺さないだろう」とのんき者は言いました。「ちょっと鍵とうまい食べ物とワインをくれよ。」そこで主人はのんき者に鍵と食べ物とワインを渡しました。これを持ってのんき者は城に入って行き、夕食を食べ、しまいに眠くなってきたので、床に寝転がりました。というのはベッドが無かったのです。まもなく寝入りましたが、夜の間に大きな物音で起こされました。目覚めると、部屋に9人の醜い悪魔がいて、輪になってのんき者の周りを踊っていました。
のんき者は、「好きなだけ踊りな、だがあまりおれのそばに近づくな」と言いました。しかし、悪魔たちはだんだん近づいて来て、おぞましい足でのんき者の顔を踏みつけんばかりにしました。「止めろ、この悪魔の化け物ども」とのんき者は言いましたが、悪魔たちはますますひどくなりました。そこでのんき者は腹を立て、「止めろ!じきにおとなしくさせてやるぞ」と叫んで、椅子の脚をとり、悪魔たちの真ん中に打ちつけました。しかし一人の兵士対九人の悪魔では相手が多すぎて、前にいるやつらをなぐっていると他のやつらが後ろから髪をつかみ情け容赦なく引っ張りました。
「悪魔ども!」とのんき者はどなりました。「これは我慢ならん。だが待ってろよ。お前たち9人とも背のうの中へ入れ」途端に悪魔は背のうの中に入ってしまいました。そこでのんき者は背のうを閉め、すみに放り投げました。このあと、急にしーんとなったのでのんき者はまた横になり、すっかり明るくなるまで眠りました。すると宿の主人と城の持ち主の貴族が、どうなったかみようと、やってきました。のんき者が機嫌よく元気にしているのを見ると驚いて、「じゃあ、化け物はあんたに悪さをしなかったのか?」と尋ねました。「しなかったのは」とのんき者は答えました。「私がそいつら9人とも背のうに入れたからですよ。あなたはまた静かにお城に住めますよ。もう二度と化け物はでてこないでしょう。」貴族はのんき者に礼を言い、たっぷり贈り物をして、このまま自分に仕えてくれないか、と頼み、生きてる限り暮らしの面倒をみようと言いました。「いや、私はあちこち旅をすることに慣れているのでまた旅を続けます」とのんき者は答えました。
そうしてのんき者は立ち去り、鍛冶屋に入って、9人の悪魔が入っている背のうをかなとこの上に置き、鍛冶屋と職人たちに打ってくれるよう頼みました。そこでみんなは大きなハンマーで力いっぱい叩きました。それで悪魔たちはとてもあわれな吠え声をあげました。このあとのんき者が背のうを開けると、8人は死んでいましたが、背のうのひだに入っていた一人がまだ生きていて、すっと抜け出て地獄へ戻りました。
それからのんき者は長い間世間を歩き回り、知っている人たちはたくさんの話を語れますが、とうとうのんき者も年をとって、死ぬ時のことを考えました。そこで信心深い人で知られている隠者のところへ行き、「私は旅歩きが嫌になり、今は天国に入れるように振る舞いたいと思っています。」と言いました。隠者は、「二つの道があって、一つは広くて楽な道で地獄に通じている。もう一つは狭く苦しい道で天国に通じているのだ。」と答えました。のんき者は(狭く苦しい道へ行くとすればおれは馬鹿だよ)と考えました。
そこでのんき者は出かけて広く楽な道を行き、とうとう大きな黒い門に着きました。それは地獄の門でした。のんき者が門をたたくと、門番は誰がいるのかみようと外を覗きました。しかし、のんき者を見ると、門番はぎょっとしました。というのは、その門番こそ、背のうに閉じ込められあざだらけになって逃げたあの九番目の悪魔だったからです。それで門番はぱっと素早く門にまたかんぬきをかけ、最上位の悪魔のところへ駆けていき、「そとに背のうを背負った男が来て、入ろうとしています。しかし、命が大切でしたら、やつを入れてはいけません。さもないとやつは願かけして、地獄全部を背のうに入れてしまいます。昔、私が背のうの中に入っていたときハンマーでひどく打たれました。」と言いました。
そこで地獄ではのんき者に、ここに入れられないから立ち去れ、とどなりました。(ここに入れてくれないんなら)とのんき者は考えました。(天国に居場所を見つけられるかやってみよう。おれはどこかにいる場所がなくてはいけないのだからな)
そこでのんき者は向きを変えて進んでいき、とうとう天国の門にやってくると、門をたたきました。聖ペテロが門番をしてすぐ近くに座っていました。のんき者は聖ペテロの顔を見てすぐわかり、(ここで昔なじみを見つけるとはうまくいきそうだ)と思いました。しかし聖ペテロは「お前が天国に入りたがるとは信じられないよ」と言いました。「入れてくれ、兄き、おれはどこかへ入らなくちゃならない。地獄で入れてくれたら、ここには来なかったよ。」「だめだ」と聖ペテロは言いました。「お前は入れない。」「じゃあ、どうしても入れてくれないなら、背のうを返すよ。お前から何ももらう気はないから。」「じゃあ、こっちへ寄こせ。」と聖ペテロは言いこのエピソードはPodbean.comがお届けします。